御嶽山噴火 生還者の証言 あれから2年、伝え繋ぐ共生への試み (ヤマケイ新書)

著者 :
  • 山と渓谷社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635510363

感想・レビュー・書評

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  • フィリンピンでインターンシップ活動を行っていた時に滞在していたゲストハウスで、ある登山愛好家の女性と会った。登山のシーズンには、山小屋のスタッフとして働くという彼女は、大好きな山の景色や山小屋での勤務の様子を楽しそうに話してくれた。しかし、そんな彼女の表情が変わる話題があった。2014年9 月27 日11 時52 分。御嶽山が噴火したまさにその時、彼女はその山の中にいたというのだ。山小屋で働いていた彼女は噴火した時の様子を静かに話し始めた。大きな音とともに視界が真っ暗になったこと。鳴りやまない電話。外から避難してくる登山客。恐怖や恐れ。涙を浮かべながら話すその姿を見て、とても他人事とは思えなかった。
    帰国後この本と出会い、あの時御嶽山で起こったのか、噴火から生還した方の話をもっと知りたいと思い手に取った。本には噴火当時の様子や、遺族や生還者の証言がリアルな表現で記されていた。読んでいると当時の様子や証言された方々の言葉に胸が締め付けられるような気持ちになった。途中、学者や気象庁職員の発言が目に留まった。「九月下旬、山頂に大勢の登山客がいるとは思わなかった。」登山客や山小屋スタッフの安全を守るために火山活動をモニタリングしているはずの人が、データだけを見て山の様子に気を配れていないことに驚いた。せっかく地球科学を学び、知識を生かして防災・減災に取り組んでいても、フィールドの今をしっかりと見つめて情報や知識を社会に還元しなければ、人命を救うことはできないのだと再認識した。自然には、人間がどんなに素晴らしい技術を生み出しても敵わないような出来事がたくさん起こる。この本と出会い、地球科学を学ぶ私たちはそういった大きな相手を対象に学び・研究していること。そしてその学びを社会に還元することが誰かの命を救うことにつながることを忘れてはいけないと思った。また、自然の恐ろしさを再認識するきっかけにもなった。日本は自然災害の多い国である。自分の身を守るためにも、大切な人の身を守るためにも是非読んでほしい1 冊だと思う。 (地球惑星科学コース 3年)

  • 2014年9月27日、御嶽山が噴火し、63名の死者を出す。

    その噴火時、御嶽山を登山中だった著者は幸運にも生き残る。噴石が降り注ぎ、火山灰が視界を遮り、強烈な硫黄の匂いが漂う中、生きて下山することだけを考えて行動した著者。体が隠れるギリギリの岩陰に身を隠し、一瞬の判断で斜面を駆け下りる。途中で動けなくなった避難者とすれ違うこともあった。

    そんな切羽詰まった非日常の光景から、生還。九死に一生を得た著者だが、生き延びた満足感、安心感よりも、自分だけが助かったことや報道インタビューで自分の発言がねじ曲げられたことへの後悔の方が募る。

    また、今回の噴火で著者が助かった理由は「運が良かった」と述べる。そりゃそうだ。噴火時にいた場所や噴石が当たらなかったことなどは運次第。著者と死者を隔てたのは「運」に他ならない。だからといって、登山での生死を運に託すことは登山家として許されることじゃないし、死者を「不運だった」で済ませるわけにも行かない。

    著者は勇気を持って本書で御嶽山噴火について語る。緊迫の噴火ドキュメンタリー、助かった者と助からなかった者との違い、マスコミへの提言、登山者の山に対する向き合い方など。今回の噴火で得た多くの教訓を後世へ伝えようとする必死な気持ちが伝わってくる。

  • 噴火当日の事よりもその後の話、今後どうしていくべきかを書かれている。
    単に噴火の恐ろしさを伝えるだけでなく繋げていく大切さを、そして山に入るという事を考えさせられる。

