ビットコインはチグリス川を漂う――マネーテクノロジーの未来史

  • みすず書房
3.42
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086949

作品紹介・あらすじ

「私たちはマネーに関する固定観念を調整して、未来のパラダイムを探求し始める必要がある。マネーは古代バビロニアで記録が始まる前から存在した。そしてビットコインが忘れ去られてからも存在し続けるだろう。だがバビロニア人たちが使ったマネー、私たちが使っているマネー、そして未来に使われるマネーはどれも、まったく異なっている」(はじめに)
中世イングランドの合札から、ウエスタン・ユニオン社の電子送金サービス、ニクソン・ショック、ケニア等の決済・送金サービス、Mペサまで、マネーの歴史をたどることで、本書はこう結論する。「マネーは…いまや中年期に差しかかっている。…マネーは居場所をなくし、孤立し、理解されずにいる」
電子マネーと電子識別の権威である著者が描く未来のマネー像は、私たちのアイデンティティと分かちがたく結びついたマネー、そして、中央銀行の拘束から解放された、コミュニティの評判(レピュテーション)に基づくマネーだ。
マネーの三大機能を踏まえつつ、マネーの過去と未来を架橋し、新たなパラダイムを提示するマネーの未来学。

感想・レビュー・書評

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  • この人も最終的にはコミュニティ通貨が普及する可能性の高さに言及していた

  • マネーの歴史とマネーに関わるテクノロジーを振り返りながら、マネーの未来について論じた本。

    筆者によると、マネーの役割は価値の計量単位、交換媒介物、価値の貯蔵手段、そして支払い繰り延べの手段であるという。これらの機能は、貨幣によっても果たされるが、歴史的にも様々な代替物によって担われてきた。

    また、これらの4つの役割をひとつの手段で担う必要もなく、それらが別々の手段によって担われても、経済活動としては問題がない。

    マネーの未来に関する議論には、現金が電子化し、また暗号通貨が新しいマネーとして台頭するといった議論が多いが、筆者の議論は単純にそのような議論をなぞるものではない。

    まず現金については、筆者も将来的に役割を縮小していくであろうし、またそうあるべきであると論じている。

    現金は、決済や価値貯蔵の手段として使われているよりもはるかに多くの量が地下に潜り、影の経済を支えるために使われている。これは、現金がトレース不可能であるということにも関わっている。

    また、現金はその発行と維持に大きな社会的コストを強いるだけでなく、現金を使わざるを得ない貧困層により多くの個人的コストを課しているという。

    このような現状を改善するため、誰でも利用可能な決済・送金サービスが新たなネットワーク技術と通信インフラの普及で生まれつつあり、それらのさらなる推進が、現金というシステムによる負のコストの削減と相まって、経済の成長を生むと考えている。

    一方の暗号通貨については、筆者はそれほど強い期待を掛けてはいない。あくまで、多くある新しい通貨の形態の一つとして位置づけている。

    筆者は、未来のマネーは、「政府(デジタル法定通貨)」、「商業銀行」、「民間企業」、「暗号化技術」、「コミュニティ」といった様々な主体によって発行されるだろうと述べている。

    そして、利用者の間で価値を伝達する決済の手段として機能するために必要なのは、デジタル・アイデンティティによって利用者や通貨の「信用状態」を確認できるようにする技術であると述べている。

    逆に言えば、このような技術が組み込まれていれば、様々な主体の様々なマネーが併存し、それらが電子的に流通することで経済活動が動かされていくようになるという。

    中でも、筆者はコミュニティによって発行されるマネーに大きな期待を寄せているように感じた。これは、デジタル・アイデンティティによるレピュテーションを管理するのも、経済的な取引が行われる関係性が生まれるのも、何らかのコミュニティ空間の中であるからではないかと思う。

    当然、このコミュニティは昔ながらの地理的空間にだけによって規定されるものでへはないし、その規模も場合によっては大きなものになり得るだろう。ある種の人的ネットワークと考えた方が良いのかもしれない。

