歌が照らす: 歌集

著者 :
  • 本阿弥書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784776814344

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  • 無聊なり筑後弁では「とぜんなか」ひとり酒飲むらっきょう肴に
     仲 雅則

     本年度の、第3回井上靖記念文化賞特別賞を受賞した歌人伊藤一彦は、宮崎市在住。若山牧水記念文学館館長であり、いくつもの新聞歌壇の選者も担当している。

     その伊藤氏の近刊エッセー集に、地方紙の歌壇で、その地方の言葉を活かした歌はそう多くもないと指摘があり、目を止めた。意外な気もするが、多くないからこそ、強く印象に残るのだろう。

     掲出歌は、毎日新聞の歌壇に投稿された歌で、久留米市に住む作者という。「とぜんなか」は漢字で書くと「徒然なか」。少々退屈でさびしいというニュアンスで、そうつぶやきながら、一人「らっきょう」をつまみに酒をたしなむ姿に趣も感じられる。

    「もっと方言を使った歌があっていいように思う」と伊藤氏は述べているが、確かに、その地域の言葉でしか伝えられない実感や、感情のひだもあるだろう。

     たとえば、地震や豪雨の続いた2016年、熊本日日新聞に寄せられたこの歌。

     まだ降【ふ】っといつまで揺【ゆ】るっとあくしゃうつ2016熊本の夏
    井東隆子

     作者は熊本市在住。「あくしゃうつ」は、困り果て、いやな気分になる状態だそうだが、独特の抑揚で発音する地方語なのだろう。おさまらぬ天災に、家族や地域の今後を案じつつ、「あくしゃうつ」とつぶやくしかないやりきれなさは、真に迫る。

     本コラム上の「短歌」投稿欄でも、地方語を活かした歌に注目していきたい。
    (2019年10月13日掲載)

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著者プロフィール

昭和18年、宮崎市に生まれる。早稲田短歌会を経て、「心の花」に入会し、現在選者。
歌集に『海号の歌』(読売文学賞詩歌俳句賞)、『新月の蜜』(寺山修司短歌賞)、『微笑の空』(迢空賞)、『月の夜声』(斎藤茂吉短歌文学賞)、『待ち時間』(小野市詩歌文学賞)、また歌集『土と人と星』及び評論『若山牧水─その親和力を読む』により現代短歌大賞・毎日芸術賞・日本一行詩大賞を受賞。
若山牧水記念文学館館長。宮崎市に住む。

「2018年 『光の庭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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