  • この噴火から何を学ぶか。
    最初から最後までその点について語っている。
    もちろん運の良し悪しが大きいのだけど、運が悪かったで終わらせてはいけない。
    それは遺族を傷つけることになるかもしれない。それでも著者はこの噴火を忘れてはいけない、教訓を得なければならないと本にまとめている。
    報道で、噴煙の写真を撮っている、噴煙を逃げず見上げている人が多くいたことを知っている、噴火と関係ない第三者はだいたい皆、噴煙を見た瞬間逃げるべきだったと、本書を読む前から思っていただろう。
    (もちろん自分がその場にいたらその行動ができなかっただろうことは知りつつも)
    そして、本書も「結果論だが、結局は、噴煙を見てどれだけ早く命を守る行動ができたか」それが生き残るために大切だった、という結論であった。
    あとは、地形が頭に入っていることや山歩きに慣れていることなども上げている。
    ……正直、本書を読む前からわかっていた結論だな、と思ってしまった。
    また、本書は、同じことの繰り返しが多く(同じことを省いて内容をまとめれば本の長さは3分の1になりそうなくらい)、回りくどい表現が多い。
    当たり前でわかっていることを二度も三度もどころか6回くらい繰り返すので読んでいて少ししんどい。
    また、多くの生存者を取材したものではなく、生き残った著者自身の経験のみで、本にする以上もっと調査してまとめてほしかった。
    正直、内容は調査不足で、文章は編集者仕事してください、と思った。
    もちろん生存者の記録は貴重なものなので、その意味で星3つ。

  • 筆者の覚悟がすごい
    記者達に間違った情報を記事にされて世間に批判されてもそれでも伝えてくれるのはとてもありがたい

  • ニュースで見て唖然とした御嶽山の突然の噴火。
    2014年9月27日、午前11時52分。

    噴火の瞬間、火口からわずか350mmの距離にいた山岳ガイドが、命からがら避難して生還し、2年後に記された迫真のドキュメンタリー。

    著者自身の証言だけではなく、他の生還者の証言も交えて生々しく記された、噴火当時の頂上付近の様子を時系列でまとめた第一章に、思わず引き込まれる。

    著者自身、全く予想していなかったという噴火に対し、生き残れた人々と犠牲になった63人の差異を、「運が良かった / 悪かった」という極論に走ることなく、努めて冷静にまとめ上げた力作。

    生還後のマスコミによる報道で、自身の発言を切り取られ、歪められて発信される恐怖の中で、挫けずに公演を続け、この様な本を出版してくれた勇気に脱帽した。

  • 斜に構えた言い方をすると「導入部分から筆が折れそうなくらい力入りまくってるなあ」という気もしないではなかったが、題材が題材だけにそうなることはよく分かるし、何とかして伝えたいという気持ちは伝わってきた。個人的に登山もするが、日本は火山国という厳然たる事実を改めて認識させられた。

  • 御嶽山が噴火した時、ぼくはたまたま飛行機の中で、モニターに映るニュースで知ったのだけれど、一体何が起きたのかよくわからなかった。木曽御嶽山という名前は知っていたけれど、噴火をするような活火山だという認識はなかったし、どんな規模の噴火が起きて、何が危険で、何がどうなったのかもわからない。ただ不安だった。
    たぶん、その時山に居た人もそうだったのだろう。ぼくが巻き込まれても不思議ではなかった。

    著者は山岳ガイドで、当時単独で火口のそばにいて、生還した人だ。亡くなった人のためにも、体験を伝えなければ、と繰り返す。気持ちはわかるのだが、正直彼女の経験が同様の事故を防ぐために役立つとは思えない。山登りをする誰一人として、噴火を想定していない。噴火の可能性を考えるなら、そもそも山に近づかないのが唯一の対策のはずだ。そういう意味では自分が登ろうとしている山が活火山なのかどうかを知るのが第一歩だ。

    そう思って改めて活火山のリストを見てみたら、日本には海底火山も含めて99の活火山がある。富士山はもちろん、赤城山に箱根山、伊豆大島に新島三宅島だって活火山だ。ちょくちょく遊びに行く場所のそばにも活火山がある。那須岳って、昔学生時代の仲間と登ったことなかったっけ?

    勉強になった。

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