追補 精神科診断面接のコツ

著者 :
  • 岩崎学術出版社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753394081

作品紹介・あらすじ

初版以来10年。その間の経験と連想を追補。面接技術の錬磨にかけた著者の二十余年の自伝的な流れを一つの軸に、臨床経験から創造と検証を重ねて練り上げられた理論的体系。精神医学・臨床心理・教育分野など面接に関わる人に必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • ・(大脳皮質運動野の)「逆立ちした小人」の体の各部分の大きさは、表出される情報の量に比例している。つまり、精神活動の筋肉を介しての表出は、まず顔面、それも口唇の周辺と眼、それに手指で大半を占め、足先、舌がわずかに加わるのである。体の他の部分が表出する情報量は格段に小さい。この図を時折思い浮かべながら患者を観察するように試みると、見る目の上達が早くなるであろう。
    …たとえば、従来の患者観察では、口唇周辺の情報がすこぶる軽視されているように思う。更新周辺に注意を払うだけで、診断技術は即座に向上する。試みに目前にいる人の口のまわりの力の入り具合をまねてみると、その人の人柄や気持ちの状態が容易に推察できるものである。

    ・ある文言が、①100パーセントの正しさや誤りを論じている、②即座に実行できる方法を具体的に指示していない、という二つの特徴を備えているとき、それは「お説教」の類である。もっと一般的にいうと、それらは「何か」を伝えようとする文言ではなく、「自分」を伝えようとする文言である。

    ・うつ病とは憂うつな気分になる病態だと考えている人は、その考えを捨てる方がよい。…うつ病は、心身の活動が不景気になる病態である。まれに不安の強いうつ病者で、多訴的になる人があるが、その場合もうつ気分をもつ神経症と異なり、バラエティに富んだ訴えを生産することができず、種類の少ない訴えを執拗に訴えるものである。軽症のうつ病あるいは、いわゆる仮面うつ病の診断に際し、最も頼りになる指標は、その個人の最も優れている能力の低下が、他の能力の低下よりも著しいということである。
    …ともかく運動に優れていた人は反応が鈍くなり力が出なくなり、知的職業の人はひらめきが悪くなり、水商売の人は人の気持ちに波長を合わすことができなくなる。

    ・痴呆の人に接していると、ローマ帝国の遺跡を眺める心地がする。かつて華やかであった能力の名残が、精神機能のそここに推察される。

    ・(追補9)「下司の勘ぐり」という心理行動を、精神分析学では「投影性同一視」という述語で記述する。

    ・気づかない精神科医が多いが、緊張をほぐす最初の、しかも最良の操作は、緊張していることに気づかせることである。パデル先生の玄関先に立ったときのわたくしよりも、もっと緊張している患者は結構多く、そのような人では、緊張していることに気づく余裕すら失っていることが多い。このような人に、「随分緊張してますか」「ええ、少し」という短い対話をはじめにすることの効果は大きい。

    ・(追補9)「分からない」「決まらない」という宙ぶらりんの状態は、知育偏重動物であるヒトにとっては、耐えがたい状況である。苦しまぎれの「分かった」や「決意」が生じやすい。それゆえ、宙ぶらりん状態を直視し、維持している人をみたら、そこに確かな魂があるからではないかと考えてみると、新鮮な視野が開けることがある。

    ・まず「耳になる」方式で、患者に注意を凝らす。そして、患者の話しにあわせた視覚像をつくってゆく。すると必ず、目前のいま話をしている患者の姿が邪魔になってくる。今までは、ここで、両立をあきらめてどちらかを捨てていたのだが、新しい方式ではつぎのようにするのである。患者の話しに基づいてつくってゆく視覚像の中には、たいてい患者の像があるので、その患者の映像を取り去って、かわりにいま目前に話しをしている患者の姿をはめこんでしまうのである。
    …実際に試みてもらうと、この方式が、面接者の共感能力を格段に高めることに気がつかれるはずである。ある時には、映像としての情景の中にはめこむことではじめて、目前の患者の表情に含まれる感情を把握できることがある。またあるときには、目前の患者の姿が、話に基づいてつくった情景の中にどうもしっくりなじまないことが、隠されている気持ちを発掘する糸口になったりする。

    ・病歴の聴取に当たって最も重要なものは、身体病を疑わせる症状の有無である。「からだの具合はどうでしたか?」という質問は、精神科の病歴聴取で、あまりに使われなさすぎる。すべての患者に一言この質問をする習慣をもつだけで、随分誤診率が下がるのではないかと思ったりする。身体症状の中で意識障害に関連して注目すべきものは、発熱と食欲の変化とである。

