時の止まった赤ん坊 新版

著者 :
  • 海竜社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (764ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759313659

作品紹介・あらすじ

アフリカ・マダガスカル島の産院で使命感を持って働く日本人のシスター。貧困、飢餓、慢性的な物不足、人間の狡さ、卑怯さの中で、限りない愛、偉大さを垣間見せる世界!

感想・レビュー・書評

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  • 実在したマダガスカル島のシスター遠藤能子をモチーフにした小説。アンツィラベという過酷な環境において、貧困や飢餓と向き合いながら産院を取り巻く人々の姿は原点的な人間らしさを感じる。それは狡猾さでもあり残酷さでもあり崇高さでもあり生命の尊厳でもある。生涯で二桁単位で出産そして多くの流産と早死を受け入れるマダガスカル人の姿も日本人にとっては衝撃的だが、そこで献身的にシスター兼産婆として役割を務める入江茜や最上至暁子の姿もまた日本人にとって衝撃的だ。

    小木曽が一般的日本人の感覚として辛辣な意見を度々放つが、避妊や自然淘汰を無視し一時的延命を図ることは自己満足ではないかという指摘は単なる否定や矛盾を超えた生命の根源的価値を問うてる気がする。他方で「死ぬために生まれる」という極めて非情な捉え方も神から与えられた使命を全うしたと受け容れるある種の神々しさと清々しさがそこにある。最後の小木曽やマリーの行為が突然感があり一貫性に欠けるため白けざるを得ないが、もしかすると無意識の根っこのどこかで献身や信仰を持つほうが自然な姿なのかもしれない。

  • 黒木亮氏レコメンド作品

  • 700ページを越える分厚い本。日本での生活に慣れきってしまっている私。このような厳しい環境下に飛び込む勇気は全然ない。たぶん耐えられず、すぐ逃げ出しちゃう。

    本当に必要な物は神様が与えて下さる・・・神頼みは自分の利益であってはならない・・・神を信じきって、すべてを神にお任せすることができれば、もっとシンプルに生きることができるんだろうなぁ。

    日本が途上国に行っている無償援助の問題についても考えさせられた。技術や装置を気前よく援助しても使い方やメンテ方法を教え、故障を直す技術者の養成までしないと宝の持ち腐れ。「人間ただでもらったものは大してありがたいと思わんもんでしょう(P707)」・・・ホント、そのとおりかも。

  • 1984年に出版された本。
    その当時すでに、いい人の話しかしない、と日本人を評しているのが面白い。今はますます感動的な話ばかりが増えているから。自分の中の悪を認めないから幼児的で薄っぺらいという文中の言葉に同感だが30年前にも既にそうだったなら、あんまり心配いらないのかも。

    マダガスカルという日本とは全く異なる世界で、助産師として働く修道女の話。「あそこへ行けば、あの夢のような生き方がある、と思えることが必要なんですよ」という小木曽の言葉は宗教的な響きがある。
    最近の断捨離ブームみたいな、物から自由になることへの憧れもかきたてられる。

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著者プロフィール

1931年東京生まれ。聖心女子大学卒。93年恩賜賞・日本芸術院賞受賞。2003年文化功労者に。2012年菊池寛賞受賞。著書に『人生の収穫』『「群れない」生き方』『人間の道理』『老いの道楽』等多数。

「2022年 『未完の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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