お蚕さんから糸と綿と

著者 :
  • アリス館
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  • Amazon.co.jp ・本 (40ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784752009252

感想・レビュー・書評

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  • 「真綿でくるむ」とか、ちょっと怖い表現では「真綿で首を絞める」なんていうのもある。でも真綿とはどんなものか、知ってる人はどのくらいいるのだろう。
    「絹を裂くような声」という譬えもある。
    絹を裂いたことのない私には、およそ想像もつかない。
    しっとりと柔らかく美しい黒髪は「絹のよう」なんて譬えられたりもする。
    どれもみな、養蚕業がとても身近だった時代に出来た言葉かもしれない。

    お蚕さんから紡いだ糸を「生糸(きいと)」とか「絹糸」という。
    また、お蚕さんから出来ている綿を「真綿」という。(「絹綿」とは言わない)
    生糸を紡ぐのは、滋賀県と岐阜県にまたがる地にある「西村さん」の一家。
    有数の養蚕地だったらしいが、今ではたった一軒のみ。
    一万頭のお蚕さんを家族総出で世話をし、春と秋の二回、糸とりまでする。
    その工程を、それはそれは丁寧に写真家の大西さんが追っている。
    何度も話に聞いたことはあるが、ここまで大変な作業だったとは知らなかった。

    そして、西村さんの家とすぐ近くに真綿の集落がある。こちらは糸は紡がない。
    20個の繭を引き延ばして一枚に重ね合わせ、ゆっくり乾燥させてから引っ張っていく。
    表紙の画像がそれだ。
    2.5キロの布団を一枚作るのに、西村さん一家が育てた一万頭のお蚕さん全部を使うことになるという。こちらもすべての工程が人の手によって行われる。
    それを、大西さんのカメラが克明にとらえている。

    『お蚕さんは、なんてすごい生き物だ。
    そしてその習性を利用し、様々なものを考え付いた人の技術と知恵にも驚いた。』
    最後の仕事は「虫供養」だ。
    犠牲になったたくさんのお蚕さんへの感謝をこめて、お寺さんに集まりお経をあげてもらう。

    知らなかった、本当に知らなかった。
    お蚕さんの小さな命が絹糸と真綿の温かさなのだと、初めて教えられた気がする。
    ただ生きているだけでも、たくさんの命と引き換えになっているという事実。
    ひとりの命が尊いのは、直接は見えない多くの命の上に成り立っているからなんだ。

    『糸に染まる季節』以来の、大西暢夫さんの本。
    今回も素晴らしかった。
    図書館入り口の新刊コーナーで偶然見つけた本。
    テキストもかなり多く、写真もゆっくり見せていくからかなり時間がかかりそう。
    でも何とか子どもたちに紹介したい。
    他の本を組み合わせてブックトークでも良いかも。
    皆さんも見つけたらぜひ手にとってみてね。

    • ハイジさん
      こんにちは!
      昔昔レベッカの歌の歌詞に「真綿」が出てきたことをふと思い出しました。
      きちんと真綿を調べずに今日まで来て、なんだか「真綿」に再...
      こんにちは!
      昔昔レベッカの歌の歌詞に「真綿」が出てきたことをふと思い出しました。
      きちんと真綿を調べずに今日まで来て、なんだか「真綿」に再会できたみたいで嬉しいです。
      素敵な知識をありがとうございますm(_ _)m
      2020/02/17
    • nejidonさん
      ハイジさん、こんばんは(^^♪
      コメントありがとうございます!
      ああ、私もレベッカ大好きです♡
      そうなんですよね。殆どの方は化繊綿しか...
      ハイジさん、こんばんは(^^♪
      コメントありがとうございます!
      ああ、私もレベッカ大好きです♡
      そうなんですよね。殆どの方は化繊綿しかご存じないかと思います。
      絹にいたっては、今やかなり特別扱いで。
      レビューの「枕」部分の6行は、私がふと思いついて書いたものです。
      まさかそこに喰いついてもらえるとは(^^;
      何だかすごく嬉しいです。
      この本もぜひ読んでみてくださいな♪

      2020/02/17
  • いい!
    写真も美しく、ずっと眺めていたい本

    ◯芽吹きの春は、桑の葉もやわらかい。秋の葉は、春よりかたい葉っぱが茂る。
    それを食べるお蚕さんのはき出す繊維も、季節によって手触りが変わる。(p8)
    ☆意識したことすらなかったなあ。
    糸に季節の違いがあるなんて。
    着物作っていたおばあちゃんに話聞きたかったな。

