フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ (DOJIN選書)
- 化学同人 (2018年12月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784759816792
作品紹介・あらすじ
2016年、米国大統領選挙を契機に注目を集めるようになったフェイクニュースは、いかにして拡散するのか。本書ではこの複雑怪奇な現象を「計算社会科学」という新しい分野から読み解く。偽情報を信じてしまう人間の認知特性、その情報を拡散させる情報環境の特徴、情報過多と注意力の限界などの側面からフェイクニュース現象の全体像を描き出し、メディアリテラシーやファクトチェックによる対抗手段の有効性を検討。大量の情報が飛び交う現代、偽ニュースに惑わされないために必読の1冊!
感想・レビュー・書評
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フェイクニュース現象を計算社会科学という知見をもとに仕組みを紐解いた本。フェイクニュースを単発の偽情報として扱うのではなく、デジタルテクノロジーを駆動し、情報の生産者や消費者の様々な利害関係の中で蠢き合う「情報生態系」として捉えたのが特徴。
フェイクニュースは、人間の持つ認知バイアスをもとにSNSなどのデジタルテクノロジーによって増幅することで、人々の興味関心や偏見、経済的あるいは政治的な思惑を拡散する。事実よりも誤情報は遠く深く早く幅広く拡散し、誤情報の訂正はそれよりも拡散しずらい。また、訂正する情報を与えても様々な認知バイアスによって、誤情報を修正するばかりか、かえって誤情報を信じる信条が強化され逆効果になることすらある。
デジタルテクノロジーも、エコーチャンバーやフィルターバブルといった現象を誘発し、フェイクニュースという現象に拍車をかけている。
こういったフェイクニュースに対抗するにはメディアリテラシーやファクトチェックなどの個人や社会の取り組みを活性化させ、さらに、フェイクニュースに対抗する法の整備などしていく必要がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
計算社会科学と言う新しい応用学問領域の先生が書いた本。フェイクニュースをニュースそのものではなくそのシステム全体を俯瞰し広く浅く学べる入門的本と捉えられる。
フェイクニュースの拡散、それがもたらす人々の分断は
・デジタルイノベーション
・広告収入を得たいプラットフォーマー
・人々に特定の意思を流したい企業や国家
・そして認知バイアスと言う脆弱性を抱えた大衆
などなどにより構成される情報生態系的な問題であり
ニュース単体の是非だけを論じるものではないんだ
という視点が一番の収穫。
この情報生態系を前にして「真実をひたすら唱える」というのは非常に対抗策として弱いものであることが分析により実証されてしまっている。
「無限の情報、有限の認知」
「希少資源としての注意力」
という本書で見かけたフレーズはそんな生態系に振り回される一般人が持つべき心構えと言えるだろう。
また、人間はファクトではなくフィーリングで動くという現実はコンテンツ発信者にとっては必修科目だろう。
フェイクニュースの対処法としてメディアリテラシーの情勢、ファクトチェック、法整備といった例が紹介されているが、あえていうとこの程度の対策しか今はなく、人間の認知バイアスを利用して認知資源を貪るビジネスはまだまだ廃れないんだろうなあということが容易に想像できてしまう。
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情報拡散は自分の考えや価値観に一致する情報の場合に起こりやすい。反証する情報は拡散しない
→ファクトよりもフィーリングが優先される。
→捉えるべきはファクトは当然、フィーリングもあるな
"誤情報は事実よりも遠く、深く、早く、幅広く拡散する"
正しいニュースとフェイクニュースでは情報の拡散のされ方を可視化したときの様子が全然違→この情報電波ネットワークを考慮することで真偽判定の精度アップ
→ある程度のデータがあることでAIによるフェイクニュース検出ができる可能性を示唆
認知バイアス→人はデータから何か意味のあるものを作る癖 など
被験者に例えば、イラクの大量破壊兵器が存在する、と言うようなデマの情報与えその後、大量破壊兵器は見つからなかった、と言うような訂正の情報を与え被験者の態度の変化を調べた。その結果政治的な考え方がリベラルな人は訂正を受け入れましたが星型の人は新しい情報を受け入れないばかりかさらに強く大量破壊兵器の存在を信じるようになりました。
2000ニュースを信じるのは誤解や知識不足のせいなので真実を伝えれば問題が解決すると思われがちです。しかしこれらの実験結果は何かを深く信じる人々に対してその根拠となる事実を提示する事はかえって逆効果になる可能性があることを示しています。
バスター・ベンソン→薬を108種類の認知バイアスを機能や類似点に基づいて整理し問題ごとに24種類に分類。さらに大きな4つの分類にまとめ認知バイアスのリストを作成し公開。
マシューサルガニックの実験→
これらの実験結果は流行は筆よりも偶然とみんなからの影響受けて生まれる可能性があり質が良いだけでは成功するには不十分であることを意味しています。ただし出来の良い曲が著しく不人気になったり1番質の悪い曲は1番人気になったりといった極端な事は起こらなかったと報告されています。
→ある程度は実力、その先は運。
「デマの心理学」→噂の流通量=話題の重要性×状況の曖昧さ
→コロナがまさにこれじゃん
エコーチェンバー→自分と同質的な人ばかり追って情報環境が閉じる
フィルターバブル→ユーザの興味関心に応じた情報ばかりやってくる。
→GoogleやFacebookがどれを表示してどれを表示しないしないのかどれをどのような順番で表示するのかを決めている。
"Facebook上で私たちが何気なくしているイイネは個人情報に関する強いシグナルを走っていることを念頭に置いておく必要があります。私たちはFacebookを無料で利用しているのと引き換えにこのような個人情報を企業に提供しているのです。"
