庭とエスキース

著者 :
  • みすず書房
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本棚登録 : 450
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622087953

作品紹介・あらすじ

北海道の丸太小屋で自給自足の美しい庭を営む「弁造さん」。ある夢を抱え生きる姿を12年に渡り記録した写真家による珠玉の写文集。

感想・レビュー・書評

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  • 写真は当たり前に良かったけど、文章がとても濃密で、美しくてハッとするような言い回しが多くて、何個もフレーズをメモした。濃密すぎて、1章ずつ余韻を味わいながらしか読み進めることができず、時間がかかった。目で文字を追っているのに、講演会で直接弁造さんのお話を聞いているような空気感だった。時間についての哲学感、生きること、死ぬこと、たくさんの思考を共有してもらった。写真集も手に取ってみたい。

  • 自給自足のための庭を作り、一人暮しの小屋で好きな絵を描く。世間や文明を否定した隠遁ではなく、好奇心や科学的研究心、ユーモアに溢れる暮しを送る弁造さんに惹かれ写真を撮り続けた若い写真家が、彼の没後にその思い出を綴った思索的なエッセイ集。描き続けた絵は完成せず庭も自然に還ったが、自分の信じること、好きなことを最後まで続けた素敵な人生と暮しへの思いは、この本になって残り続けることになった。写真と絵の展示会が開かれ、限定販売の写真集もあったようだけど入手は困難。いつかどこかで出会うことがあればいいな。

  • 弁造さんの庭を拝見したかった。北海道開拓者の最後時代を生きた方。画家になりたくて、なれなくて絵をずっと描き続けてた。
    『自給自足は喜び、現代文明の暮らしが行き詰まって、自給自足に戻ったときに、これをずっと続けてあきたいと思えるような暮らしをわしは作りたいんじゃ。』
    楽しみながらの自給自足を学びたかった。
    ほんのきろく に残す。

  • 【注:本レビューは,旭川高専図書館Webサイトの「私の推薦する本」に掲載した文章を,執筆者の許可を得て転載しています】

     本というのは不思議なもので,そのとき自分に必要な内容のものが,向こうから自然と歩み寄
    ってくると思ったことはありませんか。
     今年も皆さんに紹介したい本を選ぶにあたり,日々の生活の隙間時間にいくつかの本を読んでみました。自分の興味からいけば,かつて札幌の琴似にあった「くすみ書房」の店主が,生前に自身の経験や本屋への思いを綴った『奇跡の本屋をつくりたい』(久住邦晴著,ミシマ社,2018年8 月)という本が,同じ本を扱う者として,今の私の心には深く刺さりました。それから,『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著,光文社,2017 年5 月)も読み物として面白かったです。読んでいて,たかのてるこ氏の海外旅行記を彷彿とさせました。一見不真面目なようでいて,昆虫学者という,少年のころからの夢をかなえるべく奔走する著者の,研究にかける熱い想いや,昨今のポスドク研究者が置かれた状況がよくわかり,今後研究を続けていこうと考えている人には参考になる部分もあると思います。
     さて,今回推薦本として挙げた『庭とエスキース』は,高専生の皆さんには大変渋すぎるセレクトであると言えましょう。写真家である著者が,北海道新十津川町の最後の開拓世代として,自らの建てた丸太小屋で自給自足の生活を営む「弁造さん」を季節ごとに訪ね,14 年にわたり撮影し続けた,その「記憶」の物語です。そう,これは徹頭徹尾,25 歳の若者が79 歳の老人と出会い,92 歳で亡くなるまでの日々を綴った一途な「回想録」なのです。正確に言えば,最後に弁造さん亡き後,弁造さんを取り巻いていた人々との交流について語られる部分もありますが,ともあれ,多少の意図せぬフィクションはあるかもしれないにせよ,会話の内容やそのときの情景までもが事細かに描かれていることに,記憶力が年々低下している私は,本筋とは全く関係のないところで,著者に驚愕しながら読んでいました。
     弁造さんが既にこの世にはいないことは,本書のかなり早い段階で語られます。やがて来る弁造さんの不在という結末に怯えながら本書を読むと,愛着にも似た不思議な感情が,心に芽生えます。個人的な話になりますが,弁造さんが,数年前に亡くなった,大好きだった自分の祖父とほぼ同じ年に生まれていることも関係しているかもしれません。
     弁造さんは,科学の可能性自体は信じつつも,いつか今の暮らしには限界が来ると考えていて,そのとき「戻る場所」となるように,自給自足の暮らしを続けていました。自らの庭で作物を育て,木を植え林を育てては,丸太小屋を建てるための木材やキノコのホダ木,冬のストーブ用の薪としたり,池にはタンパク源となるようなタニシや鯉,鮒などを育てていました。その世界を誰に伝え,託そうとするでもなく。
     小さいころから本当は絵描きになりたくて,農閑期に東京の画学校へ通ったりもしていた弁造さん。不遇なできごともあり,その夢はついにかないませんでしたが,しかし亡くなるまで,小さな部屋の真ん中にはイーゼルが据えられ,いつまでたっても完成することのないエスキースばかり描いていた弁造さんは,幸せだったのではないかと思えました。表現という行為や,植物や生き物を育てることは,時に挫折を味わうこともあるけれど,いずれもいわば人間の原点というか,小さな生きる喜びにつながると私は考えています。そういった喜びが,弁造さんの人生には溢れているように思えました。この本が気に入った人には,『人生フルーツ』という2017 年公開のドキュメンタリー映画もお薦めします。弁造さんの世界観につながる,素敵な老夫婦の生活が垣間見られます。
    (学生課図書係 問谷 実希 職員)


