ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番――世界トップ1%の資産防衛

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086802

作品紹介・あらすじ

「法律や政治、巨大な国際的資本フローにウェルス・マネジャーが与える影響を考えれば、彼らがすでに広く認められた研究文献の主題になっていてもおかしくない、と思われるかもしれない。ところが、最近発表された数件の記事と、20年以上前に刊行された書籍の一部で紹介されている以外、この職業は学者の間でほとんど知られていない。関心が持たれなかったからではなく、情報の入手が困難なせいである」(本文)

そこで著者は2年間のウェルス・マネジメント研修プログラムに参加し、世界標準規格として認められている資格であるTEPを取得する。

「優秀な成績でプログラムを修了したおかげで、この職業に近づきがたくしていた手強い障壁を乗り越えられるほどの内部者になることができた」(本文)

そこから明らかになったのは、大富豪の懐に入り、世界規模でマネーを操る、資産管理のプロたちの姿だった。格差拡大の原因ともなっている「富豪の執事」たちの実態を初めて学術的に分析する。

感想・レビュー・書評

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  • 【受託者の役割が封建国家に応じて登場したように、ウェルス・マネジメントは、世界の最富裕層が創造して住まう超国家的な空間の副産物なのである】(文中より引用)

    オフショア国家や現代の金融技術を駆使しながら、富裕層の金庫番を務めるウェルス・マネジャー。これまであまり光が当てられてこなかった彼/彼女らの世界の内側に入り込み、どのように資産の防衛がなされているかを詳述した作品です。著者は、本書のためにウェルス・マネジャーの資格まで取得したブルック・ハリントン。訳者は、優れたノンフィクションを多数訳している庭田よう子。原題は、『Capital Without Borders: Wealth Managers and the One Percent』。

    税を課す側・課される側の地球規模でのいたちごっこを描いた意欲作。中世の倫理観と現代の金融技術で武装した者たちが繰り広げる未知のドラマが広がっていました。殊更にウェルス・マネジャーばかりを批難するものではなく、研究所としてのバランス感覚も見事だったと思います。

    期せずして読んだら思いのほか素晴らしかった☆5つ

  • 超富裕層を相手にするウェルスマネージャーの生態、仕事、イシューが長年の経験からよくわかる本。

  • 国境に囚われないマネーを扱うプライベートバンカーの実情を、筆者自らがSTEPに加わって解き明かした本。資産保全に関わるプロフェッショナルたちの物語。

  • 考え方は参考になった。
    途中で読むのをやめた。

  • 《封建社会の構造と富の分配が「誓約の網目」によって結び付けられたように、「商業時代における富は、主に誓約から成る」と現代資本主義の研究者は記している——この誓約には、ウェルス・マネージャーという知的専門職階級が取り決め、履行する契約も含まれる。》(p.40)

    《信託と相続計画に関する職業は、資本主義の変化とともに登場したのである。19世紀に名門家に雇われた受託者は、階級の結束の維持など、いくつかの点で中世の受託者たちと目的と動機を共有していた。一般的に、受託者は自らが仕える一家と同じ階級にいるだけではなく、「安定した資本家階級の制度的統合」に影響を与えるのにも役立った。》(p.45)

    《一般的に「オールドマネー」の顧客はイギリスに土地を持っている顧客です。ですから、信託という考え——つまりその金は自分たちのものではないこと、そのお金を享受しているにすぎないこと、その財産の管理方法にさしたる影響力を持たないことに、彼らはとても満足しています。起業家的な思考をする「ニューマネー」の場合、委託者はたいてい資産を自分のものとみなし、その投資方法を指示したがります。ひとたび信託を設立したら、それが自分たちの金ではないという発想を理解するまで、しばらく時間がかかります。新興市場の顧客にとってはなおさらそうです。自分の財産を自国の政権から守り、母国から逃れなくてはいけない場合に使える安全な財産を作ることに比べれば、彼らは世代を越えて財産を移転させることに興味を抱いていません。》(p.104-105)

