倫理的な戦争

著者 :
  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766416879

作品紹介・あらすじ

はたして、倫理的な戦争などというものが、あるのだろうか。あるいは、「善」なる目的を掲げ、国境を越えて「正義」を実現することは可能だろうか。ブレアが苦悩し、真剣に向き合ったいくつもの難しい問題は、二一世紀の世界政治を考える上で中心的な課題となるであろう。本書では、ブレアが外交指導をした時代を振り返って、その意味を再検討する。

感想・レビュー・書評

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  • 英国トニーブレア元首相の外交を考察した本。
    紛争解決のために多くの国の協力を得る努力をし、善や正義といった理念を目標に掲げて正しいことを実現しようとしたイギリスのブレア元首相。コソボ紛争からイラク戦争までのブレア外交の軌跡と、結局アメリカの単独外交に振り回され挫折する過程を丹念に辿りつつ、倫理を掲げて他国に武力介入することがいかに難しいか(でもいかに大事なことか)を浮き彫りにした内容。


    ときに紛争を止めるために、大量虐殺や人権蹂躙を阻止するために倫理を掲げて武力介入しなければならない場合はある。どうしても武力を行使しなければならない危機状況が世界にはあるという冷徹な事実を認識しないといけない。倫理的目的を軍事力によって実現することは不可能ではないだろう。ブレアはこれらの問題に本気で取り組もうとした。

    コソボ紛争からイラク戦争までのブレア外交は多くの国際的な倫理問題を軍事手段と非軍事手段で取り組んだ。イラク戦争は結果としてアメリカに(ネオコンに)振り回され、イギリスは粗野な暴力を行使し、その動機や理念を傷つけてしまった。ブレアの外交は自らの理念(リベラル介入主義)に忠実にあろうとするあまり、対米協調の論理に過度に依存し、意図する方針に背いて挫折してしまった。


    しかし、読めば読むほどいろいろ考える。
    例え、国際協調の枠組みを活用し、交戦法規を遵守し、戦後復興支援への準備といった国際的正統性と合法性を担保した上での軍事介入だとしても、果たして武力行使が紛争解決への唯一の解答なのだろうか。
    コソボ紛争での人道的介入はブレア外交の成功例として参照されるが、自国兵士の犠牲を少なくするために空爆作戦を重視することは倫理的なのだろうか。
    空爆作戦は誤爆などでどうしても民間人の犠牲が増える。これは倫理に反しないのだろうか。介入することで実現できる正義と、介入することで生じる不正義(戦争の犠牲者)は明確に線引き可能なのだろうか。複雑な背景をもった紛争地で誰が味方で誰が悪人なのか。善悪二元で複雑な紛争地帯を仕切ってよいのか。独裁者さえ取り除けば、その国は平和になるのか。


    ブレアがやろうとしたこと、できなかったこと、それでも残る疑問や課題は、21世紀の国際社会が向き合っていかねばならない問題だろう。それを知る上で最良の本です。

  • 社会

  • ブレアがなぜイラク戦争に参戦することになったのかを、彼の政治観、コソボ戦争での成功体験、当時の国際秩序等から鮮やかに描き出した一冊。

  • 本書はコソボ・イラクの歴史、ブレアの判断の過程を追いながら「正しい戦争」について考えさせる。ブレアにとっては両者とも「倫理的な戦争」であり、少なくとも過去繰り返された正義の皮を被った帝国主義戦争とは違ったものであった。しかし、「倫理的な戦争」は常に「正しい戦争」であるとは言えない。むしろ、「正しい戦争」であることは稀有であろう。戦争以外の手段は検討されたか、戦争に際しての手段は適当だったか。
    コソボにおいては事態の深刻さが明らかであり、それは国際的に認知されていた。手段の適当性への疑問があるものの、正当化され得るものであった。一方イラクでは、事態の深刻さが「大量兵器」によって粉飾されるなど、当初から正当性が疑われるものであった。そのもとでは、如何に主観的正義を唱えようとも無意味なのは言うまでもない。
    戦争においては秘密はつきものであり仕方がないものもある。しかし、参戦における判断過程、特に参戦を必要とする状況の深刻さと参戦によってもたらされる効果についての検証は、主観的正義抜きに検証されて然るべきであろう。本書のような「歴史書」はまさにそのような記録を残すことの必要性を訴えている。

  • 1997~2007年までイギリス首相を務めたトニー・ブレア首相に焦点を置き、コソボ空爆からイラク戦争に至るまで彼がどのような信条と環境の中で決断を行ったかが詳細に記されている。

    就任当初より倫理的対外政策や国際コミュニティの結束を説いたブレア首相。彼の政治・外交倫理はサンマロ合意とそれ以降のESDPの発展に寄与し、またコソボやイラクに対する空爆に対しても成果を上げていた。これらは国際協調のうちに軍事行動を行うことで成功したのであり、イギリスはこの間アメリカとヨーロッパの懸け橋として機能していた。

    しかし、9.11テロ以降、特にアフガン戦争以降のアメリカはいわゆるネオコン勢によって単独行動主義に走っていく。アフガン戦争に好意的だった欧州各国もイラク戦争には消極的であり、アメリカと欧州の間でブレアは苦悩することとなる。

    最近の事象であるにも関わらず、豊富な資料を用いてあたかもパズルのピースを繋ぎ合わせていくかのように構成される論説には敬服する。若干イギリスよりの見解ではあるが、キーパーソンに焦点を絞り政策決定の過程を追った良書。

  • 2010.03.14 日本経済新聞「今を読み解く」で紹介されました。

  • 細谷雄一氏の本は初めて読んだが、ジャーナリスティックな感覚を持った人だと感じた。

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著者プロフィール

慶應義塾大学法学部教授

「2023年 『ウクライナ戦争とヨーロッパ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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