無限振子 精神科医となった自閉症者の声無き叫び

著者 :
  • 協同医書出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784763940087

作品紹介・あらすじ

両極端の間を揺れ動き、決して止まる事の無い人生。30代半ばで「自閉症」の診断を受けた精神科医による切実な訴え。

感想・レビュー・書評

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    自閉症の精神科医女性の苦悩

  • 発達障害当事者本は最近多いが、「現役精神科の女医」という専門的な切り口のため、自伝として非常に臨場感に溢れている。Kanner型で受動型の女性の場合、「過剰適応」のために、私ではないいくつかの人格=仮面が発達過程で形成されることは理解できるが、解離性人格障害とは違い、場面場面で表に出る仮面を見ている「私」は奥深いところに小さくいて、意識や記憶として残っているというのが興味深い。
     
     仮面の自分=彼、彼女は、日常生活で言語的なコミュニケーションを普通にしているのに、本当の自分=私は、心を開いていく理解者(主治医、セラピスト)の前では、喋らない筆談で意志を伝える、という。「書くこと、手紙」で自分の意志を伝えるということは時に一方的に意志を述べることになることもあるが、過剰適応する受動型の自閉症者では、直接的な言語による動的なコミュニケーションの相互作用の中で、自分の意志が歪曲され、結果自分が壊れていくような状態になるというのはなんともツラい。
     
     過剰適応する自閉症者は、元来の性質であると思われる「取り組むことには真面目に取り組む」というのをベースとして、「適応人格」が形成されていく。作者の大学時代の記録にあるように、「分け隔てなく」人と付き合おうとし、自分の限界を考えずに飲み会に朝まで参加し(途中で切り上げる方法を知らない)、アルコールで躁状態となり、結果、性に対して「だらしない」と思われる。どの人がいい人なのか、を判断する方法がないから、断れないまま誘いに乗る。その結果傷ついていくのは、他ならぬ「根っこの私」であるというのが痛々しい。

     この本の中で最も参考になったのは、「定型発達者」と「自閉症者」には、認知発達の様式の違いによる文化的な違いがあり、この文化的な壁を乗り越えるための「通訳」が早い時期から必要なのだということ。
    柔軟な思考ができる定型発達者が、偏った思考回路に陥りがちな自閉症者の「通訳」になろうとすること。「早期に理解されること」の重要性である。

     こと、日本の教育に目を向けると、依然として先生から生徒への「道徳的価値観」教育が目につく。定型発達=多数=善、逸脱行動=少数=悪、の図式は否めない。そのような「みんなと違う=悪』のレッテル貼り、「みんなと同じ=善」の安心に加担してしまうと、もはや「他人は自分とは考え方が違う」という当たり前の柔軟な思考自体が育ちにくくなってしまっている。
     作者は言う。「自閉症者は、他者をわからないのと同様に、自分のこともわからない。」一方で、僕らは、自分を定型的な多数の他者に合わせることで自らのセーフティーゾーンを確保し、「自分と違う他者」に対して不寛容になってはいないか?
     この作者の切実な訴えは、教育現場で悩む教師にもぜひ読んでもらいたいと思う。
     

