ハーレムの闘う本屋

  • あすなろ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751527528

作品紹介・あらすじ

1939年、ニューヨーク7番街に、風変わりな書店が誕生した。黒人が書いた、黒人についての本だけを売る店。「知識こそ力」という信念のもと、全米一の専門書店を作った男の生涯。

感想・レビュー・書評

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  • 原題は「No Cristal Stair」。
    ラングストン・ヒューズの詩集「夢の番人」の中の一節だ。
    学校へ行っていない少年に、主人公がこの詩集を薦める場面がある。
    非常に象徴的な箇所で、読後その意味がじっくりと沁みてくる。

    1939年ハーレムに黒人専門の書店を開いたルイス・ミショー。
    たった5冊から始まったその本屋は「ミショーの店」と親しまれ、多くの文化人や市井の人々が集う「知の宝庫」に成長し、後年その蔵書数は22万冊にも及んだという。
    その本屋を中心にルイスの生涯を描いた著者は、ルイスの弟の孫にあたるという人物だ。
    図書館司書らしく徹底した取材で、家族や親類、新聞記者や露天商や常連客、銀行家、時にやくざ者まで登場して、ルイスについて語る。
    その言葉が後半になるほどルイスへの尊敬の念であふれていくのが分かる。
    写真も多く、当時の新聞記事、チラシ、イラストもあり、A4版のハードカバーながらとても読みやすい。

    「読書の歴史」にも載っていたが、奴隷たちは長い間文字さえ覚えることを禁じられていた。
    本を持っていただけで鞭打ちの刑に処せられる。
    ルイスも少年時代にピーナッツの袋を盗んで鞭打ちの刑を受け、こう考えた。
    「差別的に扱われている現状に甘んじている黒人の無知さこそが、不平等を助長している」と。
    そして彼は本を読む。読んで読んで、知識を得ることの大切さを説くようになっていく。

    一番最初に書いた場面で、仕事を探している少年に対してルイスはこう言っている。
    「いいか。ここに知識がある。君には今日、知恵に続く道を歩きはじめることより大切な用事があるかい?」
    「頭に知識を入れることより大事な仕事はない」
    「職探しをしているなら、本は買えないだろう。でも読むことはできる」
    この後少年が読むラングストン・ヒューズの詩は、胸にこたえるものがある。

    そんなルイスの卓越したレファレンスサービスが、この店の最大の力だったに違いない。
    自身もまた、少年時代に誰かに言って欲しかった言葉だろう。警棒で殴られ隻眼だったルイス。刑務所にも何度か入れられたルイス。彼を変え希望を与えたのも他ならぬ読書の力だ。
    そして自分たちが何者かを理解する術を奪われ、健全な自己肯定感さえ持てなかった黒人の歴史をルイスの店が変えていった。
    趣味や教養を高めるためではなく、ルイスが伝えたのは読書によって自由な生を獲得すること。
    未だ残る人種差別の問題について学ぶのみでなく、本の持てる力の大きさを、あらためて考えずにはいられない。

    アメリカでは「ヤングアダルト」対象の本らしい。
    この本に出会えた子どもは幸せだ。
    公民権運動の激しかった頃のアメリカの空気と、当時の黒人の心の内を生き生きと蘇らせる、力強い一冊。読書会にも最適だろう。
    「ミショーの店」は、1968年再開発計画に伴いハーレムの別の場所に移転している。
    74年、再度の移転要請に耐えられず閉店した。
    今もなお、通り沿いでは本を売るひとたちが絶えないという。全ての方にお薦めの書。

