今日のハチミツ、あしたの私 (ハルキ文庫 て 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758442404

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  • あなたは、『明日人生が終わるとしたらどうする』でしょうか?

    (*˙ᵕ˙*)え?

    あっ、いけない!明日の朝ごはんに食べるパンを買い忘れた…ふと気づいて近くのコンビニに走った経験、それに似たような経験は多かれ少なかれ誰にでもあると思います。一日の予定を終えて、買い物をして家に帰る、そしてくつろぎの時間を経て眠りにつく、そんな一連の行動の先にあるもの。それが明日という新たな一日の訪れです。そんな新しい日の朝一番にすること、それは朝ごはんを食べること、という人は多いでしょう。そんな朝ごはんを前日のうちに用意しておく、特に考えるでもなく行っているその行為は、自分の人生が当たり前に明日に繋がっている、それを前提にした行為とも言えます。

    とはいえ、この世はいつ何が起こるかわかりません。世の中に何も起こらなくてもあなたに何かが起こる可能性だってありえます。まあ、あまり悲観的に考えても仕方がないのかもしれませんが、それでも明日に自分の人生が今日までと同じように続いていく。明日の予定を当たり前に考えられるということは、感謝すべきことなのだと思います。

    そんな前提の中には、冒頭の一文のような質問は意味不明です。『明日人生が終わるとしたらどうする』でしょうか?なんて、おかしな質問自体願い下げです。明日にはやること、やりたいことがたくさんあるのに、自分の人生が終わってたまるか!そんな思いだって浮かび上がります。

    しかし、そんな質問にこんな風に答える女性が主人公となる物語があります。

    『もし明日人生が終わるとしたら、きっとわたしは、喜ぶ』

    この作品は、そんな女性が、それでも『もうすこしだけがんばれるかも』と思う中に、一人の女の人と出会う物語。そんな女の人が『蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから』と『蜂蜜』を差し出してくれたことを思い続ける女性の物語。そしてそれは、そんな女性が『明日がなくても、今日は今日だ』と『自分の居場所』で新しい人生を生きていく様を見る物語です。

    『もし明日人生が終わるとしたら、きっとわたしは、喜ぶ』、『そんなことを思いながら』『土手を歩くのは主人公の塚原碧(つかはら みどり)。『人のいない場所』で仰向けになった碧は、『もうすこしだけがんばれるかも』と声に出しました。そんな瞬間、『なにを?』という声にあわてて起き上がると、子どもをおんぶした『女の人』が、『ピクニック』と唐突に言う一方で『バスケットから丸いパンを取り出して』子どもに渡します。そして、次に『あさのはちみつ』とラベルに書かれた小さな瓶を取り出すと、『あなたの唇、荒れてる』と、『碧の乾いた唇にそれを塗』りました。『お家でごはんつくってもらえない子なの?』と問われて『ごはんは、つくってもらってます。ちゃんと』と返す碧に『虐待されてる子か何かかと思った。不健康な瘦せかたしてるから』と言う女の人。そんな女の人に『食べてますけど、吐いてしまうんです』、『みんなに嫌われてるんです』と『誰にも言わずにいたことを、なぜか口にしている自分に驚』く碧。そんな碧に『違うね… あなた自身が、あなたを大事にしてないから。あなたがあなたを嫌っているから… そういうふうに扱ってもいいんだって思われてしまう』と言う女の人は、『これ、あげる。食事の前に、ひと匙ずつ舐めること… 蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから』と言うと碧の前を去って行きました。場面は変わり、そんな『もう十六年も前』のことを『こうしてまだ夢に見る』と思うのは『安西と同棲をはじめて二年になる』という三十歳になった碧。そんな碧は『安西と出会って九年、恋人になって八年』という今の暮らしを思います。『朝食のメニューに力を入れたカフェ』で働く碧の一方で『仕事は、なかなか続かない』という安西。そんなある日、安西がまた仕事を辞めたという話をすると同時に『俺、地元に帰ろうかと思う』と唐突に言い出します。『家の仕事、手伝おうかなと思ってて』と言う安西は『碧と離れたくない』とも言います。そんな安西の地元の朝埜市に引っ越すと仕事を辞めなければならないこともあり躊躇する碧に、『朝埜って、蜂蜜の産地なんだよ』、『「あさのはちみつ」って… ずっと前から朝埜の蜂蜜じゃないかなと思ってた』と、『蜂蜜』のことを話題に出す安西に、『ずっと前から思ってたんなら、はやく教えてよ!』と返す碧。そして、会社を辞め、安西とともに朝埜へと向かった碧。そんな碧が黒江という養蜂家との出会いのその先に『わたしに養蜂を教えてくれませんか』と、『養蜂』に魅せられていく碧の物語が始まりました。

