- Amazon.co.jp ・本 (48ページ)
- / ISBN・EAN: 9784759222760
作品紹介・あらすじ
ミュンヘン近郊の町で、楽器店を営む両親と、障がいをもって生まれて来た妹と暮らす少年。彼の眼を通して、ヒトラーの台頭から、政権への反対者の逮捕、ユダヤ人差別・弾圧、障がい者の隔離をはじめとしたナチスの支配、そして第二次世界大戦とナチス・ドイツの敗北までを描いた物語。
戦争が終わり、廃墟となったミュンヘン郊外の町で、兵隊から復員してきた父親に少年は、「父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」と最後に問いかけます。
感想・レビュー・書評
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題名から、父親と息子の対話の絵本のように予想していた。
違った。現代から過去のことをあれこれ説明する絵本ではなかった。
突然、1933年3月5日、日曜日お昼、お父さんお母さんの口げんかから始まる。
「よく考えるんだ、リズロット。彼だけがドイツを救える。これが最後のチャンスなんだ。彼はすべての人にもう一度、仕事を与えてくれる。われわれはやっと祖国ドイツを誇りに思えるようになるんだ」
その日、ヒトラーが勝利すると、世界はあっという間に変わっていった。
なんページか絵本をめくると最後、瓦礫と化した街に呆然と座っているお父さんに「ぼく」は問いかけた。‥‥そこで、絵本は終わっている。
過去はいつも、その時は現代なのだ。
ドイツは急激に変わった。
日本はなし崩しに変わったかもしれない。
どちらにせよ、歴史の画期に見る風景はよく似ている。
私はいつも思い出す。「スターウォーズepisode3」において、ナタリー・ポートマン演じるアミダラ姫が言った言葉だ。
「自由は死んだ。万雷の拍手の中で」
そうならないように、できることをしてゆく。 -
1933年3月5日の日曜日の昼すぎ。
ミュンヘンにほど近い小さな町に暮らす、ある夫婦の言い争いの場面から物語は始まる。
その様子を見ているのは、当時5才の息子・ルディ。
父さんが大きな声を出した。
「彼だけがドイツを救える。
これが最後のチャンスなんだ。」
母さんが強く言い返す。
「私は自分の考えで投票するわ」
こうして総選挙で勝利したヒトラーが、政権の座につき、あっという間にあの恐ろしい独裁、犯罪行為へと突き進んでいく。
この物語は、1945年に第二次世界大戦が終わるまでの12年間を、ルディの視点から淡々と、感情的にならず、描かれていく。
そして、
「父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」
の答えは書かれていない…
なぜ、あのとき人々はヒトラーを信じてしまったのか?
私には分からない。
障害者など劣っていると判断した人々を、“社会の役に立たない”と排除していく行為。
うまくいかない事は、○○のせい、と罪人をつくる行為。
かたちは違えど、現在も同じ事が繰り返されている。
なぜ?
私が選挙で投票した政治家たち。
本当に正しい選択だった?
考えれば考えるほど、分からない事ばかり。
こんな私はまず、“知ること”から始めようと思う。
この本は、kuma0504さんのレビューで興味を持ちました。
ありがとうございます! -
絵本なので文字数もそう多くないが、読みごたえや考えごたえのある本。
タイトルに対する答えはない。
投票するのもしないのも、誰に投票するのかも、国の現在と未来を決める大変責任の伴う行動なんだと思い知る。 -
1933年。ナチ党に投票するという父と、それに反発する母が言い争うのを5歳の「ぼく」が目撃するところから始まります。ヒトラーが勝利し、じわじわと圧政が強まり近所の人や友だちの中にも差別され、攻撃される人が出てくる。「ぼく」が12歳になる頃には友だちもヒトラーユーゲントに入りヒトラーへの崇拝は強まるばかり。
ストーリーの本文とは別に、見やすい解説もあり、選挙で選ばれた政権だけど、その選択を誤るとどうなるのか。政策も自分には直接関係がないと思っているうちに、着々と悪法が決まり、反対することも許されなくなっていく恐ろしさを感じました。
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廃墟となったミュンヘン近郊の架空の街で息子は父にこう聞く―「父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」
一見その問いは、ナチスドイツ及びヒトラーを結果的に誤って支持してしまった大人たちへの鋭い批判を示しているように見える。しかしこれをドイツ人のみの過ちとして矮小化するべきではない。
たとえば著者はフランス出身だけど、生まれた時代が違えば、ナポレオン支持の熱狂に飲み込まれていたかもしれないではないか?
つまり、ヒトラーへの投票は、あの時代のドイツ人だけが陥った過ちではなく、フランス人も日本人も、そして世界中のすべての人が同様に抱える人間の負の部分だとして直視しなければ、問題を見誤まる結果になる。
その証拠に「父さんはどうしてトランプに投票したの?」「父さんはどうして自民党に投票したの?」と言い換えられる可能性を孕んでいるとは言えないか?
