タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

  • 玄光社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768308516

作品紹介・あらすじ

ミリオンセラーの手づくり絵本を生み出す、奇跡の出版社の秘密!
谷川俊太郎氏 推薦/「書く人、描く人、作る人、本作りで家族になった人たちの豊かな暮らしっぷり。」

 世界中の本好きを魅了し、奇跡の出版社とも呼ばれる南インドの「タラブックス」。
 圧倒的に美しい本を次々と世に送り出し、ボローニャ・ブックフェア・ラガッツィ賞をはじめ、数々の賞を受賞している。手漉きの紙に、シルクスクリーンによる手刷りの印刷、製本もすべて人の手によって行われているというのだから驚きだ。発注から納品まで1年かかってしまうこともあるスローな生産スピードにもかかわらず、いまや数万部のベストセラーをいくつも抱える、世界で最も注目される出版社……。彼らはいかにしてこのような素晴らしい本を作り、世に知られることとなったのか?
 実は日本でよく知られているハンドメイド絵本の他に、オフセットで作られたものも多数存在する。それらも含め世界各地で長く読み継がれているのは、彼らの社会や文化へのまなざしが根底に流れているからに他ならない。本書は「デザイン書」、「本の本」という枠組みを越え、これからの生き方、働き方に対するヒントが詰まった一冊です。
5章 絵本「夜の木」の世界へ
6章 日本とタラブックス
7章 ギータ・Vギータ インタビュー
巻末 既刊カタログ

感想・レビュー・書評

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  • 損得勘定に囚われず、誰かのためにと混じり気のない心で向き合いたい。しかし現場においては兎にも角にも仕事の効率化。いかにスピーディーに片付けられるかの勝負。それらに死力を注いだ結果、気づけば「混じり気のない心」が雲散霧消している始末。

    それどころか結局その勝負にも勝てずじまいで、「あれで良い訳がなかった」と思い返しては猛省する日々。そんな未練タラタラモードを本書の口絵はいとも容易く祓い、併せて真の「混じり気のない心」も示してくれた。
    さて…懺悔を連ねるのはここまでにして、ここからは彼らの理念を胸いっぱい吸収していこう。



    …読み終わった。視界が滲んでいる。仕事に対して血涙を絞ることはあっても感涙することなどなかった。

    タラブックスの事は初耳だった。ここから出版される絵本は世界的にも人気を博していると言うのに、その製法は一貫してハンドメイド。この時点で効率化の概念を跳ね返している。
    そして何より、彼らはインドの子供達のために心血を注いでいる。
    インドは口承文化が根強い事に加え、2,000前後の言語が存在する。出版するにしても、公用語(ヒンディー語&英語)では統一しきれずにいるという。
    一方で、比較的文字数が少ない絵本は口承文化の影響で更に馴染みがない。
    タラブックスは、子供達が自然と手に取ってくれるような本や絵本を作りたいという「混じり気のない心」から誕生した。

    国内で見落とされがちな少数民族にもその優しい眼差しが注がれている。彼らの、ムガル帝国以前に息づいていた文化の潮流を絵本に受け継ぎ、それを国内・果ては世界に届ける。たとえ時間が掛かろうとも、仕事に手抜かりはない。その崇高な営みに、早くも目頭が熱くなった。

    どの従業員(警備員さんまで!)も仕事に誇りを持つと言うより、ただ仕事が好きで働いている。互いを認め合っており、疲弊した表情の人も見当たらない。お国柄でもここまでの輝きを引き出せるか?

