ヤマケイ文庫 人間は、いちばん変な動物である~世界の見方が変わる生物学講義

著者 :
  • 山と渓谷社
4.13
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本棚登録 : 213
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635049399

感想・レビュー・書評

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  • 2009年に亡くなった著者の最晩年の講義録を収める、2010年出版著作の文庫化となる。全13講、それぞれ約20ページで、全体が260ページほど。動物学者である著者のことは知らず、書店でタイトルに惹かれたことがきっかけで購入した。

    講義が行われた時点で高齢だった著者による講義は非常にフランクな語り口で、誰が話を聞いても理解できるような平明な言葉によって語られている。専門性を意識した大学での講義というよりは雑談に近い雰囲気で、各講の短さもあって、著作としてはエッセイの感覚で気楽に読める。

    全体を通してのテーマとしてはタイトルの通り、「人間とは何か?」という素朴かつ回答の難しい問いである。そのうえで、おおむね前半は生物学的な切り口が多く、後半は社会学的な話題に移り、ときには哲学者の言葉なども紹介される。著者の専門としては前者ではないかと思えるのだが、どちらかといえば後者のほうが著者自身の興が乗っているように見える。

    本書のなかで、著者が繰り返し強調して述べることで印象的なのは、第6講の見出しにもなっている「遺伝子はエゴイスト」という見方に表れる。ハヌマンヤセザルの研究から、それぞれの種族は種族の維持などといった大きな単位での目的などは意識しておらず、「とにかく自分の血のつながった子どもが欲しい」という欲求が、生物一般の本来の在り方だという認識が著者の結論のひとつのようだ。

    もうひとつ印象に残ったのは、「遺伝か、学習か」に関しての話題である。ふたつの対立する観点について、学習とはいっても、生得的・遺伝的なものを身につけていくためにあるものだという捉え方は、つまり学習にしてもその背景にあるものは遺伝であり、一種の宿命論的な考え方にも思える。個人的には、最近読んだ『はじめてのスピノザ』にある「自由」の概念と一致すると感じるところもあり興味深い。

    全体としては、まさに雑談を聞いている感覚だった。講義全体を通して何かを突き詰めるというよりは、「あんなこともありますよ、こんなこともあります」という話の連続で、脱線も少なからずあり、一種のトリビア本のような要素もなくはない。お題を提示してもとくに着地点はないような展開も珍しくなく、それだけに、あまりきっちりした議論などを期待すると肩透かしに終わりそうである。柔らかい内容の新書ぐらいのイメージで、移動の合間に読むぐらいの気楽なスタンスのほうが適していると思える。

  • 日高先生の本がまた文庫になって、こうして読むことができるという幸せ。うーん、知っている話も多かったのだけれど、驚きの事実が発覚してしまった。長谷川眞理子先生の本で読んで、ずいぶんとたくさんの生徒たちに話をしてきた。それは、クジャクのメスが、オスの羽にある目玉模様を見て、交尾する相手を決めているということ。目玉の数が多い方がモテるのだということ。しかも、100個以上もある目玉模様の微妙な数の差を見分けているということ。一瞬で。カメラアイというのだろうか。そういうものを見分けることができる特殊な能力があるのだなあと長年思ってきた。思っていただけではなく、人にも話してきた。それがどうやら間違いだったらしい。そして、何と長谷川先生は新版で訂正をしているとのこと。そこまで確認していなかった。新しい研究によると、オスの鳴き声を聞き分けているようだ。うーん、どうなんだろう。目玉の数を一瞬で見分けるなんていう方が魅力的なのだけれどなあ。さて本書は日高先生が、晩年、京都精華大の学生相手に半年ほど講義をされたものがもとになっているとのこと。久しぶりの講義だったようだけれど、もう本当に何も知らない学生相手という感じでお話されているので、小中学生でも興味深く読めるのではないでしょうか。しかも、こういうのって普通ちくまから出ることが多いような気がするけれど、ヤマケイ文庫からということで、なんとも良い感じです。確か、梅棹忠夫先生の本も出ていたはず。既刊本のラインナップにはあがってないけど。

  • 面白かった!一気読み。
    話口調で読みやすい。
    主観に終始せず、様々な研究や歴史を踏まえた考察で腑に落ちる。
    分からないことは素直に分からないと言うところも好感◎

