日本アパッチ族 (ハルキ文庫 こ 1-31)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 158
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758436908

作品紹介・あらすじ

終戦直後の大阪で、鉄を食べる人間が出現した。名は「アパッチ」。一日に平均六キロの鉄と〇・二〜〇・六リットルのガソリンを摂取し、その肉体の強靭さとスピードは、人類をはるかに凌駕する。彼らはやがて全国へと拡がり、日本の政治、生産機構までも揺さぶるようになっていった…。小松左京の処女長篇にして、SFの枠を超えた永遠の名作が、ここに復活。

感想・レビュー・書評

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  • 8月15日に読み終わるとは……破茶滅茶に面白かったです。人類超進化。無機代謝形態の人類。
    失業の罪で追放罰を受けた主人公・木田は、閉じ込められた追放区で鉄を食べる人類「アパッチ族」の仲間に入り、存亡をかけて日本政府との闘争へ突入していく。
    木田のいる追放区が大阪城も見えるところにあるのでメインキャラクターが関西弁なのがどこかのほほんとしてるけど、食鉄によって身体能力が強化されてるアパッチ族はもはや人ではなく怪物です。本人たちも、自分たちは人じゃないって言ってた(終身刑の囚人なので戸籍も無さそう)。
    銃弾は跳ね返すし戦車も食べる、水中で息を1時間止めるのも平気なアパッチ族がダークヒーローと化してて、結構な管理社会強いててびっくりな日本政府や軍部・警察組織、鉄鋼業界が全力で排除しようとしてくるのとバチバチにバトってるのは大変でした。戦後日本が更に焦土に。
    それにしても、こっそり変な法律を成立させて施行してくるのはやけに現実的で心が重くなりました。
    日本では「日本アパッチ族」がたぶんこの系統のSFで一番初めっぽい。この人間=機械共生系(マン・マシン・インターフェイスというらしい)が後々「攻殻機動隊」とかに繋がると思うと感慨深いなぁ。アパッチ族も受信機みたいなの頭に溶接してたし、千切れたりしても「溶接してもらえ!」みたいになってた。。「AKIRA」や「鉄男」は解説で言及されてました。

    「その時代を全面的に支配する生物が、かならずしも、もっともすぐれ、もっとも高等な生物であるとは言い得ないことは、われわれのよく知るところである。――それはアパッチ出現まで単一支配種族として地球上に君臨してきた現代人類においても、言いうることだ」

    どなたかが仰ってたけど、実写化するならほんと岡本喜八監督で観たかった…コメディが強くても、反戦が強すぎてもいけないこの作品を上手くバランス取って無茶苦茶な面白いエンターテインメントにされてそう。

  • 開高健先生の「日本三文オペラ」(まだ未読)からこちらの作品を知る。戦後の屑鉄泥棒「アパッチ」を元にこんな壮大なSF長編が生まれるとは…。

    架空のディストピア的戦後日本史から始まり、隔離地域内でのアパッチ出現、表舞台へ出て「人間」へ食鉄を広め同族を増やし、人間(陸軍)対アパッチの内乱の時代へ…。
    少数派の自己の確立の物語だと思っていたら序盤から架空のディストピア世界に始まり、新人類として数を殖やすアパッチ族、人間との対立、自己と文化の変化に対する嘆き、新人類の時代と文化の発生を描くラストへの帰結。
    鉄の匂い溢れるエネルギッシュな物語をたっぷり味わってこちらも腹一杯。

    人間から「アパッチ族」への突然の生態変化については「分からない事も多い突然変異」という扱いだが、屑鉄を食べるアパッチに砂を噛むような暮らしから本当に砂を食べた元貧農のサンドマン、九州の石炭男(コールマン)等もチラッとだが出てきてその生態も面白い。設定は突飛かつゆるい部分もあるけれど、勢いで読ませる作品だった

  • 戦後日本の大阪で、くず鉄を食べガソリンを飲んで生きる人々「アパッチ」が日本政府と大戦争を繰り広げるSFもの。
    アパッチたちが、銃弾は跳ね返すわ戦車を食うわ水中でも長時間生きられるわでハチャメチャに強くて笑う。
    世間がしょうもない話題で大騒ぎしている裏で、やばい法律がこっそり採決されたり、反対反対ばっかりで本質の見えていない政治家だったり…現代日本でもあんまり変わってないのかも。50年以上前に描かれた小説ですが、古臭さを感じない、面白い小説でした。

  • 小松左京 「 日本アパッチ族 」 鉄を食べて鋼鉄化する人間(アパッチ族)を描いたSF小説。戦後復興期の人間を描いた小説と解釈した

    著者は アパッチ族を 肯定的に捉えており、人間の敵として扱っていない。著者は アパッチ族を通して 時代の姿を描きたかったのだと思う

    アパッチ族を通して 著者が伝えたかった人間の姿
    *弱さ故に 適応して アパッチ族となった人間=戦後の思想転回を迫られた人間
    *戦争に敗けた弱さから、鉄のように強くなりたいと願う人間