    ▽配架場所・貸出状況はこちら(旭川工業高等専門学校蔵書検索)
    https://libopac3-c.nagaokaut.ac.jp/opac/opac_details/?kscode=004&amode=11&bibid=1014156278

  • 弁造さんの庭とエスキースを20年にわたって見続けてきた話。

    夜盗虫の話もホラっぽいけどガルシア・マルケスみたいですばらしく、忘れがたい。

    年寄りの繰り言よろしく、同じようなトーンの話が何度も何度も繰り返されながら、ジワジワとその世界に入り込んでいく。時系列も少し行ったり来たりする。それがちょっとガルシア・マルケスっぽいと感じた理由か。

    写真家だから、と言ってしまうと安易に過ぎようが、饒舌ではないのに、光景が鮮やかに見えるような文章で、丸太小屋やメープルの木陰の光が肌にあたるのを感じられるようだ。

    海の大きさに改めて驚いて、しかしその海と渡りあう人間を応援するところにはグッときた。私も東北の人間だからか。

    最後の一葉の写真もいい。
    庭というのは、こういうものなんだな。
    ‪庭の遺影か、それとも庭は生き返ったのか。‬

  • 弁造さんとの思い出、人柄、北海道の自然、庭の美しさが淡々としていているようで、ハッとするような美しい文章で書かれていて、何日からかけて少しづつ読みました。
    弁造さんの死後の周りと人たちとの関わりも、筆者の人柄なのかな、とても微笑ましいです。

  • まず何より弁造さんの人柄(あえてキャラという横文字は使いたくない)や人生が素晴らしいのは大前提としてある中で、筆者がその場で思ったこと、また同内容を後日反芻した考察もまた素晴らしい。もちろん人の心の中だから正解は分からないのだけど、ここまで他人の奥内部にある見えないものに対して考えを及ばすというのがすごいと思ったし、12年もの間どんな形式で会話内容を記録していったのかも興味が湧いた。

    弁造さんは、独学で自給自足を実践しながらも、そういったベクトルの人にありがちな化学や先端技術を毛嫌いすることなく、自分自身のスタンスを保ちながら受け入れている弁造哲学とも言えるようなのがいいなと思ったし、ユーモアのセンスも羨ましいほどにある。このユーモアセンスは生まれ持ったものかな、どこで身についたのだろう。農協行ったり地域でのコミュニケーションはないわけではないようだったし、著者の訪問があったりと言っても、お一人だからやはりお一人での時間も多かったであろうに、高齢になっても楽しい切り返しの会話を成立させていてすごい。自分も一人で友人もほぼなく、発話時間が極端に少ない日々を送っているため、対話能力の低下を懸念しているのでヒントを得たかった。

    発売から当時よりこの本の存在を知ってはいたが、読了が今になってしまい、写真展や写真集の機会を逃してしまっていたことが悔やまれる。また何かあれば良いのだが。

    最後にこの本を出版して下さったみすず書房さん、いつも良質な書籍の出版ありがとうございます、とお礼を言いたい。

  • ミニコメント
    自給自足の生活の中でのふとした出来事。24編の記憶の物語と40点の写真が収録。

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/630207

  • 東京から岩手に引っ越した若き写真家と、大正の終わりから北海道・石狩平野の外れで自給自足の暮らしを営む「弁造さん」の、1998年に出会ってから2012年に弁造さんが逝ってしまうまでの、14年間の交流の記録。

    どれだけ深く語り合おうと、他者のことはわからない。「弁造さん」のような自由奔放な人なら尚更そうだったのだろう。そこで想像するのをやめ、孤独や諦観に浸るのもいいのかもしれない。でも作者の深山さんはわからないながらもその事実を「不思議さ」として受け止め、記憶や遺品の数々から「生きること」(亡き後は「不在」)の意味に少しずつ迫っていく。

    北海道の美しい自然の描写や写真も随所にあって、またいつかゆっくり訪れたいと強く思った。

  • 他者の人生への愛おしさ、その人が愛する自然の静かな美しさに聴き入るような本。絶賛。

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著者プロフィール

写真家。1972年大阪生まれ、奈良育ち。京都外国語大学卒業後、東京の出版社に勤務。1998年岩手県雫石町に移住し、写真家として活動を開始。以後、東北の風土や文化を撮影し、書籍や雑誌等で発表するほか、人間の生きることをテーマにした作品制作をおこなう。2006年「Country Songs ここで生きている」でフォトドキュメンタリー「NIPPON」2006選出、2015年「あたらしい糸に」で第40回伊奈信男賞、2018年写真集『弁造 Benzo』で日本写真協会賞 新人賞、2019年写真集『弁造 Benzo』および写真展「庭とエスキース」で写真の町東川賞 特別作家賞を受賞。主な著書に『手のひらの仕事』(岩手日報社、2004)、『とうほく旅街道』(河北新報出版センター、2012)、『庭とエスキース』(みすず書房、2019)などがある。

「2021年 『動物たちの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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