今日偶然、朝日新聞の「折々のことば」にパスカルのパンセから次の語句が引用されているのを見つけた―「最も強いものに従うのは、必然のことである」
無意識にしろ意識するにしろ、人間は強い勢力になびく傾向があることはすでに看破されていたということだ。
一方で、そういう人間の負の面に流されることなく抗おうとする著者の強い姿勢が、この本からは見えてくる。
まず1つ目。ナチスに失業者の救済を託して投票しようとする夫に対し、冷静に情勢を見てナチスの勢いに何か“うさんくさい”ものを感じて異なる投票をしようとする妻の存在。
後世から見れば妻の選択のほうが正しかったということになるのだけど、私はこのエピソードから、政治家がよく錦の御旗のように「ふわっとした民意」という言葉を使うが、上澄みだけをすくい上げ、その他諸々は無視するかのようなこの言葉がいかに危険かを思い知った。
それと2つ目は1936年のベルリンオリンピック。
「ヒトラーのプロパガンダの祭典」と著者は書き、右手を掲げたドイツ国民でスタジアムが埋まっている写真が掲載されているが、なんかデジャブ感あり。これ以上余計なことは書かないけど、スポーツの国際大会がナショナリズムにすり替えられる危険性を、現代に生きる私たちはまだ脱し切れていない。
つまるところ、人類はヒトラーの時代以降現代までの間に、民主主義を進歩させたと言えるのか、はなはだ疑問と言わざるを得ないと思っている。だから「父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」の問いには、当時もいまも誰も明確に答えが出せないのだ。 -
架空のドイツ人一家を中心に語られる、ナチス時代を題材にした絵本です。
お父さんはどうしてヒトラーに投票したのでしょうか。
正しさや正義について、子供だけでなく大人も考えさせられる一冊。 -
借りたもの。
ナチスが政党を取った後、ドイツの空気がどう変わっていったかを、少年の目線で描いている本。
世界史的な外交視点は直接描かれておらず、父母が投票をしたところから始まる。
失業に喘ぐドイツ国内を良くしてくれるであろうと信じて、ナチスに投票する父と、反対する母を傍観する少年。
ミュンヘン郊外で生活している架空の家族だが、彼らは白人で、どうやらユダヤ人でも移民でも有色人種でもない。
それ故に虐げられる苦難や激情に巻き込まれず、起こった事実を客観的に見ている。
ひとつずつ次第に変化してゆく、社会の空気……
どん底から立ち直れる未来への希望というドイツ国民が共有する意識が、選民思想から差別意識が強まり、言論統制が始まり、収容所が作られてゆく……そして戦争がはじまったことに歓喜する声。
徴兵、疎開……葬儀が描かれ(直接描写されない兵士の死と空爆)、都市の陥落と占領……瓦礫に座り込む帰還した父に、少年はこの絵本のタイトルに書かれている言葉を問いかける。
絵本の余白には注釈として、ナチ党の当時の動きが写真と共に短く解説されている。
民主的な方法で選ばれ、独裁政権が出来上がっていく過程が端的に描かれた絵本。
そこに“投票した側”の心境も、世界情勢や外交は書かれて/描かれていない。
議論を促す絵本である。
あえて欠落されている結論。
その議論の中でさえ、全てを議論しつくすことはできないだろう。
当時の空気感であったり、悪名高き心理学実験「スタンフォード監獄実験」に通じる人の心の作用など……
人種であれ、障碍者であれ、差別はいけない。
戦争はいけない。
……ではなぜそれを選んでしまったのか?
民主主義――人民が主権を持ち、自らの手で、自らのために政治を行う立場。人民が自らの自由と平等を保障する行き方――で選んだはずなのに。
“自ら”は結局、主体のひとりに過ぎないため、他者は含まれない(人は人を思いやれない)のかもしれない。
民主主義もまた、理想的な政治体制ではないことを肝に銘じる。
一票の大切さと熟考も。
そう答えるしかないのでしょうか。
では、騙されないためには何が必要か。
それで...
そう答えるしかないのでしょうか。
では、騙されないためには何が必要か。
それでも騙されてしまった後には何をすべきか。
考えさせられますね。
そうなんですよね。
最初問答形式だと予想していたんで、そういうことも聞きたかったですよね。
でも...
そうなんですよね。
最初問答形式だと予想していたんで、そういうことも聞きたかったですよね。
でも問答形式では当事者意識は生まれない、と作者は思ったのかもしれません。
お父さんの心情は、最初のセリフ以外にはなくて、その後、この家族には生まれてきた子どもが障害者だったのでアウシュビッツに似た施設に入れられそうになったり、お父さんは徴兵に出されるし、焚書含めてありとあらゆる思想統制は強まるし、急激に生活が変わります。お父さんもおそらく選挙の後の2か月ほどで意見を変えた可能性があります。
でももう止まらない。ウクライナを見たらわかるように、戦争は勢いがついたら止まらない。
未来から見る目が必要だと思います。
参議院選挙は去年から何が問題か、比較的争点がハッキリしていて、この半年できる範囲で出来ることをしてきたつもりです。
今日が未来から見た分水嶺になるかどうかは歴史家が決めることですが‥‥。