ハッパノミクス

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086635

作品紹介・あらすじ

「ラテンアメリカを訪れた私は、麻薬産業の恐ろしい供給面を目撃することになった。そして、麻薬密売について書けば書くほど、麻薬ビジネスが組織的なグローバル・ビジネスと酷似していることに気づきはじめた…蒸し暑い独房で一味の支配する縄張りの広さを私に自慢したエルサルバドルの極悪ギャングのボスは、まるで合併を発表するCEOのような口ぶりで、抗争中のギャング間の手打ちについて陳腐な台詞を並べた。コカを栽培するボリビアの無骨な農民は、まるで商業園芸家のような自負と専門知識をひけらかしながら、自身の植物について興奮気味に話した。…世界じゅうの麻薬産業を調べるにつけ、麻薬ビジネスを一般企業と同列に論じたらいったいどうなるだろうかと、ますます興味が湧いてきた。その集大成がこの本というわけだ」「麻薬カルテルの運営を理解すれば、麻薬カルテルが繰り出す次の一手を予測し、税金や人命を無駄にすることなく企みを阻止しやすくなる。本書は麻薬王向けのビジネス・マニュアルであると同時に、彼らに勝つための攻略マニュアルでもあるのだ」(本文より)
地を這う取材と最新の学術成果を結び付け、麻薬取引を、経済学的、経営学的に分析した初のノンフィクション。

「ウェインライトは、楽しくかつ精緻な筆致で、驚くほど儲かる洗練されたビジネス企業という、麻薬カルテルの内情を暴き出している。本書を読めば、麻薬取引をまったく異なる視点から、より現実的に把握できるだろう。必読だ」
――モイセス・ナイム(『権力の終焉』)

「本書は、麻薬をめぐる暴力が無鉄砲なものではなく、経済的計算が極端に残酷化した結果であることを示している。……麻薬対策法の改革についての、もっとも簡潔かつ説得的な議論だ」
――『ニューヨーク・タイムズ』紙

「粘り強い取材と学術的研究の調査に基づいた、才気煥発かつ魅力的な本だ」
――『ウォールストリート・ジャーナル』紙

感想・レビュー・書評

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  • 「麻薬カルテルのボスとグローバル企業のCEOが考えることはよく似ている」という発想が面白い。たしかに、サプライチェーン、人材獲得、オフショアリング、ネット販売など、リアル産業と裏産業には共通点らしきものが見える。
    その上で、著者は、現在各国が採る麻薬対策、特に供給面、具体的には生産国や経由・密輸国への対策よりも、需要面、つまり消費国における啓蒙や更生プログラムに資金を投じたり、、場合によっては麻薬の合法化など消費面の規制の枠組みを見直した方がずっと効果的であるとする。これも経済学的なアプローチとして興味深い。
    麻薬問題に対する正しい政策が何なのか、答えは容易には見出せないが、経済学の視点から解くとどうなるかについて、鮮やかに描いてみせている。

  • 知的好奇心が刺激される本。違法ドラッグにはまったく手を出したことがないし摂取したいとも思わないが、現象としては大変興味深いと思う。当然ながら殺人など血生臭い話題も含まれるので、そこは注意が必要。

  • 北米大陸を中心に,麻薬ビジネスの実態と各国の取り組み,著者の主張が綴られている.

    この本が面白いのは麻薬ビジネスの分析に経済学や経営学の視点を取り入れたことだ.
    実際麻薬ビジネスはサプライチェーン管理や人材のリクルーティングなど一般企業が執り行う経営課題をグローバル規模で取り組み巨額な収益を上げている.
    また時にはそれら収益を使った社会公共的な事業も行う(教会を作るなど).市民の支持を得ることが彼らのビジネスの成功につながるからだ.

