朝鮮分断の起源:独立と統一の相克 (慶應義塾大学法学研究会叢書 89)
- 慶應義塾大学出版会 (2018年10月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766425451
作品紹介・あらすじ
▼朝鮮半島はなぜ分断されたのか?
第二次世界大戦と米ソ冷戦という二つの大戦争の狭間に生まれた朝鮮分断の悲劇とは何だったのか。
▼連合国宣言やカイロ宣言に象徴される米国の理念政治VS.地政学的な不安に脅えるソ連の現実政治。
その対立に翻弄される小国の独立と統一 ―― 朝鮮分断とは、独立と統一の相克だった。
▼大日本帝国の崩壊と三八度線の設定後、米ソの狭間で、南北朝鮮の指導者たちはいかに行動したのか。
国際政治と地域政治の交錯を背景に、民族と国家が織りなす過酷な現代政治のドラマを緻密に描き出した、待望の論考。
感想・レビュー・書評
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副題は「独立と統一の相克」だが、改めてこの両者の関係の難しさを感じた。朝鮮半島にとって最大の欲求は独立か、統一か。日本統治下又は実現しなかった全土信託統治なら、独立はなくとも分断は避けられた、などと軽々しくはとても言えない。また、反共主義者の李承晩を指導者とする南の独立は、統一とは逆ベクトルではなかったか。北でも、次第にソ連の後ろ楯を得た金日成につき、「一時的な分断の容認こそ、朝鮮の統一独立への近道だと考えたのだろう」と本書で指摘している。また、一度は信託統治への米英ソ合意ができたのに(これが貫徹されれば体制はどうあれ統一国家となったかもしれないのに)、李承晩や金九といった右派が反対したことも本書で記述している。
書名の「起源」への回答は何かと言えば、米の原爆完成とソ連対日参戦(の前段である欧州戦線終結)のタイミングに伴う米ソの拮抗・妥協により引かれた38度線を境とした、「米ソ共同作戦」である両国の進駐がその原型。そして冷戦の開始により決定された、と読める。なお、ソ連に比して米の南側進駐が準備不足だったとよく言われるが、本書ではソ連の準備不足も指摘したいる。また米は信託統治や民族自決を前提としていたことを考えれば、責めてばかりでもないだろう。
全土信託統治を経ての独立、大陸・半島経由の日本本土侵攻がもたらす全土の米勢力圏入り、ソ連のより早期の対日参戦や米の原爆完成遅れがもたらす全土のソ連勢力圏入り、39度線での分断(この場合、南北の実力差拡大から無謀な朝鮮戦争は避けられたかも)、と本書で指摘されている実現しなかった様々な可能性を想像する。朝鮮半島そして日本にとって何が最善だったのだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示