    アパッチ族
    *飢餓から逃れるため 鉄を食べ、人間として死に、アパッチ族(非人間)として生きた
    *廃墟の中から生まれ、廃墟とともに生き、廃墟と共に消滅した
    *戦後混乱期の闇市で、無秩序に生き抜くエネルギー

    「人間をやめることによって生き延びた私〜アパッチは人間でなく屑かもしれない〜非人間にも生はあり、その世界は人間とは別の意味を持っている」

  • めちゃくちゃおもしろかったなあ! 鉄を食う「アパッチ族」という奇想とサービス精神溢れるユーモラスな筆致。小説の裏に通底する小松左京の「戦後」への冷徹な視線と骨太の知性。SFの古典として名高いけれども、SFファン以外にも、いまもっと読まれるべき一冊。

  • 戦後のいわゆる第一世代(星新一、小松左京、筒井康隆ら現代日本SFの創始者である世代)のSF作家による最初の本格的なSF長篇である。元々小松左京の中では一番好きな長篇だったが、再読しても印象はあせることがない。再読しての発見はポリティカルフィクション的側面がかなり強いこと、それも現代まで続く政治的ジレンマを既に提示していることだ。危険思想の持ち主たちを捕え食料すら無い廃墟に追放する法律を死刑廃止の美名の元に通す与党勢力、イデオロギーを示すことが自己目的化し建前からその法律に協力してしまうふがいない革新勢力、既得権益を死守するためにな手段を選ばない業界団体、隙を狙い政治家を操り暗躍する商売人などなど。実はこのアパッチ族も単純に理想化されているわけでもなく、生存のためとはいいながら指導者たちは戦略的に相当の犠牲を払うことを受け入れている。しかしそこは心も鋼鉄化されているため人間の様な嘆きや感慨を持つことがないという設定にもなっているのが巧みである。結局人類とアパッチ族の問題は平和裏に解決せず、やがて核兵器・内戦といった方向に進むところは、敗戦を体験し人間の愚かさを嫌というほど味わった著者の偽らざる実感が出ているのだろう。本書は十分に科学的想像力が駆使されておりまさにSFとしかいえない作品だが、一方で「鉄を食う」モンスターを扱う怪奇幻想小説的要素を根に持ち、かなり陰惨な内容を含みながら日本語・外国語問わない駄洒落や言葉遊びが大阪弁にのせられて飛び交う寓話的な要素も強い。そういった意味で敗戦後の日本らしい廃墟の中から歴史的な怪奇幻想小説や風刺小説の根をもつ新しいメタリックな芽が息吹くスリリングな瞬間を目の当たりにする様な作品で、歴史的意義の大きい一冊だろう。
     戦後日本を強く印象付ける本作の被虐的想像力(マゾヒスティック・クリエイション)がのちの日本SFなどへ与える影響を論じた巽孝之先生の解説も面白くいつもながら示唆に富んでいる。

  • 冷静に考えるとこれは小松左京でなくとも書ける話では? という気もあります。大雑把にいえば異端と常識との対立の物語ですから。しかし世界(社会)は壊すけどヒトは残すというやり口で読後も想像して楽しむ余地を多く残してくれるあたりはこの作家さんならではという気もします。そしてやはり50年ほど前の作品とは到底思えない衝撃も強く、特に失業が罪とされ失業者は社会から切り捨てられる冒頭は現実味を強く感じ惹き込まれます。会話の大半が大阪弁なので「じゃりン子チエ」のようなほのぼの感がありますが、かなりシリアスなお話でした。

  • 杉並区にも居たなぁ、現代のアパッチ族

  • どうしてアパッチとなった人間は、人間だったころの文化や習慣への理解が途端になくなっていまうのか。倫理観や自分も人間だという認識もなくなってしまうのか。それが一番疑問だった。

    弾圧されていたのは間違いないが、それでも躊躇なく人を殺していくアパッチ族には違和感があった。

  • 面白い。興味の幅が広がりそうだし、皮肉が効いてる。

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著者プロフィール

昭和6年(1931年)大阪生まれ。旧制神戸一中、三校、京大イタリア文学卒業。経済誌『アトム』記者、ラジオ大阪「いとしこいしの新聞展望」台本書きなどをしながら、1961年〈SFマガジン〉主催の第一回空想科学小説コンテストで「地には平和」が選外努力賞受賞。以後SF作家となり、1973年発表の『日本沈没』は空前のベストセラーとなる。70年万博など幅広く活躍。

「2019年 『小松左京全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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