グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか

  • あすなろ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751530702

作品紹介・あらすじ

オードリー・タン(台湾デジタル担当大臣)推薦!
未来の子孫に「よき祖先」と思ってもらうために、私たちは今、どう行動すべきか?英国の気鋭の文化思想家が短期思考から長期思考への転換の必要性を説く。SDGs関連書。

感想・レビュー・書評

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  • 「グッドアンセスター」Roman Krznaric

    人間の歴史は本質的に観念の歴史である。H.G.ウェルズ


    短期主義-長期思考
    時計の専制(中世以降の時間の加速)-ディープタイムの慎み(宇宙時間にける瞬きの存在である自覚)
    デジタルディストラクション(テクノロジーに乗っ取られる注意散漫な意識)-レガシーマインドセット(後世によく語り継がれる)
    場当たり的政治(次の選挙ばかり気にかける近視眼)-世代間の公正(七世代先まで考える)
    投機的資本主義-大聖堂思考(人の寿命を超えた計画)
    ネットワーク化された不確実性-ホリスティックな未来予測(文明の為の複数の道筋を描く)
    永遠の進歩(終わりのない経済成長の追求)-超目標(地球の繁栄の為の努力)

    現在の非効率なキーボードレイアウトは、1860年代に機械式タイプライターのキーが詰まらないよう、よく使う文字を離して設計されたもの。QWERTY問題。

    我々がスマホを離さないのは、テクノロジーに意図的に組み込まれたドーパミンによる恍惚感がもたらす瞬間的な興奮を求めているから。

    裕福な家庭の子供の方がおやつを我慢しやすい。欠乏への恐怖が我々を短期主義に向かわせる。

    人が未来について考える時間は過去の3倍。

    未来に関する思考の80%は当日または翌日に向いており、1年以上の事を考えているのは14%、10年以上先の事を考えているのは6%。

    母方の祖母の存在が乳幼児の死亡率を下げる。

    人間が長く考えられる脳を育ててきた方法
    1.道順を見つける力
    2.おばあちゃん効果(世代間の時間軸を広げる)
    3.社会的協力(信頼、互恵、共感に基づく協力関係は、時を超えて続く繋がりが生まれる事から始まる)
    4.道具のイノベーション(目標を明らかにして複雑な連続工程を計画する)

    14世紀、初期の時計は1時間または15分刻みの表示だったのが、18世紀には分針が備わり、19世紀には秒針付きが標準となり、労働者を働かせる産業革命の重要な装備となった。

    18世紀まで、地球は6000年前に神によって6日で創造されたと信じられていた。

    年の前にゼロを置くと何万年先の未来を想像し始める事ができる。(02021年のように。)

    自分の死後、未来の世代にどう記憶されたいかについてエッセイを書いた人は、書かなかった人に比べて45%多い金額を環境保護事業に寄付しようとした。

    「私たちのクライアントの多くが遺言で慈善事業に寄付を希望されていますが、あなたが関心を持っている慈善活動はありますか?」と尋ねると17%の人が慈善寄贈を選択した。
    言葉の選び方を少し変えるだけで、遺贈寄付に大きな影響は与えられる。

    死について考え、自分がいなくなった時にどのように記憶されていたいかを考えることは、世代を超えた思いやりや責任感を強める。

    「自分たちの先祖がこうしておいてくれればよかったのに」と、子孫が望むことはなんだろう?と問う。

    レガシー思考法
    オープンスペースに立ち、目を閉じたまま一歩下がり、親や祖父母などあなたが知る年長世代の人から1人想像する。次にもう一歩下がってその人が青年だった頃の人生、考え方や感情、希望や苦労を思い浮かべる。1分後、三歩目の後退をして、その人の5歳の誕生日を想像する。
    次に、元の位置に戻って一歩前に進み、姪や子供など次の世代の1人を想像する。次にもう一歩踏み出して30年後のその人の未来を想像する。その人の人生に起こっていること、喜びや悩みを想像する。最後にまた一歩踏み出し、その人の90歳の誕生日を想像する。その人は暖炉の前であなたの写真を片手に持ちながらあなたから受けついだものについて皆に語っている。その人はどんなスピーチをしているかを書き出す。

    遺産とは残すものではなく、一生かけて育てるもの。

    これから生まれてくる世代はフューチャーホルダーと考える。

    世代間の公正の為の4つの道徳的動機
    1.矢(この世に生まれ落ちるタイミングに関わらず人々を平等に扱おう)
    2.天秤(今生きている人と比べた時に、これから生まれてくる全ての人のウェルビーイングをより重んじよう)
    3.目隠し(自分がどの世代に生まれるか分からないとした時に、どんな世界に生まれたいか想像しよう。
    4.バトン(過去の世代から自分がこうして欲しいと望むような仕方で未来の世代に接しよう)