    「あらゆる違いは恐れるものや排除するものではなく、賞賛されるものなのです」
    「合理性や時間の対価を求めて、彼女らを機械のように使うこともできます。しかし、それならば機械を使えばよいことです」

    見る人が見れば、彼らの働き方や理念は実現不可能の域に近い。でもやっぱり自分にはそれが良いとしか思えないし、目指す位はしたい。
    あの頃の自分に足りなかったのはその情熱だったと、タラブックスの木の下でようやく開眼した。

    ※ちなみに以前読んだレオレオーニ本2冊の著者である松岡希代子氏(板橋区立美術館 現館長)へのインタビューも掲載されている。(「あ!」と思わず声を上げた笑) 創業者の方を美術館のワークショップに招致する行動力もさることながら、初めてタラブックスの本を手にした時の審美眼もずば抜けていた。またお会いできて光栄でした!

  • やわらかな厚みをもった手漉きの紙。
    そこにシルクスクリーンで1枚1枚、1色1色刷られた落ち着いた、けれど鮮やかな絵。
    『水の生きもの』や『世界のはじまり』を本屋でうっとりと眺めていたのですが、その美しい絵本の作り手が気になり、本書を読んでみました。

    インドの子どもたちに読ませたい、インドの子どもたちのための本を作りたい。
    世界中からたくさんの注文が舞い込むようになった今でも、出版社タラブックスの根底にあるものは変わらずにあることが感じられました。
    利益を追い求めるのではなく、手の届く範囲で自分たちのスタイルを貫く会社のありかたは、なんと豊かなのだろう!

    インドでは本と言えば文字がたくさん書いてある"ためになるもの"で、絵本は一般的な表現方法ではなかったということも初めて知りました。(今でも"絵本の読み方"をたずねる大人は珍しくないのだそう!)
    そのような文化的な背景をもつインドで、タラブックスが子どもたちの本を作っていることの意味はとても大きいと思います。
    会社を立ち上げた2人の女性のインタビューからは、彼女たちのパワーと知性が感じられ、よい刺激をもらいました。

  • 「タラブックス」は南インドの小さな出版社。
    世界中に読者を持つ出版社である。

    「タラブックス」は、単なる出版社というよりも、出版という事業を足掛かりに、インド社会における新しい働き方や人との関わり方を模索しているような気がする。
    出版の在り方としても、一般的な「出版」のイメージや定義とは違う部分が多くある。


    会社を維持していくこと、従業員の暮らしを維持していくこと。
    実際は、一口に言えない苦労や問題はあるだろう。
    それでも、「この会社、ここで働く仲間が好きだ」と言える会社は理想的だ。

  • インドの小規模出版社、タラブックスは世界中から注目されている。その秘密とは?

    インドには多くの少数民族がいて、それぞれの民族アート(トライバルアート)を見出して手隙のコットンペーパーにスクリーンプリントし、手で綴じるハンドメイドブックスは近年、ことに出版やアート業界では注目されました。日本でも数種類の絵本が話題を読んでいました。実際に以前一冊購入しましたが、その印象は、丁寧なモノづくりで、これは日本では作れないし、流通させられないだろうなあ、ということでした。オフセット印刷では出せない鮮やかな色合いや手触りの良いコットンペーパーで作られたこんな絵本は、確かに日本では見たことがありませんでした。そんなタラブックスの内情を取材した本があるというので読んでみたわけです。
    そこに描かれているのは、小規模で事業を拡大しない、世界的に話題になって注文が殺到しても生産規模を変えない、従業員のみんなが負担にならない仕事量、丁寧さが失われない事業規模を守って運営するという、成長が大前提の今の世界の企業的価値観からすればちょっと変わった出版社の姿でした。環境への意識も高く、ケミカルフリーのものづくりや古着から作られるコットンペーパーの話などが印象的だし、社会的な地位の低いアーティスト(インドでは職人の扱い。職人は主にカースト底辺の仕事)の地位向上のために方々を回り、会話を重ねて一冊一冊丁寧に本を作っている姿勢はとても素敵で(詳しく記述されないのですが、根強く残るカーストへの挑戦でもあるのでしょう)、これこそSDGsを体現した企業だし、作っているもののクリエイティビティはとても魅力的でした。日本では絶対に生き残れなさそうなこうした出版社が生まれるのも、価値観が多様で奥深いインドならではなのかもしれません。こんな出版社があったら働きたいなあ、と、出版に関わる人なら誰でも思うのではないでしょうか。僕も少しでも哲学を持ってこうした丁寧な仕事をしていきたいものだと思いました。
    ちなみに創業者の二人の女性はドイツに留学していたり女性の地位向上の活動家だったりするので、こうした出版社を立ち上げるのもなるほどなあ、といったところです。あとソ連みが少しあるのも。

