山極寿一×鎌田浩毅 ゴリラと学ぶ:家族の起源と人類の未来 (MINERVA知の白熱講義)

  • ミネルヴァ書房
4.40
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623081387

作品紹介・あらすじ

“知の伝道師”鎌田浩毅氏を聞き手とする講義形式で、斯界の第一人者の人生・思想に鋭く切り込むシリーズの第1巻。ゴリラ研究のパイオニアにして京大総長の山極寿一氏を迎え、第?部でその半生に迫る。第?部では霊長類学の世界へ足を踏み入れ、われわれ人類の起源と未来を縦横に語る。自分の目で見て感じる「曖昧なもの」に導かれる豊かな知が溢れる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ◯山極先生と鎌田先生の対談という自分好みの一冊。当然とても良い。
    ◯ゴリラの本(というか山極先生の書いた本)を読むと、この人は一体どんな人なんだろうか、という思いが湧いてくる。この本はまさにそれに応えてくれる。先生の生い立ちから、ゴリラを研究するきっかけ、これからの科学のことも議論している。
    ◯講義レポートにあるように、異なる研究分野の第一人者が議論することは大変意義あることで、それによって新しい視点や気づきが生まれてくることを実感する。それこそデカルトの要素還元主義では辿り着きにくい領域を、まさにこの本(対談)では実現していると思う。
    ◯この本を若い頃に読んでいたら、間違いなく京大を目指していただろう。いずれにせよ、高校生から学部生くらいまでには読んでおくと良い本。

    ◯「ゴリラの森、言葉の海」では、山極先生をゴリラのような人という記載があったが、この本ではその理由が見えてくる。群を率いる頼り甲斐のあるオヤジ、シルバーバックである。

  • なんてかっこいいんだ、山極寿一!読みながら何度思ったことか。以前からその文章を目にするたびに「いいこと言ってるなあ」と思ってきたし、お話を聞く機会もあって、「本当にエライ人ってこうだよね」と感じてきたのだが、まったくもってこのロングインタビューは圧巻だった。

    「知の白熱講義」シリーズの第1巻だそうで、さすがミネルヴァ書房、企画が素晴らしく、「刊行のことば」も気合いが入っている。京大の名物教授である鎌田浩毅氏が聞き手で、これが実にピタッとはまっている。第Ⅰ部では子どもの頃から現在に至る歩みについて、第Ⅱ部では、専門であるゴリラ研究について語られるのだが、そのどちらも本当に興味深い話ばかり。夢中になって読み、気がつけば本が付箋だらけになっていた。

    第Ⅰ部では、大学に入ってから若手のゴリラ研究者となっていくあたりが抜群に面白い。大学院生の時、ゴリラの観察にザイールに行くことになるが、なぜ山極氏に白羽の矢が立ったのかと問われて「いちばん体が大きかったからです」と答えている。山極氏は総長となった今でも、ガッチリとした、いかにも現場で場数を踏んできたという風貌なのだが、野性味あふれるエピソードが次から次から出てくる。かなり危険な目にも遭っていて、それだけで本が書けるに違いない。それをなんでもないことのように語るところがすごいんだよね。

    著作を読んでいるだけだと物静かで知的な人を想像するが(いやもちろんそういう人でもあるが)、山極氏はかなりブルドーザー型の行動派のようだ。お酒も強いらしい。ある面接で「君は大変もてるらしいね」と言われたとおっしゃっているが、まあ相当のものだったのだろう。研究者として当初は至極順風満帆というわけではなかったにしろ、ある時期以降は研究費の審査で落ちたことがないという。今や京大総長にして国立大学協会会長。黙っていてもにじみ出る自信にはそれだけの裏打ちがあるわけだ。

