ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく

  • 柏書房
3.66
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感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760150236

感想・レビュー・書評

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  • あけましておめでとうございます

    ベートーヴェンだし、
    第九だし、
    年末年始だし、
    ということで、年末の開館日ギリギリに図書館で借りておいた作品

    一気読みしたかった〜
    年末の慌ただしさでこま切れの読書となってしまったことが、つくづく悔やまれます

    ベートーヴェンの秘書シンドラー
    かなりイタいけど憎めない
    そもそも「秘書」だって
    自称なのではと思ってしまう
    けど憎めない
    うん、いるいる
    こういう人

    かげはらさんの修士論文がもとになっているそうですが、とても読みやすかったです
    クラシック音楽に馴染みがない方も楽しめると思います
    図書館本

  • 積読をしていたら、何と文庫化されてしまった。というわけで、読み始めたのだが、これが滅法おもしろかった。

    ベートーヴェンといえば、いかつい目つきにモジャモジャ頭…。小学校の音楽室に必ずといっていいほど飾られた肖像画を連想する。そして、授業や書籍で語られてきた印象的な数々のエピソード。「運命はこうして扉を叩く」という台詞は、音楽に疎い私でも知っている。ところが、そうしたエピソードは、ベートーヴェンの秘書アントン・シンドラーによる伝記に由来し、実はそのほとんどが捏造されたものだった。

    ベートーヴェンが若くから難聴を抱えていたことは有名で、コミュニケーションはノートへの筆談に頼っていた。ベートーヴェンは失語ではないので、書くのは相手側のみである。そのノート約400冊は全て保管されていたのだが、シンドラーは伝記を書くにあたり都合のいい部分だけを残し、他は燃やしてしまったという。しかも、残した約140冊の至るところに改ざん処理を施した。

    こうして書き上げられた伝記は1840年に初版が刊行され、2度大幅改訂されている。当時から内容に疑義が寄せられていたもの、その後の楽聖ベートーヴェン像の確立に大きな影響を与えることになった。

    ところが、1977年の国際ベートーヴェン学会で、シンドラーの捏造が改めて大々的に指摘され、一大騒動に発展するのである。ある研究家はシンドラーが関わった情報は一切信用できないと述べ、今後正確なベートーヴェンの伝記を書くことは不可能だとまで言う。

    作者はシンドラーを“プロデューサー”だと評する(決して褒めてはいない。ここ重要)。天才作曲家ベートーヴェンは、人間的にはなかなか厄介な方だったらしい。シンドラーはそれらの醜聞をもみ消した。そして、自分とベートーヴェンとの関係性を「盛った」のである。

    本書はかなり砕けた文体で、面白おかしく書かれている。スラスラ読める徹夜本である。シンドラーさん、なかなかにゲスい。すると妙な気になってくる。大筋はこの通りなんだろう。捏造も間違いなくしたのだろう。でもこの本に書かれていることを、正確にシンドラーが言ったり考えたりしたかはわからない。では、これ「捏造」なのでは?

    シンドラーの嘘は綺麗さっぱり淘汰されたのかといえば、そんなことはない。「運命」のエピソードのように、捏造報道があった後も多くのテキストで紹介されている。我々は今なおシンドラーの描いたベートーヴェンを見ているのである。

  • なんだこの本は!めちゃくちゃ面白いじゃないか!!

    あまり詳しいことはわからないけれど、クラシックは嫌いじゃないです。交響曲何番、とか言われてもパッと曲がわかるほどの知識は残念ながら持ち合わせていません
    なので
    ベートーヴェンに秘書がいた、なんてこともこの本で初耳

    最初は秘書、シンドラーの生い立ちが書かれていていまいち…でしたがベートーヴェンと出会ってからが面白い

    みんな、自分の尊敬する人には輝いていて欲しいですよね
    黒い部分なんて、見なかった、知らなかった
    そんなことにしてしまいたいですよね…

    気持ち、わからなくもない

  • 面白かったぁ、なんでもっと早く読まなかったんだろ

    以前にTBSラジオのアトロクで紹介された直後に
    購入するも、積ん読図書館に寄贈状態だった本書

    読み出すと驚きと面白さが同時に押し寄せてくる
    そしてそのまま読みきってしまったのでした

    この歴史的出来事とこの文体の相性の良さ!それを
    実現させた著者の筆力と、もとは修士論文だったと
    いう経緯を含めてまさに「へえ~」である

  • 面白い。
    すごくマニアックな題材をすごく掘り下げて書いているのだが、いまどきの概念や言い回しを積極的に用い、敷居をぐっと下げている。
    「真面目」な筆致に変えたら、それだけでどこぞの大学の出版局から4,000円くらい取って出す本になれるだろう(そして本書の半分も売れないだろう)。そもそもフェルディナント・リースの大ファンだという時点で、この著者は「ガチ」中の「ガチ」なんである。

