それでも、私は憎まない――あるガザの医師が払った平和への代償 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 亜紀書房 (2014年1月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784750514024
作品紹介・あらすじ
2009年1月16日—イスラエル軍のガザ襲撃中の爆撃により、3人の娘を失った医師は言った。
「わたしの娘たちが最後の犠牲者になりますように……」
報復を求めもしなければ、憎しみに駆られることもなかった医師は、同地域で人々に対話を始め、行動を起こすように訴えたのだ。
医師が模索した共存への道はほんとうにあるのだろうか——?
医師で作家の鎌田實氏、絶賛!
感想・レビュー・書評
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今起きているガザへのイスラエルの攻撃と沢山の悲しみをニュースや政治の大きな視点ではなく、そこに住む1人の人間の視点から知り合いと思ってこの本を手に取りました。
ちょうどヨーロッパに行く飛行機の中で時間があり一気に読みました。
入り込むのに少しかかったけれど、まるで映画のようなこの医師の現実と運命に引き込まれました。
やはり世界のニュースも日本のニュースも外側から見ていてガザの人の現実も人間性も日常も伝えられてはいないということ。
働きに出ることも、危篤の家族に会うのも、海外の大学に行くことも、水も食料も燃料も全てイスラエルの許可なしにガザからの出入りは許されず、世界の誰も見ていない瞬間に戦車の通り道にするという理由で家を潰されたり、小学生が早朝の仕事をして学校に行ったり、
それでも必死に生きようとしているガザの人々、そんな彼らの住む市街に爆弾を落とす必要があるのでしょうか。
目の前で、普通のひとなら心を壊しかねない家族の私の瞬間を目にしてもパレスチナとイスラエルの平和の実現を願い行動する主人公の言葉を読んでいると「戦争がこの世からなくなることなんてない」とどこかで刷り込まれたような台詞は決して言いたく無いと思いました。
沢山の人がこの本を読んで知って欲しいと思います。
戦争は何も生み出さない、過去の憎しみにとらわれてはいけない。
平和を信じて行動することを諦めない。 -
「この瞬間にも、地球のどこかで戦争のために命を落とす人がいる」という現実と、その現実を変えようともがき苦しむ人もいるという事実。日々の雑事に紛れて忘れてしまいそうになってしまうこの2つのこと。本書はそれを思い出させてくれる。
一度だけ仕事で訪れた時に見た、ガザの青空。かの地にすむ皆様が、何の憂いもなくその空を見れる日が来ることを祈って。 -
ノンフィクション
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中東のシナイ半島。東地中海に面する帯状の地域。パレスチナ・
ガザ地区。著者はそのガザ地区の難民キャンプで生まれた。
食糧、飲料水、医薬品。何もかもが不足している劣悪な環境の
難民キャンプで、著者は家計を助ける為に幼いころから学校へ
通う傍ら、様々な仕事に就く。
その時、イスラエルのある家での体験が著者にイスラエル人に
対する温かい気持ちを抱かせる。
イスラエルとパレスチナ。共に憎しみをぶつけ合い、その連鎖が
止まらない民族間を行き来することで、何かが出来ないか。
著者は医療の道を進むことでふたつの民族間の懸け橋になれ
るのではないかと考える。
並大抵の努力ではない。ガザ地区から出ることさえも多くの
困難が付きまとう。検問所での、単なる嫌がらせとも思える
長い長い待ち時間。治安上、危険な人物であるとの間違った
情報。
それさえも乗り越えて、海外での多くの研修やプロジェクトに
参加し、イスラエルの病院で不妊治療の専門医としての
仕事に従事する。
しかし、悲劇は待ってくれなかった。妻を白血病で失って
3か月後の2009年1月1日。イスラエルによるガザ攻撃の
最中に彼の自宅は砲撃される。
そして、3人の娘が命を落とした。
それでも、彼はイスラエルの人々を憎むことをしない。
「私の娘たちが最後の犠牲者になりますように」と。
憎しみの連鎖を断ち切ることは難しい。だが、それさえも
誰かが、どこかで断たなければ諍いはエスカレートこそ
すれ、止むことはない。
どんな宗教を信仰するか。どんな人種に属するか。それ
以前に、みんなが「人」であるのだけれどね。同じ血の
通った「人」であるのにね。
イスラエル建国から60年以上が経った。その年月は憎しみ
を増大させた年月でもある。共存すること。口でいうほど
簡単ではないのは分かっている。でも、日本から遠く
離れた場所とはいえ、誰かの血が流されることはもう
嫌だね。 -
ガザの難民キャンプで生まれ、想像を絶する苦難の末にイスラエルで研修医となった著者は、「片足をパレスチナに、もう片方の足をイスラエルにかけて」誠実に仕事をしてきた。ところがある日、イスラエルの爆撃で3人の娘を失ってしまう。
本書は、今はカナダのトロント大学で教鞭をとる著が、パレスチナの人々と彼らの直面した悲劇の数々を、当事者の視点で包括的かつ具体的に綴った回想録だ。彼は言う「娘たちがパレスチナとイスラエルが和平に向かう道のりの最後の犠牲者だったら、彼女たちの死を受け入れることができるだろう」と。
イスラム国のすぐ隣でも、不実な紛争が続いている。 -
著者はガザ地区のジャバリア難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人の医師。産婦人科医として、ガザに住みながらイスラエルで働いてきた。2009年にイスラエル軍によるガザ攻撃中の砲撃により3人の娘と姪を失ったことで彼が行ったこと、呼びかけを主とするノンフィクション。
一時ブクログランキングに載っていて手に取りました。イスラエルとパレスチナの関係性はニュースで知る程度で紛争地域というイメージしかありませんでしたが、想像していたものとは全く別物なのだと思い知らされました。写真が結構ショッキングで、著者がどんなに過酷な状況で生き抜いてきたのかよく分かります。彼はイスラム教徒で大家族の家長で私とはあまりに違いすぎるし、きっとものすごく努力家であるというだけでなく頭もいい。家族を失いショックを受けながらも「憎まない」でも「正当化させないために行動を起こす」という彼の姿勢は尊敬すべきものですが、正直自分だったら許すことはできないだろうとも思う。子供たちの安全を考えて故郷すら捨てなければならないパレスチナ人のことを思うと胸が痛みますし、ただ主張するだけでなくやれることは小さくても行動できる人間でありたい。 -
人間はなぜ、同じ誤ちを繰り返してしまうのだろう。政治や思想という巨大な力が、一個人にもたらす影響の大きさを再認識させてくれる本。パレスチナとイスラエルの現地で厳しい現実を体験した著者の言葉は、外側からでは見えない真実を読者に伝えてくれている。