    “蜂蜜をもうひと匙足せば、あなたの明日は今日より良くなる…さまざまな人と出会う、かけがえのない日々。心ふるえる長篇小説”と、内容紹介にうたわれるこの作品。そんな作品の表紙には、たっぷりと『蜂蜜』のかけられたなんとも美味しそうなパンケーキが描かれています。一見、食を取り上げた作品という印象も受けますが、この作品が描くのは、そんな『蜂蜜』を作る『養蜂』の現場に光を当てていく物語です。あなたは、『蜂蜜』を作り出す『養蜂』がどのように行われているかご存じでしょうか?では、そんな『養蜂』の興味深い現場が描かれた数多の描写の中から幾つかご紹介しましょう。

    『養蜂』とは、『蜜蜂』を飼うことから始まります。『目が大きくて愛嬌のある顔をしている』という『蜜蜂』を飼う黒江は、『全体的に黄色く、まさしく蜂蜜の色をしている』『西洋蜜蜂』と、『やや小ぶりで、身体の色は暗い』『日本蜜蜂』の両方を飼育しています。そんな『蜜蜂』の飼育を黒江はこんな風に説明します。
    → 『こいつらは巣箱を用意しても嫌なら入ってこないし、棲みついた後でも嫌になったら出ていく。家賃がわりに蜂蜜をもらう。…大家と店子みたいなもんか』
    『家賃がわりに蜂蜜をもらう』という人間の感覚を『蜜蜂』が理解してくれるのかなあ…とは思いますが、『人に慣れる』という『蜜蜂』との付き合い方の感覚はとても新鮮です、そして、そんなことを話す黒江は初めて作業を行う碧に、『風下に立て』、『蜂はお前の匂いをまだ覚えてない。知らない匂いがすると蜂が落ちつかなくなる』と説明します。『蜜蜂』を飼うという感覚の先にある黒江のこの指示など、とても説得力のある表現がなるほどという感覚の中に物語を展開させていきます。

    次は、『ブンポウってなんですか』と碧が問う『分蜂』という言葉が意味する『蜜蜂』の大イベントです。『暑くなると、女王蜂が産卵する。蜂が増えてくると、今度は新しい女王に巣をゆずって新しい巣をつくるために移動するんだ。そこを捕まえて巣箱に誘導する』という『蜜蜂』にとっても養蜂家にとっても重要な一大イベントは、『養蜂』を描写するこの作品の一つの山場でもあります。
    → 『すごいぞ。木の枝にくす玉みたいに蜂が群がって、そこから一斉に飛んでいく。空がぶわーっと真っ黒に染まる』
    → 『蜂球が一度、大きくうねった。蜜蜂が一匹その中から飛び出したかと思ったら、それに続いて数匹の蜂が後を追う。「偵察蜂だ」』
    そんな光景を全く見たことがない身には、一面『蜜蜂』だらけの光景を想像すると、ちょっと怖くなるイベントではあります。『蜂雲っていうんだ。ほんとに雲なんだ、何千って蜜蜂が黒いかたまりになって飛んでいく』と描かれていく物語の本シーン。これから読まれる方には『養蜂』の現場を描写するさまざまなシーンにも是非ご期待ください。

