上方落語: 流行唄の時代 (上方文庫別巻シリーズ 7)

著者 :
  • 和泉書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757607521

作品紹介・あらすじ

上方落語の歴史の中で、近世後期から明治にかけては、謎の多い時代とされてきました。本書は、歌舞伎史研究で知られる著者が、その時代に咄家(落語家)が関わった流行唄の資料を集め、上方の出版、歌謡、浮世絵、相撲、俄(にわか)、見世物、他、大坂文化の研究を駆使して厳密な年代考証を行い、謎の時代の解明を試みたものです。一六〇点以上の掲載図版は、詞も全文活字翻刻しています。落語・古典芸能の好きな方には是非とも読んで頂きたい本です。

感想・レビュー・書評

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  • ・歌は詞章と旋律でできてゐる。流行り歌と聞くと、私は実際に歌はれる歌を考へる。詞章よりも旋律、いや詞章も重要だが、旋律は更に重要だと思ふ。人が皆私のやうに流行り歌を考へるのかどうか知らない。明治以前でも私はさう考へる。だから、幕末の流行り歌とくれば、当然、どんな旋律であつたのかと気になる。荻田清「上方落語 流行唄の時代」(和泉書院)にもまたさう考へた。「流行唄」ははやりうた、流行り歌である。だから読まうと思つた。実際に読んでみると期待は外れた。旋律には一切触れない。詞章は実に丁寧に扱ふ。いや、それ以前に、本書は「上方落語」が書名であり、「流行唄の時代」は副題に過ぎないのである。 だから、本書の中心は落語、より正確に言へば落語家にある。その落語家が、幕末から明治にかけては高座で歌つたのである。皆が皆ではないにしても、かなり多くの落語家が高座で歌つた。本書はそれを採り上げて考察してゐる。その詞章は多く刷り物として残つてゐる。単色一枚刷りのチラシ様のものや一枚刷りでも浮世絵風の色刷りのものもあり、4丁の小本のごく薄いのもある。これを筆者は薄物の唄本と呼んでゐる。これらに作詞した落語家の名前と節名が記されてをり、これを頼りに、幕末、明治の上方落語界を考察するのである。現在は東京に残る名前も出てくる。その代表は桂文治である。初代は桂派の祖、19世紀初め、文化頃の人であつた。咄本は多いが流行り歌との関係はないらしい。以下、実に多くの落語家が出てくる。これらの人々は基本的に流行り歌を高座で歌つた。それは大津絵節が最も多いらしが、とっちりとんやよしこのもある。もちろん、どどいつもある。どどいつは今も広く歌はれてゐる。他はどうであらう。一部は youtubeできくことができる。しかし、本書に載る詞章があるかどうか。高座にかかるのだから時事的な内容である。時事的といつても役者関連が多い。人気役者や人気狂言、ひいきの役者の歌、あるいは役者の死をいたんだ歌等々、かういふのは寄席に来るやうな人は皆知つてゐる。説明するまでもない。だから多くの噺家が歌つたのである。その具体的な様相は本書をご覧いただきたい。実に多くの唄本が載り、しかもその写真版がついてをり、それが読めねば翻刻もある。その翻刻も本文になければ巻末にあるといふ具合で、実に丁寧である。唄本の一覧もあり、索引もある。研究書ならば当然とも言へようが、本書はそんな資料の紹介がかなりを占めるので、これは非常にありがたい。
    ・本書を読んで、幕末から明治初めの上方落語はこんなに流行り歌と関はつてゐたのだと思ふ。今も高座で踊りを踊つたり都々逸を歌つたりする落語家がゐることはゐるが、そんな人は少ない。落語家は咄、落語をやれば良いといふ感じである。別に三味線漫談等があるのだから、落語家が歌ふ必要はないのかもしれない。しかし、本書はかう終はる。「過去を振り返る立場からは、やはりさみしい思いはぬぐい切れない。」(317頁)つまり、「音曲は音曲を専門とする人に任せば良い。」(同前)となつてしまつたらしい現状が寂しいのである。 個人的には、これは微妙な問題で、寂しいと思ひたいけれどさうでもないかといふ感じ、やはり餅は餅屋かといふところである。しかし、 現在の三味線漫談の芸人は時事的な問題を扱はない。本書の「流行唄の時代」とは違ふ。歌は世に連れなのであらう。とまれ、本書は、昔は落語と流行り歌と落語家がかくも結びついてゐたのだと教へてくれる一冊である。ただし、実際の歌が聞こえてこないのが寂しい点だが、これを国文専攻の筆者に望むのは無理なのであらうか。残念。

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著者プロフィール

1951年香川県生まれ。大阪大学文学部国語国文学科卒業。専門分野は近世上方芸能史、上方文化史。梅花女子大学名誉教授。編著書『上方板歌舞伎関係一枚摺考』(清文堂出版、日本演劇学会河竹賞受賞)『笑いの歌舞伎史』(朝日新聞社)『近世文学選 芸能編』(共編、和泉書院)ほか。

「2015年 『上方落語 流行唄の時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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