大不平等――エレファントカーブが予測する未来

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086130

作品紹介・あらすじ

BREXIT、トランプ現象などの原因を、如実に示した一枚の図がある。『ワシントンポスト』紙が「現代政治のロゼッタ・ストーン」と評したエレファントカーブだ。
横軸の100に位置するのがグローバルに見た超富裕層、0に位置するのが最貧困層。縦軸はベルリンの壁崩壊からリーマンショックの間に各層がどのくらい所得を増やしたかを示している。50-60番目の人たち(中国などのグローバル中間層=A)は所得を大きく伸ばし、80-90番目の人たち(先進国の中間層=B)の所得は停滞し、90番目以上の超リッチ(グローバル超富裕層=C)の所得はこれまた大きく伸びていることがわかる。
本書は、このグラフの発表者が、新たな理論「クズネッツ波形」で、今世紀の世界的不平等の行方と経済情勢を予測した基本書だ。

「各国間と各国内の不平等をこれ以上ないほど明確に語ってくれる。必読書だ」トマ・ピケティ。
「これからの世界は、グローバルなトップ1%層に支配されるのだろうか、それとも支配するのは巨大なグローバル中間層だろうか」ジョセフ・スティグリッツ。
「斬新かつ挑発的な発想の宝庫だ」アンガス・ディートン。

金権政治、ポピュリズム、グローバルエリートの支配、戦争……わたしたちの未来はここから逃れられるのか? 世界のエコノミストが絶賛した2016『エコノミスト』『フィナンシャル・タイムズ』ベストブックが示す不平等研究の最前線。

感想・レビュー・書評

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  • クズネッツ仮説というものがある。所得水準と所得格差の関係を示したもので、所得格差、すなわち、不平等は、所得が十分に高まったあとは縮小に向かい、低い水準に留まるとしている。
    縦軸に格差/不平等の程度(ジニ係数という数値で表されることが多い)、横軸に所得水準をとり、上記の考え方に沿ってグラフを描けば、逆U字型のカーブを描くことになる。これをクズネッツ曲線と呼ぶ。
    このクズネッツ仮説は、おおむね1980年前後までは、先進各国の状況に、あてはまっていたが、それから以降の状況を説明できない。アメリカ、イギリス、スペイン、イタリア、日本、オランダといった先進国の統計を調べると、1980年前後までは、クズネッツ仮説は当てはまるが、それから以降は、所得水準が上がっているにも関わらず、所得格差も拡大しているのである。
    クズネッツ曲線には、実は第二の波があるのではないかと、筆者は主張している。
    以上が、先進各国「内」の話。

    次に各国「間」の格差はどうなっているのかという話。
    1960年から2013年の間の世界全体のジニ係数は、統計上、明らかに下がっている、すなわち、所得格差は、不平等は縮まっている。それは、この間の先進国の経済成長率よりも、新興国の経済成長率が高かったから。貧しい国の経済成長が、豊かな国の経済成長を上回ったから。

    次に(本の中では一番最初に来る話であるが)、1988年から2008年までの間の、グローバルな、すなわち世界全体の経済成長の恩恵を最も受けたのは、どの層か?という話。
    横軸に、世界の人々の所得分布を百分位でプロットする、0は最も貧しい人、100は最も豊かな人々。
    縦軸には、1988年から2008年までの、その所得層の人たちの実質所得の増加率をとる。
    それでグラフを作成すると、どの階層の人たちの所得が伸びたのかが分かる。
    左から右肩上がりにゆっくりとカーブは上昇し、だいたい五十五分位くらいのところがピークとなり、その時の所得増加割合は、75%くらい。カーブはそこから急激に下がっていき、ボトムは八十分位くらいのところで、この層の所得の伸びは、ほぼゼロ。ボトムからカーブは更に急激に上がっていき、百分位が次のピークで、所得増加率は65%くらい。
    この間の経済成長により、最も所得を増やしたのは、世界的に見ればちょうど中位の所得の人たち、それは新興国、例えば中国の人たちだ、
    全く所得が伸びなかったのは、比較的裕福な人たち、先進国、例えば日本などの低所得の人たち。
    これが、グローバル、世界全体の話。
    これらは、経済のグローバル化と先進国の政治政策の、一つの不可避な帰結。

