- Amazon.co.jp ・本 (556ページ)
- / ISBN・EAN: 9784624112059
作品紹介・あらすじ
自由や民主主義こそが〈真のヨーロッパ〉でナチズムやレイシズムは〈逸脱した野蛮〉なのか。
世界的大家の名著、待望の翻訳!
原書は1998年刊。
かつてヨーロッパは未開・未知の大陸を「暗黒大陸」と呼んだ。
しかし20世紀のヨーロッパ大陸は勝利・進歩・繁栄につねに彩られた成功の物語だったのだろうか。
時代の暗部と栄光を正当に位置づけ、ヨーロッパ現代史を語り直す必読の歴史叙述。
感想・レビュー・書評
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19世紀(さらにはそれ以前)の空気を色濃く残した「古きヨーロッパ」から、まるで何かの手違いのように突如生じたソ連崩壊まで、20世紀のヨーロッパ史を概観する大著。
特徴的なのは、すべてを歴史という人間の、人間による、人間のための記憶と記録の連続性の文脈で捉えていることだ。ヒトラー、なかんずく彼の狂的なホロコーストへの情熱を自分たちとは「異なるもの」、突然変異や災厄のように降って湧いた「others」だと考え(たが)るヨーロッパ人が多い中、反ユダヤ感情も、専制的なオーストリア帝国を連想させる多民族共生社会への嫌悪感も、それに裏打ちされた「人種的に純粋な母国」への憧憬も、異端どころかはるか昔からのヨーロッパの「伝統」であり「正統」ですらあることを、はっきりと認めてみせている。
旧秩序を流血のうちに惨殺した共産主義への反感と、そのうるわしき手に経済が委ねられた結果、未曾有の不況に陥った自由主義への幻滅こそが、とにもかくにも国民を食わせかつ反共を掲げていた初期のヒトラーが、ドイツ国民のみならず英米仏の指導者たちからさえも、あれほどまでに肯定的に受け止められた理由だった。密告と行列の「東側」と繁栄を極めた「西側」しか知らない私たちには思いもよらない、現実的で切実な動機がそこにはあったのだ。
そこはかとない英国贔屓から著者はおそらく英国人だろうと察せられた(そしてそれは正しかった)が、それはあくまで抑制的であり、公平で怜悧なまなざしが全編を覆っている。もっぱら「自由でリベラルな欧米」、あるいは日本や近年は韓国・香港などをも含んだ「経済先進国」として語られることが多いが、ヨーロッパはまず何よりもヨーロッパであり、十把ひと絡げにされる他のどことも違っている「一地方」なのだ。そのありさまを昔から今まで、ある意味で容赦なく、ある意味で愛をもって描き出した出色の書である。
2017/6/29〜7/8読了