  • おんんんんもしろかったー!!!!!!
    ほんとに人間って変、二足歩行だしおっぱい前についてるし、首も上に伸びてるし、いらんこと色々考えたり、本当に変。笑

    ハヌマンヤセザルの話がおもしろかった。
    オスがとにかく自分の遺伝子を残したくてたくさんのメスに言い寄って、メスは強い遺伝子を残したくてオスを吟味して、
    そうじゃない人間もたくさんいるとは思うけど結局遺伝や進化の根本がここにあるから男の人の方がたくさんと浮気するとかいうのかな。女の人はパートナーと似てない人と浮気したりとか。

    そもそも子ども残す気もパートナー作る気も全然ない私は、遺伝や生き物としてのあれやこれやから大分逸脱してるんではないかとも思いました。笑

  • 480
    人間とは、いったいどういう生き物なのか?―動物行動学の泰斗である著者が、生物としての「人間」を、容姿・言語・社会などの話題をさまざまに展開しながら、わかりやすい言葉で語る。ドーキンスの利己的な遺伝子、ダーウィンの進化論、チョムスキーの生成文法、ヴァー・ヴェーレンの赤の女王説など、生物学の基本的な理論も本書を読めばユーモアを交えた解説で楽しく理解できる。著者が京都精華大学で行った最晩年の講義であり、今を生きる「人間」必読の一冊。

    目次
    動物はみんなヘン、人間はいちばんヘン
    体毛の不思議
    器官としてのおっぱい?
    言語なくして人間はありえない?
    ウグイスは「カー」と鳴くか?―遺伝プログラムと学習
    遺伝子はエゴイスト?
    社会とは何か?
    種族はなぜ保たれるか?
    「結婚」とは何か?
    人間は集団好き?
    なぜオスとメスがいるのか?
    イマジネーションから論理が生まれる
    イリュージョンで世界を見る

    著者等紹介
    日〓敏隆[ヒダカトシタカ]
    動物行動学者。1930年東京生まれ。東京大学理学部動物学科卒業。理学博士。東京農工大学教授、京都大学教授、滋賀県立大学初代学長、総合地球環境学研究所初代所長、京都精華大学客員教授を歴任。2000年に南方熊楠賞受賞、2008年に瑞宝重光章受章。2009年11月没。広く深い教養をバックボーンに、誰にでもわかる平易な言葉で、動物行動学および生物学の魅力を長く伝えてきた功績は大きい

  • 授業を受けてるような一冊でした。面白かった。人間に毛が無い理由とかオッパイの話とか。

  • 人間が他の動物と異なる部分にフォーカスし、とは言っても結局動物なんだよね と言う結論に落ち着く。

    まず20~30万年前、アフリカで出現したホモサピエンスの身体的特徴から。直立二足歩行に適した身体の特徴的構造、エズモンド·モリスが裸のサルと呼ぶように、体毛がない理由、単なる哺乳器官としてだけではなく性的シンボル、美の象徴にまで昇華した乳房。
    ヒトはチンパンジーやゴリラ等と同じように無尾猿apeのグループであること、人間には性器の周りに陰毛があるが、逆に動物では毛がない(頭髪は別として全身から毛が無くなると、どこに性器があるか分からなくなるから?)等は、新たな発見だった。
    次に言語や遺伝子の働き、適者生存や適応度の説明、オスとメスの両性に分かれている理由等を通じて、子孫を残そうとするメカニズムを説く。

    著者の日髙敏隆さんが、京都清華大学の客員教授をされていた時に講義をされた、全13コマの内容をまとめたもので、学生に飽きがこないように、面白くまとめられていると感じた。

  • 2010年昭和社出版の改版? であるという。日高先生という方の講義がもとになっているそうだ。
    興味深く、面白く、わかりやすい本だった。これは私だけかもしれないけれど、科学、『人間というのは』とかかればやれ倫理やら優越性やらこんぐらかったことを聞かされるようなものだと思い込むところがあるから……
    ところがこの本では人間が動物だと規定したうえで「どういうところが」ヘンなのか解説してくれるわけで、科学迷子の私にもとても興味深かった。またそのヘンを返して「ではほかの動物にはいないのか?」というところまで講義されていてたのしかった。
    釣り込まれて、「では私たちがいま『多様性』を求めているのは「ちがい」を求めて自分の血の入った子孫を残すためなのか、それともほかに……」などどわくわく考えはじめてしまった。

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