  • 昔ヨーロッパの書店でたまたまタラブックスのフェアをしていて、絵本から嗅いだことがない匂いがすることに驚いた思い出。あれはシルクスクリーンの香りだったんだ。
    手作り絵本の出版社、インドだからではなく、インド「なのに」できた、という感じ。
    「足るを知る」をタラブックスを作った二人が知ってるからこそブレずに進んでいるのだな。二人は自分たちがどういうものをつくるのか、何故つくるのかという根っこが決まっているように感じる。見て触って訴えかけられるものを大事にしてるのかな。
    日本語訳もここで作っといると知ってびっくり。
    会社はいろんな国の人を受け入れていて、現地の人たちも働いている。
    自分は本づくりをしたいわけではないが、このような働き方はいいなと思う。

  • 家に置いておきたい一冊。
    口承の文化があるインド。
    AI やWEBに紙の文字文化が席巻されているのだけど、口承文化と文字文化の関係も同じだったのかも。
    文字で情報化されないものを見落としてないか。

    ユニークな絵本を送り出し続けているインドの出版社タラブックス。
    自国の子どもたちに見てほしい本がないわ。じゃあ、作っちゃえば良いじゃない!

    気にもかけられず失われかけている少数民族のアートと技術を見つけ作者と編集者と同等の立場で(インドの階級社会ではむずかしい!)いっしょに作り上げていく。

    けして、急いで作らないし、手を広げない。
    一冊の本の背景にある物作りや、働き方、考え方に共鳴してくれる読者か。

    大量消費の世界に、小さくあることを選ぶ。

    日本では幸せになることを許さないとでもいうような働き方を強いられることが多い。マルチタスクでないと終わらない・すすめられない仕事内容が、そもそもおかしいのではないかという気がしてきた。。人らしくありたいなあ。

    働いている人たちへのインタビュー。
    皆さん、イタリア人か!というくらい母さんの料理が好き。全世界の母が泣いちゃうねえ。

    ギータ・ウォルフとV ・ ギータのインタビュー。

    『トラさん、トラさん、木の上に!』
    『マンゴーとバナナ』
    ←大好き!

    一冊の本は、たくさんの人の手を経て作られている。

  • タラブックスの絵本を書店で見かけたことがあり、紙の質感やトライバルアートの世界観が印象的だった。
    「あの本を作っている出版社の話?」と手に取った本書。働くことへの意欲が湧くような内容だった。

  • 少数民族出身のアーティストとコラボレーションした絵本や写真集などを出版しているインドの出版社タラブックスにスポットを当て、ハンドメイドでもある製本の過程やアートの背景にある文化の現地取材、“ちいさな出版社”であることの理念などを語るインタビューなどを収めた本。タラブックス既刊リスト付(〜2017)。


    タラブックス創業以来の代表であるギータ・ヴォルフさんとV・ギータさんのパートナーシップが興味深かった。二人とも誰のどんな絵を使って何の本を出すかということが社会に及ぼす影響、たとえば少数民族文化の理解を深めることや職人たちの地位向上などに繋がることをはっきりと意識している。そうした意識を持つ人たちから聞く「メッセージ性の強いものである必要はないんです。一度“読む人”になれば、いろんなものに触れる準備ができます」という言葉はとても力強い。また、異なる文化や歴史的にマイノリティ側の人びとに寄り添うためには十分な信頼を得なければならない、それはちょっと行って二、三日話を聞けば済むというものではない、という話も印象に残った。
    二人の出会いがチェンマイのフェミニストグループだったこと、絵本を出した動機としてアーツ&クラフツ運動の他に子どもの教育に目を向けたからだということがインタビューでさらりと語られているが、この辺りをもっと知りたくなった。刊行物を見てもラーマーヤナを妻視点で語り直すものや、100年前のフェミニストの物語にトライバルアートを加えたものなど、フェミニズム視点、女性の教育視点で独自の考えを持つ出版社なのだと思う。ただ綺麗な本、個性的な本を出しているだけではないと知ることができてよかった。

