死者の贈り物 (ハルキ文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 261
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (100ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758444545

作品紹介・あらすじ

「サヨナラ、友ヨ、イツカ、向コウデ会オウ」(「イツカ、向コウデ」)
「束の間に人生は過ぎ去るが、ことばはとどまる、ひとの心のいちばん奥の本棚に」(「草稿のままの人生」)──
親しかった人、場所、猫、書物、樹、旋律……などの記憶に捧げられた詩篇。
わたしたちが、現在をよりよく、より深く生きるための、静かで美しくつよい珠玉の言葉が、ここにある。
長田弘のロングセラー詩集『深呼吸の必要』『食卓一期一会』などに続き、ついに文庫化。
(解説・川上弘美)

感想・レビュー・書評

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  • 長田弘さんの詩集は近隣の図書館にあったものはすべてレビューをしたのですが、この詩集は図書館にはなく、初読でした。

    タイトルが少し怖かったのですが(呪いとかを連想して)長田弘さんの詩が怖いということはあり得ないことでした。
    死者が遺してくれた贈り物(ギフト)ですね。

    あとがきで著者の長田さんは、『死者の贈り物』は親しかったものの記憶にささげる詩として書かれた。死はほんとうは、ごくありふれた出来事にすぎないのかもしれない。しかし、『死者の贈り物』にどうしても書きとめておきたかったことは、誰しものごくありふれた一個の人生に込められる。もしそう言ってよければ、それぞれのディグニティ、尊厳というものだった。ひとの人生の根もとにあるのは死の無名性だと思うと述べられています。

    長田弘さんの詩はいつもわたしたちに何かとても大切な真理を教えてくれます。



    「こんな静かな夜」
    先刻までいた。今はいない。
    ひとの一生はただそれだけだと思う。
    ここにいた。もうここにはいない。
    死とはもうここにいないということである。
    あなたが誰だったか、わたしたちは
    思いだそうともせず、あなたのことを
    いつか忘れてゆくだろう。ほんとうだ。
    悲しみは、忘れることができる。
    あなたが誰だったにせよ、あなたが
    生きたのは、ぎこちない人生だった。
    わたしたちとおなじだ。どう笑えばいいか、
    どう怒ればいいか、あなたはわからなかった。
    胸を突く不確かさ、あいまいさのほかに、
    いったい確実なものなど、あるのだろうか?
    いつのときもあなたを苦しめていたのは、
    何かが欠けているという意識だった。
    わたしたちが社会とよんでいるものが、
    もし、価値の存在しない深淵にすぎないなら、
    みずから慎むくらいしか、わたしたちはできない。
    わたしたちは、何をすべきか、でなく
    何をすべきでないか、考えるべきだ。
    冷たい焼酎を手に、ビル・エヴァンスの
    「Conversation With Myself」を聴いている。
    秋、静かな夜が過ぎてゆく。あなたは、
    ここにいた。もうここにはいない。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      まことさん
      あっ、、、ちゃんと角川文庫版と書かれてたのに、見落としてました。建石修志は王国社版の単行本です。

      バブルの時にねぇ、、、
      某漫...
      まことさん
      あっ、、、ちゃんと角川文庫版と書かれてたのに、見落としてました。建石修志は王国社版の単行本です。

      バブルの時にねぇ、、、
      某漫画家さんもファンで、著作に金子義国と言う素敵なダンディが登場します!
      2022/04/02
    • まことさん
      猫丸さん。
      花房葉子さん、一目見ただけで、わかったのですよ。
      好きな方にはわかる、画風なんでしょうね。
      猫丸さん。
      花房葉子さん、一目見ただけで、わかったのですよ。
      好きな方にはわかる、画風なんでしょうね。
      2022/04/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      まことさん
      確かに、、、知っている方には一目瞭然!
      まことさん
      確かに、、、知っている方には一目瞭然!
      2022/04/02
  • 2015年に逝去された長田弘さんの詩集が、2022年の今、新刊文庫で読めることに感動しました。
    元本は2003年10月にみすず書房より単行本として刊行されたものです。
    ルビは文庫化にあたり、編集部で付けたものもあり、旧漢字は『長田弘全詩集』を参照して、新漢字に変えてあるとのことです。

    心に残したい詩、文章がたくさんありました。
    長田さんの「死」との向き合い方、他者の「死」との共存の仕方は、中年期を本格的に迎え、親しい人との永遠の別れも多くなってくるであろう自分にも、響くものがありました。
    読んでいると、他者と自分、生と死の境界線がなくなっていくような気がします。
    長田さんの言葉と私の思いも輪郭がぼやけ、徐々に徐々に重なり合い、混じり合っていく気もします。
    人にも自分にもやさしくなれそうな、そんな詩です。
    いずれ死ぬ「覚悟」をキリリと持ち直し、生き直したくなりました。

  • 祝文庫化!!!