    そして、そんな物語では、『蜂蜜』を料理に使う表現も登場します。ある場面で碧の前に出されたパンケーキ。『生地にカッテージチーズを混ぜてしっとりと焼き上げ』られ、『ナイフを入れるとふわりと湯気が立ち上る』というパンケーキは、『器を傾けると、とろりと黄金色が流れ出』します。そんなパンケーキを食する碧の表現です。
    → 『パンケーキの生地が蜂蜜を吸って、じっとりと重くなる。口に入れて嚙むと、じわ、と染み出た』。
    まさしく表紙を飾るパンケーキが思い浮かぶこの表現の先に『蜂蜜の小瓶をくれた女の人に会ったあの日以来、どんなに落ちこんでも、食事をおろそかにしなくなった』というあの日のことを思う碧。『蜂蜜』というものに深い意味を感じさせる素晴らしい食と心の描写だと思いました。

    そんな『養蜂』と『蜂蜜』が強く印象づけられるこの作品は、『仕事は、なかなか続かない』という同棲相手の安西の前で自分の気持ちがはっきりせず、ずるずると引きずられていく三十歳の主人公・碧の物語でもあります。『中学一年生の頃に、仲の良い友人と喧嘩をした』という碧は、クラスの中でいじめに遭う中で、『吐くと、すっきりする』と、『食事が終わるとすぐにトイレに向かうようにな』り、痩せ細っていきます。そんな中に出会った女性から言葉を投げかけられました。

    『あなた自身が、あなたを大事にしてないから。あなたがあなたを嫌っているから… そういうふうに扱ってもいいんだって思われてしまう』

    そして、そんな女の人からもらった『蜂蜜』。そのことが『大袈裟でなく、彼女に命を救われたのだと碧は今も思っている』とその先の人生を生きてきた碧。しかし、そんな彼女は、今もって自身の生き方をはっきりとは見出せずにいました。そんな中、友人の言葉の中に一つ大切なことを感じる瞬間が訪れます。

    『どうしたいか、どこへ行きたいかが大事』。

    寺地さんの数々の作品はさまざまな舞台が用意されそれぞれに新鮮な物語が展開しますが、この視点はその中でも寺地さんの王道とも言えるものです。『ずるくないから、正しいからそうする、じゃない』、『碧がどうしたいか』、『碧がどこへ行きたいか』、それが大切だと友人の言葉に思いを託す寺地さん。一方で、一歩ずつ地歩を固めていく碧の生きる姿を〈解説〉の宮下奈津さんは”これは、居場所の話だと思う”とおっしゃいます。”居場所を見つけるのではなく、やわらかく開く感じ。もともとなかった場所に、そっと立ってみる感じ。そして、そこから歩き出すのだ”と続けられる宮下さん。この作品では、自身の歩む道を迷い続ける碧の姿がひたすらに描かれていきます。男の私から見ても、情けない限りの安西という同棲相手にどうしてそんなに入れ込むのか自分でもよくわからない碧。一方で、そんな碧が着実に、一歩ずつ一歩ずつ地歩を固めていく物語には、宮下さんのおっしゃる感覚が絶妙に描き出されていきます。そんな物語に『蜜蜂』という力強い”生”の存在が強い説得力を与えてもいきます。『もし明日人生が終わるとしたら、きっとわたしは、喜ぶ』という衝撃的な一文から始まった物語は、これらの説得力のある”生”の描写の先に、極めて前向きな、未来を感じる中に幕を下ろします。寺地さんのどこまでも優しい眼差しを感じ続けながらの読書、「今日のハチミツ、あしたの私」という書名に強い納得感と、いいなあこの作品、という思いが湧き上がる中に本を閉じました。

    『明日世界が終わるとしても、今日巣箱を掃除し、蜜を搾り、花の種を蒔く。それから、今日のごはんはなににしよう、と考える』。

    『養蜂』の世界に光を当てたこの作品では、今日も『蜂蜜』を生み出し続ける『蜜蜂』たちと、それを飼い慣らす養蜂家・黒江、そしてそんな『養蜂』を学ぶ主人公の碧が、さまざまな人と人との繋がりの中で、明日に続く今日を生きていく姿が描かれていました。『蜜蜂が一生かかって集められる蜜の量が匙一杯分』という、そんな『蜂蜜』を口にする碧が『今わたしが口にしたのは、蜜蜂の一生だ』と思う瞬間に神々しさも感じるこの作品。そんな碧が『自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていない』と思うその先に『居場所』という言葉が意味するものを感じるこの作品。

