経済史 -- いまを知り,未来を生きるために

著者 :
  • 有斐閣
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本棚登録 : 252
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (598ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641165151

作品紹介・あらすじ

経済はなぜ成長するのか? 人類はいかにして生存してきたのか? 経済はいかに成長してきたのか? これらの問いを入口として,近代前から,分業,市場,貨幣といった経済学の用語のみならず,権力,文化,共同体等人文科学の基本的な概念も用いて俯瞰する歴史。

感想・レビュー・書評

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  •  人類の営みの歴史を経済という軸で著した本。入り口に「a.経済はなぜ成長するのか?」「b.人類はいかにして十万年もの間、生存してきたのか?」「c.経済は実際にいかに成長してきたのか?」という壮大な問いが立てられ、古代から現代にいたる経済の変遷が語られており、興味深く読み進められた。消化不良気味ではあるものの、面白さを感じながらひと月近くかけて読み通した本は久しぶりだった。
     さて、感想を記すにあたって困ってしまった。そもそも「経済とはなにか」という疑問が解消できていないことに気づいたのである。貨幣どころか国家、文化、文字すら共通点の想像の覚束ない時代から、(どうやって調べているのか知らないけれど)兆単位の収支が四半期ごとに出てくる現代の間に、共通する概念として「経済」を引き出すことができるのか、わからなくなってしまった。
     というわけでもう一度この本を振り返ってみると、3/4は近代以降のお話である。1/4の前近代以前は、人の「欲望」を基軸とした論で共同体・所有・生産様式・剰余処分について整理されている。近代以降、社会間の交流が広まったり、人口・生産量が増加するにつれて進んでいく統合、「経済」が抽象化されていくかを俯瞰してみるため、前近代以前のお話は、地理的に分断されていた社会それぞれにあった経済様式、経済を考える上での根本的な前提である人の欲望を理解する必要があるというわけだ。
     近世以降のお話も、私は知らない/理解していない話がたくさんあった。理解していたつもりの話題も、古代からの筋道をもった経緯として説明されると、霧が晴れたような気になったし、霧が晴れたらもっと詳しく見たいところもたくさん出てきた。
     この本の最大の特徴は、イデオロギーに走らないという点にある。終盤、社会主義、共産主義、自由主義、ナショナリズムに対する記述があったりして、そこだけ読むと「反ナショナリズム」(いわゆる「サヨク」)の本だと誤解されそうなのだが、そうではなくて、経済は社会的感情を根に持つ政策課題ではないし、そのように仕向けても限界が見えているという主張が丁寧に述べられている。そもそもコントロール可能な経済活動はほんの少しだというところが、前近代のところで述べられているのだ。注意深く読まないと好き嫌いが分かれそうで怖い本でもある。
     終章に出口の問いがある。経済の前提を覆すような難しい問いである。ここでさらに、「経済とはなにか」という問いに明確な答えを持っていないことに気づいてしまうのである。
     最後に、もっと知りたかったことについて記しておく。まず、イスラム社会の経済について。私たちの社会経済と根本的に違うところがあるような気がするのだが、これはうまくいっているのか否かがよくわからない。そして、資本とはなにか、資本家(投資家)とは誰か、ということ。もともとこの本を手に取ったのは、労働者に経営的視点が求められているにも関わらず、日本企業、少なくとも私の知ってる企業(私の勤め先も含めて)は経営者が見据えるべき資本家(投資家)との関わりが希薄で顧客との関係性ばかり気にしているがどういうことなのかが知りたかったのだ。
     もう一つ補足、賃金労働と俸給労働のギャップが経済(学)的な大問題で、未解決というのは非常に興味深かった。そもそもが一定の貧困発生の問題に帰着すべきなのに、正規/非正規の社会的分断を創造して問題化しても解決策が見当たるわけがないのだと理解した。

  • 第51回アワヒニビブリオバトル「芽」で紹介された本です。
    2019.04.02

  • 想定読者は大学学部1〜2年生。通年の経済史基礎などの科目教科書として書かれたと言うが、社会人が読んでも十二分に面白いし、かなり歯ごたえがある。ページ数からして540ページ。自分は通勤のバスの中で読んだが、読み切るのに10日ほどかかった。

    基本的な概念を身近な例を用いながらこれでもかというほどわかりやすく説明している箇所もあるのだが、一方でやや説明が雑かなと思われる部分もあり、こういうテキストはバランスが難しい。

    個々の論点については一々書かないが、ユニークな教科書であることは間違いない。小田中直樹先生の『ライブ経済史入門』などと読み比べるのも面白いかと思う。

  • 経済を欲望という軸から捉える。
    大学のリベラルアーツ特集で取り上げられていた本だけあって、経済だけではなく多種多様な学問を総合的に「経済史」に落とし込んでいるため、好奇心が途絶えることなく540ページも難無く読めちゃった。

  • OT6a

  • 経済の定義がまず面白い。

    人の際限のない欲望を皮切りに、ロジカルに歴史が説明されていく。

    現状の社会のあり方を考えたい人にオススメ。

  • 332||On

  • 【書誌情報】
    『経済史 -- いまを知り,未来を生きるために』
    著者:小野塚知二 (東京大学教授)
    2018年02月発売
    四六判並製カバー付, 598ページ
    定価 4,320円(本体 4,000円)
    ISBN 978-4-641-16515-1
    Economic History: A clue to know today and live the future

    経済活動を推し進めてきたものは何か? どこへ向かうのか?
    経済はなぜ成長するのか? 人類はいかに生存してきたのか? これらの問いを入口に,今後も成長することは可能か、といった出口の問いに向けて,近代前から,分業,市場,貨幣といった経済学の用語のみならず,権力,文化,共同体等人文科学の基本的な概念も用いて,歴史を俯瞰する。


    【目次】
    序章 経済史とは何か 

    Ⅰ 導入──経済,社会,人間
    1 経済成長と際限のない欲望
    2 欲望充足の効率性と両義性 

    Ⅱ 前近代──欲望を制御する社会
    3 総説:前近代と近現代 
    4 共同体と生産様式 
    5 前近代社会の持続可能性と停滞 
    6 前近代の市場,貨幣,資本 

    Ⅲ 近世──変容する社会と経済
    7 総説:前近代から近代への移行 
    8 市場経済と資本主義 
    9 近世の市場と経済活動 
    10 近世の経済と国家 
    11 近世の経済規範 
    12 経済発展の型 

    Ⅳ 近代──欲望の充足を求める社会・経済
    13 産業革命 
    14 資本主義の経済制度 
    15 国家と経済 
    16 自然と経済 
    17 家と経済 
    18 資本主義の世界体制 

    Ⅴ 現代──欲望の人為的維持
    19 近代と現代 
    20 第一のグローバル経済と第一次大戦 
    21 第一次大戦後の経済 
    22 第二次世界大戦とその後の経済 
    23 第二のグローバル化の時代 

    終章 「現在」「未来」をどう生きるか

  • これは面白い。経済とは何か、なぜ経済は成長するのか、その発展を段階を追って解説してくれる。個人的には利潤の経済発展への影響が理解でき、非常に有用だった。勧められて読んだが、自分もこの本を人に勧めたい。

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著者プロフィール

東京大学教授

「2022年 『経済史・経営史研究 入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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