    ◯繭をこのままにしておくと、蛾になったお蚕さんが繭を破って外に飛び出してしまう。
    その前に命を止めなくてはならない。(p21)
    ☆繭が破られると、一本の長い糸にならないから。
    そうかあ。蛾はこのまま乾燥して、中で死んでしまうんだね。
    そして、これが絹になっていく。

    ◯綿花からできている綿を『木綿』。
    お蚕さんからできている綿を『真綿』という。(p86)
    ☆知らなかったなあ。
    綿って綿花からだけだと思っていた。

    • nejidonさん
      えりりんさん、こんばんは(^^♪
      この本を読まれたのですね!
      感動が伝わってくる素敵なレビューです。
      季節による桑の葉の違いとか木綿と...
      えりりんさん、こんばんは(^^♪
      この本を読まれたのですね!
      感動が伝わってくる素敵なレビューです。
      季節による桑の葉の違いとか木綿と真綿とか、知らないことだらけでした。
      何となく知っているつもりでも実は知らないことって、山のようにあるのでしょうね。
      レビューが本当に少ないので、読まれたことが嬉しくてついコメントしました。
      (すみません。うっかりミスでコメントを削除したみたいです。
      これで二度目です。失礼しました。)


      2020/03/10
    • えりりんさん
      nejidonさん、ありがとうございます。
      nejidonさんのレビューで、読みたくなり、読みました^_^
      いつも素敵な本を教えてくださり、...
      nejidonさん、ありがとうございます。
      nejidonさんのレビューで、読みたくなり、読みました^_^
      いつも素敵な本を教えてくださり、ありがとうございます。
      こうやって、身近なものをやさしく教えてくれる本って、貴重ですよね。
      子どもに読み聞かせしたいなと思いました。
      写真が美しいー!!
      2020/03/11
    • 大西暢夫さん
      どうもありがとうございます。嬉しいです。

      どうもありがとうございます。嬉しいです。

      2021/08/12
  • 『お蚕さんから糸と綿と』 大西暢夫 文・写真 (アリス館、1650円)|【西日本新聞ニュース】
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/596186/

    お蚕さんから糸と綿と - 本をさがす - アリス館
    http://www.alicekan.com/books/post_197.html

  • 人の暮らしを大昔から支えてきた絹。蚕の繭からとれる貴重な生糸、真綿はどうやって作られるのか。餌となる桑の葉づくり、蚕の世話、繭の乾燥、生糸づくり、真綿づくり…。小さな小さな蚕からこれほどすごいものが生み出されること、そこに愛情をこめて丁寧に仕事をする人たちの技術が関わっていること。感動すら覚えます。写真の1枚1枚が美しい。

  • 「お蚕さんはすごい生きものだ。
    そして、その習性を利用し、さまざまなものを考えついた人の技術と知恵にも驚いた。」

    今では数少なくなった養蚕農家の西村さんの日々の作業の様子やまるまると太っていくお蚕さんの成長、繭から糸を紡ぎ方、真綿の作り方などが、とても美しい写真で紹介されている。
    お蚕さんから生糸や真綿にに生まれ変わっていく過程は、とても神秘的で美しかった。

    どの仕事も手作業で、根気のいる仕事。
    長い経験から培われた伝統の技。
    この技が継承されなくなるとしたら、さみしい。

    私が小さかった頃、母の実家では、昔お蚕さんを育てていた。
    暗い部屋の中でごそごそ動く音。
    当時かなり怖くてその部屋には入れなかった。
    今思うと、もう少し観察していたらよかったと思う。

    以前勤務していた小学校では、理科の先生がお蚕さんを廊下で飼って、子どもたちに見せていた。
    繭になっていくのを見て、子どもたちがとてもびっくりしていたのを覚えている。

    “命あるものから、ものが生まれていく“
    その過程を美しい写真絵本で、紹介できるといいな。

    大西暢夫さんの『ぶたにく』や『おばあちゃんは木になった』『ここで土になる』など、毎回考えさせられる。

    『ホハレ峠』も気になっているので、読んでみたい。

  • 今ではすっかり少なくなってしまった養蚕農家。滋賀県でお蚕さんを育てて生糸を作っている農家と真綿を作っている農家のそれぞれの一年をカメラにおさめた。
    知っているようで知らない蚕、いつまで国内で続けていけるのだろうか。

