中井久夫集 6 『いじめの政治学――1996-1998』

著者 :
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622085768

作品紹介・あらすじ

精神医学において、従来の精神障害を「内科的疾患」とすれば、心的外傷に続発する障害は「外科的障害」である。こちらのほうは、個人的に耐え忍び、自分の中に抱え、自力で処理されるべきものとされてきた。たとえば肉親・近親者・親友との離別、死別、幼児虐待、性的虐待、犯罪被害、被災、戦争体験、死に至る病の告知を受けること等々である。ところが、そうではなくて、コミュニティの中で支えられ、援助されるべきであると考えなおされてきた。この最近の世界的な思想的・社会的開眼という大きな文脈の精神医学版がPTSDとなって現れたのである。
(「喪の作業としてのPTSD」 1996)

いじめが権力に関係しているからには、必ず政治学がある。子どもにおけるいじめの政治学はなかなか精巧であって、子どもが政治的存在であるという面を持つことを教えてくれる。子ども社会は実に政治化された社会である。すべての大人が政治的社会をまず子どもとして子ども時代に経験することからみれば、少年少女の政治社会のほうが政治社会の原型なのかもしれない。
いじめはなぜわかりにくいか。それは、ある一定の順序を以て進行するからであり、この順序が実に政治的に巧妙なのである。
私は仮にいじめの過程を「孤立化」「無力化」「透明化」の三段階に分けてみた。これは実は政治的隷従、すなわち奴隷化の過程なのである。
(「いじめの政治学」 1997)

子ども社会におけるいじめの進行過程を分析した表題作ほか、PTSDやこころのケア、ロールシャッハ・テストに関する論考等30編。

感想・レビュー・書評

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  • ずいぶん前に、たしか新聞の書評欄で紹介されていて、ずっと気になっていた『いじめの政治学』。
    何年か越しで、やっと手に取ることができました。

    「孤立化」「無力化」「透明化」の3段階のプロセスについての記述を読んでいるとき、ふっともうずいぶん前に過ぎ去った、自分が小学生の頃にすっていた空気を思い出す。
    子どものときって、大人の権力のもとで暮らしていて、すごく大人と距離が近い反面、遠く隔たってもいたんだな。
    あの頃は、それがわからなかったなあ。

    収録されている他の文章もどれも興味深くて、自分だけではとてもたどりつけない思考と記憶の世界に、手をとって導いてくれるような本でした。

  •  中井久夫集が出始めて、中井久夫さんが過去の人になるようでさみしい。法学部を出てから、医学部に入り直した紆余曲折の人。精神科の医療に関心のない人でも、彼の始まりから読みなおすことをお勧めする。「すごい」人がいるのです、世の中には。
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201904100001/

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著者プロフィール

中井久夫(なかい・ひさお)
1934年奈良県生まれ。2022年逝去。京都大学法学部から医学部に編入後卒業。神戸大学名誉教授。甲南大学名誉教授。公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構顧問。著書に『分裂病と人類』(東京大学出版会、1982)、『中井久夫著作集----精神医学の経験』(岩崎学術出版社、1984-1992)、『中井久夫コレクション』(筑摩書房、2009-2013)、『アリアドネからの糸』(みすず書房、1997)、『樹をみつめて』(みすず書房、2006)、『「昭和」を送る』(みすず書房、2013)など。訳詩集に『現代ギリシャ詩選』(みすず書房、1985)、『ヴァレリー、若きバルク/魅惑』(みすず書房、1995)、『いじめのある世界に生きる君たちへ』(中央公論新社、2016)、『中井久夫集 全11巻』(みすず書房、2017-19)

「2022年 『戦争と平和 ある観察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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