  • 公民権運動の隆盛と時を同じくして……というより、そのムーブメントを黒人専門書店という形で支えたルイス・ミショーの生涯の物語。ウォルター・ディーン・マイヤーズと同じく、少年時代は自分の頭脳や機転を何に使ったらいいか分からず、また黒人に開かれている道もなかったから、悪に手を染めたり、逮捕されたりしたことも一度や二度でなく……しかし四十近くなってから、本を売ることを思いついて、5冊の本を手に書店の仕事を始めた。それがやがてハーレムで、二万冊の蔵書を備え、なおかつ黒人作家や指導者達がつどう文化的拠点を築くにいたる。
    なかで引用されるハワード・ヒューズの詩が素晴らしかった。ミショーの情熱や慧眼、博識、強気だけど傲慢ではない人柄が、周囲の人たちの証言から浮かび上がってくる構成もいい。感動的な生涯だと思った。

  • なにげなく入った施設の図書室でこの本を見つけるとは、あたし、なかなかやるじゃん。
    読書感想文の課題図書らしいので、若い人向けなのだと思うけど、これは大人も読んだ方がいい!読むべき!!
    マルコムXにキング牧師、ブラックパンサーのことは何となく聞きかじっていたけれども、この本の主人公のことは全く知らなかった。世の中のことを知り、自分を知るために、本は大事。本に出会える場所も本当に大事。

  • 一気読みして号泣。なんで泣いたのか思い出せない。

    ルイス・ミショーの時代、アメリカの白人はまだ国家の形成に躍起で、黒人も一枚板ではなかった。みんながみんな自分の正義のために闘っていた。ルイスも、ルイスの兄のライトフットも、マルコムXも、キング牧師も、FBI長官フーヴァーでさえも。そんな歴史の一側面を、主流とはいえない視点からかいま見られるのが魅力。
    著者はルイスと血縁関係にあるヴォーンダ・ミショー・ネルソン。これだけのことを調べ上げ、まとめるのは、ずいぶん骨が折れたことだろう。残された資料や取材相手の発言をもとにしているようだが、いくらかはフィクションで補っているという。筆致はかろやかで、ところどころ引用されている黒人作家による詩が、全体をいっそう輝かせている。伝記的作品としても虚構としても良質で、ぜひ手元に置いておきたい。

  • 20世紀初頭、ニューヨークのスラム街に黒人専門の書店が誕生した。


    黒人はスラム街に住んでいるということだけで、肌の色が黒いというだけで差別されてきた。
    アメリカは20世紀当時もまだ白人の物だった。

    9人兄弟を父親は魚売りで育てた。だが父とルイスだけよく似ていた。ルイスは盗みで捕まった時、盗みについて、恐れ気もなく裁判官に言う「白人はインデアンから国を盗みアフリカから黒人を盗み奴隷にした」

    父親は歴史を見ることができた、黒人のための機関や施設を増やさないといけない。教育を受けなくてはならない。その言葉はルイスに受け継がれた。
    民族としての黒人、アメリカ国民としての黒人、しかし白人に比べてないものが多すぎる。

    兄ライトフットは母の信仰を受け継いで牧師になった。ルイスにも神の道を歩んでほしかった。だがルイスの生き方は違っていた。
    黒人の牧師は行動することで彼の思想を広めていった。

    ルイスはギャンブルに目を付けて盗んだ金で店を開いた。繁盛したが警察に捕まり抵抗して片目を失った。

    ルイスは兄の教会で働き始めたが違和感があった。天国を目指す前に現実を知らなくてはならない。
    大学で学ぶのは白人社会の知識だ。しかし奴隷制度についての知識だけ学んだくらいでは人間としての真の尊厳を学んではいない。黒人は知らなくてはならない。学ばなくてならない。知識は頭や心の中にある、そして本の中にある。本というものを知って読まないといけない。

    彼は兄の宗教活動を手伝いながら、もっと広くこの世の問題の多くを見る必要を感じた。

    42歳で教会を出た。黒人がなぜ抑圧されてきたのか、それを社会のせいにしてきた。だが、黒人は正しく認められなくてはならない。人として。

    兄が閉めようとした事務所は本屋にうってつけだ。
    どこの本屋にでも売っているような本のことではない。黒人のために黒人が書いたアメリカだけでなく世界中の黒人について書かれている本だ。「いわゆるニグロ」たちは世の黒人男女が発する声を聞き学ぶ必要がある。ここはうってつけだ「私の本屋に」