    寺地さんの物語の王道とも言える『どうしたいか、どこへ行きたいかが大事』という言葉を噛み締めるその結末に、『蜂蜜』を物語に上手くブレンドされた寺地さんの上手さも感じる、そんな作品でした。

  • あったかくて好きだなー。はちみつ食べたくなった。
    寺地はるなさんの本は4冊目だけど、毎回、心に留めておきたい言葉がいくつも出てくる。その言葉だけを何度か繰り返して読んでしまうような。
    あったかくてじんわり心に響いてくる。

    「誰かと一緒にごはんを食べて楽しかったとかおいしかったとか、そういう記憶ってずっと残るから、食べてもなくならないよ。」

    「運が良かったんじゃないよ。その人たちと会えたのは偶然かもしれないけど、会えただけで終わらせなかったのは、それが碧が、行動したからだよ。」

    「仕事なんてもんはな、ほどほどでいいんだよ」

    「蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから」

  • 中学の頃、河川敷で出会った女の人にもらったひとさじのはちみつと、温かい言葉の記憶。
    それから16年後の、塚原碧の生きざまをとても丁寧に描かれている。
    碧は何があっても決して人のせいにすることなく、前を向いて生きている。
    恋人の故郷で、知り合いもなく、働くところも住むところも一から探さなくてはいけない。そんな状況で、「クロエ蜂蜜園」の黒江さんや、「スナックあざみ」のあざみさんたちと出会い、自分の居場所をどんどん作っていく。

    「明日人生が終わるとしたら」
    最初はマイナスのイメージだった言葉だが、嫌なこと、理不尽なことから逃げるのではなく、越えていくことで自分に打ち勝っていく碧の生き方には、すごく共感できた。

  • 明日なんてこなくてもいいと思っていた中学の頃に知らない女の人からはちみつをもらい、自分を大事にしないとだめだ、と言われそれから16年。
    30歳になった碧は、恋人の故郷へ行くものの結婚を認めてもらえず…
    養蜂家の黒江の蜂蜜園を手伝ううちに…

    最初にもらった蜂蜜がきっかけになり、自分から行動を起こして頑張る碧。
    さまざまな人と出会って、ゆっくりとだが彼女なりの世界を作り出してゆく。
    家族間の問題や恋人と上手くいかないこと、みんなつらい思いを抱えているけど、ゆるやかながらなんとかなっていく。

    食べること。つくづく大切なことだと感じた。
    今日のハチミツ、あしたの私につながる

  • イジメや摂食障害を経験して大人になった主人公の碧が、たくましく困難を乗り越えていく姿に励まされた。
    辛いことを言い訳にしないと言って、飄々とした様子で行動にうつすところがかっこいい。
    蜜蜂に刺されても悲鳴をあげないところが、碧の性格をよく表しているなと思って、笑ってしまった。

  • 美味しそうな蜜がたっぷりかかったパンケーキの表紙で美味な世界に期待。

    「もし明日人生が終わるとしたら…」
    冒頭のフレーズ。
    何を食べたいかという、最後の晩餐をふんわり妄想するシーンが続くのかと思ったら、事態は異なり、「私は喜ぶ」と続きました。
    それからは、生きづらさが刹那的に展開されていきます。ある意味表紙に引っ張られた私は、裏切られたような気分になりましたが

    大丈夫です。

    宮下奈都さんが解説されているように、人とひととのつながりが、自分の居場所を作るんですね。孤独と生きづらさを抱えていた主人公の碧が、大人になり、仕事を失い、恋人も失い、知らない土地で、自身を救ってくれた蜂蜜、養蜂業と出会う。地域の人たちに助けられ、自分の居場所を少しずつ作っていく。そして碧も、人を助けて、まわりのひとの居場所をいつの間にか作っていくというお話。