  • 大好きなタラブックスのことが沢山知れた!!
    やっぱりタラブックス好き!! (笑)

    1.タラブックスができるまで
    インドのちいさなインディペンデント系出版社、タラブックス。企画から編集、デザイン、印刷から製本に至るまで、彼らの本づくりには、すみずみまで一貫した哲学がある。これは、タラブックスの本には描かれない彼らの働き方、生き方のストーリー
    文:野瀬奈津子

    表紙をめくるとタラブックスの作業の様子をカラー写真で紹介
    タラブックスのはじまりから
    装丁家矢萩多聞さんが本の生まれ故郷をたずねた
    2.本の故郷をたずねて
    3.タラブックスで働く人びと
    タラブックスの本がつくり出されるふたつの場所、タラブックスとAMMスクリーンズ(印刷製本工房)で働く人びとにタラブックスで働くって、どんな感じ?か聞いた
    代表のギータ・ウォルフとV・ギータの考え方
    6.ちいさくあること ~
    G:話をよく聞き、問題がないか気を配ること。
    それぞれに誇りと責任を持って仕事ができるようにインスパイアしてあげること。
    自分たちが仕事をすることで、何かに貢献できていると思って欲しい。(日本が職人やものづくりに敬意を払うようなことは、インドの伝統工芸に対してはないため)
    だからこそ、話しを聞き、正直に話し合うことで、問題がなんなのか見つけて解決する。
    V:それぞれが価値ある人材
    があるので全員(警備のおじいさんやハウスキーパーさんたちも)が、同じ職場の人たちのことを“親切な人たち”“家族なようなみんなと働くのが好き”という。
    羨ましい、素晴らしい職場
    職・食・住 をともにする、ひとつの大きな家族
    これが実現できるようにタラブックスはスモールビジネス(20名程)を続ける
    4.『夜の木』の村へ 文・写真:松岡宏大
    5.タラブックスと日本

    タラブックスのこれまでの本


    インド独立の父、マハートマ・ガーンディーの言葉
    「善きことはカタツムリのようにゆっくり進む」

  • ドキュメンタリー映画にして欲しい!

    私も タラブックスの床にペタンと座り込んで、風通しの良いこの会社を眺めてみたい。


    2018/4/23

    地元にてタラブックスの展覧会があり、この本を作った野瀬奈津子さん、松岡宏大さん、矢萩多聞さんによるトークイベントを聞いた後、再読。

    タラブックスのビルの中のイメージは本書そのままだったけど、お話を聞いてますます興味をもったのは、創設者であり、核となる2人のギータという女性。とくに2人への対談を読み返し、大切なことはすべて彼女たちのことばに、考えにあるんじゃないかしらと感動してしまった。

    「夜の木」の村、パタンガルのゴンド族の特に女性たちの生活に基づいたアートや語り部にも展覧会を見て、タラブックスの視点、アーティストとの対話、フェアな仕事、どれも素晴らしい。日本でも地方にこんな出版社がもっと現れたらいいのに…

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著者プロフィール

編集者、ライター。KAILAS名義でインド関連書籍の企画・編集も行う。著作に『かたちのなまえ』『もようのゆらい』『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』(いずれも玄光社)、『地球の歩き方インド』(地球の歩き方)、『持ち帰りたいインド』(誠文堂新光社)などがある。

「2022年 『ローラープリントテキスタイル インドの布への憧憬と産業革命がもたらしたもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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