芝園団地に住んでいます : 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか
- 明石書店 (2019年10月4日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784750348940
作品紹介・あらすじ
2016年の米大統領選挙で排外主義の台頭を目の当たりにした著者は、取材から帰国した後、住民の半数が外国人の芝園団地(埼玉県川口市)に移り住む。日本人住民の間に芽生える「もやもや感」と、見えない壁を乗り越えようとする人々を描いたノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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芝園団地の近くに住んでいます。なので芝園団地にはめちゃくちゃ関心がありました。
団地内の図書館を利用していますが、そういえば中国の人は見かけたことないかも。日本の書籍しかないし当然といえば当然か。
さて、住民の半分以上が外国人になった芝園団地に実際に生活しながら、団地の実態を描いた本書は、住人という当事者視点とジャーナリストとしての客観視点で書かれているノンフィクションです。
かつて『チャイナ団地』と揶揄された芝園団地は、URや自治会の地道な活動によって中国人住民のマナーも向上し、芝園団地自治会は2018年に地球市民賞を受賞するなど、多文化共生の優れた事例としてメディアでも話題になりました。
しかし著者が実感するのは、一見深刻なトラブルもなく共に暮らしているが接触がほとんどない【共存であって共生ではない】という根が深い問題でした。
外国人側の「協力しないけどイベントは楽しむフリーライド」と日本人側の「古参の居場所を奪われたくないという多数派の不安」は、著者も当事者としていろいろ働きかけるもお互いの歩み寄りはなかなか難しいもよう。
もちろん「共存」が悪いことではなく、芝園団地のありかたとして一つの選択肢ではあるけれど、この団地では「小さなステップでもいいから、何かあった時にお互いが協力しあえるような『顔の見える関係』を作っていきたい」というのが芝園団地を復活させた中心人物である岡崎氏の思いであるようです。
『顔の見える関係』という考えは非常に参考になりました。これは「中国人はこうだ」とひとくくりにして決めつけてはいけない、中国人でも日本人でも一人一人は違う。もちろんマナーも悪い人はいるが良い人もたくさんいるし、違う文化同士で交流を持ちたいひともいます。全体ではなく個人の顔を見れば偏見はなくなるのではないかという考え方です。
本書の最後の章で、筆者が芝園団地で起こっている問題についてインターカルチャリズムの有識者に質問しています。
根深い問題のひとつである『多数派の不安』への対処法は「正確には何を恐れているのか」聞いてみること。すると「我々の文化や居場所がなくなってしまう」というのは真実ではないことに気づく。そのうえで自分たちが決して妥協できない本質的な要素を問うてみると、それが移民にとって社会と繋がるためののチケットになる。とのこと。
これから人口がどんどん少なくなる日本にとっても移民問題は考えていくべき問題だし、現在私が住む川口市では中国人よりクルド人の移民が大きな問題になっています。つい最近もデモが起きてドキッとしましたが本書を読んで、「クルド人ひとくくりにしない」という意識を持つようにしています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
誰でも心の中に小さなトランプを抱えている…というのは、トランプ大統領が当選した時にメキシコ人記者が書いていた文章の一部。たしか、メキシコ人が「bad hombre」と言われて公然と大統領の敵意を受ける相手となっていた頃だが、一方でメキシコ国内では他の中米諸国からの移民を排斥しようという動きもあることを批判した内容だった気がする。この本の筆者も、自分の家族が米国でアジア系マイノリティーとして生きていくことについて考える際、マイノリティーとしての立場から訴えるのではない。自分がマジョリティーである日本の中で、まずは日本人の心の中にある「小さなトランプ」に向き合っている。すごいなあ。
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TVで同様の内容の報道番組を観て、図書館で借りた。
高度経済成長期に作られた郊外の団地で起きている現実を詳細にリポート。
日本の各地に似たような現象は起きているのだろうと思うが、阪神間在住していると、関東圏で起きているこのような事象を肌身で感じる機会は少ない。阪神淡路大震災後、様々な外国人居住者がいるということを知って、その後個人的な関わりを持つことも増えた。これから自身が中高年期を迎えるにあたって、どのように社会参加し、多文化コミュニケーション能力を培っていくべきかを自身に問いたい。
著者は観察者の視点と生活者の視点のバランス感覚を保ちつつ書いたとあとがきに書いている。芝浦団地の現状と課題は、日本がこれから本格的に向き合う課題でもある。いろんな人に読んでほしい一冊。 -
この団地、中国人が多数住んでいることで有名だそうだが、初期のゴミ捨てなんかのトラブルをうまく解決し、学生ボランティアらによる交流活動も盛んだったりで色んなグローバルナンチャラ的な賞をもらうほどになった。著者は新聞記者として実際にこの団地に住み、自治会活動にも参加しながら、住民だからこその目線で等身大の団地の姿を描く。
それは必ずしも理想の共生社会とかではなく、それぞれ(特に日本人側)のモヤモヤが鬱積しお互い距離を取り合う2分割されたコミュニティだったりする。理想論だけでは片付かない旧住民側の本音は突き詰めれば「この団地は自分たちのもの」という団地愛なのだが、それが一転して排外的にもなりかねない、微妙な空気をはらんでいる。
「それは差別だ」的な正論で押しても解決にはならない、旧住民が守りたい本当の価値とは何かを辛抱強く探り続けることが大切だというインター・カルチュラリズムに立つ社会学者の言葉が印象に残る。 -
個人的にこの団地の近くをときどき通るので気になっていた。
筆者はこの団地に住んでいる方なので生の声と言えそうだ。
外国人が多いというのは聞いていたが、芝園町の人口の半分以上が外国人とは。
ヒャッハーな感じのトラブル劇のようなことはあまりなくて、静かに分断されている団地という印象をもった。
日本人と外国人という人種的な分断に加えて、高齢の日本史と若い外国人の年齢的分断も感じた。
住人の外国人は中国系のIT技術者が多いのだそうだ。だが、中国のIT産業が栄え日本が没落したいく今後は、中国の若い技術者はわざわざ日本に来ないだろうという意見が印象に残った。
蕨の駅前などではイランやバングラデシュの方をよく見るが、また別のコミュニティがあるのだろうか。
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移民関連テーマとして、比較的近所にある芝園団地(団地内の外国人比率が5割を超えた団地)をテーマにしてる本があったので手にとった。
移民とつきあっていく上で複数の軸での課題があることがわかった。
・地域住民との「共存」か「共生」か
・「同化主義」か「多文化主義」か「間文化主義」か
・マジョリティが感じるネガティブ感情(マイノリティへのステレオタイプや、既得権益を失う不安)
日本特有、ではなくすでに他の国々でも同様の課題がでて考察されているようなのでそのあたりは理解しておきたい。 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001196606
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蕨に近いURが所有する芝園団地。
かつては、中堅サラリーマンが我が家を構える場所だったが、今や、単身高齢者が主体。そこに若い中国人IT技術者が多数住むようになり、コムユニティーが激変。その中で、住民同士の対立が生じ、外野が色々口を出し、自治会が融和を画策し、近年では、中国人よりベトナム人がの増加が目立つ、というグローバリズムの中の日本の縮図を描く。 -
2021/07/11
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外国からの移住者が住民の半数以上を占める芝園団地で、昔からのお祭り、餅つき大会などのイベントを通じて異文化人との共生にスポットを充てた作品。
これからグローバル社会になっていくことが決まっているので、自分事として将来を考えられる作品。
ノンフィクションドキュメンタリー映画にして公開しても良いくらいの内容がある本。