トロイアの真実―アナトリアの発掘現場からシュリーマンの実像を踏査す

著者 :
  • 山川出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634640696

作品紹介・あらすじ

エーゲ海に面したトルコのヒサルルック遺跡は、シュリーマンの発掘以後、1世紀以上にもわたりトロイアとして発掘されてきた。その根拠はみつかったといえるのだろうか。掘りつくされたヒサルルックが今なお多くの研究者を惹きつける理由は何か。日本の一考古学者が追う。

感想・レビュー・書評

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  • ☆著者はアナトリア考古学研究所長。近年、シュリーマンへの批判が多い。たしかに、シュリーマンが発掘した場所がトロイアであるという証拠はないとしつつも、素人シュリーマンの情熱は本物であり、その発掘行為が次の研究につながったとしている。

  • シュリーマンの伝記は子供のころに読んで、強い印象が残っています。シュリーマンのトロイアであるヒサルルック遺跡について、同じアナトリアで発掘作業を行っている著者が、発掘の歴史から現在の状態までを詳細に述べています。現地の写真や発掘品、関連資料の写真が豊富に掲載されており、これを眺めているだけでもとても楽しめます。シュリーマンが素人でかなり無理な発掘をしたという話は聞いていましたが、ヒサルルックがトロイアである証拠は何一つないという事実には驚きました。その辺りの事情や根拠も詳しく述べられています。

  • シュリーマンと言えば、子供のころに読んだ物語が史実だと信じ、ビジネスで成功を納めてから、財をつぎ込んで遺跡を発掘、トロイを発見したことで有名。

    とはいえこれを様々な検証からねつ造とする本もあり、実際のところ彼がトロイと結論付けたヒサルルック遺跡が本当にトロイなのかは今もって分かっていません。

    彼を捏造者だとするような内容の本が一時だだっと出た時がありましたが、著者はそういったシュリーマン学とは一線を画し、彼の発掘方法や記録の取り方に関して、長年トルコで発掘を行った自分自身の考古学者としての経験から冷静な判断を下しています。そしてシュリーマンだけでなくその後継者の実績も見据えて、トロイの魅力を分析し、考古学全体としての大きな問題を提起しているところが面白かったです。

    例えばシュリーマンと、彼に発掘方法を改めさせたデルプフェルトによってヒサルルック遺跡は発掘されつくすのですが、その後もブレーゲン、コルフマンと発掘者は絶えません。著者はすでに発掘され尽くしたこの遺跡をなぜまだ発掘するのか?よほどの理由があるに違いないと考えます。分析すると彼らに共通するのはヒサルルック遺跡がトロイと思いこんでいるということだと指摘。そして発掘された証拠はことごとくトロイと結び付けていっている。

    考古学で危険なことは自分の説に都合のいい部分だけを取り上げて他には目をつぶることだということを、この例を挙げて教えてくれます。盲目的に自説を信じ、研究するのは研究者には欠かせませんが、客観性を失ってはならないということです。

    とはいえシュリーマンが物語を史実として捉え、ヒサルルック遺跡を発掘し、これまでの見方を変えたという事実は、彼しかできなかった。このように評価しています。

    多くのシュリーマン関係の本では盲目的にトロイとするものや、一歩引いてシュリーマン自身の人間性にスポットをあてたものが多かったですが、本書は考古学者による視点でシュリーマンの発掘を冷静に分析するところが、他の本よりもリアルに感じられました。写真や図説も美しく、学術書のような堅苦しい書き方出ない点もこの本を魅力あるものにしています。

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著者プロフィール

中近東文化センター附属アナトリア考古学研究所所長。早稲田大学第一文学部西洋史科卒業後、トルコ政府給費留学生としてアンカラ大学言語・歴史・地理学部ヒッタイト学科に留学。中近東考古学科博士課程修了。留学中からトルコ国内の発掘調査に参加。帰国後、中近東文化センター勤務。1985年よりトルコのカマン・カレホユック遺跡の発掘調査に従事。著作に『鉄を生みだした帝国――ヒッタイト発掘』(日本放送出版協会、1981)、『アナトリア発掘記――カマン・カレホユック遺跡の二十年』(日本放送出版協会、2004)など。

「2012年 『トルコを知るための53章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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