    これを読むとマフィアと国家や民間企業との線引きがよくわからなくなる.どの組織も組織や地域を束ね,事業を行い,暴力(軍隊もこれに含む)を抑止力とし,目的の達成を目指す.決定的な違いとしてマフィアには法執行機関の庇護がなく,それゆえに暴力による抑止が顕著なことだろうか.

    また著者は対麻薬ビジネスに対する国家や国連の取り組みを筋が悪いと批判する.効果の薄い供給面を重視し,各国がバラバラで,目先の対処療法を繰り返しても根治にはならない.麻薬ビジネス全体を俯瞰し,経済学的視点をもってどこを押さえるのが効果的かよく考えるべしと主張する
    その一例としてアメリカの一部州での麻薬の合法化は一定の効果を挙げていると例示する.

    この本はコンサルタントの人に面白いと紹介してもらった.確かに面白かった.
    ・テーマに対しまずはファクトを集め事実を把握.
    ・その結果現在の麻薬対策は筋が悪いことを経済・経営という著者独自の観点(手法)により指摘.
    ・それに対して真のイシューは何であり,それに対しどういう打ち手があるのかを提案.
    まさにコンサルタントに求められる取り組みがまとめられているといえよう.

    また麻薬に対し禁止ではなく規制緩和が一定の効果を挙げているのは麻薬以外の分野でも参考になるだろう.人間が断つことができないものについては蓋をして漏れないように抑え続けても,闇市場ができてコントロールのコストが嵩むだけ.だったら上手く付き合う落とし所を作ってしまうことで逆にコントロールが効きやすくしようという良い事例だと言える.
    タバコやアルコール,性産業もそうだし,暗号資産をはじめとした新興テクノロジーにも今後同じことが言えよう.

    =======================

    "麻薬ビジネスを一般企業と同列に論じたら一体どうなるのかと、ますます興味が湧いてきた。その集大成がこの本と言うわけだ"
    "最も非情な無法者たちが、人材の管理、政府規制の対応、信頼できる供給業者の獲得、兵庫組織への対処など、企業経営者は日々頭を悩ましているような問題について語るのを何度も聞いてきた"

    "世界の社会問題の解決により多くの手術を呼びかけるのは簡単だ。麻薬の世界が他の問題と違うのは、すでに充分すぎる資金が追加されていると言う点だ。ただ、費やす分野が間違っている。"

    生産、製造、流通、小売
    規制当局への対応、人材確保、競争、PR、市民からのプレゼンス

    気づかなかったけど「反脆弱性」の訳者の本じゃないか。
    翻訳者でフィルターかけて本を漁るのも面白いかもしれない.

    ・国家や規制当局,民間企業との線引き

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    麻薬カルテルはバイヤー。自分たちで栽培や加工をしない。サプライチェーンを管理。
    カルテル=企業連合

    麻薬市場、2.5億の顧客、3000億ドル

    コカインのルーツ 南米3カ国 ボリビア、コロンビア、ペルー

    コカの出荷価格と末端のコカインの金額差
    30000%
    →カルテルは買い手独占なので農家から安く購入、それを流通して暴利を貪れる
    →末端価格に差があるのは法執行機関の介入が効果を出している証拠でもある

    探偵ナイトスクープ 横断力

    法制度に頼れないギャングは暴力が契約を守らせる手段

    麻薬産業の人材問題:
    ・確保:先進国での取締役、途上国では抗争による死亡
    ・契約の履行:暴力しかない

    PR・イメージアップにも手を抜かない→堅気の指示があると脱獄時、警察に密告されずに済む

    1950年代、タバコは健康効果をアピールされていた

    カルテルのCSR活動.
    日本で国家や自治体が提供して当たり前なインフラ(道路や協会)や安全(護衛)の提供
    ・メディアの露出を減らし規制や介入を防ぐ.
    ・市民から支持を得る
    ・模から必要とされる理由づくり
    →先進国を含む人から貪った金が案外新興国のインフラになっていたりするんやな.
     (運搬に失敗して浜に流れ着いた麻薬の売却益が病院になったという話を
      別の本で読んだことがある)
    →法律や規制,何が社会的かという価値観は持つもの(先進国)が作るから真っ当に従っているだけじゃ外様はやっていけないってことだな.その所作として麻薬ビジネス