  • 最近よく聞く、大人の発達障害のこと。
    自分に重なるところもあるが、
    当事者の苦しみはもっと深く、
    想像以上であることを知った。

  • なんだか、とても、ショックだった。

  • 精神科医になった自閉症の方の自伝です。高機能であり、ある程度カバーできたため、身近な人からだけでなく、自分自身も気づかず、送った大変な日々を赤裸々に描いています。知らなかったことですが、自閉症には様々なタイプがあるそうで、作者は「受動型」に相当するそうです。
    作者が書いている内容の一部は、僕自身も思い当ります。カラオケに行って、次の曲が入っていないと、間が持たないから、連続になっても曲を入れたりしますし最近はだいぶましになったが、社会人になったときは、電話が苦手だった。相手が何を話すかわからない状態であり、電話前に、かなりシュミレーションをしてから、今もかけています。仮面をかぶっているというような感じも、どこかみんなあるような気がします、少なくとも僕にはあります。僕は読んでいませんが、ドナ・ウィリアムズという自閉症の人の自伝にも、ウィリー、キャロルという仮面が出てきているそうで、それと彼・彼女が一致しているのは興味深いです。もしかすると、人のまねをするという、性質が影響して、自身と照らし合わせることで、作者自身の物語は、修飾されているのかもしれませんね。
    子供って、小さい時にいろいろ自由にしていて、親に叱られて、育っていくものだと思う。食べ物に素手で手を出して、手をはたかれて、徐々にそうしないようになっていくように。作者は手と手が触れると、電気が走ったように手を引っ込めるといったことが、元々あったそうで、そういないのは、仮面をかぶっているからだそうです。教育により、そうしちゃいけないんだと学んで、社会に適応していくのが、仮面だとすると、どうしていくといいんだろう。
    どういう仕組みになっているんだろうと、思うことも多かったです。作者は文系であり、国語もできていたようです。僕自身は国語が苦手で、国語というと、主人公はどうして…したのですか?みたいな問題が多く、苦手でした。これって、心の理論の問題で、自閉症の人って苦手じゃないのかな、と思っていました。なぜ国語ができてたのでしょう?また社会性の問題がある作者は、どうやって、海外のような初めての学会で、うまくやっていくのだろう。社会性の欠如はどのようにカバーされるのだろう?また作者自身は、患者とのトラブルは少なく、好かれていたと言っていますが(実施は違うのかもしれないが)、なぜトラブルが少なったのでしょうか?精神科の治療において、患者の心の内を理解することはあまり必要ないのでしょうか?、心の内を理解されないことが、むしろ安心感につながり好かれるのでしょうか?何か異なる疾患でも精神疾患どうし共感があってプラスなのでしょうか?いろいろな疑問が湧いてきながら読んでいました。、
    作者には視覚や聴覚に過敏があるそうです。これは、てんかんや偏頭痛の方にみられることがあるものです、同じものなのかはわからないですが、いろんな疾患にみられるのは、共通の機序とかがありそうで、興味深く思いました。
    全体として文章は赤裸々すぎる気もしますが、裏表の塩梅が分からない自閉症の性格が表れているのかなと思いました。また自閉症の日々がいかに大変かが書かれていますが、そこには、我々自閉症の人々が大変という感じで、他の人々の大変さへの慮りがない感じで、そのあたりが自閉症なのかなと思ったりしました。
    勉強になり、かつ脳や心の仕組みについて、いろいろ考えさせられる本でした。

  • 自閉症者が子供の内に保護者や教師に見過ごされ、不適切な対応を受けるとどうなっていくかというきわめて深刻な問題が記されている。女性の自閉症者に特有と思われる問題、二次障害についての記述も勉強になる。女性の当事者及び支援者におすすめ。

  • とある『自閉症者』の生々しい声。
    叫びたいのに叫べない。
    顔があるのに顔が無い。
    そんな話。

    読んでいて『自分もそうだよ』と何度も思った。
    でも自分は『自閉症』だとは自覚してない。
    軽鬱の睡眠障害だけど。
     コレも自閉症の一種なんだ と思う事度々出て来ます。

    読み物としては・・・読まなくても良いかも。
    自己確認をしてしまうから。
    でも、ある人にとっては非常に有益なのかも知れない。

  • これは私のことだ。悩んだ上で精神科に相談に行く。

  • 110920on朝日  30代で診断  本当の自分として行き直し
    121203
    ---
    一見、適応的でうまくやっているように見える「受動型」の人たち。だが実は、彼らは生活のなかで大きな困難を抱えている…。30代半ばで「自閉症」の診断を受けた精神科医が、“理解されない”自閉症者の苦悩を綴る。
    ----------
    『自閉症だったわたしへ Ⅰ~Ⅲ』ドナ・ウィリアムズ 79,2,110 "nobody nowhere" "like colour to the blind"
    『自殺されちゃった僕』←妻、同僚、友人が自殺 推薦by栗田dr. 118
    -----
    "彼"の出現 13
    いじめと友一人 30
    高校入試 振子の始まり 35
    シングルフォーカスと実習と国家試験 59-60
    死 死にたい 自殺へ 82
    初めて認めてもらえて受けとめられて 92
    自閉症診断おりる 98
    最後のまとめ 105
    「いい子」 117
    診断を受けることの効果とメリット 125
    心の理論 他者理解 135
    いじめ 絶対に許さない 態度 138

  • (blogからの転載のため文体が違います。注意)

    30代半ばで自閉症の診断を受けた精神科医の自叙伝。
    自閉症のことをある程度知っていて読むと、深く読める一冊。
    親に見過ごされるほどの力をもっている著者。
    というよりも、親が隠していたようにしか見えない。
    それでも著者はしっかりと生きていた。

    が、歯車が突然くるってしまい、自殺未遂に追い込まれる。
    彼女を愛したらしい夫とも結局は離婚してしまう。

    一度「死」を間近に体験したことで
    生きる気力がわいたのか、真面目に自分と取り組んでいる。
    あたたかい周囲の人にかこまれながら。
    しかしそれは家族ではない。

    この本を読んで、
    私も確定診断に向かうことにしたんだよね。

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