- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766423914
作品紹介・あらすじ
▼これがお前の国なんだよ。
「これがお前の世界なんだよ。これがお前の肉体なんだよ。
だからお前は、その状況のなかで
生きていく方法を見つけなければならない」
アメリカにあって黒人であるということ、
この国の歴史を、この肉体とこの運命を生き抜くことを説く、
父から息子への長い長い手紙。
2015年度全米図書賞受賞の大ベストセラー
解説=都甲幸治
感想・レビュー・書評
-
アメリカの人種差別の歴史については自分なりに勉強したつもりだったけれど、歴史だけではなく現実からもまだまだ知るべきことはたくさんあるのだと愕然とした。歴史研究者ではなく当事者の言葉で語られる重みが、この本にはあった。
「許す許さない」というのは虐げた側の論理で、虐げられた側からすれば「忘れない」に尽きるのだ。これは人種だけでなく宗教や国の間の争いにも当てはまるだろうし、日本人と韓国や中国の人々の間の埋まらない溝と言うのもそういうところから来ているのではないかと考えさせられた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「いつか読むリスト」に入れていて、今回著者の初めての小説が翻訳されて出版されることになったので予習としてついに読んでみた。Black lives matter以降、アフリカ系アメリカンに対するUSでの差別について、色んなメディアで見たり聞いたり読んだりしてきたけど、その中でもベスト級にオモシロいかつ勉強になった。
最大の特徴は語り口。彼のUSでの差別に関する考え方について、自分の息子に語りかけるスタイルなのが新鮮だった。それによってファクトとエモーションが入り混じることになり、事態の切実さがダイレクトに読者に伝わってくる。また著者はヒップホップに傾倒していることもありリリカルな表現も多く皮肉たっぷりのパンチラインの雨あられで読み手の心をグサグサ刺してくる。
とにかくアフリカ系アメリカンとして生きる難しさを延々と自分の過去や歴史を通じて延々と説いている。常に命の危機が迫っている環境で少しずつ精神が摩耗している様が辛い。白人/黒人という議論から始まることが多いけど、その前提条件を疑うところからスタートしているのも勉強になった。
人種は人種主義の子どもであって、その父親ではないんだ。
「ドリーム」と作中では表現されている言葉がなんともニヒリスティック。アメリカンドリームというのは「白人」にとっては憧れの意味かもしれないが、「黒人」にとっては幻想であり悪夢である。夢見心地でいるんじゃねーぞという怒りの気持ちをひしひしと感じた。著者はキリスト教を信仰していないことも大きな特徴で良い意味でも悪い意味でも神にすがることなく、ひたすら理論やファクトに基づいて主張しているところが強いなと感じた。そして 「闘争でしか君を救えない」と息子に告げている。そのラディカルさは全て読み終わると溜飲を下げた。(暴力に非暴力で挑むことの困難さを含めて)
また旅行、引っ越しなど場所を移動することの意味がこんなにみずみずしく伝わってくる本を読んだことがない!ってくらい良かった。具体的には著者が初めてパリへ行くシーンが最高。パリにも移民/難民のレイヤーはあるだろうけど、少なくともUSで感じる「黒人」としての閉塞感がなく、自分のままでいられる尊さ、世界は広いと言えばバカみたいだけど、それを体感する大事さが子どもに諭すスタイルだからこそ伝わってくる。初めて何かをするときの感情を書き記すことの重要さが身に染みた。
USでの人種差別がどういう問題なのか、彼の人生を通じて伝わってくるところに大きなエネルギーを感じたし、それゆえに特別な1冊になっていると思う。彼自身の言葉ではないけれどこの直球の言葉が刺さったので引用。Be yourself.
