ヤマケイ文庫 たった一人の生還 「たか号」漂流二十七日間の闘い

著者 :
  • 山と渓谷社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635047678

作品紹介・あらすじ

1991年12月29日午後8時ころ、小笠原諸島沖で、暴風雨のために外洋ヨットレースに参加していた「たか号」が突然転覆してしまった。巨大な崩れ波だった。そして艇長の死。残された6名は、救命ボートに乗り移り、あてどない漂流がはじまる。しかし、クルーは衰弱して、次々に死んでしまう。27日間にわたるこの壮絶な闘いは、たった一人生きて還ってきた著者が、仲間たちのために書き残した鎮魂の記録である。

感想・レビュー・書評

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  • 「極限メシ!」を読んで初めて知った「たか号海難事件」
    そして佐野三治さん

    佐野さんがその事件を書き記した本があると知って読んでみた。

    本は27日間の漂流の末に救出されたところから書かれているのだが、もうそこを読んだだけで涙が止まらなかった。

    ヨットレースに参加することになった経緯、ボートの転覆、着の身着のままでライフラフトで脱出した仲間たち。
    少ない食料と水
    それをシーマンシップにのっとって分け合いながらの漂流。
    そして命を落としていく仲間たち
    死と隣り合わせの過酷な漂流体験は本当に想像を絶する。

    その数日間を正直な気持ちとともに淡々と記している
    しかし、だからこそ佐野さんの文章からにじむ悔しさや無念さ、そして仲間への思いと後悔がダイレクトに伝わってくる。

    喉の渇き…
    こんなに恐ろしいことはない
    あの恐ろしさは体験したことがある人にしかわからないだろう(思わず私もお水を用意しながら読んだ)

    救助、そして入院、遺族方へのお詫びとあいさつ
    「たった一人生き残ってしまった」という佐野さんの後悔に似た悲観のような思いを打ち砕くような遺族のあたたかい言葉と思いやりにまた私も涙が止まらなかった。

    「生かされている」
    人はきっと何かに生かされている。
    だからこそ大切に生きよう…
    読み終わった後はなんだかそんな気持ちになった。

    最後に辛坊さんが解説を担当されているのですが
    その言葉も深い。

  • 椎名誠の十五少年漂流記への旅を読み、この書も読みたくなった。
    十五少年漂流記への旅を読むまでは、昔の日本人が海で漂流し外国へ漂着したなんて考えたことも無かった。
    漂流というものがどれだけ壮絶であるのか…たった一人の生還には事実が記されていた。

    生還をした筆者が、時間の経過とともに自分の記憶が美談に変わってしまうのが怖いと言っている。
    決してすり替えるつもりもなく、美化する意図もなく、それでも人の記憶は経過とともに不安定になる。
    それを素直に記すあたり、筆者は誠実な人であると思う。
    この漂流で旅だった仲間のためにも記憶が確かなうちに記したいという気持ちが涙を誘う。

    ヨットの構造、各部の名称、装備品、無知識で読み進めたけれどスケッチから
    こんなとこなのかなと想像出来た。

    あとがきも本編に負けず劣らず素晴らしい。
    そして何より解説が吉村昭というスペシャル。
    ノンフィクションの巨匠、吉村昭にここまで語らせる筆者の人となりとこの事故の注目度は目を見張るものだろう。

    筆者とともにヨットレースでグアムを目指すも海に散ったヨットマン達に黙祷を捧げる。
    安らかに眠れますように。

  • グアムまでのヨットレースで船が転覆し、救命ラフトで27日間も漂流したあとに一人だけ生き残った著者による手記。1992年1月の事故なので、ネットはなく、マスコミの報道のみがメディアだった時代の出来事。

    著者はプロの物書きではないために文章の構成に素人感があるが一気に読んだ。

    羽休めのためにラフトにとまった渡り鳥と雨水のみで命をつないでいく経緯はリアルストーリーであるだけに圧巻。




  • 7人の仲間で挑んだヨットレースで起きた遭難事故。
    27日間の遭難の末、ただ1人生還した男性が著した壮絶な実話。


    知識として幻覚とかの症状が起こることは知ってたけど、やっぱり実話として読むのは全然違う。
    衰弱で死ぬときって気づいたら死んでるんやな。


    27日間、時間も場所もわからずどこを見ても海しかないなんて、感情が麻痺して当たり前で、死に対する執着なんてなくなるやろうな。

    助かったときの「終わった」がそれを表してる気がする。


    なんで1番若くもない著者が生き残ったのか…神のみぞ知るって感じやけど、生きててくれてよかった。
    この本を残してくれてよかった。


    ただこんなことが起きても、また海に出てボートに乗りたいと思うんやな。
    それに1番びっくりした。私ならもう無理。


    一生体験し得ないことが知れてよかった!
    海上保安庁もっとしっかりしてほしい!

