環状島=トラウマの地政学 【新装版】

著者 :
  • みすず書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622087380

作品紹介・あらすじ

戦争から児童虐待にいたるまで、トラウマをもたらす出来事はたえまなく起きている。「言葉では表現しようのない」この出来事は、それでも言語化されていった。しかし、言葉にならないはずのトラウマを伝達可能な言語にするという矛盾は、発話者をも聞く者をも揺るがせる。「なぜあなたが(もしくはこの私が)その問題について語ることができるのか」「もっと悲惨な思いをした人はたくさんいるのではないか」にはじまる問いは限りなく、お互いの感情を揺さぶり、自身を責めさいなむ。
「だからここで考えてみたい。トラウマについて語る声が、公的空間においてどのように立ち現れ、どのように扱われるのか。被害当事者、支援者、代弁者、家族や遺族、専門家、研究者、傍観者などはそれぞれどのような位置にあり、どのような関係にあるのか」

前著『トラウマの医療人類学』を継ぐ本書で、著者は「環状島」をモデルに、加害者も含め、トラウマをめぐる関係者のポジショナリティとその力動を体系的に描いた。〈内海〉〈外海〉〈斜面〉〈尾根〉〈水位〉〈風〉などの用語を駆使しながら、トラウマをめぐる全体像とあるべき方向性をしめした初めての試みである。関係者のみならず、クライアントと日々を共にする医師であり、マイノリティ問題にかかわる研究者である著者自身にとっても、本書は実践と倫理のための道標になるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • 環状島モデルで支援者と当事者、内海についてイメージできたことは、ケアする側される側と置き換えて、自分の位置を俯瞰することができて目からうろこだった。
    尾根に近づくほど暴風雨が吹き荒れるとか、内海の水位がいろんな状況下で上下していたと思えば、どうしていきなりケアされる側は落ちるのかとういのもイメージできた。
    ケアする側がまき込まれた時、尾根の内側に引き込まれたのかなとか。
    なかなか難しかったけれど、自分の立ち位置をイメージできるというのはとてもありがたい。
    ポジショナリティについても勉強になった。

  • トラウマを語る。社会に向けて声を上げること、セラピストに打ち明ける。本書では前者の意味合いが濃いと感じたが、後者にも共通する地図と確信。
    複数の環状島を描けば、誰もが内海や内斜面。あるいは誰もが外海の遠い沖合となる。
    ゼロ地点(内海)では声を出すことすらできない。自分が外斜面に立つ時、内斜面でもがく誰かの力になれるだろうか。
    水位を下げること、健全な部分的同一化を行いつつ、斜面に居続けるために何ができるか。自問自答。

  • 環状島という概念。それぞれの立ち位置によってかわる風の強さ。深さ。知らなければ分からない。

  •  この本は図書館で借りて読んだ。以前同著者の「トラウマ」を読んだことがあって、そこに登場するトラウマを環状島(ドーナツ状の島)をモデルにして捉える方法が興味深かったから、さらに詳しく書いてありそうな本を探した。「トラウマ」では環状島のたとえしか登場しなかったと思うけれど、この本ではさらに〈風〉〈水位〉〈重力〉というたとえを加えて書いていた。
     現在卒業論文に取り組んでいるのだが、『バナナフィッシュ』というマンガを中心に論じるつもりだ。主人公アッシュ・リンクスほどトラウマを抱えた主人公は珍しいだろうし、この本は研究を進める上でも参考にしたい。

  • 自分の地図の本。

    これを読む前は五里霧中。
    読んだ後は、いくつもの環状島が重なり合う中の、〝今ここ〟にピンが刺さってる地図を小脇に携えて動く、みたいな。

    いる場所によって、その環状島は浮かんだり沈んだりして、膝くらいまで水に浸かった中で、「ここにトラウマありまーす」と、旗を振ってるような時もあるけど、まぁ、それがわかったただけマシかな。
    いや、わからない方が無我夢中でやりやすかったかな。なんとも言えないけど。

    うーん、でもやっぱり構図はわかっていた方がいいな。構図がわかるからこそ気づけるものがあるというものさね。

    宮地先生の本が山積みです。楽しみすぎてゾクゾクしますね。

  • 自分が人生の底とも言える場所にいた時期に読んだ本。被害者とその事件をドラマティックに感情的に捉え表現するのではなく、こんなにも客観的に構造的に表現することができるのかと驚いた。このような表現が一番被害者に優しいと思うし、何らかの傷を負った人と触れる機会がある人にはぜひ読んでほしい一冊。

  • 再読しなきゃ、、、
    https://booklog.jp/item/1/4622073390

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    戦争から児童虐待にいたるまで、トラウマをもたらす出来事はたえまなく起きている。「言葉では表現しようのない」この出来事は、それでも言語化されていった。しかし、言葉にならないはずのトラウマを伝達可能な言語にするという矛盾は、発話者をも聞く者をも揺るがせる。「なぜあなたが(もしくはこの私が)その問題について語ることができるのか」「もっと悲惨な思いをした人はたくさんいるのではないか」にはじまる問いは限りなく、お互いの感情を揺さぶり、自身を責めさいなむ。
    「だからここで考えてみたい。トラウマについて語る声が、公的空間においてどのように立ち現れ、どのように扱われるのか。被害当事者、支援者、代弁者、家族や遺族、専門家、研究者、傍観者などはそれぞれどのような位置にあり、どのような関係にあるのか」

    前著『トラウマの医療人類学』を継ぐ本書で、著者は「環状島」をモデルに、加害者も含め、トラウマをめぐる関係者のポジショナリティとその力動を体系的に描いた。〈内海〉〈外海〉〈斜面〉〈尾根〉〈水位〉〈風〉などの用語を駆使しながら、トラウマをめぐる全体像とあるべき方向性をしめした初めての試みである。関係者のみならず、クライアントと日々を共にする医師であり、マイノリティ問題にかかわる研究者である著者自身にとっても、本書は実践と倫理のための道標になるだろう。
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08738.html

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著者プロフィール

宮地尚子(みやじ・なおこ)一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は文化精神医学・医療人類学。精神科の医師として臨床をおこないつつ、トラウマやジェンダーの研究をつづけている。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。主な著書に『トラウマ』(岩波新書)、『ははがうまれる』(福音館書店)、『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房)がある。

「2022年 『傷を愛せるか 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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