- Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
- / ISBN・EAN: 9784753103058
作品紹介・あらすじ
中東を革命の炎に包む「アラブの春」の発端となった一青年の焼身自殺。その瞬間を、文学・思想は、いかに表現し、それに応答できるか。打ちのめされ、辱められ、否定され、ついに火花となって世界を燃え上がらせた人間の物語。
感想・レビュー・書評
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著者、ターハル・ベン=ジェルーンさん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。
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ターハル・ベン・ジェルーン(Tahar Ben Jelloun、アラビア語: الطاهر بن جلون al-ṭāhar bin ǧallūn, 1947年12月1日 – )はモロッコ出身の詩人、小説家。
---引用終了
で、本作の内容は、次のとおり。
---引用開始
中東を革命の炎に包む「アラブの春」の発端となった一青年の焼身自殺。その瞬間を、文学・思想は、いかに表現し、それに応答できるか。打ちのめされ、辱められ、否定され、ついに火花となって世界を燃え上がらせた人間の物語。
---引用終了
本作では、「アラブの春」の発端となった青年の自殺を取り扱っているが、その「アラブの春」は、次のとおり。
---引用開始
アラブの春(アラブのはる、英語: Arab Spring)とは、2010年から2012年にかけてアラブ世界において発生した、前例にない大規模反政府デモを主とした騒乱の総称である。2010年12月18日に始まったチュニジアのジャスミン革命から、アラブ世界に波及した。また、現政権に対する抗議・デモ活動はその他の地域にも広がりを見せており、アラブの春の事象の一部に含む場合がある。各国におけるデモは2013年に入っても続いた。なお、“Arab Spring”という言葉自体は2005年前後から一部で使用されていたものである。
しかし、ほとんどの国で混乱や内戦が泥沼に陥り、強権的な軍政権に戻ったり、ISILのような過激派組織が台頭したりするなど、いわゆる「アラブの冬」として挫折を見せている。
---引用終了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アラブの春のきっかけとなった焼身自殺をしたチュニジアの青年についての短編。
どういう社会背景のもとであの焼身自殺が起きて、大規模デモに発展し、中東全体にまで広がったアラブの春という現象が起きたのかを疑似的に体験できるすぐれた小説だ。
訳者あとがきも含めてすばらしい。
アラブ文学 獄中文学
モロッコ コネと賄賂 密告社会
エジプト:ハーリド・サイード殺人事件、被告2名に懲役10年
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20140304_220401.html -
出来事の遍在性からいかに固有性を守るか。岡真理の解説が考えさせられる。
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淡々と・・・
哀しすぎる -
”アラブの春”のきっかけとなった、チュニジアでの焼身自殺事件に想を得て書かれた短編。あっという間に読めるが、大事なのは「訳者解説」。これが目配りのきいた素晴らしい文章なので、本編と必ずセットで読むべきだと思う。
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新刊コーナーで見かけ、なんとなく借りてみた。
「アラブの春」のきっかけになったムハンマド・ブアズィーズィという青年の焼身自殺をモチーフに、著者が小説に書き起こしたもの。
普通ならこれ一作で単行本にしたりしないような短編で、文章もそっけないほど簡潔。
ただそのそっけなさがかえって、抑圧された自由、踏みにじられた人間の尊厳、絶望しかない日々の中で、懸命に生きようともがき苦しむ人々の姿を強く印象づける。
あくまでもフィクションとして描いているので、ところどころ具体的な独裁政権国家を思わせる事柄を差し挟んではいるものの、主人公のファーストネームと自殺を図った日、彼が亡くなった日以外は創作だ。しかし、訳者も解説しているように、どこの国でもないということはすなわち、どこの国でもあるのだ、ということを暗示している。
「ごくふつうの人間の物語、この世に何百万といる者たちの物語」
訳者は、苦しんだ挙句の焼身自殺ではあったけれども、結果として祖国を救った英雄として名を残すことができたブアズィーズィの影には同時に、同じように虐げられ屈辱に耐え続け、なおかつ人知れずひっそりと命を落とし、またそれすら叶わずに苦しみながら生き続けなければならない若者も大勢いるということを指摘して、解説としている。
本編の痛烈さに加えて、本編とほぼ同じといってもいいボリュームの訳者解説が、中東の困難を私がわずかでも理解できる助けに、非常になったことを付け加えておこう。 -
中東で起きた「アラブの春」と言われた市民革命、その発端となった一人の青年の物語である。彼はどのようなことを経験し、どのように感じ、なぜそうするに至ったのか。報道番組では知ることのできない“人間”の物語を教えてくれる一冊です。
(匿名希望 外国語学部 外国語) -
「アラブの春」の発火点となったチュニジアの青年の焼身自殺に想像の腕を伸ばして書かれた、それ自体はとても短い小説だ。大学を出ても展望が開けず、腐敗した体制の下でくわえられ続ける屈辱が、個人の生の臨界点を踏み超える、その瞬間に作家の想像力は焦点をあてている。
しかし本書を読むべき価値のあるものにしているのは、小説本体以上に、岡真理氏による解説だ。くわえられ続ける屈辱の中で生のぎりぎりの淵にとどまるために人びとが身にまとう「ブルカ」、あるいは売り物にならないような「レースのようなクレープ」の意味について、深く問いかけるだけではない。アラブの春やインティファーダが火をつける希望もまた、人をして、ぎりぎり踏みとどまっていた淵から足を踏み出させるものになってしまうのかもしれない。
アラブの春の熱狂は過ぎ去り、安全なところから拍手を送っていたわたしたちは、この世界に満ちている残酷な侮辱を、その中でもちこたえているひとりひとりのことを簡単に忘れそうになる。その引き裂くような緊張が自分たちのすぐ近くにあることからも目を背けて。だから今なお、この本は読まれる価値をもっているのだ。