無限の情報、有限の認知
希少資源としての注意力
情報型世界においては人間のアテンションこそが希少資源でありアテンションがお金の代わりに流通するようになると言う考え方がアテンションエコノミー(中位の経済)です。これは社会学者のマイケルゴールドハーバーが1997年に提唱した考え方です
ミームは人から人へと伝達されコピーされる文化の情報単位のことです。文化的遺伝子とも呼ばれ1976年2000進化生物学者のリチャードドーキンス菅著書利己的な遺伝子の中で提案した概念です。
スタンフォード大学の研究グループが全米12州の中学生から大学生までの7804人を対象に調査を実施しましたその結果によると中学生の10人18人はウェブサイトのニュース記事とスポンサー付きの記事(広告)を判別できないことがわかりました。また奇形のヒナギクの写真に「福島原発の花」と言うタイトルが付けられたウェブサイト記事を見た高校生の10人中4人はその写真がいつどこで誰が撮影したのか明記されていないにもかかわらず本物だと信じだと報告されています。
幼い頃からソーシャルメディアに慣れ親しんでいるからといってメディアリテラシーが高いわけでは無いのです。 -
フェイクニュースの特徴、拡散を促進させる認知バイアスと環境、対策について、わかりやすく全体像を紹介してくれる一冊。
自分の興味対象外の情報や考え方に敢えて触れることは重要だな感じた。その点で、自然といろいろ目に入ってくる図書館やリアル書店は貴重だ。
■虚偽情報を分類する三要素
種類:パロディ、誤解、嘘文脈、偽装、操作、捏造
動機:煽り、金儲け、政治的影響、プロパガンダ
様式:SNS、ボット
■認知バイアスと他人からの影響
・情報過多や時間不足による補完、単純化、一般化、編集
→見たいように見る
・感情、特に負の感情ほど伝搬する
・訂正ツイートは拡散されない
・他人の「いいね」に影響される
■嘘情報伝搬のメカニズム
エコーチェンバー:似た情報や興味関心事に閉じていく。確証バイアスと他人からの影響の相乗効果による。
フィルターバブル:パーソナライズアルゴリズムによって情報フィルターが個人別にカスタマイズされる。
■人間の注意力は希少資源
アテンションエコノミー:情報過多の社会では人のアテンションは希少資源で経済的価値がある。
■フェイクニュースへの対処
ニュースとジャーナリズムの博物館(ワシントンDC)のESCAPE:エビデンス、ソース、コンテキスト、オーディエンス、パーパス、エグゼキューションの頭文字。メディアリテラシーの要点
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★電子ブックもあります!★
https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000072239?3
【本学OPACへのリンク☟】
https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/627078 -
2018年の本だが、フェイクニュースについて考える際に抑えておきたい用語などがかなりわかりやすく整理されていたのが良かった。(エコーチェンバー、フィルターバブル、認知バイアス、情動感染など)
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興味関心が同じもの同士がコミュニティを作るSNSとフェイクニュースの相性が良すぎるんだなと。
エコーチェンバー、ミームの話がなんだか長くてよくわからなかった。
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まさに現代の問題となっているフェイクニュース。これほど、フェイクニュースが広まり、人々に害を与えるのは、人間本来の性質に加え、SNS特有の仕組み、そしてネットの進歩による情報過多の社会が、組み合わされる事で自然と広まる仕組みができてしまった。
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本文より
フェイクニュースはなぜ生まれ、どのようにして拡散し、われわれ人類の脅威となるのでしょうか。
その仕組を理解することは、情報と虚偽情報が混在する複雑化社会を生きていくうえで重要です。
本書では、フェイクニュース現象を、情報の生産者と消費者がさまざまな利害関係の中で
デジタルテクノロジーによって複雑につながりあったネットワーク、
つまり、「情報生態系(Information Ecosystem)」の問題として捉え、
その仕組みについて紐解いていきます。
目次
第1章 フェイクニュースとは何か
一 フェイクニュースの全体像
二 フェイクニュース小史
三 フェイクニュースの科学
第2章 見たいものだけ見る私たち
一 認知の癖
二 みんなからの影響
第3章 見たいものしか見えない情報環境
一 噓がこだまする部屋
二 フィルターに囲まれた世界
第4章 無限の情報、有限の認知
一 情報過多世界
二 希少資源としての注意力
第5章 フェイクニュースの処方箋
一 偽ニュースを見抜くスキル
二 フェイクに異を唱える社会づくり
終章 情報生態系の未来 -
フェイクニュースや陰謀論などの構造がよくわかる。
この構造をしっかり理解しておくことは、この複雑でカオスな情報化社会を生きていく上で必須教科だと思う。
SNSやニュースに惑わされない情報リテラシーを磨くにはうってつけだ。
自分の考えや価値観に一致する情報の場合に情報拡散が起こりやすく、反証する情報は拡散しないという事実は、陰謀論やデマを信じる人に科学的根拠を提示すればいいという単純な話ではないことを示している。
また認知バイアスの仕組みから、偽ニュースを信じるのは誤解や知識不足のせいなので真実を伝えれば問題が解決すると思われがちだが、何かを深く信じる人々に対してその根拠となる事実を提示することはかえって逆効果になる可能性がある、というのも重要なポイントである。
情報リテラシーというのは、現在ではこの「フェイクニュース、デマ、陰謀論、プロパガンダ」を見分ける、という視点を外しては語れない。教科書に載せるレベルで知っておくべき常識の一つと言ってよかろう。