赤い星は如何にして昇ったか――知られざる毛沢東の初期イメージ (京大人文研東方学叢書)

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  • 臨川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784653043720

作品紹介・あらすじ

その名は轟けども姿の見えない毛沢東――政府官報に掲載された太っちょ毛沢東はいったい何者なのか。傑作ルポルタージュ『中国の赤い星』によって毛の素顔が明らかになるまで、偉大なる革命家は世界で如何なるイメージをもたれていたのか。世界中に散らばった毛沢東像の断片を拾い集め、本場中国の人びとも―あるいは毛本人すら―知らない、若き日の毛のイメージを浮かび上がらせる。『中国の赤い星』によって覆されるそのイメージとともに、同書が「名著」の高みへと昇る過程を描く。


【目 次】

はじめに――謎の毛沢東像

第一章 知られざる革命家
第一節 毛沢東その人 / 第二節 中国政界情報誌の毛沢東伝――中国初の毛沢東伝 / 第三節 一九三〇年代初めの内外人名録での毛沢東 / 第四節 コミンテルンという組織 / 第五節 コミンテルンはどれほど毛沢東のことを知っていたか

第ニ章 マオの肖像――イメージの世界
第一節 欧米は毛沢東をどう見たか――支援者の描いた「さえないおじさん」 / 第ニ節 「毛沢東死せり」――コミンテルンの流した訃報 / 第三節 毛沢東肖像画の登場 / 第四節 ロシア人エレンブルグの見た毛沢東――国外最初の毛沢東伝 / 第五節 雨傘を持つ革命家

第三章 国際共産主義運動への姿なき登場
第一節 毛沢東を持ち上げる王明――初の著作集の出版 / 第ニ節 ハマダンの毛沢東伝 / 第三節 「毛沢東伝略」――中国共産党員によって初めて書かれた毛沢東評伝 / 第四節 モスクワの毛沢東伝――コピー・アンド・ペーストの世界 / 第五節 高自立のその後

第四章 太っちょ写真の謎
第一節 太っちょ毛沢東の初登場――山本實彦著『支那』 / 第ニ節 朱徳写真という手がかり / 第三節 太っちょ毛沢東を掲載したのは誰か / 第四節 波多野乾一の中国共産党研究  / 第五節 外務省情報部――国民に何を伝えるか / 第六節 あの太っちょは誰か

第五章 スノー「赤い中国」へ入る
第一節 絶妙だった取材のタイミング / 第ニ節 同行者と仲介者――ハテム、馮雪峰、劉鼎 / 第三節 届かなかった荷物――劉鼎と「魯迅のハム」 / 第四節 妻ヘレン・フォスター(ニム・ウェールズ)の貢献 / 第五節 『赤い星』は毛沢東の検閲を受けたものだったのか

第六章 「赤い星」いよいよ昇る――名著の誕生とその後
第一節 「赤い星」誕生 / 第ニ節 寄せられる称賛と批判 / 第三節 『赤い星』英語版のその後 / 第四節 『赤い星』中国語版――『西行漫記』とスノー / 第五節 人民共和国での『赤い星』―― 秘匿された名著 / 第六節 ソ連と『赤い星』 / 第七節 戦前・戦中日本での『赤い星』 / 第八節 戦後日本での『赤い星』

附録 エレンブルグ「毛沢東――略伝」

感想・レビュー・書評

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  • 本書の前半ではスノー以前の日本をはじめとする各国の毛沢東に対するイメージを、毛沢東像(写真)の変遷を通したどったが、後半では、エドガースノーによって紹介される『中国の赤い星』の英語版各バージョン、ロシア語版、中国語版等を比較対照し、それらの違いとその原因を指摘するとともに、本書の評価が時の国際共産主義運動から離れてはありえなかった諸事情を紹介している。石川さんは500頁もの『中国共産党成立史』を書いていながら、こんな一見ミーハー的な、トリビアな本も書く。そこに共通するのは、徹底的に調べ、その過程を謎解きのように書いていくというスタイルである。読んでいてわくわくする。とても文才のある人である。スノー以前の毛沢東像で面白いのは冒頭で紹介される、社長然としたかっぷくのいい毛沢東像で、これがどこから来たかを石川さんは追いかけるが、それは結局解決できず、読者にゆだねるかたちで終わっている。この前半部も面白かったが、ぼくが面白かったのは、やはり後半のスノーの『中国の赤い星』のたどった運命である。文革時期に大学生活を送ったぼくも、若いときにこの本を読んだ記憶がある。本はいま手元にないから、どこかで売ってしまったのだろう。しかし、その印象がとても鮮烈だったことは覚えている。それはちょうど文革の時でもあったので、ぼくたちは中国に希望を感じ、その原点である延安の人々を描いた本書をまるで聖典のごとく読んだのである。スノーは当時知られていなかった延安地区をいわば、すっぱ抜き的に記事を書いた。それは当時の波多野乾一ら日本の中国研究者にはおよばないことだった。しかし、それには事前にいろんな準備があった。そもそも、スノーは一人で延安に赴いたわけではなかったし、当時は明かされなかったが、裏では宋慶齢たちが支援していた。しかも、スノーのこの探訪記事は、発表後必ずしも好意をもって受け止められたわけではなく、上はトロッキストたちに批判されたし、共産党に利用されただけだとか、中味をチェックされただのといった批判もあった。たしかに、その後の『赤い星』の修正にはそういう側面もないわけではないが、スノーはあくまでジャーナリストとしての立場を通したというのが、石川さんの主張である。一つ、石川さんらしいと思った箇所は、スノーが1970年に訪中し、毛沢東と会ったときに、毛から自分は「傘をさす和尚だ」と言われたことだ。これは実は中国語のしゃれことばで、その心は「(お坊さんに傘だから)髪の毛も天もない」つまり、これは「自分のしたいようにやる」という意味なのである。それを通訳を介したスノーは、孤独者としての毛沢東のイメージを表すものと解した。これはもちろん間違いなのだが、それは当時傘を持った毛沢東の画像(安源での。これはぼくも見たことがある)が出回っていたことと、当時の国民党軍が傘を持って行軍していたことで(だから、弱かった?その写真も石川さんは挙げている)、スノーの解釈はそうした毛沢東像から来ているのではないかと解釈していることである。それにしても、石川さんは内部本とか発禁本、それに英語版の各バージョン、ロシア語版にまで目を通し本書を書いた。各所でトレビアな印象を読者に与えるかも知れないが、本書全体に通底するのはやはり研究者の姿勢である。

  • スノーは提灯作家ではない、宋慶齢はじめかなりの人脈を築いて中国での取材を実現したこと、同行したレバノン系アメリカ人医師がいたことなど、取材の雰囲気が伝わって楽しく読んだ。太っちょ写真の分析に1章さくのはどうなの?文化大革命の過ちを当然まだ予測もできずに書いたスノーのルポルタージュ、ぜひ読みたくなった。

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著者プロフィール

1963年生まれ。京都大学大学院文学研究科史学科修士課程修了後、京都大学人文科学研究所助手、神戸大学文学部助教授を経て、現在、京都大学人文科学研究所教授。京都大学博士(文学)。中国近現代史を専攻。著書に『中国共産党成立史』(岩波書店)、『革命とナショナリズム:1925-1945(シリーズ中国近現代史 3)』(岩波新書)、『赤い星は如何にして昇ったか』(臨川書店)、編著に『中国社会主義文化の研究』(京都大学人文科学研究所)、共訳書に『梁啓超文集』(岩波文庫)などがある。

「2021年 『中国共産党、その百年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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