    過去5万年の総死者の数は1000億人、これから5万年の間に誕生する人の数は6.75兆人。

    イロコイ族のチーフ「我々は未来を見据えている。首長に与えられた第一の使命は、我々が下す全ての決定が来るべき七世代の幸福とウェルビーイングに繋がっているか確認することだ」

    スウェーデンの都市農業会社プランタゴンは、第七世代株式と言って、七世代に渡る家族または七人がそれぞれ33年間以上株を保有しなければ換金できない。

    急進的な長期計画は危機によって始動する。

    未来予測の正確さは、予測者の知名度や職業的資質のレベルと反比例していた。

    万物は離陸、成熟、衰退するシグモイド曲線を描く。

    古代文明の平均寿命は336年。

    何らかの到達点を意識して組み立てられていない人生はあまりに愚かだ。アリストテレス

    良い人生の為に目指すべきなんらかの目標を持つこと。

    2001年から2014年の間、長期志向の企業は短期志向の競合に比べて売上高は47%、利益は81%上回っており、金融危機を乗り切る能力も高かった。

    全ての上場企業が長期戦略を採用した場合、米国GDPは年間0.8%押し上げられる。

    ユニリーバの元CEOポール・ポルマンは2009年に就任した日に四半期決算を廃止した。

    生物進化と異なる文化進化について
    1.文化進化は意識的な選択の問題であり、民族文化圏の発展の方向性を形作る事も可能。
    2.文化進化は生物進化に比べて遥かに早い速度で起こるので、気候危機や富の不平等の拡大など変化する環境に適応できる。
    3.教育システムの他、価値観や思考を植え付けるその他の制度や活動によって世代を通じて繰り返し再現される必要がある。

    19世紀のフランスでは、国民の半数はフランス語を話せず、流暢に話せる人は10% 未満だった。

    変化を阻む4つの障壁
    1.時代遅れの制度設計
    2.既得権益
    3.「今、ここ」の不安
    4.希薄な危機感

  • 何となく人ごとに感じていた、環境問題や将来世代という言葉。この本を読んで、身近に実感できた気がする。私たちの今があるのは、良いことも悪いことも含め、過去に生きた人(祖先)がいたから。祖先とのつながりを感じることで、私たちもいつか未来の祖先となることを、不思議なことに実感できる。将来世代は最も大きなサイレントマジョリティー、響いた。病的な短期主義の時代を生きて良いのか、出来るとこからするべきなのでは、ということが、腹落ち出来る形で多く書いてあった。

  • 人はつい目先の利益を優先する短期思考に陥りがち。長期思考の重要さを説いている。具体的な事例を用いているので長期的思考の効果もわかりやすい。

  • グッドアンセスターを目指す事が必要な事はよく分かるが、筆者も指摘しているように、現在は短期的な収益を上げて裕福に暮らす事が、最大の目標となっていて、それを変えていくのは一朝一夕には困難だと思われる。
    手遅れになる前に、多くの人の意識が変わる事を期待したい。

  • 人間は「マシュマロ脳」と「どんぐり脳」を持ち合わせている、と著者は主張します。前者は短期の利益を求める脳、後者は(どんぐりを植えて木に育てるという意味での)長期的な利益を求める脳です。そして我々は(本書では特に西欧社会の人々を念頭に置いていますが)マシュマロ脳が不均衡なまでに大きくなっているので、どんぐり脳の大事さを改めて認識すべき、というのが本書のキーメッセージです。

    率直な印象ですが、短期志向から長期志向へ、というメッセージ自体は特に目新しさはないです。また長期志向になるためのティップスとして「ディープタイムの慎み」「レガシー・マインドセット」「世代間の公正」「大聖堂思考」「全体論的な予測」「超目標」というカテゴリーで説明されていましたが、初めて聞く話も多かったとはいえ、特に目からうろこというような感じではありませんでした。

    本書の中で非常に重要だと感じたのは、いま存在していない未来の世代をどう意思決定の場に取り込むのかという視点です。これは啓蒙の新フェーズに入ったということだと私は理解しました。つまり18世紀以降の啓蒙活動では、奴隷解放や女性参政権など「いま存在しているが政治的参画が認められていない人々を包摂する」という活動が行われたわけです。これはのちの植民地解放運動にもつながります。しかしこれはあくまで空間的な啓蒙活動でしたが、いままさに起きつつあるのは「時間的な啓蒙活動」だということです。何らかの政治的意思決定をするさいに、「いまは存在していない未来世代」をいかに意思決定プロセスの中に包摂するのか、未来世代を奴隷か植民地のように扱って搾取している状況をどう解消すべきか、という課題が提示されていると感じました。その意味で気づきは多かったです。

