WAYFINDING 道を見つける力: 人類はナビゲーションで進化した

  • インターシフト (合同出版)
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695718

作品紹介・あらすじ

■GPSによって人類はなにを失うか?
脳のなかの時空間から、言語・物語の起源まで
ナビゲーションと進化をめぐる壮大な探究の旅へ!■

・GPSも地図もない世界で、人類はいかに探索し、記憶し、ルートを伝えてきたか 
・「場所の記憶」は、いかに脳を発達させるのか
・幼少期の記憶が消えるわけ
・動物たちはなぜ地図もないのに地球を旅できるのか
・ヒトの祖先によるナビゲーションは、いかに言語・物語を形づくったか
・GPSへの依存は、認知や感情にどんな影響を及ぼす?
・AIは物語を理解できるか

脳科学・心理学・人類学・考古学・生物学・言語学・人工知能ーー
道を見つける力が、私たちを「人間」にしたことを解き明かす。

科学ノンフィクションの名手による新たな傑作!

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::著者:: M・R・オコナー
ジャーナリスト。サイエンス、テクノロジーなどの分野で執筆。
前著は『絶滅できない動物たち:自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のナイト・サイエンス・ジャーナリズム・フェロー。

::訳者:: 梅田智世
訳書は、ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
『もっと!:愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』、
リアム・ドリュー『わたしは哺乳類です』など。

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::目次::

はじめに: 道を見つける

■PART 1 北極圏
第1章: 最後の道なき場所
第2章: 記憶の地景
第3章: 幼少期の記憶はなぜ消えるのか
第4章: 動物たちのナビゲーションの謎
第5章: ヒトの認知能力を飛躍させる
第6章: AIは物語を理解できるか

■PART 2 オーストラリア
第7章: スーパーノマド
第8章: ドリームタイムの作図法
第9章: 脳のなかの空間と時間
第10章: 雷の民のあいだで
第11章: あなたが左なら、わたしは北
 
■PART 3 オセアニア
第12章: 人類最古の科学
第13章: オセアニアの宇宙飛行士たち
第14章: 気候変動に抗する航海術
第15章: GPSが脳になりかわる
第16章: 迷子のテスラ

おわりに: トポフィリアの天性

感想・レビュー・書評

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  • GPSを頼りに土地勘のない道を進んだら、それはとんでもない失敗だったーー。現代に生きる多くの人が「あるある」と共感する出来事から本書は幕を開ける。

    GPSどころかコンパスや海図にさえ頼らず、目印らしい目印さえない北極圏のエスキモー。
    アボリジナルにより紡がれる<ドリーミング>。
    ミクロネシアのカロリン諸島で受け継がれる<エタック>。
    人類がこれまで積み重ねてきた<ウェイ・ファインディング>の技術は純粋に刺激的で、我々も訓練次第ではこのような能力を身につけられるのか、という点に興奮を覚えざるを得ない、

    本書に通底するのは、テクノロジーに対する懐疑的な姿勢だ。決して全否定しているわけではなく、そのテクノロジーへの過度な依存に対する警鐘が潜んでいる。
    それはGPSのみならず、そもそもの化石燃料による温暖化にも矛先が向く。
    本書で紹介されているようなナチュラルナビゲーションの技術を持つ民は、今世紀中にその故郷を失ってしまう確率が極めて高い。
    そういった社会的難題が人間の可能性の極地であるナチュラルナビゲーションと地続きに語られる。そのため混乱するし、煩悶もする。実に考えさせられる一冊だ。

  • 北海道のアイヌ語由来の地名も元々はイヌイットの同様にアイヌが旅する時に目指すべき目標の特徴として名付けられたものなのだろう。

     <イヌクシュク>、古代からの石積みの遺物は、宇宙戦艦ヤマト2019に登場したワープ回廊の入口を想像させる。

     昔読んだ冒険小説「大洞窟」(クリストファー・ハイド著)では、地震により洞窟に閉じ込められた東洋系(日本人)の主人公に、遠い昔、同じような状況で洞窟から脱出した古代人の残留思念のようなものが、ピンチの度に憑依することで、脱出に成功するという話(ファンタジー)だったように記憶している。だが残留思念の憑依とは、洞窟に残された遠い過去の痕跡(道標)を読み取ることであるとも考えられると本書を読んで思った。