    ”欧米の国でコカインを買うのは,レイノサなどの街で誰かが拷問・殺害されることに加担しているのと同じだ”

    古代ローマの兵士たち.貴重で道運びしやすい塩が給料=salaryの語源
    (ホンジュラスでは警察の買収の見返りとして麻薬の現物支給.受け取った人はそれをストリートの麻薬利用者に売って換金)

    フランチャイズ:
    同じ縄張りに同じフランチャイズを受けたライバル店が出ても,親玉は痛い思いをしない.
    (コンビニやマクドナルドの店舗間の過当競争)

    大麻の家庭栽培
    電力消費量や発熱量から疑わしい家を発見できる

    合法的大麻企業
    カルテルにとっては質量、イノベーションで先をゆく手強い競合。→巨大市場アメリカを失いかねない衝撃
    (とはいえ合法麻薬が不法者に流出する事態も。)
    →麻薬のような分野は一律禁止しても闇商売が蔓延るだけ。規制緩和して許された範囲で競争させるのが健全なのかな。

    政府の麻薬対策の誤り
    ・供給を絞ることに拘ること
     (カルテルが購入市場を抑えてるから一次生産農家にコストを吸収させる)
    "弾力性"→価格の変化と需要の変化の相関?
    ・目先の節約を優先し長期コストを犠牲
     刑務所への予算を減らし受刑者の更生のモチベを損ね、そこにつけ入りカルテルが仕事を提供
    ・グローバルなビジネスに国単位で対応。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/726145

  • 麻薬の生産、流通、消費を経済学、経営学の視点から分析してみよう。という本…だと思います。
    経済学が提供するツールの汎用性と有用性にはいつも驚かされますね。

    麻薬産業を一般的な産業と同じ眼鏡で見てみると、同じところと違うところが際立って見えますね。
    わたし的には紛争解決の手段の違いが面白かったです。
    雇用契約や独占禁止といった法的な規範が経済活動をうまく回すために機能していることが分かりました。
    これらの手段に頼れない麻薬産業ではむき出しの暴力や忠誠といったものに頼らざるを得ません。
    一方でオンラインマーケットなどの市場原理が導入されると、供給側のサービスを含めた製品の質が向上するようです(8章)。こっちの面も忘れてはいけません。
    まったくの無秩序も幸福からわたし達を遠ざけ、規制しすぎるのも悪い影響が出るということでしょう。

  • 社会
    経済

  • コカインを生成して捌いていく麻薬カルテルを経済学的側面から追ったという一冊。

    非合法ビジネスに精を出す男たちのピカレスク・ロマン的な話もあるんだが、非合法で暴力がつきまとっているが故に企業の社会貢献であったり、人材の確保というところに腐心していく様が興味深い。

    そりゃ、何処でも誰でもリクルート出来るような仕事じゃないしなぁ…。

  • 東2法経図・開架 368.8A/W15h//K

  • 『ハッパノミクス――麻薬カルテルの経済学』
    原題:NARCONOMICS: How to Run a Drug Cartel (2016)
    著者:Tom Wainwright  編集者
    訳者:千葉敏生  翻訳家

    【書誌情報+内容紹介】
    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/296頁
    定価 3,024円(本体2,800円)
    ISBN 978-4-622-08663-5 C0033
    2017年12月8日発行

