- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622079750
作品紹介・あらすじ
「ペンによる肖像画の試みである/個性も仕事もさまざまにちがう人たちだが、一つだけ共通している。いずれも、もはやこの世にいない。さらにもう一つあげれば、徒党を組むのをいさぎよしとしなかったこと」
「ほんのちょっとした偶然を意味深い必然に変える何か。それがあってはじめて、その人が自分にとって守護天使のようになった」
(「あとがき」)
したしかった人、何度か会っただけなのに忘れがたい人、本を通して会った人。出会いのかたちはそれぞれ、でもずっと大切な存在である人々について、時代と生活に思いを馳せながら、歩いたあとを辿るように書く。各紙誌等に発表した文章を大幅に再構成・加筆修正した27編に、エッセイ「死について」を付す。
本書で会えるのは、種村季弘、森﨑秋雄、須賀敦子、松井邦雄、西江雅之、米原万里、澁澤龍彥、大江満雄、丸山薫、菅原克己、高峰秀子、野呂邦暢ほかの28人。
感想・レビュー・書評
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ドイツ文学者・エッセイストの池内紀氏が8月30日に亡くなった。78歳。膨大な著作のほとんどに、私は接していないが、晩年の2つの仕事を読んで私は深く感銘を受けたので、残念でならない。ただ、近年次々と刊行された著作ラインナップを見ると、この数年間死への仕度をしてきたようにしか見えない。
森鴎外『椋鳥通信(上・中・下)』(2014-15)は、鴎外全集の中でも際物に扱われていた20世紀初頭の何処よりも速い西洋ゴシップ記事レポートを、あまりにも詳細な注解を付して立体的に提示したものだ。鴎外研究にも大きく与するはずだが、第1次世界大戦前のヨーロッパを、我々がインターネットで知るかのように見せてくれるという意味でとっても面白い著作だった。またその後に、しばらく絶版だった池内最初の訳書であるカール・クラウス『人類最期の日々(上・下)』(2016)も再発行された。正に第1次世界大戦下の、直ぐに勝利のうちに終わるだろうと思っていたドイツ国民を、政治家・庶民まるごと「同時進行で」劇化した大作である。これを留学生だった池内紀氏が翻訳し、そして現代に再度問うたことに、池内氏の企みがある。高価なこともあり、おそらくほとんど売れていないはずだが、これらの仕事は後世必ず評価されると思う。
そして今年は、亡くなる直前に『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』という現代日本を見据えた評論を出している。
文章の振り幅は、ドイツ文学に偏らず森羅万象に及び、現代日本については批判的で、正に日本を代表する知識人の一人だったと思う。
長い前振りだった。本書を紐解く。2016年発行。21世紀を迎えて以降の、様々な知り合いの追悼文や思い出話に、「死について」の短文を添えて書き遺している。森浩一、北原亞以子、森毅、小沢昭一、米原万里、児玉清、高峰秀子等々、私の知っている者だけさっと読んだが、長い間常連役をしていたラジオ番組「日曜喫茶室」への歯に衣を着せぬ批評など、辛口であることを意外に思った。けど、亡くなった人への評価は愛がありやさしい。そして自らの死期を悟って書いているのかまったく不明ではあるが、「自分の死を他人にゆだねない」と自らの尊厳と自由をかけて宣言している。思うに、根っからの西欧的知識人かつ自由人だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ほんとうに美しいものは静かでつつましい
この本のどこかに書かれていた言葉です
27人の鎮魂歌の一か所ですが
この書の全編に漂っているムードです
静かに、しかも深く余韻を持って読み手の気持ちに
浸みこんでくるエッセイ
目に見えない、それでいて満たされた気分になる
そんなモノを受け取った気にさせてもらえます -
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