    以下、引用

    ● イヌイットは行きあたりばったりに移動しているのではない-既知のルートをたどっているのだ。世界のほとんどの場所では、ルートは道路と人間のつくったランドマークで示され、その経路と位置は記号として地図上に配置されている。(中略)北極の環境には、永続性を阻む刹那的な性質がある-氷は解け、雪は変化する風に飛ばされ、流れる川は冬が来ると凍土になる。土地のランドマークはめったにないか、あったとしても識別が難しく、人を寄せつけない。そのため、環境を読み解けるかどうかは、社会文化的な次元、たとえば象徴としての重要性や、そこを歩いた人たちにより風景が与えられた意味に左右される。アポルタが気づいたのは、その地の移動ルートのなかには数世代にわたって愛用されているのもがあり、その目印のない道の知識が人から人へ、家族から家族へ、コミュニティーからコミュニティーへと、地図という形ではなく口伝えで受け継がれ、記憶されていることだった。
    ●痕跡読解説にしたがえば、かつては痕跡をつなげた道だったものが、ナビゲーションや食糧採集、水探し、経路の記憶、狩猟に広く利用される戦略に発展し、その結果、人類は過去の体験や他者の記憶をつないだ物語をもとに、テリトリーやルートからなる豊かな心的地図を作成するにいたったということになる。記憶能力の向上に伴い、わたしたちの収集する自然史情報-季節の変化、動物の移動パターン、繁殖サイクル、生息場所などの情報-は増えていった。そのすべてを習得するには、時間とエネルギーが求められる。それが幼児期と年少期を、そして子どもの神経発達の期間を長くした可能性もある。このプロセスから出現したのが、空間と時間のなかでみずからの体験を整理し、広範囲を動きまわり、脳内で複雑な地図と順序を構築できるようになった生物だった。やがて、記号を使ったコミュニケーションを、さらには言語を掌握したその生物は、そうしてつくられた地理的かつ電気的な物語を他者に伝えるようになっていく。
    ●ドリーミングトラックとそれに伴う歌のサイクルは、旅人がたどるべき方向を言葉で示しているように思えた。アボリジナルは、物語を語るという人間の精神の性質を利用した文化的伝統を築いてきたのではないか。彼らは物語と特定の場所を結びつけ、歌や物語の並びのなかでナビゲーション情報をコード化し、そうした口承地図を暗唱することで情報を記憶しやすくしている。
    ●遺伝的性質は海馬萎縮の制限要因になっているかもしれないが、空間認知の訓練により、機能低下を防ぐことはできるのだろうか?空間記憶に特化した介入を早期に行なえば、アルツハイマー病の発症率が低下するのではないかとボーボーは考えている。また、優れた空間記憶能力を持っていれば、アルツハイマー病を防げる可能性もあるという。(中略)ボーボーが推奨している方法としては、定期的な運動、オメガ3系油を豊富に含む地中海風の食事、瞑想と深呼吸、十分な睡眠などがある。何よりも重要なのは、認知地図を積極的に構築することだ。目的地に行くときに新しい道や近道を選ぶ。周囲の環境とランドマークの俯瞰図を定期的に描く。あるいは、日々の生活に新しい行動やルートを採り入れてもいい。健康な海馬の利点は広い範囲の影響を及ぼすとボーボーは言う。

  • いわゆるナビゲーション、GPSという機能を生理学的に文化人類学的に、壮大にまとめた本。
    ナビゲーションは人では海馬がになっているという。
    ロンドンのタクシードライバーが、道という道を覚えないとその資格に合格できないのは有名ですが、ロンドンのタクシードライバーの海馬が大きいのも有名な話ですね。
    道なき道を行くのに、自然現象と風景を記憶して発達してきた人類が、スマホのGPS機能に頼り切ると、長期的には神経変性疾患に関するリスクの可能性が示唆されているそうな。
    機械・技術に頼る生活は便利だが、海馬を鍛えるべく、なんかせな!と思いました。

  • GPSを使い、スマホの画面を見ながら移動する、そんな現代利器の力を使いこなす私たちが失っているものがあること。うっすらとは感じているその問題について、明らかにしようという試みをされています。世界には、そのような私たちとは違った世界に生きる人々の歴史が、かろうじてまだ生きています。著者は、北極やオーストラリア、オセアニアという、その生きた実例の残っている場所を訪ね、話を聞き、体験することで、それを掴もうとされます。周囲に何のランドマークも見当たらない世界で、目的地にどうやって辿り着くのか。その道を見つけるための能力、先祖から伝わる知恵がそれを可能にします。そしてその道を見つける能力が、人間に何をもたらしているのか。現代科学の発展により、その能力がなくても道を見つけられるようになりましたが、その代わりに失ったものがあります。道に迷うことの意味、サポートされていない道に向き合う必要性というものについて、現代の常識と180度違った視点を得ることができます。

  • ふむ

  • 子育て本のようだが中身は全く違って、人間が移動する事について脳機能や文化的な面で深掘りした科学的な内容。ただ、重要なのは最後の章で、その前がやたらと長い。著者の体験やフィールドワークを訴えたいのだとは思うが、拘りすぎな気がした。かなり長い印象。しかし、内容が示唆している事は深くて考えさせられるものだった。ナビに頼ると人間が大事なものを失うとのことだが、むしろ散歩や旅行という体験の重要性が高まると考えるべきではないか。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。サイエンス、テクノロジーなどの分野で執筆。前著は『絶滅できない動物たち:自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』。マサチューセッツ工科大学(MIT)・ナイト・サイエンス・ジャーナリズム・フェロー。

「2021年 『WAYFINDING 道を見つける力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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