    最後に、少し違和感を持ったことがあり、それは著者の時間概念の解釈です。著者は「いま、ここ」思考を脱却すべき、これこそが短期志向の象徴であると述べていますが、これは浅い思考だと思います。日本を見ると、加藤周一氏が指摘しているように、日本はまさに「いま、ここ」文化の国になるわけです。しかし日本は短期志向ではない。加藤氏が指摘しているように「時間の分節化が難しく、いまの連続で時間が流れて」いて、イエの存続にあるようにむしろ長期志向文化を持っています。つまり「いま、ここ」と長期志向は両立しうると考えますが、やはり西欧の人はこのあたりの感覚が乏しいのかな、「イチかゼロか」になってしまうのかな、という印象を持ちました。この手の本は西欧知識人ではなく、むしろ訳者のような僧侶や東洋の哲学者に書いてもらった方が説得力は大いにあるのに、と思いました。

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1407893

  • 【本の感想】
    慌ただしい毎日をこなしていると、
    日常はつい短期的な視点になりがちだけれど、長期的な視点にたった時
    「良い祖先である」ために必要な視点を教えてくれる一冊。

    【おすすめポイント】
    政治・政策などを3世代以上先の観点にたってどう評価できるか?
    という視点を持つきっかけになる。

    紹介者:スープ
    発行日:2022/7/25
    企画名:図書新聞夏号

  • 「グッドアンセスター」読んだ http://www.asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751530702 めっちゃ良書!副題に全て集約される。ありがちなSGDsや環境保護の話だけじゃなく、人権、教育・教養、都市計画、産業などの領域が含まれてるところが好き。いま我々が普通に恩恵を受けている人権も、昔の人が闘ってくれたから、とか。前読んだビジネスの世界のトップリーダーがなぜ美意識を重視するのか、という論に通じててすごいよかった。コンプラは守るべきルールではなく個人の美意識の問題、というのがこの本でも一貫して説かれている。美意識、なんてすばらしい言葉(おわり

  • ・100年以上を考える。
    ・カリフォルニア ホワイトマウンテンのブリストルコーン・パイン
    ・クレタ島のオリーブの木
    ・デス・ナッジ
    ・S字曲線:離陸・成熟・衰退
    ・消費・過剰・自立・短期->持続可能性・バランス・相互依存性・長期グラフィック
    ・ニール・ハービソン:チョウチンアンコウ
    ・ソフィー・ハウ:国民健康保険は本来「国民のウェルビーイングのためのサービス」であるべきなのに、実際には「国民を病気にするためのサービス」になっている。
    ・西山温泉慶雲館
    ・成長の限界報告書:1972年度ドネラ・メドウズ、デニス・メドウズ

  • 現代社会では一般的な「短期思考」「短期主義」に対して、本書は、「長期思考」を勧める。「よき祖先」として、数十年、50年から100年以上の時間軸で、プロジェクトを計画する。宗教的建物が長期思考の最もよく知られた例らしい。その一つに、伊勢神宮の式年遷宮があげられている。
    具体的問題として、政治家が「もし、我々がこの法案を通したら、7世代後は一体どうなるか。」を問う必要がある、など有益な指摘がある。
    どうしても短期で成果を求めたいものであるが、これを避け、自分の寿命の尽きた先に、自分がどれだけのものを残せるか、考えてみるのも悪くないと思う。

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著者プロフィール

現代イギリスのライフスタイルの哲学者、文化思想家。生活の中で見落とされている問題について啓発し、指導するロンドンのスクール・オブ・ライフの創立メンバー。共感と会話術によって社会を変えることをオックスファムや国連などで助言する。オックスフォード大学、ロンドン大学、エセックス大学で博士号を取得。ケンブリッジ大学とシティ大学ロンドンで社会学と政治学を教えつつ、中央アメリカで人権活動に従事した。
邦訳書、クルツナリック『仕事の不安がなくなる哲学』壁谷さくら訳、イーストプレス、2014、『生活の発見──場所と時代をめぐる驚くべき歴史の旅』横山啓明・加賀山卓朗訳、フィルムアート社、2018。

「2019年 『共感する人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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