あなたは生きている。あなたは大事な人間よ。あなたには価値がある。パーカーを着る権利も、好きな音楽を好きな音量でかける権利もちゃんと持っている。あなたはあなたでいる権利をちゃんと持っている。そして、あなたがあなたでいることは誰にも邪魔できない。あなたはあなたでいなくちゃだめよ。そうよ、あなたは、あなた自身でいることを怖がってはだめよ -
アメリカにおける人種問題について、以前よりずっと知ったつもりになっていた。けれど、本書で語られる、ニュース記事や事実として文字で記録されたものにはない感情を伴う言葉に心揺さぶられる。歴史の話ではなく、自分と同世代の人物が語る言葉の重み。
-
もう一度映画「ムーンライト」を見たいと思う。
-
黒人を肉体と表現し細胞を捉えるように深い。アメリカの"一滴規定"から白人が底辺を設けることで支配を自負する人種差別の現実を幼い息子への手紙の文体で説く。文体は読み手に"論理と感情"を対峙させて束ねないでと刻む。
トニ・モリソンやパワーズを思い起こした。"一滴規定"への驚きは、まさにパワーズの『われらが歌う時』で、原爆投下の長崎についても人種差別と書かれているのを読んだ時、はらはら泣いた。日本人は白人ではないと論証する歴史の事実は消えない。『世界と僕のあいだに』の解説で"アジア系の人々も白人集団に参加しつつある"と拝読し、アジア系までもが白人とならざるを得ない事情があるということが残念だ。
コーツの俯瞰するアメリカ。今日のアメリカの世界に対する存在も戦争というステージで問われつつある。アメリカの国民であるコーツが、アメリカで出版したこの書の意義は、想像すればするほど勇気ある凄いものであると思う。
難解だったけど諦めないで読むことができて本当によかった。 -
アフリカ系アメリカ人のタナハシ・コーツが息子に宛てた手紙という形式で語られる本書はアメリカで黒人として産まれ生きることの厳しさを突きつける。
警察の手によって殺害されたジョージ・フロイド氏の事件を発端とした2020年のBLM運動は記憶に新しい。だがアメリカでは警官による不条理な殺害はもう何度も何度も行われてきたことだ。
本書で記される2000年に25歳の若さでジョージ・フロイド同様に警官に殺害されたプリンス・ジョーンズもそうだ。
今でこそ人種差別は問題として大きく取り上げられることになったが、黒人が自由でいた期間はアメリカの建国の歴史よりも長い。奴隷として差別されてきた歴史のほうが長いのだ。
タナハシ・コーツはそんな暗い歴史を抱えるアメリカに産まれた息子に、アメリカでは、黒人の肉体の破壊は伝統だ。それはヘリテージ(継承)なのだと語る。
余りにも重い言葉だ。
だが暗く辛い現実を突きつけながらも読後感は決して重いものでもなかった。
わかりにくい部分も多くあるので、今後また読み返したい。 -
アメリカにおける「黒人」の立ち位置と差別構造を理解していたつもりだったが、そもそも「黒人」「白人」とラベリングして分けることこそが差別問題に繋がっていることを知る。
『世界と僕のあいだに』、そして読み終わったあと、私は『PASSING-白い黒人-』のレベッカ・ホールの言葉を思い出していた。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/11/post-97444_1.php
読んでいて序盤から泣き崩れていたのはこの本の中に出てくる殺された「黒人」の名前がほぼ『アメリカン・ユートピア』で出てきたから。
あんなに映画を観たのに全員の歴史を調べることはしなかった。
猛省しています。
タナハシ・コーツが息子に送る言葉の数々はそのまま私にも届いてその度に目頭が熱くなる。BPWF公開されるから読もうかな……と思い切って飛び込んで良かった。
私にとっで全部のページが今必要で大事だった。
『ブラック・パンサー ワカンダフォーエバー』を観た人もそうでない人も是非読んでね。 -
アフリカ系アメリカ人のジャーナリスト、タナハシ・コーツが息子に書いた手紙という形をとる本書は、黒人に対する人種差別と暴力が渦巻くアメリカで黒人として生きることの現実を伝え、2015年に全米図書賞を受賞しました。
「Black Lives Matter」運動は日本でも大きな話題となっていますが、日常的に暴力に怯える生活は想像を絶するものです。また、「人種」という概念を作り出し、「白人」が「黒人」を搾取してきたアメリカの歴史は根の深い問題と言えます。
“Everything alters, but never changes.” という著者の父親の口癖の通り、構造的人種差別は簡単に解決する問題ではありません。しかし、あらゆる場所で分断が進む現代にあって、世界と自分のあいだに引かれた線について考えることから、全ては
始まるのではないでしょうか。
京都外国語大学付属図書館所蔵情報
資料ID:644679 請求記号:936||Coa 分館閲覧室SDGsコーナー -
遠藤緑先生 おすすめ
72【専門】936-T
★ブックリストのコメント
アメリカで黒人であるというのはどういうことか。現代のアメリカ黒人社会を代表する作家・知識人であるコーツがノンフィクションで黒人の体験や苦悩を書いた、父から息子への手紙。