    ■ここまでグローバル、マクロ的な、スケールの大きな統計的分析は、見たことがない。単純に知的に面白い。
    ■言えば、マクロ経済の話だけれども、各国の政策は、経済成長や所得格差などに大きな影響を持つ。経済は、政治からインディペンデントには存在し得ないということが、よく分かる。
    ■日本国内の格差について、話題になることが多くなっている印象がある。でも、ここまで、グローバルな分析をしないと、事の本質は明らかにならない気がする。

    と、色々なことを感じた。



  • グローバリゼーションに伴う階層別の所得変化を示す「エレファントカーブ」というFactを基に、階層間・国間・国内の格差・不平等の真実を解き明かす本。「これまでどうだったか」だけでなく、「これからどうなるのか」についても指針が示されています。
    続きはこちら↓
    https://flying-bookjunkie.blogspot.com/2019/10/blog-post_26.html
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  • 経済学の本なのだが、最終章では政治や社会の問題にも踏み込んでいる。移民、金権選挙、パワーカップル、虚偽意識…

  • グローバル化によって世界的な不平等は縮小して来たが、国内の不平等は拡大している。
    日本はまだ再分配が機能しているが、労働分配率の改善が必要だと思う。
    世界的な不平等の動向が明確に示され、問題提起としてはいい本だ。

  • 難しくて、よく理解できなかった。

    Amazonのレヴューで、投稿者θさんのレヴューを読んで、ああ、そういうことだったの?と、ボンヤリ分かった気がした。


    以下、投稿者θさんのレヴューを引用させてもらいます
    この話を理解するのに役立つ。
    ------------------------------------------
    グローバルな不平等の変化を決める力
    投稿者θ
    ベスト500レビュアー
    2017年9月4日

    邦題の「大不平等」は安直な感じがするが、内容は本書の原題「グローバル不平等 グローバリゼーションの時代への新しいアプローチ」の方が適切である。
    副題のエレファントカーブの話も(背景にはあるにせよ直接には)最初以外全く出てこない。
    本書は、多数のデータ・グラフを眺めつつ、グローバリゼーションで生じている変化を「国内の不平等」「国家間の不平等」それぞれから考えていく本である。
    (ちなみに、見た限りデータを表すグラフの縦横軸はちゃんと数字や単位は入っている)

    エレファントカーブは、グローバル中間層(中国やアジア地域の上位層)の台頭、先進国の中間以下の層の停滞、超富裕層の上昇の三つを特徴として持っている。
    最初の二つの動きは、労働市場をアジアへと移したりしたことによるものが大きく、エレファントカーブの構造はグローバル金融危機などの影響はほとんど受けていない。

    国内不平等については、まずクズネッツ曲線とピケティの恒常的な不平等増大の説が紹介され、前者は1980年以降の動きを、後者は19世紀以前の動きを説明できないと批判する。
    これに対し筆者は、(平均所得が動かないまま不平等が振動だけしている状況を脱した産業革命以降につて)クズネッツ仮説を拡張して、一人当たりGDPに対して不平等が上下に振動する「クズネッツ波形」というものを提唱する。
    産業革命以前は生産余剰が少なく財が生存線ギリギリなので不平等はある程度以上広がれず、不平等の変動はペストや戦争といった外生的要因が主だった。
    産業革命で一旦不平等が広がるが、第一次大戦から70年代ごろまで不平等が押し下げられる「第一の波」がある。
    筆者はピケティとは異なり、波の低下要因の戦争は「富裕層の余剰貯蓄の投資先として植民地確保と他国の実力排除」であり、すなわち経済(不平等)の内生的要因と見ている。これに教育や医療の普及が連なる。
    一方、情報革命とグローバリゼーション以降、金融・サービス部門への需要以降、高スキル労働者の報酬増、資本収益率の増加などによるレントの発生、それと政治に結び付いた富裕層優遇のロビー政治により「第二の波」が来ているとしている。
    第二の波の不平等拡大の停止要因はいろいろと検討しているが、教育の拡充はほぼ天井に来ているので期待できないとし、中国での賃金上昇はアジアの他国次第(労働力供給国が中国からそれらの国に変わるだけなので)としている。