    《ウェルス・マネジャーは、顧客を法の支配から自由にするために、また成長と移動性に課された制約から顧客の富を解放するために、信託、法人、財団をツールとして使用する。租税回避——ウェルス・マネジメントがニュースになるときは、必ずこれが大きく見出しを飾る——は氷山の一角にすぎない。これよりも大きな目的は、外側(政治的報復や債権者など)からも、内側(離婚する配偶者や浪費の激しい相続人など)からももたらされる、さまざまな危険から富を守ることである。》(p.153)

    《この入念な信託と会社の「何層もの構造」の一番上に、オフショア財団、またはときに目的信託——受益者が不要な、オフショア信託の特殊なタイプ——がある。第1層は、プライベート・トラスト・カンパニーの株式を所有するためだけに存在し、規制と世間の詮索からプライベート・トラスト・カンパニーを完全に守る。この構造において財団や目的信託は、「「所有者不在」の経済実体」という法的地位を享受する。これはつまり、自然人が原資産の所有者として特定されることはなく、この資産に付随する課税または判決に何ら責任を負わないということである。したがって、プライベート・トラスト・カンパニーを中心としたこのアレンジメントが、「来たる幾多の世代のために、財産を守り増やす目的で大金持ちが用いる、一連の積極的な計画技術の妙手(税金対策であれ何であれ)」と言われているのも、驚くに値しない。》(p.169-170)

    《数十年という比較的短い期間で、富——とくに代々の遺産——についての道徳感は大きく変化し、不平等階層の最上層から注意とリソースを逸らしたのである。》(p.181)

    《世界でもっとも裕福な人々は「民主主義の軛からの自由」を追い求め、法律を自分に有利になるように曲げることを、または作ることをやめない。極端な場合には、国家が見て見ぬふりをしている間に、法律も国家の権威もないがしろにされることもある。》(p.216-217)

    《ルイスが念頭に置いている人々は、自らの富により事実上「世界の市民」となる人々の集団である。彼らはパスポートを——ことによると複数——持っているかもしれないが、その経済力のおかげで、自らの意思で市民権を放棄することも取得することもできる。その証拠に、最近オフショアで実施された租税回避の取り締まりの結果、市民権の放棄は史上最多に達したという。オンショアでの法人化をあきらめて、オフショアで再法人化して節税する企業と同じように、ますます多くの富裕層が、市民の義務を課そうとする国家に対して、「主権国家の鳥かご」から流れることで対応しようとしている。ウェルス・マネジャーの指示にしたがって、個人富裕層は低税率または非課税の法域で都合のいい市民権を取得するだけでいい。このようにして、ルイスのような専門家の関与により、個人富裕層は多国籍企業と同じほどの租税と規制の回避手段を、ひいては国民国家に匹敵するほどの力を蓄える能力を獲得する。》(p.220)

    《国境を越えた顧客に立法と政治における強い発言力を与えることにより、ウェルス・マネジャーは国家と富裕層との間の力の均衡に影響を与えている。この力は政治的プロセスを歪める。オフショア金融に参入して植民地後の自立を模索する小国の場合、その影響をとくに受けやすい。この力は概して、金持ちの負うべき税金の減税や非課税の形で行使される。すると国家は経済的に逼迫し、公益のためのサービス提供や規制ができなくなるため、なおさら正統性を失っていく。》(p.258)

    《国なきスーパーリッチの間に見られる、市民義務の低下と国家権威に対する敬意の減少の問題に取り組むために、いくつかの政策方針が提案されてきた。極端な例だが、アメリカの政策立案者は市民権を放棄する個人富裕層を罰して、国家権力を再び強制的に課そうとしている。市民権放棄にかかるアメリカの領事手数料は、近年442パーセントも引き上げられており(先進国の平均額の20倍)、これが十分な抑制効果を上げない場合、元市民の一部にはアメリカ再入国が禁じられるだろう。その一方で、市民権の概念を見捨てて、ウェストファリア体制の崩壊を受け入れたほうがいいと主張する極端な論者もいる。最近の政策研究は、「国境を廃止して全人類を一つの世界の市民にする」ことを提案している。この提案が真剣に受け止められていることから見ても、世界中で何世紀も続いた、国家や主権、市民権の制度が深刻な行き詰まりを見せていることがわかる。ウェルス・マネジャーの仕事もこれに加担している。》(p.259-260)