    マネーの本質的な意味を捉え直し、ネットワークや認証に関する最新の技術動向を重ね合わせて考えてみたときに、マネーの将来像というのが全く違って見えてくるということが分かった。

    日本は、従来型の政府が発行する貨幣に対する信認が高く、特に現金を使う割合も高いように思う。一方で、それらが安定的でない、もしくはそれらへのアクセスが十分包摂的ではない国々で、むしろ新しいマネーのあり方が次々と生まれてきており、経済の発展につながっている。

    このようなことを考えると、我々自身もマネーのあり方についてのこれまでの見方を改めていく必要があるのではないかと感じさせてくれる本だった。

  • 頭良い人の文章でたまにあるけど、分裂症気味というか脱線が多くて論旨がわかりにくかった。授業や講演で使える小ネタは満載。

  • 『ビットコインはチグリス川を漂う――マネーテクノロジーの未来史』
    原題:Before Babylon, Beyond Bitcoin
    著者:David Birch
    訳者:松本裕

  • 通貨の本って、難しいっていうか、読みにくい場合が多いんだけど、この本はそんなことなくておすすめだね。昔、EUに招かれる学生たちってのに応募してただでヨーロッパ行こうとしてたのに、統一通貨とかばかじゃねーの?って意見して落ちたんだけど、おんなじこと言っててうれしかった。それで、金本位制とか、そういうのってホント一瞬しかなかったとか、そういう過去からのパースペクティブのなかでデジタル通貨とかがどういうものかってのを位置づけてるのがわかりやすい。あと、個人的にはデジタルキャッシュには匿名性が必要だ!とか昔からよくいわれるんだけどなんで?って思ってたんだけど著者もおんなじ考えで、現代の現金にはたまたま匿名性があるだけって断じてるとことかも好感。ちょっと彼が評判経済に関して語っているって本も読んでみようかな。

  • 本書は最近話題のPayPayなど乱立する電子決済システム解説書ではない。「ビットコイン」と著書のタイトルに入っているが、ビットコインの解説書でもない。「お金」という概念を根本から捉え直し、「未来のお金」について考えるという試みである。「国」が発行するという現在のお金の概念はすでに古いと著者はいう。その議論をホットなものにしたのが「ビットコイン」のテクノロジーである。「お金」を誰が発行し、その信頼性をどのように担保するのかを、現在のテクノロジーと結びつけながら、解説する。

    マネーの歴史から丁寧に、「未来のマネー」はどうあるべきかを探る旅の試み。まだ道の途中だが、その先を想像することへの好奇心を擽られる良書。

  • 漠然と我々は、現代のマネーを巡る諸制度が、一種の制度疲労を起こしているのではないか、という予感を抱いている。とはいえ、次に求められるマネーとはどのようなものになるべきなのか、という答えを出すのは、当然ながら簡単なことではない。本書はその思考の補助線として、金融というものが徐々にそのプレゼンスを増してきた中世から、どのようにマネーとそれを巡る諸制度が変遷してきたかを辿りつつ、マネー、特にキャッシュレス社会の未来を描く。

    様々な定量データが明らかにするように、現金の維持管理コストは電子マネーに比べて明らかに大きい。かつ本書では、現金の匿名性を悪用することで税金から逃れている裏経済(麻薬、銃器売買等)や、災害時の現金紛失リスク等を踏まえれば社会的弱者こそがキャッシュレスのメリットを享受するというファクトと、過去のマネーの歴史を踏まえて、新たなマネーのパラダイムを描き出す。キャッシュレス社会を考える上での示唆に溢れる一冊。

  • 東2法経図・6F開架 KW/2018//K

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著者プロフィール

コンサルト・ハイペリオン社取締役。サリー・ビジネス・スクール客員教授。金融イノベーション研究センター技術フェロー。電子認証と電子マネーの国際的権威。『Wired』誌のビジネス情報についての世界トップ15人に選出されている。ホームページ http://www.dgwbirch.com/

「2018年 『ビットコインはチグリス川を漂う』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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