患者の話は医師にどう聞こえるのか

  • みすず書房
3.88
  • (7)
  • (11)
  • (5)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 216
感想 : 16
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089513

作品紹介・あらすじ

現代医学はハイテク機器に夢中だが、最大にして最良の診断ツールは医師と患者の会話だ。有史以来、会話がもっとも病気を発見してきたのだ。だが、患者が「しゃべった」ことと医師が「聞いた」ことは、どんなときでも、いともたやすく別のストーリーになりうる――。アメリカの内科医が心揺さぶるヒューマンストーリーを通じて、避けて通れぬ医師と患者のコミュニケーションの問題を検証する。

■著者略歴 ダニエル・オーフリ(Danielle Ofri, 1965-) ニューヨーク在住の内科医。アメリカ最古の公立病院・ベルビュー病院勤務。ニューヨーク大学医学部准教授。著書にIntensive Care: A Doctor’s Journey (2013)、Medicine in Translation: Journeys with My Patients (2010)、When Doctors Feel: How Emotions Affect the Practice of Medicine (2013 ; 『医師の感情――「平静の心」がゆれるとき』医学書院 2016)がある。New York Times紙やSlate Magazine誌で医療や医師と患者の関係について執筆を行うほか、医療機関初の文芸誌Bellevue Literary Reviewの編集長も務める。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • NY在住の内科医による、医師と患者の間のコミュニケーションの問題を分析した1冊です。
    最近ではAIが活用された事例なんかも聞きますが、今の医療診断の中心に位置しているのは、依然として「医師と患者の会話」です。
    ただ、この会話というツールの難しさを実感させられたのが本著でした。こんなに簡単に使えるツールはないのに、なぜこうも難しいのか!

    自身の医療経験や取材を踏まえた16章は、比較的読みやすいトーンではあるのですが、医療という人命がかかった現場における余裕のなさや、その状況下で少しでも良いやり方を求める医師の職業倫理の高さ(と、その患者向かいでの理解されなさ)を感じ、ままならない重いテーマだとも感じました。

    本著によると、「患者には喋るだけ喋らせた方が良い、そんなに長くならないし、コミュニケーションミスも減る」ということで、基本的には医師は患者の話に傾聴すべきというスタンスなのですが、同時に日々の実務の中でそれを実現していくのがいかに難しいかというのも描かれています。
    個人的な印象としては、医師というと「ゴッドハンド」的な職人芸を連想して、傾聴してくれる存在とはなかなか思えないですが、治療効果を出すためには医師のコミュニケーション力は非常に重要なのだとか。
    本著ではそれを音楽に例えていて、「優れた音楽家たるために必要な技術的スキル」も大事だが、「即興で演奏する時に必要な(コミュニケーション)スキル」も、良い演奏を作るには重要、という表現はとても腑に落ちました。

    本著を読んでいて思い至ったこととして、医療とは全く関係のない業界で仕事をしている私ですが、バタバタしている時に、主題になかなか辿り着かない(と自分が感じるだけなのですが)話をされると、つい「つまりこういうコトですか?」と割って入ったりしているなぁと。。
    血の通ったコミュニケーションができる人間でありたいものです。

    ちなみに、本著の中に「おおざっぱにいえば、私の性格はB型なんです。教師に向いた性格ね。でも、糖尿病の場合はA型でないとだめなんです。」という記述があったんですが、アメリカでもB型って几帳面さに欠ける存在だと思われてるんでしょうかね。。
    翻訳については、訳者も医師と医療翻訳者のタッグということで読みやすかったです。

  • 医師患者間のコミュニケーションの持つ力を痛感させられる。それは時に治療を凌駕することがエビデンスをもって示される。

    このことは心不全診療でも実感することで、自分の気持ちの襟を正してくれるような本だった

  • ふむ

  • タイトルに惹かれて読み始めた。日本では医者にかかったことのない人は少ないと思うので、だれしも興味のある内容だろう。それにしてもアメリカ発の書籍は、誰しもが気になっていたものの、あまり本になっていなかった内容のものが多い気がして、そのあたりは感心する。
    でも、本書に出てくる医師と患者のコミュニケーションをデータ化した国際的な”指針”のようのものを、日本も採用していると書かれていて、ちょっと驚いた。自分は医師の診察を受けた経験からすると、コミュニケーションについて”研究”している(ようにみえる)医師に、あまりあったことがないからだ。いや、単なる先入観かもしれないけど。
    本書に書かれているコミュニケーションは、医療場面に関わらずあらゆる人間関係に当てはめられることだが、これは医療だ、と改めて分かった事は「身体診察」の大切さについて書かれていることだった。著者は「診断方法としても治療方法としても他には置き換えられない」といい切っている。
    みなさんは医者にかかって身体診察を”ちゃんと”受けた、という人はどのくらいいるだろうか?改めていうまでもなく、今や検査は高度な機器でなされるのが普通になってきている。つまり、医療の基本のきの、患者と医師の関わり方が”いつの間にか”根本から転換していることを思い知らされる。
    著者の本書を書くきっかけは、医師としての”自戒の念”は絶対あると思う。自分個人としては、いま気になる症状があるので、専門的な内容のところはつい自分に置き換えて読んでしまい、ちょっと読み進めるのがつらく、”不快さ”に逃げたくなることもあったが、医療とは本来どういうものなのか、という気付きも多くあったので、興味のある人はぜひ読んでみてほしい。