  • 世界の超トップ富裕層の財産を扱う職の実態。
    歴史があり、食となりグローバリゼーションで加速しているが、信託の視点。
    あまりにも遠い世界だが、実経済には実体としてあることは認識したいこと。

  • この仕事の目を惹くところ
    1. 国家の資産から自由
    2. 資格認定が確立したこと

  • 富裕層の資産管理をしている人はどういう人かについて書かれている本。

    著者自身は学者でしかないのだけれど、実際に資産管理をしている人の信用を得るために資格を取ってインタビューしていたりととっても実学的な内容。
    興味深かったのは、富裕層の資産管理に最も重要なのは運用成績なんかよりも依頼者のとの信頼関係で、資産防衛の相手は国が一番なんだけれど、家族や友人も多くの場合対象になって、だからこそ金庫番は家族以上の信頼がおける人が望まれるみたい。ひたすら金儲けに走るんじゃなくて信用が重視される状況を中世の騎士の関係になぞられて話がなされるさまは、時代が変わっても基本は変わらないのだなぁって思わされた。

    富裕層けしからんと思って読むと印象が大きく覆されるような内容だった。

  • 富裕層の税・相続を一手に引き受けるウェルスマナジャーの実態を解説した書籍。このために著者はウェルスマネジャー研修プログラムSTEP(Socierty of Trust and Estate Practitioners) を2年間受講し、世界標準資格まで得ている。内容は超資産家の知られざる脱税の手口(合法なので租税回避と言うべきだが、庶民から見れば明らかに脱税)となぜそれが可能かを記す。要は金持ちは国際法の隙間を縫ってオフショアと呼ばれる小国(ケイマン島、ヴァージン諸島、マン島、ジャージー島等)の法律を捻じ曲げて、インチキを合法にしてしまうということだ。インチキの内容は信託・財団などをつかった租税回避・債務回避・相続対応等である。特に信託は受益者の名前を開示する必要がなく、だれが財をもっているかをわからなくするとんでもない仕組みだ。庶民が知ってもどうすることもできないが、金持ちであれば財産を放蕩息子の3代目でつぶさないようにする恰好の方法である。今や超富裕層は国家の縛りをうけず、自身も財産も自由に海外に移動できる時代であり、自分に都合の良い法律がある国に適宜移住(書類上で)すれば良い。これを取り締まる試みはウェルスマネジャーの固い守りのため失敗の連続であり、著者の提言は、富豪対策にはウェルスマネジャーを味方にする方策を考えるべきというものである。
    金持ちだけが得する恐ろしい仕組みをわかりやすく表にだしたセンセーショナルな本であり、もっと話題になって然るべきである。

  • 論文であるが、社会学的にインタビューを積み重ねたもので読みやすい。ウルトラハイネットワースにサービスを提供する表題のプロフェッショナルがどう活動しているのか。オフショアにて信託、財団、法人を無数に形成し、財産の匿名性、オンショア法律からの超越性を享受するUHNW。主な目的は財産の増大ではなく、隠匿、保守であるという。先進国住人は、税金特に相続税。エマージングは政府や誘拐などからの秘匿。またそのニーズに応えるように、英領ジャージー島のように、先進国側なのだが、その怪しいタックスヘイブンが成長している。
    具体的なマクロ数字はなく、左寄りではあるが、実態はわかる。

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著者プロフィール

コペンハーゲン・ビジネス・スクール社会学准教授。ハーヴァード大学で社会学の博士号を取得後、プリンストン大学の客員研究員、マックス・プランク研究所研究員などをへて現職。著書 Pop Finance: Investment Clubs and the New Investor Populism (Princeton University Press, 2008), Capital without Borders: Wealth Managers and the One Percent (Harvard University Press, 2016 〔『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番――世界トップ1%の資産防衛』庭田よう子訳、みすず書房〕).

「2018年 『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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