トラウマの現実に向き合う―ジャッジメントを手放すということ

著者 :
  • 岩崎学術出版社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753310142

作品紹介・あらすじ

「治療者は病気の専門家ではあるが、人間の専門家ではない」。治療者が立ち入れるのは、病気に関する部分だけである。その点を忘れてしまい、人間としての相手に評価を下してしまうところにさまざまな問題が起こってくる。支配関係が生まれたり、新たなトラウマが発生したり、治療への絶望感が起こったり、治療者の燃え尽きが生じたりする。本書ではこの点を掘り下げながら、トラマウに向き合う治療姿勢について考えていく。

感想・レビュー・書評

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  • トラウマ体験を持つ患者さんに出会うことが多く日々悩んでいる。その悩みに一筋の光をさしてくれるくれる本だと思う。精神科の診療で難しいのは、特にトラウマ体験を持つ方の診療で難しいのは、「患者自身が治療者を信頼できると感じられるまでは、患者は診断に必要な情報を十分に述べないことが多い」ため、「治療者は病気の専門家ではあるが、人間の専門家ではない」のに、「人間としての相手に評価を下してしまい」さらに患者さんを治療の場で傷つけてしまうことが非常に多いという現実を忘れてはいけないということである。

  • トラウマになるような体験をした時、そのことを人に話せないことがあります。何か精神のバランスを崩して、自分がおかしい、とわかってても、病院に行っても、それが話せない。話せないからわかってもらえない。そういう時にインターネットで知って読みました。
    この本は専門家に向けて書かれたものの体で、当事者が読むことを想定して書いた本だと水島広子さんはおっしゃってました。現場でこのような治療が受けられることは現実には理想論だったり、また、そうされていたとしても恐怖が拭えないのがトラウマかもしれませんが、自分が本当はこうされたい、これが辛いのだとうまく伝えることも出来ない人にとって、この本は救いのある存在だと思いました。
    現に私はこの本に助けられ、勇気付けられました。

  • ジャッジメント(判断)を手放すことの重要性。

  • 治療者という立場でありながら難解な言葉を使わず、さらさらと言葉が読み手に入ってくる。相手の「文脈」を大事に聴くというところにとても共感できた。

  • 専門職のための本。ジャッジメントとアセスメントを間違えていることに気付かないあの人にもあの人にも、読んで欲しい。

  • ■トラウマ体験=コントロール感覚の喪失


    「コントロール感覚」の定義を簡単にしておくと
    「自分が自分の人生を」ある程度コントロールできているという感覚の事である。

    つまり、自らが人生にある程度主体的に関わることができており、
    自らの意思が結果にある程度反映される、と感じられることである。


    コントロール感覚はトラウマ治療のメインテーマともいえるのだが、
    「自分には何が起こっているのか」を知り
    「何が病気の症状であって、どういう治療を受けることで改善が期待されるのか」を知ることは
    コントロール感覚に大きく貢献するだろう。

  • えっと、PTSDについて知りたくて読みました。
    PTSDの患者を支援するために大切なことが書かれていて、うんうんと頷きながら読みました。

    PTSDはpost-traumatic stress disorderの略で日本語では「心的外傷後ストレス障害」と呼ばれ、心的外傷(精神的に大きなショックみたいなもの)後に襲われる無力感や恐怖感を指すものです。治療には薬物や認知行動療法など様々な方法が用いられます。
    この本では、特に患者との面接場面でのことが取り上げられていました。基本はきっと普段の生活と一緒です。
    「信頼されること」
    「ぶれない芯(態度)を持って向き合うこと」
    「人間的に共感すること」
    もちろんある意味特殊な場面・関係での対話なので、いつも意識する以上に大変です。そして、“トラウマ”に対する知識も必要になります。でも、普段からこういうことを意識していることは大切かもしれません。
    さて、もう一つ筆者が特に繰り返していることがありました。それは――
    「ジャッジメントを下さない」
    ということです。(コレ書いとかないと、この本のレビューとしては駄目だと思う)
    これは「先入観をもたないで、目の前の人に集中する」ということらしいですが、患者さんの為でも支援者さんの為でもあります。

    PTSDの患者さんは、自己・他者・世界への基本的信頼が失われています。そしてトラウマ体験は患者さんだけのものです。
    だから患者さんの体験を自分に重ね、気持ちを理解したつもりになってしまうと微妙なズレが生じ、治療方針、ひいては信頼関係に悪影響がでます。
    また、患者さんを「かわいそう」と判断(・・)してしまうと「かわいそうでない自分の罪深さ」を感じ、燃え尽きてしまう支援者さんもいます。
    だから、双方のために「ジャッジメントを手放し、自分の気持ちを横に置き(消す必要はない)、目の前に集中することが大事だ」と筆者は言っていました。

    特に胸に響いた箇所↓
    「トラウマ体験をすると、そこから時間が止まってしまったように思うことが多い。もちろん実際の時計は進んでいるのだが、自分自身は遭難したまま立ちすくんでいるように思うのだ。しかし、実は自分は立ちすくんでいたわけではなく、一歩一歩プロセスを前進してきたのだ、と知ることは、自分の力を感じることになる。」
    私もちょっとトラウマみたいなものに陥ったことがあり、自分だけ立ち止まっていた気分の時がありました。っで時間はかかったけど、それを乗り越えたって感じられたのに……就活中にそのプロセスを全否定されたことがあって面接中に泣きました。
    でも、この文を見て「そうだよね。私頑張って前進してきたよね」って思えて、嬉しくて……また泣けました(笑)

    こんな感じで、この中に書かれているような状態・気持ちの人は結構存在するんだと思います。
    「どれどれ」と思って下さったら、一度お手に取って下さい。
    少しだけ拾い読みするでも何かが変わるかもしれません。

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著者プロフィール

水島広子【みずしま ひろこ】

慶應義塾大学医学部卒業・同大学院修了(医学博士)。慶應義塾大学医学部精神神経科勤務を経て、2000年6月~2005年8月、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本的改正などに取り組む。1997年に共訳『うつ病の対人関係療法』を出版して以来、日本における対人関係療法の第一人者として臨床に応用するとともに、その普及啓発に努めている。現在は対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、対人関係療法研究会代表世話人、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン代表。主著に『自分でできる対人関係療法』『トラウマの現実に向き合う』(創元社)、『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』(紀伊國屋書店)、『怖れを手放す』(星和書店)、『女子の人間関係』(サンクチュアリ出版)、『自己肯定感、持っていますか?』(大和出版)、『「毒親」の正体』(新潮新書)などがある。

「2022年 『心がスーッとラクになる 世界の美しい文様ぬり絵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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