    兄は本屋のことは理解できたがギャンブルのように見えるルイスの将来が不安だった。
    それでも開店資金を出し、ルイスは理解者から5冊の本を手にいれ100ドルの金で開店した。

    手押し車に本を載せて売って歩いていた。「よってらっしゃい見てらっしゃい」ルイスは呼び込みをした。

    通信販売も滑り出しがよく蔵書は少しずつ増えて行った。

    ルイスは店に来る人を拒まなかった、読みたい本があれば店で読ませ、質問には答え教授と呼ばれるようになった。


    ルイス・ミショーは本のこと、そして、本の販売のことに詳しかった。しかも、その知識を熱心に教えてくれた。やや自信過剰気味ではあるが魅力的な人物で、彼の書店、ナショナル、メモリアル・アフリカン・ブックストアは貴重な文献の宝庫だ


    でたらめの記事を書かれ悪意にもさらされ、黒人が集まるというのでFBIにも目を付けられていた。

    やがて黒人作家や活動家も本を読みに来た。そこで少年が育ち、詩人になった。

    公民権運動のさなか、店で読書に没頭していたマルコムXが暗殺された。続いてバス・ボイコット運動のキング牧師が暗殺された。偉大な指導者の名前は残っているが、それに参加した多くの市民は名もなく悲惨な犠牲者も多かった。その人たちに公民権が認められ人種差別は表面的には法で退けられ、人の尊厳は守られることになった。

    一粒の種をまくにもつよい意思と努力がいる。それを理解して協力する人がある。

    差別・区別することから逃れることがないのは人間本能の負い目だと思う。それを超えるヒントの一部はがこの本にある。

  • 1939年頃、黒人は本なんか読まないと言われた時代のアメリカで、黒人が書いた黒人の本を黒人に売る本屋を開いた黒人店主の生涯。
    綿密な取材を元に、本人や関係者のひとりがたりを重ねてルイス・ミショーとその時代をうかびあがらせていく。
    朗読劇にしたらおもしろそう。

    これは攻めの本屋。文化の発信をこころざした。
    白人との戦いではなく、奪われた誇りを自分たち自身にとりもどすための闘い。
    「ミショーの本屋」にはたくさんの人がつどい、知識を得て議論する。
    利用者が自分で人生を選べるように、力(知識)を身につける機会をつくる。
    これは図書館(本屋)のあるべき姿だ。

    マルコムXもここに入り浸った客のひとり。
    私はマルコムXとキング牧師に不良と優等生的な印象をもっていたけれど、「怒りを妥協しない理想主義の人」と「アサーティブに長けた現実路線の人」なのかもしれない。
    こんど自伝を読んでみよう。


    本のサイズとレイアウトが読みにくい。
    想像で書くしかない昔の部分は、100年以上前の人の価値観にしては現代的すぎるような気がするのが気になる。
    でもしばらく読むうちにのめりこんで、むさぼるように一気に読み終えた。
    いい本だった。

  • ハーレムで初めて、黒人のための本屋を開いたルイス・ミショーの物語。ルイス・ミショーの弟の孫が15年以上かけて書いた本。

    ルイス・ミショーや彼の周囲の人達の独白や写真、新聞記事や広告、FBIの記録などで構成された珍しい小説。小説なのかは正直分からないけど、たぶん小説だろう。

    黒人はまず自分自身を知らなくてはならない、という信念に一生を捧げた人。

    ニッキ・ジョバンニもこのお店の常連だったし、ボールドウィンの本も扱っていたんだって!それを思うと、そんなに昔の話でもないんだなぁ…。

    この本は信念を持った超人的な普通の人だらけだ。原著も読みたい。

  • 自分自身が何かを成し遂げた人はもちろん素晴らしいものを後に残していきますが、自分以外の誰かに知識を与えたり、学ぶことの大切さを気づかせたり、自身の大切さや可能性に気づかせることもまた、後に多くの人という種や芽を残していけること。ミショーは豊かな実りを後に残していった人だったと思う。