    本書の題材は、好きな人にはどんな書かれようだろうとこたえられないものだが、伝えかた次第ではそうでない人・知らない人にも興味を持ってもらえるだけのポテンシャルを秘めている。もとは修士論文(言うまでもなく「ガチ」)だったものをここまでの「エンタメ」に仕上げたのは、ひとえに著者の力量によるものだろう。

    その書きっぷりに、中には「軽い」と眉ひそめる向きもあるのもしれない。正直私も、最後のほうにはやや食傷しかけた。
    だが、これでいいんである。マニアでない人を釣るには、広く知り・広く読んでもらうためには、これくらいでなければ不足なのだ。若き研究者の勇気と英断に乾杯。

    2019/3/12~3/13読了

  •  『ベートーヴェンの弟子』を名乗る男アントン・フェリックス・シンドラーが、いかにベートーヴェンのイメージを浄化し、捏造し、現代の時点からベートーヴェンを観る我々の目を欺いたのかを語ったもの。文体がフランクなので、アカデミックな論文や評論ではないが、少なくとも事実を扱っており、詳細な資料に基づいているので小説とも言い難い。シンドラーの伝記、と言ったほうが近いのかも知れない。
     シンドラーの生い立ちから当時の時代背景、師匠と崇めるベートーヴェンとの出会い、弟子仲間と呼べるか分からない知人たちとの軋轢、ベートーヴェン親子の家庭崩壊と師匠の死を経て、崇拝するベートーヴェンの伝記執筆という名の闘争に発展していく様は手に汗握った。
     しかし「全ては崇拝してやまない師匠のため」という名目で対話記録を捏造し、「ぼくのかんがえた最高のベートーヴェン」を伝記という形に仕上げていくシンドラーの手法には理解出来ないと考える一方で、そうしたことをやりたくなる心境に同情している自分もいた。なぜなら、わたしも漫画やアニメの登場人物、歴史上に類を見ない事業を成し遂げた英雄、更にはアイドルたちに対して「ぼくのかんがえた最高の○○」的なイメージを持ち、妄想している側面があるからだ。
     そういう意味では、シンドラーはベートーヴェンに対する執着が過ぎた、平々凡々な人間だったのだと思う。シンドラー的な捏造や嘘は、誰でもやってしまうのだ。この本は〝鏡〟みたいなものだと思う。

  • 運命のモチーフだとかテンペストを読めだとかメルツェルと交響曲8番の第二楽章とか人って話は怪しいってよく聞く、その根拠の怪しさを説明してくれているのがこの本。
    シンドラーというちょっと空気読めない系の人物が、会話帳を改竄したり、エピソードを捏造したり。それを現代の音楽業界の話風に面白く書いている。ベートーヴェンの伝記を巡ってこれだけ揉めてた話とか知らなかった。

  • 力作。面白かった。

    天才とそうでない自分。シンドラーの気持ちも分からんでもないなぁ…嘘が年月を重ね本当の事のように思えてくる。イタイけど憎めない。シンドラー。あぁ…笑

  • ベートーヴェンの存在を確かめるのは本人の作った曲と、書いたとされる書物、そして関わる人たちの言葉を同じく残した書物。しかし耳が聞こえなかったベートーヴェンにとって会話帳は、僕らでは考えられなかった事実だ。それをうまく使い、人を騙すことは、目的とすることは、今の時代なら考えられることだが、その当時はそこまではできるものではない気がする。
    人の性を感じさせる本だった。

  • ひとりの男のついた嘘が、歴史として後世に語られる真実を曲げてしまう。恐ろしいけど、面白い。

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著者プロフィール

1982年、東京郊外生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業、一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。著書に『ベートーヴェン捏造』『ベートーヴェンの愛弟子 』がある。

「2023年 『ニジンスキーは銀橋で踊らない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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