    グローバルな不平等は、ほとんどが国家間のもの(国内の階級よりも「どの国に生まれるか」が所得の大半を決める)である。
    世界全体での不平等は先進国に追いつく動きがみられるものの、それはアジアに限定されており、アフリカなどは脱落したまま(正確には急激なGDP下落を何度も経験している)である。
    この豊かな国の「市民権プレミアム」を求めて人が動くのが移民であるが、移民は多くの国で受け入れられない。
    過酷な労働環境に置かれたり差別されたりする事例は多いが、それでも国家間不平等の方が大きい状況では貧困国から先進国への移民は後を絶たず、筆者は妥協的な方法として「移民の市民権を一部制限する代わりに、移民を今よりも広範に受け入れる」方策を提案している。

    最後は、アメリカの中間層没落や資本の集中、中国の状況(筆者は現在を不平等のほぼピークと見る)、そして今後のグローバル不平等を見る視点が解説されて締めくくられている。
    全体として本書は、グローバルな不平等の変化と要因を考えるうえで、役に立つ情報と視座が盛り込まれている良書だと言えよう。
    なお、本書はグローバル中間層以上を扱っているので、最底辺の国の問題はほとんど扱われていない。こうした問題はディートン大脱出――健康、お金、格差の起原やコリアー最底辺の10億人を読むといいだろう。
    逆に超富裕層の考察については、本書では批判的に言及されることも多かったが、やはりピケティ21世紀の資本は外せないだろう。
    本書は、両者の間である中流国富裕層~先進国中間層の動向をロングスパンで考察しており、グローバルな不平等を考える上で極めて示唆的な一冊だと思う。

  • 「新しい資本主義では、豊かな資本家と豊かな労働者が同じになる。この状況は、豊かな者も働いているということで、社会から受け入れられやすい。社会のどの部分が資本所有から得られたもので、どの部分が労働によるものかを部外者が見分けることは、かつてなく困難というか、不可能だ。過去には、辛い仕事をしないで利子だけを受け取っていたことから、不労所得生活者は一般に軽蔑され、嫌われていた。しかし新しい資本主義では、上位1パーセント層への批判が鈍ってくる。彼らの多くは高い教育を受け、熱心に仕事をして、それぞれのキャリアで成功を収めているからだ。こうして、不平等は実力主義という衣装を纏う。新しい資本主義が生み出す不平等は、イデオロギー的にも、そしておそらく政治的にも、攻撃することが難しい。」(p.190)

    国内間と各国間の不平等の問題についてよく理解できる本。解決方法より問題そのものについて興味深く読むことができた。今後も読み返すことが多そう。
    各国間の不平等の問題点(移民をキーワードに語られていたように思う)については、日本の地方問題に置き換えて考えることもできそうと感じた。
    面白かったです。

  • 東2法経図・開架 331.85A/Mi26d//K

  • 原題:Global inequality: A New Approach for the Age of Globalization
    著者:Branko Milanovic(1953ー) 所得分布、不平等の計測
    訳者:立木勝
    装丁デザイン:川添英昭

    ・著者のブログ。
    http://glineq.blogspot.jp/?m=1

    【書誌情報】
    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/304頁
    定価 3,456円(本体3,200円)
    ISBN 978-4-622-08613-0 C0033
    2017年6月12日発行

    〔……〕本書は、このグラフの発表者が、新たな理論「クズネッツ波形」で、今世紀の世界的不平等の行方と経済情勢を予測した基本書だ。

    「各国間と各国内の不平等をこれ以上ないほど明確に語ってくれる。必読書だ」――トマ・ピケティ。
    「これからの世界は、グローバルなトップ1%層に支配されるのだろうか、それとも支配するのは巨大なグローバル中間層だろうか」――ジョセフ・スティグリッツ。
    「斬新かつ挑発的な発想の宝庫だ」――アンガス・ディートン。

     金権政治、ポピュリズム、グローバルエリートの支配、戦争……わたしたちの未来はここから逃れられるのか? 世界のエコノミストが絶賛した2016『エコノミスト』『フィナンシャル・タイムズ』ベストブックが示す不平等研究の最前線。
    http://www.msz.co.jp/book/detail/08613.html