    京大総長選挙の際、落選運動がおきた(研究が停滞するから)というのは、鎌田氏の言うとおり「実にいい話」だが、ご本人もまさか総長になるとは思ってもいなかったそうだ。大体そういう役職は、研究者としての評価とは関係なく(むしろ逆で)、学内政治に長けた人がなるものと相場が決まっている。鎌田氏は、こういう時代には「皆がひれ伏す」ような大看板の研究者こそが総長になるべきだと言っている。一体大学は、学問はどうなるのかと多くの人が思っている今、山極総長にかかる期待と重荷は大きそうだ。

    ちなみに鎌田氏は東大出身で官僚の経験もあるが、京大に招かれてやってきたとき「あっ、ここは自分に合っている」と思ったそうだ。山極氏の学生時代の話にも、ゆるくていい加減な大学の雰囲気が漂っていて、それが「自由」ということかもしれない。

    総長就任後のことはまた今後まとめていくとのことだが、いくつかの改革について述べられていた。私がへぇ~と思ったのは、総長室をなくし、公用車も廃止したこと(運転手さんの定年に伴って、だそうだ)。これってなかなかできることではないと思うなあ。

    山極氏の私生活についてはこれまで読んだ覚えがないが、ここでは「ついつい興にのってしゃべってしまった」そうで、ミーハーな私は興味津々。ナイロビでの国際霊長類学会へ行ったのが実質的な新婚旅行だったそうで、これがまたとんでもなくスパルタンで行き当たりばったりの旅。絵を描かれるという奥さんも大物だ。

    第Ⅱ部では、これまで単独の著作を読んでいたのでは気づかなかったことがいろいろあった。「京大サル学世界一」などとずいぶん前から言われていて、漠然と一つの塊みたいに考えていたが、これが大違い。今西錦司をはじめとして日高敏隆や伊谷純一郎など著名な学者も多いが、それぞれずいぶん研究の方向や考え方が違うことを初めて知った。言われてみれば確かに、日高敏隆などはローレンツ流の動物行動学で、あくまで人間を考えることを主眼にする山極氏などとは、方向性が大きく違う。自分が山極氏の著作に一番関心を持ってきたのはそのせいだったのか、と納得。

    動物の生態そのものに興味を持つ人はほぼみんな「昆虫少年(少女)」だった、というのもなるほどなあという感じ。山極氏は昆虫採集は好きでなかったそうだ。「死んでるから」というのがその理由で、これまたなるほど。

    氏の研究は、人間の社会性はどこから来るかを探ることが目的であり、それは「家族」の起源を追求することで解き明かされると考えられている。ここらへんにはとても興味があるので、また著作を読み返してみようと思う。ここではそのあらましが語られているが、「なぜ人間の子どもだけが泣き叫び、成長が遅いか」とか、「人間の社会性の元は共感力であり、それはどこから来たか」などという話には実に説得力があって、もっと知りたい!という気持ちをかき立てられる。

    他にも興味深い話題は山盛り。研究分野による「文化」の違いであるとか、論文のファーストオーサーについての意見、鎌田氏の言う「勝負仕事」と「保険仕事」などは、特に研究者を目指す人が読むと面白いだろう。意見の違いがあっても「可愛がってくれた」という日高敏隆や、ダイアン・フォッシー(映画「愛は霧のかなたに」のモデル)の思い出話は胸にしみる。

  • 『ゴリラと学ぶ』(山際寿一&鎌田浩毅)

    さて、この本のお話を進める前に、みなさんに質問です。「人間の赤ちゃんはなぜあんなにも大きな声で、しかもよく泣くのでしょうか?」
    猿やアラウータンやゴリラの赤ちゃんは声を出して泣くことはしません。それは、必要がないということなのですが、敵や猛獣に居場所を見つけられて襲われないためにそうなったという自然界の法則のようなものがそこにはあります。しかし、人間の赤ちゃんは大声でよく泣きます。なぜでしょう。この答えを考えながら、私の感じたこの本の
    魅力を聞いてください。