  • 本書の訳者は知っている人は知っている行動療法の専門家で動機づけ面接でも知らない人はいないくらいの人である。一方、訳者は精神・心理関係以外の翻訳書(医師が描いたノンフィクション)もみすず書房から数点出しているが、どの本も秀逸である。また訳もこなれて読みやすい。本書はまさに医師と患者のコミュニケーションに関する本で、いかにそれがお互いにずれやすいかを著者の経験を踏まえて書かれ、それには科学的根拠もあることを示された本である。訳者はあとがきで、動機づけ面接をされている方にこそ読んでほしいということであったが、まさに日々の臨床の悩みに応えてくれる内容が詰まっている。訳者がその理由として挙げた個所とは違うが、私が印象に残った部分は、医師が医学的問題のみに焦点を当てて会話を支配すると服薬アドヒアランス不良リスクが3倍、社会的問題に患者が置かれている時に、その問題を避けると服薬アドヒアランスリスクが6倍になる、とのこと。まさにSDHの視点を避けてはいけないことが医療コミュニケーションの部分でも反映されているということである。

  • 医師と患者のコミュニケーションや対話とひと口に言ってもそれは単なる情報伝達や意思疎通にとどまらず、病気の治療や患者(と時には医師)の人生に深く関与するものだということがわかる。
    そして、著者が引用する様々な研究から、患者-医師のコミュニケーションに関して様々なエビデンスが示されているのを知る。
    原書タイトルは“ What patients say, What doctors hear ”

    それにしても読むのにめちゃくちゃ時間かかる…。診療場面、患者の病歴や治療方針なの記述が多くて医療用語が頻出するので、ざっと読むということができず読み飛ばすと文脈が追えなくなる。

  • 本書は医師と患者のコミュニケーションの重要性を訴える本。著者の主張を一言で表せば「コミュニケーションは医療に役立つ」。その主張には3つの側面がある。①「医師が話を聞いてくれない」という患者にとって最大の不満が消えて医療について患者の満足度が高まる。②患者をよりよく理解することで誤った治療や不要な治療をせずに済む。その結果、医師にとって時間の節約になる。③訴訟が減る。

    薬の知識や手術の腕前などと比べてコミュニケーションが医療に果たす役割は過小評価されてきたと著者は言う。医学部でコミュニケーションスキルを専門的に学ぶことがないため、医師はコミュニケーションスキルを医療技術とは見ない。コミュニケーションが(たとえプラセボの一種だったとしても)効果的な医学的介入であることを示す研究は多いが、医師は「このような祖父とな研究結果を受け入れがたいと思っている」(106ページ)。

    著者によれば実際のところ、現状では医師と患者の間でコミュニケーションがうまくとれていない。その理由は色々だが、例えば①医師が患者の人種・性別・体型などに対して潜在的な偏見を抱いているため、コミュニケーションが阻害される。②診察時間の制約があって(時間の無駄と思える)コミュニケーションを医師がためらう。そもそも③医師も患者もコミュニケーションにギャップがあることに気づいていない。③についてレビュアーの頭に思い浮かんだのは蒟蒻問答という言葉だった。

    ではよりよりコミュニケーションを実現するために何が必要か。本書が重要性を強調するのが「傾聴」である。自分自身は口をつぐみ相手の話を聞く。「熱心に話を聞いてもらう」のは「驚くほど力のわいてくる経験」で、そんな相手とは「かかわりをもちつづけたいという気持ちになる」と著者は自身の経験から断言する。ただしこれは簡単なことではない。聞き手には聞く努力が求められる。実際、患者の話を「上手に」聞くことは「困難きわまりない技術の1つ」なのだ。

    本書の中で最も印象的だったのが、オランダでは(終末期にいる患者のみが対象であるものの)患者の話を聞くことが医療として認められているという事実である。傾聴の重要性が医療現場で広く認められていくことを願う。

    著者は現役の医師で、本書は医療現場でのコミュニケーションの重要性を論じている。多くの人は患者の立場で医師と接するだろうが、良き患者であるためにも本書の内容は有益だ。また一般的に言って良い人間関係を築くたえにコミュニケーションは欠かせない。その意味で本書は誰にとっても役に立つアドバイスに満ちている。幸いな事にコミュニケーションは改善が可能だ。「コミュニケーションは習得が可能な個別の技術に分解できる」(241ページ)と主張する研究を著者は引く。受け答えのなかで言葉遣いや言葉のえらび方を工夫したり、心の持ちようを変えたりすることも大切だ。本書から得られるものは多い。

全16件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1965-。ニューヨーク在住の内科医。アメリカ最古の公立病院・ベルビュー病院勤務。ニューヨーク大学医学部臨床教授。著書にMedicine in Translation: Journeys with My Patients (2010)、Intensive Care: A Doctor’s Journey (2013)、 When Doctors Feel: How Emotions Affect the Practice of Medicine (2013; 『医師の感情』医学書院 2016)、What Patients Say, What Doctors Hear (2017; 『患者の話は医師にどう聞こえるのか』みすず書房 2020) がある。New York Times紙やLancet誌で医療や医師と患者の関係について執筆を行うほか、医療機関初の文芸誌Bellevue Literary Reviewの編集長も務める。

「2022年 『医療エラーはなぜ起きるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ダニエル・オーフリの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヴィクトール・E...
エラ・フランシス...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×