    死者の贈り物 | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/07067/

    死者の贈り物|書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation
    http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=6656

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      詩人長田弘『死者の贈り物』の懐かしさ 落合恵子: 日本経済新聞(会員限定)
      https://www.nikkei.com/article/D...
      詩人長田弘『死者の贈り物』の懐かしさ 落合恵子: 日本経済新聞(会員限定)
      https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67373330W3A100C2MY5000/
      2023/01/08
  • ノーウェア ノーウェア どこにもない町
    子どものとき話に聞いた ずっと遠い町


  • 詩集。長田さんの透き通った言葉に触れていると、歴代のペット、かわいがってもらった親戚などが思い出された。当たり前だけど、もういないんだよなぁ、と。人に限らず場所や物もそう。詩としては、特に「箱の中の大事なもの」「わたし(たち)にとって大切なもの」に惹かれた。大事なものや大切なもの。一つ一つは、ありふれていて何気ないものでも、それらが揃うから平穏無事に暮らせるわけで、ありがたいことだなと思う。

  • 感想
    主観的な人生の短さが痛感される。それを受け入れた上で次の世代へと言葉を、精神を受け継いでいく。時間の流れに揺蕩う自分の姿を感じ取った。

  • 「貝殻をひろうように、身をかがめて言葉をひろえ。ひとのいちばん大事なものは正しさではない。」
    「ここにいた。もうここにはいない。」
    「おおきな秘密を抱えていた。」「闇のなかにではない。光のなかに、みんな姿を消す。」
    「サヨナラ、友ヨ、イツカ、向コウデ会オウ。」
    「この世に生まれたものは、死ななければならない。」「生けるものがこの世に遺せる最後のものは、いまわの際まで生き切るというそのプライドではないか。」
    「還ってゆくように逝った。」
    「束の間に人生は過ぎ去るが、ことばはとどまる、ひとの心のいちばん奥の本棚に。」
    「死は言葉を喪うことではない。沈黙というまったき言葉で話せるようになる、ということだ。」
    「理解されるために、ことばを使うな。理解するために、ことばを使え。」「九十九年生きても、人の人生は一瞬なのだ。」
    「人生は目的でも、手段でもない。ここから、そこへゆくまでの、途中にすぎない。」「一生を終えて、彼女は、初めてその町へ独りで行った。そして再び、帰ってこなかった。」
    「どんなだろうと、人生を受け入れる。そのひと知れぬ掟が、人生のすべてだ。」
    「明日の朝、ラッパは鳴らない。深呼吸しろ。一日がまた、静かにはじまる。」
    「今度、ゆっくりと。約束を守らず、彼は逝った。死に引っ張られて、息を切らして、卒然と、大きな犬と、小さな約束を遺して。いまでもその小道を通ると、向こうから彼が走ってくるような気がする。」
    「忘れてはいけないと、暦が言う。」「人間が言葉をうしなうのではない。言葉が人間を失うのだ。記憶がけっして語ることのできないものがある。」
    「世界とは、ひとがそこを横切ってゆく透きとおったひろがりのことである。ひとは結局、できることしかできない。」
    「樹はどこへもゆかない。」「この世で、人はほんの短い時間を、土の上で過ごすだけにすぎない。仕事して、愛して、眠って、ひょいと、ある日、姿を消すのだ、人は、おおきな樹のなかに。」

  • 酔って一気に読んだ。ありふれたものを大切にする。

  • 死にまつわる詩集。
    私の人生経験が足りないためか、ちょっとわからないものが多かった。

    親しい者の死という、個人的な事に対しては
    自分で自分の言葉を紡ぐしかないのかもしれない。

  • 全ての詩が、なんとなく、死んでしまった長田弘の親しかった知人がふわっと浮かんでくるようなものを感じる。
    詩には意味を求めず、言葉としての響きや美しさを愛でるだけでいいと谷川俊太郎が言っていた。

    +++

    渚を遠ざかってゆく人

    波が走ってきて、砂の上にひろがった。
    白い泡が、白いレース模様のように、
    暗い砂浜に、一瞬、浮かびでて、
    ふいに消えた。また、波が走ってきた。
    イソシギだろうか、小さな鳥が、
    砂の上を走り去る波のあとを、
    大急ぎで、懸命に追いかけてゆく。
    波の遠く、水平線が、にわかに明るくなった。
    陽がのぼって、すみずみまで
    空気が澄んできた。すべての音が、
    ふいに、辺りに戻ってきた。
    磯で、釣竿を振る人がいる。
    波打ち際をまっすぐ歩いてくる人がいる。
    朝の光に包まれて、昨日
    死んだ知人が、こちらに向かって歩いてくる。
    そして、何も語らず、
    わたしをここに置き去りにして、
    わたしの時間を突き抜けて、渚を遠ざかってゆく。
    死者は足跡ものこさずに去ってゆく。
    どこまでも透きとおってゆく。
    無の感触だけをのこして。
    もう、島たちはいない。
    潮の匂いがきつくなってきた。
    陽が高くなって、砂が乾いてきた。
    貝殻をひろうように、身をかがめて言葉をひろえ。
    ひとのいちばん大事なものは正しさではない。

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著者プロフィール

長田弘(おさだ・ひろし)
1939年、福島県福島市生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒業。詩人。65年、詩集『われら新鮮な旅人』でデビュー。98年『記憶のつくり方』で桑原武夫学芸賞、2009年『幸いなるかな本を読む人』で詩歌文学館賞、10年『世界はうつくしいと』で三好達治賞、14年『奇跡―ミラクル―』で毎日芸術賞をそれぞれ受賞。また、詩のみならずエッセイ、評論、翻訳、児童文学等の分野においても幅広く活躍し、1982年エッセイ集『私の二十世紀書店』で毎日出版文化賞、2000年『森の絵本』で講談社出版文化賞を受賞。15年5月3日、逝去。

「2022年 『すべてきみに宛てた手紙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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