     「ラテンアメリカを訪れた私は、麻薬産業の恐ろしい供給面を目撃することになった。そして、麻薬密売について書けば書くほど、麻薬ビジネスが組織的なグローバル・ビジネスと酷似していることに気づきはじめた…蒸し暑い独房で一味の支配する縄張りの広さを私に自慢したエルサルバドルの極悪ギャングのボスは、まるで合併を発表するCEOのような口ぶりで、抗争中のギャング間の手打ちについて陳腐な台詞を並べた。コカを栽培するボリビアの無骨な農民は、まるで商業園芸家のような自負と専門知識をひけらかしながら、自身の植物について興奮気味に話した。…世界じゅうの麻薬産業を調べるにつけ、麻薬ビジネスを一般企業と同列に論じたらいったいどうなるだろうかと、ますます興味が湧いてきた。その集大成がこの本というわけだ」

    「麻薬カルテルの運営を理解すれば、麻薬カルテルが繰り出す次の一手を予測し、税金や人命を無駄にすることなく企みを阻止しやすくなる。本書は麻薬王向けのビジネス・マニュアルであると同時に、彼らに勝つための攻略マニュアルでもあるのだ」 (本文より)

     地を這う取材と最新の学術成果を結び付け、麻薬取引を、経済学的、経営学的に分析した初のノンフィクション。

    「ウェインライトは、楽しくかつ精緻な筆致で、驚くほど儲かる洗練されたビジネス企業という、麻薬カルテルの内情を暴き出している。本書を読めば、麻薬取引をまったく異なる視点から、より現実的に把握できるだろう。必読だ」
    ――モイセス・ナイム(『権力の終焉』)

    「本書は、麻薬をめぐる暴力が無鉄砲なものではなく、経済的計算が極端に残酷化した結果であることを示している。……麻薬対策法の改革についての、もっとも簡潔かつ説得的な議論だ」
    ――『ニューヨーク・タイムズ』紙

    「粘り強い取材と学術的研究の調査に基づいた、才気煥発かつ魅力的な本だ」
    ――『ウォールストリート・ジャーナル』紙
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08663.html

    【目次】
    題辞 [001]
    目次 [003-007]
    地図 [008]

    Introduction カルテル株式会社 009

    Chapter 1 コカインのサプライ・チェーン――ゴキブリ効果と3万パーセントの値上がり 017

    Chapter 2 競争か、協力か――「殺し合う」よりも「手を組む」ほうが勝るワケ 037

    Chapter 3 麻薬カルテルの人材問題――ジェームズ・ボンドがミスター・ビーンと出会うとき 065

    Chapter 4 PRとシナロアの広告マン――なぜカルテルは「企業の社会的責任」を重視するのか 091

    Chapter 5 オフショアリング――ジャングルでビジネスを行なうメリット 119

    Chapter 6 フランチャイズの未来――ギャングはマクドナルドから何を盗んだか 141

    Chapter 7 法律の先を行くイノベーション――“脱法ドラッグ”業界の研究開発事情 159

    Chapter 8 オンライン化する麻薬販売――ネット・ショッピングが向上させた売人の顧客サービス 179

    Chapter 9 多角化するカルテル・ビジネス――麻薬の密輸から人間の密輸へ 207

    Chapter 10 いたちごっこの果てに…… ――麻薬王たちを脅かす合法化の波 233

    Conclusion 経済学者は最高の警官 261
      麻薬対策の誤り 1 ――供給面へのこだわり
      麻薬対策の誤り 2 ――長期的なコストよりも目先の節約の優先
      麻薬対策の誤り 3 ――グローバルなビジネスへの国単位の対応
      麻薬対策の誤り 4 ――禁止とコントロールの混同

    謝辞 [279-280]
    原注 [i-x]

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著者プロフィール

『エコノミスト』誌エディター(イギリス)。以前は同誌のレポーターをメキシコシティで務め、メキシコ、中米、および米国国境周辺地域を担当。『タイムズ』『ガーディアン』『リテラリー・レビュー』にも寄稿している。オックスフォード大学で哲学、政治、経済学を修めた。Narconomics: How to Run a Drug Cartel (PublicAffairs, 2016, 『ハッパノミクス――麻薬カルテルの経済学』千葉敏生訳、みすず書房)が初の著作。

「2017年 『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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