    ・うつ状態やうつ気分を認めた場合、希死念慮について問うのが定式である。その際、「死にたいと思うことがありますか」と問う人が多いが、わたくしの経験では「死にたいと思うこともありますね」と問う方がよい。その方が正確な答が得られる。そして「はい」という答えが得られたら、必ず「そのとき自殺を思いとどまる野に、何が役立ちましたか」と問うておく。この問いによって、その人を内から支えている心理構造が明らかとなり、治療計画をつくるのに役にたつ。

  • 全体として雲を掴む感じで初学者のわたしにはピンと来る感じではなかったです。もう少し面接経験を詰めば色々行き詰まるポイントへの回答のヒントとなるようなことが書かれてるのかもしれません。
    また数年後に読み直したいと思います。

  • ざっと読んだが、自分には響かず。

  • 手元に本がないので、正確な記述は分からないけれど「患者の予後、経過を正しく予測することができていれば、正しく患者を理解できている証」というような内容の話が心に残った。あと、視覚的に相手の話をイメージするとか、相手の身体に入っていることをイメージするとか、やたらイメージする技術が多く出てきて、これは本を読んだだけじゃ習得不可能だなと思った……(当たり前だけれど)

  • うーむ、慣れない分野、精神科の本を、やっとの思いで読み終えた、長かった。ともあれ、この本の推薦者が引いた線を意識しながら、自分の面接時に考える事と対比させながら読んでみた。私的には、最後の13章が一番楽しかったが、ま、本当はそれまでに至る12章までがキッチリしてこその最終章だけれど、それは置いておいて、楽しめた。さて、P13の予想の的中だが、これは精神科に限らず医師に限らず誰しもがやっていることだろうけれど、振り返ることまでしてる人は少ない気もする。私も、やってみよう、そうしよう。P14の技術は伝承されねばならない、は、同意。逆に言うと、伝承できる技術に落とし込めないという事は、理解できていない事なのだろうと反省する。P31の医術⇒医学へは、進歩では無く退化な感じととれたが、他職種との連携や共有、交換を考えると致し方ないが。P51の非言語レベルと言語レベルについては、私も普段から気にするようにしています。患者さんの服装変化や髪型変化に気づくのに鈍い私が?って感じですが、まぁ、努力してるってことで。P66の診断面接の方法やセッティングは、SPIKESと呼ばれるバッドニュースを伝える方法論で学んだが、より細かい気遣いや観察が、とても勉強となった。特に、P67の目の高さや、P68のドアの位置、手遊びしながら、など。この先は、精神科における病態の話や面接の話の掘り下げで、ちょっと難しかった。P200の「からだの具合はどうでしたか?」は、私も利用するなぁ。また、同じページの化学物質の摂取については、薬剤師として知っておいて、面談において気にしなければならない点。意識障害のチェック方法で、15分と言う時間経過の認知を利用するのは、とても有用だと知ったし、P230の、その個人のもっとも優れている能力の低下は、意欲や元気に繋がるので、やはり気になるところですし、P231の希死念慮の「死にたいと思う時もまりますね」、という問いかけ方、また続いて、「その時自殺を思いとどまるのに何が役立ちましたか?」に関する考え方も重要であった。p239の反駁できない内容が「空」な発言・記述については、反省された。など、実りある読書であった。鈴木先生、ご紹介ありがとう。

  • やっとこさ読了!

    私にとっては濃厚な内容だったので、ずいぶん長い時間をかけての読了となりました。

    本書では、面接場面で助けになるヒントが紹介されています。

    話を視覚的にイメージすること、
    観察するポイントと留意点の紹介、
    聴き方の姿勢、
    言葉の使い方など、
    「そうだ、そうだ」と手を打ちたくなるようなアドバイスがいくつもありました。

    本書の内容そのものが視覚的にイメージしやすいものだったので、これらの中で自分がとくに取り入れたいことを再整理して、冬休みの間に頭にしっかり染み込ませようと思います。

  • 勉強になりました。いろいろな相槌を練習したくなる。いや、そんなことだけでない。

  • 具体的で細かく、大変タメになる、というか「使える」一冊。

  • 名著。読んでいて気持ちがさわやかになる。

  • 神田橋先生のご本は、1回ではわからないようになっている・・・とご本人からお聞きしました。
    ホッしました。
    最後まで読めていません(^-^;;

    だから 評価もつけていません。

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著者プロフィール

1937年生まれ。
1961年、九州大学医学部卒業。
1971-1972年、モーズレイ病院およびタビストック・クリニックに留学
1984年~ 伊敷病院(鹿児島市)にて診療。

本書『精神療法でわたしは変わった』の著者:増井武士、旧知の師匠。

「2022年 『精神療法でわたしは変わった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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