マティスとルオー 友情の手紙

制作 : ジャクリーヌ・マンク 
  • みすず書房
4.11
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本棚登録 : 57
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622085645

作品紹介・あらすじ

「君がそれをやるべきだよ!」――マティス。
「もっといい絵を描きたい」――ルオー。
気質も画風も好対照。それゆえに惹かれ合い、ライバルとして高め合ってきたマティスとルオー。ふたりはパリ国立美術学校のギュスターヴ・モロー教室で出会って以来、マティスの死の直前まで50年にわたり手紙を交わし、家族ぐるみの交流をつづけた。恩師との思い出、フォーヴィスムの誕生、画商への愛憎、贋作騒動、「聖なる芸術」への熱情――ふたりの巨匠の創作の舞台裏。

2006年、かつてのルオーのアトリエで、マティスからルオー宛の手紙が発見された。以来、編者マンクをはじめ関係者による解読が進められる。真の教育者モロー、当代随一の画商ヴォラール、稀代の出版人テリアード、ヨーロッパ美術の渡し守りP・マティス……フランス絵画界の陰の立役者たちの人間ドラマが展開する、美術史の第一級史料。
図版75点、詳細年譜、関連地図を収録。

感想・レビュー・書評

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  •  ギュスターブ・モローの教室に通い薫陶を受けた二人の天才。早くから才覚を表し、のちにモロー美術館の初代館長になるなど後継者として認められていたルオーに対し、目が出ずに凡庸な作品しか描けなかったマティス。
     相容れない作風の二人がその後の人生50年に渡り友情を深め、芸術へと身を投じながら、死ぬまでその絆を守り抜いた魂の記録。


     二人にとって幸運だったこと、そして美術界にとっても大きかったことの原点はギュスターブ・モローの教育姿勢にあった。


     幻想的な作風からは全く想像もつかないことだったが、モローは教育者として素晴らしい姿勢を示した。アカデミズム教育を否定し、個々の才能を伸ばすことに教育の本質を見出す。マティスの才能もモローが見出さなければ開花しなかったかもしれない。


     二人の手紙からは師モローから受けた薫陶が深く心に焼き付いていることがわかる。


     マティスの作品に『ラ・フランス』という絵画がある。優雅で気品にあふれた赤いドレスの女性が、手を広げ肘掛け椅子にゆったりとくつろいでいる構図だ。


     ナチスの影がパリに迫る時機に描かれ、画集として発刊されたのはナチ占領下のフランス。


     国家の存続さえ危ぶまれる厳しい状況下で、フランスの気概を示そうという出版人たちの求めに応じて、マティスが描いたフランスそのもの。自信にあふれ、華やかに着飾り、気品に満ちた女性像。
     
     作品名が示すように、これぞフランスだ!というフランス人の魂を表した作品。

     フランスの不屈の精神の象徴のようだ。これをエスプリの戦いと呼ばずに何と呼ぶのか

     もし同じような状況下で日本人画家が「これぞ日本だ!」という気概に満ちた作品描いてください、と言われたら、一体どんな作品を描くだろうか。想像もつかない。


     絵画芸術だから作品を一見たときの印象で良し悪しを判断するという姿勢もある意味正しいけれど、その背景を知ったことにより、見えてくる精神の深みもある。

  • フランスを代表する偉大な画家、アンリ・マティスと
    ジョルジュ・ルオーの長きに渡る書簡のやりとりを
    一冊にまとめたものです。

    数年前に同じテーマで行われた展覧会に行った時、
    絵画と並行して展示されていたマティスとルオーの
    直筆で書かれた手紙に心を打たれ、この本を思わず
    購入したという経緯でしたが、読み始めるまでに
    ずいぶん時間がかかってしまいました。

    本には実際の手紙の画像も折り込まれており、
    とても興味深い内容です。
    タイトルに友情の手紙とありますが、長きに渡って
    本当に良いライバルであり、心を許せる友だったことが
    わかります。
    良い時も悪い時も、戦争中でさえも、励まし合い、
    悩みを打ち明け、意見をぶつけ合い、お互いと
    お互いの仕事について気遣っている内容がとても素敵です。
    絵画について素人の私には専門的なことが書かれた部分は
    理解できないこともあるものの、その情熱は確かに
    伝わってきます。お互いの仕事に対する敬意も。

    この書簡集を読んでから彼らの絵を鑑賞してみると、
    また違った感想を持つかもしれません。
    画風だけを見ていると全然似ているところがないので
    気が合わなそうに思うのですが、そうではなかったことが
    手紙を読むと分かります。
    肉筆も絵画と同じように個性的で直筆の文字を見ることが
    好きな私には大好物。

    心を許した親友に宛てた手紙は敬う心と愛情が感じられて
    第三者が読んでもそこにそよいでいる心地よい風を
    感じることができます。
    手元に置いておいて時々パラパラと好きな箇所を
    読み返したくなる本です。

  • 個人的にもこれまで全く別々の文脈でしか鑑賞してこなかったマティスとルオー。主に戦中の混乱と、各々が抱える健康面・制作環境面の困難を互いに気遣い励まし合う二人の往復書簡の存在にまず驚く。彼らを結び合わせた偉大な師、ギュスターヴ・モローの影響を生涯携えながらそれぞれに画業を極めた二人の幸福な友情と、彼らをとりまく家族ぐるみの親密なつながりに心温まる。

  • 個人情報に関わる箇所もあって全文公開ではないとのことだが,それでも二人の想いや親密さ,周囲を取り巻く様子などがとてもよくわかる.そして二人を結ぶ核となったモローの素晴らしさが垣間見えてとても良かった.絵や手紙などの資料もたくさん掲載されていて,それも丁寧な仕事をされたと感心した.

  • パナソニックミュージアムで開催中のマティスとルオー展で、図録小冊子とセット購入。
    両者が画家として最も精力的に活動していた時期がすっぽり抜け落ちて、若いころと晩年に差し掛かるころの部分のやり取りが中心になりますが、それでも、ギュスターヴ・モロー教室での両者の関わり、画商ヴォラールとルオーの確執、ボノム作品の「贋作」騒動、と小説の種になりそうなエピソードがちらほら。
    マティスに対しては、「君のおかげで油彩はシンプルになっていくだろう!」、ルオーには「君は厳粛で簡素、そして本質的に宗教的な芸術が好きで、君のすること全てにその刻印が押されるだろう」というモローの「予言」なんて、小説のセリフに出てきたら、「出来過ぎ」と思ってしまうくらい、適格で、ドラマチック。

  • 書簡は読むの大好き。
    手書きの写真や同じような絵など、見応えもあり。

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著者プロフィール

(Henri Matisse)

「2023年 『マティス 画家のノート 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アンリ・マティスの作品

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