    【目次】
    目次 [i-v]
    謝辞 [vii-ix]

    はじめに [001-009]

    1 グローバル中間層の台頭とグローバル超富裕層 011
    グローバリゼーションで誰が得をしたのか 
    グローバルな所得分布に沿って見た所得の絶対増加 
    金融危機の影響 
    世界の上位1パーセント層
    真のグローバル超富裕層――億万長者たち

    2 各国内の不平等――クズネッツ波形を導入して不平等の長期的な流れを説明する 049
    クズネッツ仮説への不満の原点 
    クズネッツ波形――定義 
    平均所得が停滞している社会の不平等 
      前工業化社会で不平等を縮小するものは何か/前工業化社会で不平等を拡大するものは何か
    平均所得が安定して増加する社会の不平等 
      クズネッツ波形(合衆国とイギリス、スペインとイタリア、ドイツとオランダ、ブラジルとチリ、日本)/クズネッツ波形の論理
    クズネッツ波形の第一の波を下降させたものは何だったのか 
    各国内の不平等と第一次世界大戦/大平準化時代の悪性の力と良性の力
    クズネッツ波形の第二の波を上昇させているものは何か。この波が下降するとすれば、それは何によるのか 
      上昇部分をどう説明するか/不平等の拡大を相殺する力

    3 各国間の不平等――カール・マルクスからフランツ・ファノン、そして再びマルクスへ? 119
    グローバルな不平等の水準と構成の変化 
      1820年から2011年までのグローバルな不平等/グローバルな不平等における「場所」vs.「階級」
    市民権プレミアム 
      市民権プレミアムと移民/コースの定理とグローバリゼーション時代の法の支配/グローバルな機会の不平等
    移民と壁 
    移民と国境開放への抵抗感をどう調整するか 

    4 今世紀および来世紀のグローバルな不平等 157
    この章を読むに当たっての注意  
    主要な力の概説――経済の収束とクズネッツ波形 
    所得の収束――貧しい国々は豊かな国々より速く成長していくのか 
    収束はアジアの現象なのか 
    方程式のもう一辺――中国と合衆国の不平等 
      クズネッツ氏、北京へ行く?/合衆国――不平等の「パーフェクト・ストーム」
    不平等という禍――金権政治とポピュリズム 
      中間層の没落/金権政治/ポピュリズムと移民排斥主義

    5 次はどうなるのか――将来の所得不平等とグローバリゼーションについての10の短い考察 215
    今世紀のグローバルな不平等を形成するのはどのような力か 
    豊かな国々の中間層はどうなるか
    どうすれば豊かな福祉国家の不平等は縮小するのか 
    これからも勝者総取りがルールなのか
    水平的不平等だけに焦点を当てるのはなぜ間違いなのか 
    労働はこれからもほかとは違う生産要素であり続けるのか
    それでも経済成長は大切か
    不平等への関心は経済学から消え去るのか
    なぜ方法論的ナショナリズムは意味を失いつつあるのか
    グローバリゼーションが続くことで不平等は消滅するか

    参考文献 [28-41]
    原注 [7-27]
    索引 [1-6]

    コラム 1-1 グローバルな所得分布のデータはどこから得るのか 020
    コラム 1-2 所得の不平等の絶対尺度と相対尺度 030
    コラム 1-3 10億の大きさを実感するには 048
    コラム 2-1 所得と不平等の水準が同時に低下――崩壊期のローマ帝国 068
    コラム 2-2 もうひとつの大平準化――社会主義での不平等 102
    コラム 3-1 グローバルな不平等を「場所」と「階級」に分解する 132
    コラム 4-1 グローバルな不平等の予想 177

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著者プロフィール

ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。ベオグラード大学で博士号を取得後、世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務める。2003-05年にはカーネギー国際平和基金のシニア・アソシエイト。所得分配について、またグローバリゼーションの効果についての方法論的研究、実証的研究を、Economic Journal, Review of Economics and Statisticsなどに多数発表。邦訳書『大不平等』(2017)『不平等について』(2012、以上みすず書房)。

「2021年 『資本主義だけ残った』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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