    今日お持ちした私のおすすめ本は『ゴリラと学ぶ』です。この本は地質学の鎌田浩毅教授が、ゴリラを永く研究してきた霊長類学者の山極寿一、現京都大学総長に質問を投げかけながら進んでいく会話形式の対談なので非常に読みやすく仕上がっています。
     この本を読み終えた後に強く考えさせられたのは『私が、「自分が何者なのか」を分かろうとするためには、自分に問いかけることではなく、「自分の外から、他者をとおして自分を見つめることが何よりの方法なのだ」
    ということがわかったことです。

     それはつまり、そのことをこの本はゴリラ、ゴリラの社会を見つめることによって「人間、人間社会をわかる」に近づくことができることの科学の試みなのだということです。

    この本のタイトルは『ゴリラと学ぶ』ですが、出版社には失礼だけれど『ゴリラに学ぶ』のほうが内容的には適切だろうなと読み終わった後には感じていました。

    山極寿一氏は大学生の頃から、アフリカのコンゴでゴリラの生息する地域に長年キャンプを張って、ゴリラの生態系や行動、家族、社会を観察し続けているので、ゴリラやその周辺のことについて語りだしたらネタが尽きない人物ですが、それを読者の為に絶妙な合いの手となる誘導の質問を投げかけて本を面白い読み物に仕上げてくれている。地質学という地球誕生からの46億年間という歴史の時間軸をもった鎌田教授が、霊長類や人類誕生からの100万年という歴史の時間軸というそれよりはるかに短い時間軸をもった山極総長に問いかける、そしてそれを現在を生きるのにあくせくしてい点のような時間感覚の私が読んでいる。この時間感覚の行ったり来たりを感じることも普段なかなか味わえない。
    椅子に座って本を読んでいるのに、文字によって浮かび上がってくるイメージはタイムマシンで行ったり来たりしているような感覚になる。

     さて、冒頭にみなさんに投げかけた質問の答え合わせをしてもう少し本の後半の部分に踏み込んでいきましょう。
    「人間の赤ちゃんはなぜあんなにも大きな声で、しかもよく泣くのか?」
    それは、人間には体毛がないので赤ちゃんがお母さんにしがみつくことができないから、不安で泣いているのです。動物園やテレビで観る猿やゴリラの赤ちゃんは母さんのお腹にピッタリしがみついているので安心感があるのです。でも、猿の赤ちゃんの3倍、ゴリラの赤ちゃんの2倍の大きさで産まれてくる人間の赤ちゃんは重たく、お母さんの体にも毛が生えていないし、赤ちゃんの指にも握力が無いのでしがみつくことができません。
    だから赤ちゃんは、床や地面に寝かせられて面倒をみられ、お母さんを呼ぶために泣くのです。
    その個別の意味は「オッパイが欲しい」、「コワイ」、「寂しい」、「オムツ替えて」いろいろあるけど生命を守ってくれる庇護者がいないのは、無力な赤ちゃんとっては恐ろしい世界に放り出されたに等しいに違いないのです。

    でも、この赤ちゃんが泣くという行為が母親だけでなく、仲間(集団)で育てていくことを人類に考えさせたともいえるのです。赤ちゃんが泣く、母親がそばにいなければ、誰かが赤ちゃんをあやし、面倒を見る。

    集団での共同生活は役割分担と協力で構築されていきます。
    狩をする者、食事を作る者、子どもの面倒を見る者、敵から見守りをする者などで仲間を作り社会を形成していきます。
     このように、人類が60万年以上前に他の霊長類とは違う子どもの育て方を始め、社会というものをつくりそれを拡張し続けてきて現代に至っています。
     それは脳の中の新皮質の部分の大きさがその霊長類の作る社会の大きさに比例しているとも言われ、人間の新皮質の大きさが他の霊長類動物の新皮質の大きさを圧倒していることからも証明されています。



