エレクトリック・ステイト THE ELECTRIC STATE
- グラフィック社 (2019年4月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766132298
作品紹介・あらすじ
1997年、無人機ドローンによる戦争で荒廃し、ニューロキャスターで接続された人びとの脳間意識によって未知なる段階に到達した世界が広がるアメリカ。
10代の少女ミシェルと、おもちゃの黄色いロボット「スキップ」は、サンフランシスコ記念市の北、ポイント・リンデンのある家を目指し、西へとドライブする。
感想・レビュー・書評
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ニューロキャスターという機械でおかしくなってしまった人間。スキップは逃れたかったのか、救われたかったのか。複数の脳をつなげたら、どんな意識が生まれるだろうか。
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岸本佐知子が推薦していて、山形浩生が翻訳を手掛けているなら、読まずにはいられまい。直ぐに注文(ただし読むのは順番)。注文した時にはショーン・タンのような作品を想像していたのだけれど、表紙をめくった本には想像を超えた世界が待っていた。なるほど、山形浩生が翻訳をしてみたくなる訳だなと勝手に納得。
シモン・ストレーンハーグの描く絵には、ショーン・タンのような抽象性は微塵も存在しない。空想科学小説の世界を「美しく」具象化したもの。だが、そのこだわりがアナログ的な雰囲気を引き摺っている。例えば随所に出てくるドローン。その巨大な塊から伸びる幾百ものワイヤ。かつてサイゴンの街角の電柱に束になって掛かっていた電話線を彷彿とさせるこの有線の繋がりは、妙なリアルさを醸し出す。あるいは回路の生み出す熱の描かれ方。例えばブレードランナーが如何に近未来の雰囲気を立ち上げることに成功してと言っても、描かれることは無いディテール。ましてチープなSFでは都合よく無かったことにされる詳細がここにはある。
都合よくなかったことにしないこと。シモン・ストレーンハーグの強調したいことは、そこなのか。
人工知能が制御する世界がもっと普及するだろうことに異を唱える人は少ない。仮想現実と現実を混同してしまう可能性が人にはあることを認識しつつ、曖昧に、気を付けていれば大丈夫だと言いながら、世界はどんどん虚構の世界に絡め取られている。想定外の世界に押し込んだ都合の悪い些細の生み出すヒッチが、大きな歯車の隙間に入り込み、やがて全てを歪ませる。例えば連日放送される高齢者による過失運転。その論調の行く先は、もっと自動化させたら事故は防げるのではという主張のように聞こえるのだが、果たしてそれが正しい道程なのか。何かに、意図的に誘導されているのではないと言い切れるのか。
近未来が思った以上に近い将来のことであることが否応なしに突きつけられる。寓話がいつしか現実の延長線上にあるものであることを思い知らされるその時、自分に残された選択肢は何か。それを真剣に問わずにはいられなくなる。 -
絵本です。絵もたくさん、字もたくさん。
かなりディープなディストピアSF。
文章がちょっと変なので、最初は翻訳が下手なのかと思ったけど、読み進めるうちにこの変な語り口が作品の世界観なのだと気付いた。
あまりにもショッキングな世界観ながら一笑にふすにはリアルな設定。
破滅的ながら美しい絵と陰鬱な物語が、えもいわれぬ感傷を読む者に刻む。 -
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【静大OPACへのリンクはこちら】
https://opac.lib.shizuoka.ac.jp/opacid/BB2844069X -
参った、これ最高です。SFの好きな方には是非読んでもらいたい!ハリウッド映画化決まってるそうです。
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ティーンエイジャーの「ミシェル」とドローンの「スキップ」が、ドローン技術により戦争に勝利はしたが荒廃してしまったアメリカを、西へ、海へ向かうロードムービー的なお話。美麗なグラフィックで表現されるディストピア的な世界観、そして謎の多いストーリー。大好物。
VRゴーグルのようなものを装着することにより神経接続を行う設定などは、もしかすると本当に実現されるかもしれないし、それで中毒症状のようなものが引き起こされるのも自然な流れに思える。SFではあるけど、実際の未来を見ているような気持ちにもなる。
映画化の話があるみたいなので楽しみ。
あと、訳者の山形浩生さんのブログ記事も読んでおこう。
https://cruel.hatenablog.com/entry/2019/07/28/030028 -
神経と直結して操作される巨大ロボットドローンによる戦争で荒廃したアメリカ。人々はニューロキャスターと呼ばれるマスクを被り、何かを消費しつつ消費されている。
少女は、小さな相棒のロボットともに、西へ、海へ向かう。彼女は何もかぶっていない。その孤独。
たくさんのケーブルをひきずりながらドローンが立ち尽くしている、巨大で異様な風景の中を走り抜けながら、いろいろなことを思い出す。世界の異様さとは裏腹に、少女の追憶は近い友人や家族との関係に終始する。
暗い風景の中で、彼女の車のテールライトばかりが光っている。我々は彼女の後を追う。世界がどうなってしまったのかを教えてもらいたいのだけれど。 -
2019/6/4(火曜日)