    蜂が一生かかって集められるの蜜の量は、匙一杯分、1度刺してしまったら死んでしまうこと、スズメバチが近づくと蜜蜂は一斉に羽を震わせて威嚇する。そうして蜜蜂の体温でスズメバチを熱殺すると、力を使い果たした蜜蜂たちも死んでしまう。
    蜂の生態について知らないこともたくさんあった。
    また、蜂蜜を使った料理も魅力的。

    人生は、碧のように強くしなやかに生きていくのは、難しいかもしれないけれど、
    もしかしたら、ひと匙のハチミツと、ごはん食べて自分に誠実にいたら、なんとかなるかも、そんな勇気をもらえました。

  • 胃が痛くなる仕事、『察してちゃん』で仕事が続かない恋人の安西、愛情を自分に向けてくれない親。そのどれをも投げ出さない、投げ出せない主人公、碧の真面目さや不器用さが、前半なんだか切なくて息苦しい感じだったのが、安西に「求婚」されて向かったはずの彼の故郷で「一人で」部屋を借り、(結婚に向けて)奮闘を重ねるうちに、だんだんといい方向へ向かっていく。
    恋人といてもどこかいつも孤独だった主人公が、ちゃんと安心して自分らしく居られる場所を獲得していく物語です。

    恋人の安西って男が本当にイラッとさせてくれるタイプで、なんでこんなのと別れないのかと読んでいてフラストレーションが溜まるのですが、親友の真百合の叫びでちょっとスッキリします。
    「あんたらがそうやって『傷つきやすいから』とか『弱いから』とか言って甘やかすから、あの男はいつまでたっても弱いまんまなの!誰だって傷つくし、誰だって弱いの!けど誰でもみんな現実に向き合って生きてんの!」
    ホントそれーーー!

    安西父子はもっと酷い目にあってもいいと思うくらい。


    「自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていないから。いるように見えたとしたら、それはきっとその人が自分の居場所を手に入れた経緯なり何なりを、見てないだけ」

  • 寺地はるなさん初読み。甘い展開ではないが、優しい話。
    主人公・碧の成熟ぶりをとても尊敬する。どこか冷めたところがあるが、他人に迎合することなく、自分を卑下したりせず、いつもブレずにいる。婚約者とその故郷で結婚して暮らすため、仕事を辞めてきた碧。その後、想定と違う流れになるものの、感情的になったり誰かのせいにしたり、後悔したり、ということは一切せず、とにかく受け入れる。婚約者と一緒にいたいと思った「自分」のためにした行動である、とか、婚約者の父親から投げかけられた心ない言葉に対しても「なんと言われようが碧の人生には全く関わりのないこと」だと思えるのは成熟した強い人だからだと思った。そして明日がどうなろうと今日を気分良く過ごすことが大事だとか、食事はおろそかにしないだとか、これまで経験してきたことは一つも無駄ではないという考え方にも共感した。また読み返したい。

  • 蜂蜜。やさしい響きと味。
    この作品もまるでひと匙のハチミツのようだった。

    30歳ってもっとずっと大人だと思っていた。
    いざ自分がその歳になってみると、10代や20代の頃と全く変化していないように感じる。
    大人であるべきだと思っていた。しっかりと働いているべき。しっかり家庭を築いているべき。
    30歳になっても若者のようにふんわりしているのはやめるべきだと。

    だけど、30歳になっても学生時代のことは引きずるし、学生時代と同じような幼いことをする。社会的にしっかりと自立できているかと聞かれるとそんな自信はないし、目標を達成しているかと言われると答えはNOだ。
    主人公の碧も、私も。

    周りに対して抱く、仄暗い感情をありのままに描いていた。そして私も、前向きに生きようと思えた。
    人のために生きることは、その理由が良いものだろうが悪いものだろうが、どちらも良くない。
    自分のために生きることが、自分にとっていちばんいい道を拓いてくれる。そう思えた。

    人生に悩む友達に贈りたくなった。
    そして蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキを頬張りたくなった。笑

  • 戸棚の奥から、はちみつを取り出した。少し残っていた所が固まっていたので、お湯に浸けて柔らかくした。パンに塗って食べた。次のはちみつを買いに行く。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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