    一方で、この100年弱の現代という歴史の中でこの仲間(集団・地域)で協力して赤ちゃんの面倒をみようという社会的な創造が崩れて、60万年前に大きく引き戻されるような現象としてお母さんの負担が増してきている。100年という時間は確かに、60万年という人類の歴史からすれば点みたいなものだけど、これだけ優秀な家電製品が普及して猛獣のいない安全な社会であるのになぜという思いもあります。

    このような状況に対して、山極寿一氏はその背景に『“経済”(従なるもの)をうまく運用することに力点を置きすぎて、“社会”(主なるもの)を守ろうとする視点が薄れている』といいます。

     こうやって、外から(他者の視点で)この本で言えば“ゴリラ”であり、山極寿一氏ですが、私たちを見つめることのできる視点を養った人の眺める景色を覗くことができるのは自分の記憶の外にある、人類の記憶に触れさせてくれるような感覚を覚えることもできます。

     是非、お手にとってお読みいだだけたらと思います。
    ちなみに、著者の両人ともノーベル賞受賞者をたくさん輩出する京都大学の教授です。



    山極寿一氏、まさか京大の総長とは知りませんでした。先日読んだ『暴力はどこからきたか』は人類の関係性、家族について、強烈に印象の残ることを語られていたので、ついついまさか、またも山極寿一氏の対談本とは知らず、ましてや京大の総長などとも知らず、またまたたいへん感銘を受ける内容を読ませていただいた。

    でも、「京大というのは本当にカッコイイ大学だ」関東にいると、東大というブランドが強力で情報も、意識もその影に隠れてしまうけれども、山極氏の語り口や語る言葉の背景にある、世の中を見つめる視線を感じながら、この対談を読んでいると、東大と、大学という括りで重なる部分は少なく、まったくべつものの存在の様に今の自分には映っている。
    そういえばノーベル賞受賞者も京大が多いようだし、まさに昨日、本庶佑さんが今年のノーベル医学生理学賞受賞を受賞した。
    私が上にあげた「カッコイイ」は外的なスタイルではなくて、“探求者としての生き方”のことだったのです。

    山極寿一氏を囲んで酒を飲んだり、鍋をつついたりしてゴリラの話を朝まで聴いていたくなってしまった。

  • 人間の脳の特性について大変勉強になる
    そうした生理的条件が「社会生活」を規定している
    科学者の社会論として秀逸
    優秀な先生は教養に溢れている

  • 人間の社会学や倫理を生物学的視点から紐解く興味深い内容。山極教授の話はいつも面白い。人間も結局は本能むき出しの獣という生物である。

  • 山極寿一氏の対話を通じた半生振り返り。人間の特殊性として、認知に使うのは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の順。但し、人間関係において信頼をつくるのは逆という話が非常におもろい。

  • 共感力

  • 後半で、AIと人の関係の話が、ゴリラ研究と関連づけられて論じられている。読み応えがあった。

  • これまた面白くないはずはない、と思って読み始めたが、やっぱり面白かった。とにかく、人の人生を振り返るのはおもしろい。山極先生が国立(くにたち)から京都へ来て、ニホンザルからゴリラへと研究テーマを移していかれるあたり、まあ、おもしろくないはずがない。近衛ロンドの話とか、もっと詳しく知りたい部分であるが、まあそれはそこそこに、後半では学問的な内容にもふれられている。今後の霊長類学はどうなっていくのか、われわれはどこへ行くのか、そして京大はどうなっていくのか。鎌田先生の専門である地球科学の話ももっとあっても良いように思うが、今回はホスト役ということか、山極先生の話を聞きだすことに徹しているような印象を持った。そんななか、ちょこちょこと自分の本の宣伝をされているのはおもしろい。これから、シリーズものとして続いて行くのだろうか。どんなラインナップだろうか。

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著者プロフィール

第26代京都大学総長。専門は人類学、霊長類学。研究テーマはゴリラの社会生態学、家族の起源と進化、人間社会の未来像。

「2020年 『人のつながりと世界の行方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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