  • 表紙でご夫婦が綿を引き伸ばしている姿を見て・あっと思った。以前、テレビでその様子を見たことが、あったのだ。

    西村さんは年に2回お蚕さんに桑の葉をあたえて大切に育てる。お蚕さんが伸びをし始めたら、繭を作る合図…。

    絹に限らず、身につけているものの由来を知ることは大切なことだなと思った。

    西村さんのお家が受け継ぐ文化は、失われてしまうものなのだろうか。
    生糸を制作する過程に敬意を持つのと同じく、寂しい気持ちにもなった。

  • 一頭のお蚕さんが一生をかけてつくる生糸の量。
    消費だけしかしてないけど、こういう生産現場の技術を見ることができて、いい本だなと思いました。
    写真も綺麗。お蚕さんにアテレコ?してたりしてそれがかわいらしかった!

  • 5歳には難しいかもな、、、と、思いつつ、写真が美しいし、「いろんな命に支えられて生きている」「人間の知恵」「伝統ある産業」など、について気づかされる内容がいいので、購入。

    5歳児、蚕供養の段階で感涙。(母、びっくり。)
    そして、カバーを外すと、さらに美しい表紙が出てきて、それに見入っていました。

    • 大西暢夫さん
      読んでくださいましてありがとうございます。僕は大人の本も子どもの本も、いつも書き方は一緒です。伝わるんですね。びっくりです。
      読んでくださいましてありがとうございます。僕は大人の本も子どもの本も、いつも書き方は一緒です。伝わるんですね。びっくりです。
      2021/08/12
  • お蚕さんから糸と絹を読んで、私は凄いと思ったのは、まぶしです。凄く良かったです

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著者プロフィール

おおにし・のぶお
1968年、岐阜県揖斐郡池田町育ち。
東京綜合写真専門学校卒業後、本橋成一氏に師事。
1998年にフリーカメラマンとして独立。
ダムに沈む村、職人、精神科病棟、障がい者など
社会的なテーマに多く取り組む。
2010年より故郷の岐阜県に拠点を移す。
映画監督作品に、
『水になった村』、
『家族の軌跡 3.11の記憶から』、
『オキナワへいこう』などがあり
著書等に、
『僕の村の宝物 ダムに沈む徳山村山村生活記』
(大西暢夫 著、情報センター出版局、1998年)、
『分校の子供たち』
(大西暢夫 著、カタログハウス、2000年)、
『山里にダムがくる』
(菅聖子 文、大西暢夫 写真、山と溪谷社、2000年)、
『おばあちゃんは木になった シリーズ自然いのちひと4』
(大西暢夫 写真・文、ポプラ社、2002年、
 第8回日本絵本賞)、
『ひとりひとりの人 僕が撮った精神科病棟』
(大西暢夫 写真・文、精神看護出版、2004年)、
『花はどこから 花・花びん・水をめぐる3つのものがたり』
(大西暢夫 写真、一澤ひらり 文、福音館書店、2005.年)、
『水になった村 ダムに沈む村に生き続けたジジババたちの物語』
(大西暢夫 著、情報センター出版局、2008年)、
『徳山村に生きる 季節の記憶』
(大西暢夫 写真・文、農山漁村文化協会、2009年)、
『ぶた にく』
(大西暢夫 写真・文、幻冬舎エデュケーション、2010年、
 第58回小学館児童出版文化賞、第59回産経児童出版文化賞大賞)、
『糸に染まる季節 ちしきのぽけっと13』
(大西暢夫 写真・文、岩崎書店、2010年)、
『ミツバチとともに 養蜂家角田公次
 農家になろう2』
(大西暢夫 写真、農文協 編、農山漁村文化協会、2012年)、
『津波の夜に ~3.11の記憶~』
(大西暢夫 著、小学館、2013年)、
『ここで土になる』
(大西暢夫 著、アリス館、2015年)、
『シイタケとともに きのこ農家中本清治 
 農家になろう8』
(大西暢夫 写真、農文協 編、農山漁村文化協会、2015年)、
『お蚕さんから糸と綿と』
(大西暢夫 著、アリス館、2020年)他がある。

「2020年 『ホハレ峠』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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