  • 私が読んだのは新潮文庫の
    1995年刊の旧版になります。

    1人で海上で漂流した記録。

    私のような人間が評価するのが
    非常に憚られる
    凄い内容の本です。

    ただあえて言わせて頂ければ、
    文章が非常にきれいで読みやす過ぎるのが
    ちょっと気になりました。
    おそらく新潮社の編集者などのが
    読みやすいように文章を
    大幅に書き替えている、
    もしくは編集者による聞き書きように
    私は感じました。

    もちろんこれは批判ではありません。
    一般向けの商業出版物である以上は
    内容や文章に対して編集者などが
    手を加えるのはごく当然のことです。

  • 「極限メシ」の記事を読むまで存じ上げなかった。海難事故生存者の記録。
    さて、ここでなにか小賢しいことを言おうという気も起きない。
    極限状態におかれた人間、その条件下で生死を分けられること、その記録を読ませていただいた。

  • 25年(?)ぶりに読み返し。27日間の極限状態を生き残れたのは、奇跡としか思えない。亡くなった仲間もっと気の毒だが、生還しても苦しみは大きい事を知った。

  • たか号自体は知っていたので、すんなり読み進められた。
    1人生き残るってどんな感じなんだろうっていう好奇心のみ。
    思ったより淡々と書かれていて、少し他人事のような表現もあったけれど、だからこそ心を保てた人なのかなと思った。
    こんな経験したのに、まだヨットに乗っていることに驚いた。

  • 1992年(平成4年)1月:小笠原諸島父島沖、『トーヨコカップ・ジャパングアムヨットレース'92』に参加のヨット「たか」号、航行中に転覆し1名が水死、残った6名は救命いかだで脱出、途中で5名が衰弱死、カツオドリを2度捕らえて食べた。漂流27日間(1991/12/30~1992/1/25)、オーストラリアへ向かう途中の貨物船に救助された。生存者1名。
    更に日本海洋技術専門学校から同レースに参加していた「マリンマリン」も同様に遭難、沈没。クルー8名が死亡または行方不明、2名を救助。日本外洋帆走協会(現、日本セーリング連盟)史上最悪の惨事。

    ウィキペディアの遭難より。

    上記の事故の1人の生き残りの人が書いた本。
    生き残りの人その本人が書いた物はどうしても本人の主観や感情がメインの本になってしまうけど、これはそれが良かった。
    狭いボートの中での生存と、仲間が亡くなっていく過程、かなしいけれど、涙は水分だからもったいないなという気持ち、なんで水を全く飲んでいないのに涙が出るのだろうという記述には、壮絶な生々しさがある。
    なぜ1人だけが生き残ったのか?なんで自分だけが生き残ったのか?本人も気にしているのだろうけど、医者の言葉としては、ただ、運が良かったのだ、たまたま、生き残るのに向いていた体だった、ということになるらしい。本人も文中で、たまたまウンが残っていたからだと書いてある。これは一つの遭難事故にあってたまたま生き残った人のひとつの人生への回答と折り合いに書かれた文章だな、と思った。
    あと、文中で1人生き残ってしまって、ただもうどうでもいい、しかし悔しさだけが残るという気持ちの中で、金玉を握ると落ち着いたと書いてあったところが妙にへーそうなのか…という気持ちになった。ミニヤコンカ遭難の人もそう書いてあったらしい(こちらの本はAmazonの評価が厳しいのでまだ未読。)
    そうなのか…人は、人が本当にいないところでは、自分が生きているのかすらわからないような壮絶な孤独の世界では他人の体温が欲しくなるのか…となんとなく思った。
    文庫表紙の、濃い青の海に一つ浮かぶラフトのオレンジの色がすごく印象的だなと思ったら、救出されたその時の写真とのこと。本を閉じたときに、オレンジの色がやたらと鮮明に見えるような気持ちになった。

  • 漂流記のノンフィクションだ。
    そんなに昔のことではないが、ネットで検索しても本書のこと以外はあまりヒットはしない。漂流記、遭難記、冒険談は色々読んだが、そのうちでも本書の内容はそんなに濃いものではない。ただ、一気に読める本ではあった。
    一人だけが助かったと言うこともあり、他の遺族の方に遠慮してと言うこともあってか、27日の漂流の間に、どのような心の動きがあったのか、他の人たちとのコミュニケーションはどうだったのか、など、あまり語りつくせなかったのではないかと思う。もう少し時間を置いてから書いた方が良かったのかもしれない。
    ただ、著者は、あとがきで、時間を置くと、美談になったり、忘れてしまうことがあるかもということで、このタイミングになったようだ。

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