イサの氾濫

著者 :
  • 未来社
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本棚登録 : 103
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784624601195

作品紹介・あらすじ

40代になりいよいよ東京での生活に行き詰まりを感じていた将司は、近ごろ頻繁に夢に出てくるようになった叔父の勇雄(イサ)について調べるため、地元八戸にむかった。どこにも居場所のなかった「荒くれ者」イサの孤独と悔しさに自身を重ね、さらに震災後の東北の悔しさをも身に乗り移らせた彼は、ついにイサとなって怒りを爆発させるのだった。──上々颱風の人気ヴォーカリスト、白崎映美を震撼させ、新たなバンド「東北6県ろ~るショー!!」をつくるきっかけとなった幻の作品、待望の書籍化!

感想・レビュー・書評

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  • 八戸ブックセンターで特集棚が有ったので知った作家さんです。そうか、地元の作家さんだから推されていたんですね。それすら意識せず手に取りました。
    東京で上手く生きることが出来ていない主人公が、乱暴者だったが自分には優しかった叔父のイサと自分を重ね、自分の陥っている言葉に出来ない怒りと、東日本大震災で世間から浴びせられる無責任な「がんばれ」に対する表現し難い怒り。それを暴発させるのですが、正直ピンと来なかったです。わかったふりをするのは容易いのですが、何故自分の境遇と東日本大震災への怒りがリンクするのかよく分からなかったです。

  • 東日本大地震後の青森・八戸。

    P13
    いつも決まって見る夢のなかに、
    なぜか突然、「叔父」が現れるようになったのだ。

    将司は、父に叔父・勇雄(イサ)の話を聴くため
    東京から故郷の八戸に帰ってきた。
    父は、将司に
    「なぁして地震の片づけの手伝いさこながったのよ」と言う。
    震災後、親子でさえ埋められない溝がある。
    P50
    「東北人は、無言の民せ」
    それでもイサはいつも怒っていた。

    私は「がんばれニッポン」
    その言葉に違和感を抱きながら過ごしていた。
    そんなことで、みなと辛さを共有していると思いたかったのかもしれない。

    併録「埋み火」
    タキオの静かな怒りが悲しい。

  • 文学

  • 地方出身で東京で働いていた者として、しかも故郷が被災地だったりするところに、どこか同じ思いもあるような気がした。

  • 違和感の正体をまざまざとと見せつけられた。

  • 震災から5年経た東北からの叫び。オリンピックと小池女帝に浮かれる東京への叫び。そのような中編2つ。大きな流れに簡単に服従せずに生きるという本質的なことを思いださせられた気がする。小説としては表題作より、2作目の「埋み火」の方が雰囲気があって面白かった。

  • 2011年に書かれてる話というのがすごいと思う。

  • どこでこの本を知ったか忘れたが、読んでみるとなんだかなぁ…というレベルだった。

  • 《木村友祐著『イサの氾濫』を読む》
     (The Deluge of Isa)
     2016(平成28)年3月11日初版第1刷発行 ㈱未來社

     東日本大震災から5年が経つなか、そろそろ地震に対する心構えや対処の仕方などが落ち着いて来た所だろう。新聞や週刊誌、雑誌などもこぞって取り上げ、殆どの皆さんが地震・津波への対処方法を熟知されていることと思う。後でレビューを書こうと思って付箋をを貼っていったら、そこら中付箋だらけになってしまった。

     そこへ今更地震や津波をテーマにした小説を読まなくてもと思う向きも有ろうかと思うが、逆にここであの地震・津波を思い出してみたい。

     ストーリー展開から見て、此処で登場するイサは筆者の木村友祐さん自身であろうと思う。一部将司が八戸市民の気持ちをはじめとする代弁しているところがある。

     「でも、それでも結局、八戸では震災による死者は一人だった。被災地には変わりはないが、街が壊滅状態となって、何千人も犠牲者が出たようなほかの場所にくらべたら、被害は軽微である。」
     「被災はしたけれど、ほかとくらべたら被害は軽いです。と、妙に卑屈な気持ちになっている自分がいた。」

     このねじれた感じは何なのだろうと思うのだが、実際私も似たような感情を持つことがあるのも事実だ。オビに書いてある「荒ぶる東北の魂、濁音の炸裂」とは、どういうことか、読んでみたらわかる。

     将司が少年の頃オジに言われ続けたであろう言葉を、クラス会で出逢った東京弁野郎に、お返しにお見舞いするところが、なかなかのセンスの良い笑いを誘う。
     「『ね』だの『さぁ』だのやがますねぇ、このドリル金玉」
     この一言はかなり強烈だが、読者に与えるインパクトはとても強烈だ。当然この物語を読んでいないと何のことか理解出来ない。前半部分はよしとして、後半の「ドリル金玉」は特に強烈だ。私は痛い腰を更に捻って笑ってしまった。何時もオジに言われていたこの言葉を、この「金玉野郎」にお返ししてやったところに鋭い快感を感じた。
     そして車を降りた誰か(たぶんイサ)が言い放った
    「このバガッこ、何考えでっきゃ!」
    「叫(さが)べぇぇっ!さぁがぁべぇぇぇっ!」

     一番最後に出てくる怒りに、将司と共に激しく共感してしまったのは私だけか!!

     やったぜ、木村友祐!八戸出身のしかも若い作家がこの作品を書いたことに敬意を表したい。ネクスト作品『聖地Cs』に期待!

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著者プロフィール

1970年、青森県八戸市生まれ。2009年、「海猫ツリーハウス」で第33回すばる文学賞を受賞しデビュー。小説に『聖地Cs』(新潮社、2014年)、『イサの氾濫』(未來社、2016年)、『野良ビトたちの燃え上がる肖像』(新潮社、2016年)、『幸福な水夫』(未來社、2017年)、『幼な子の聖戦』(集英社、2020年、芥川賞候補)。

「2020年 『私とあなたのあいだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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