  • こういう本を読書感想文の課題図書にするのはいいことだと思う。
    この大きさと内容の見た目では、今どきの日本の若者が進んで読もうとすることはなさそうだから。
    (この大きさで、イラストも写真も入って1800円に抑えられたのは、もしかして早くから課題図書になることが決まっていたのではないかと思ってしまうが。)

    公民権運動やアメリカの黒人文学に詳しければ、より興味深く読めるが、知らなくても面白く読めるし、読めば知識も得られる。キング牧師は日本でも子供向けの本が多く出ているが、マルコムXに関しては少ないので、当時の二人の立ち位置がわかり、支持する人たちの熱気が伝わるのもいい。
    挿絵はベン・シャーン風でしゃれているし、FBIの文書や新聞、広告や遺言書などを入れつつ、様々な人物の証言で物語を構成するのもユニークだと思う。(この証言に架空の人物やフィクションが混じっているため、この本は小説の扱いとなっている。)

    あえて欠点を言うなら、持って読むには重い。
    黒人が書いた文学を読んだことのある日本の中高生は少ないので、いまひとつ「ああ、あの作家が、詩人が!」という感慨を持てない。(トニ・モリスンが一番今手に入りやすいとは思うが、一般的な中高生が気軽に読めるようなものではない。)
    この本自体が、公民権運動を歴史で学ぶアメリカの若者向けなので、ある程度知っていることを前提に書かれており、全く知識のない者にはわかりにくい部分もある。
    最後に注釈があるのに、本文に印がついていない。
    戦争のことにほとんど触れていない。(日本にとっては本土の一般人も攻撃された、たいへんな戦争だったけど、アメリカ本土の人たちはごく普通に生活していたのだろうか?黒人も徴兵されて戦死した者もいただろうに。)

    まあ、それでも、読む価値のある本。
    犯罪を犯したり、片目を失ったりなどの紆余曲折を経て、ルイス・ミショーが本屋を開いたのは40過ぎてから、というのは、大人にも勇気を与える。

  • アメリカの公民権運動、というと、キング牧師の名前とバス・ボイコット運動がまず頭に浮かぶけれど、この本を読むと、たった一人の人の功績ではないんだと思い知らされます。本当に多くの人が自らの闘いをそれぞれのやり方で闘い続けてきた結果として今があるんだなぁ、としみじみ思います。
    本のタイトルの人物、ミショーさんは、教育、啓蒙、の側面から闘いを続けてきた人のようです。教育って、簡単に結果が出ることではないので、誰もすぐには彼のしていることが理解できず、バカにされたり、援助が受けられずお金に困ったり。さらには家族すら障害となって立ちはだかってきます。それだけに、ミショーさんの活動が徐々に実を結んでいく過程、彼の声を聞いて大きく目を開かれた人たちのエピソードの数々は感動的です。彼のやってきたことがどんなにすごいことか伝わってきて、読んでいて何度か涙がこぼれそうになりました。
    原題の「No Crystal Stair」、この言葉の引用元のラングストン・ヒューズの詩は、この本だけでなく、他の多くの文学で引用されています。知っている人なら、この原題を聞いただけで、長いでこぼこの階段をゆっくり一歩ずつ昇る女性の姿が思い浮かぶと思います。
    ミショーさんの物語の中でも、全文が引用されています。一遍の詩が、誰かの人生を変えることすらできるという「ペンの持つ力」に驚かされる場面です。いろんなところで何度も読んでいる詩ですが、読むたび毎回激しく心揺さぶられます。タイトルになっているとおり、ミショーさんを始め、多くの黒人たちの歩んできた道と重なって感じられます。
    ミショーさんの訴えてきた「とにかく知らないことには話にならない」という教育の大切さを、私たちは当然のように享受していますが、それは先人たちの闘いのおかげであること、そして今もそれを得るために闘っている人たちが世界中にいることを忘れちゃいけないと思いました。

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