荒廃する世界のなかで――これからの「社会民主主義」を語ろう

  • みすず書房
3.92
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622075608

作品紹介・あらすじ

今日の生き方には、途方もない間違いがある。市場原理主義が引き起こす不安と混乱に対して、世論の鍛え直しと政府の役割の再考を訴える、歴史家最後の提言。

感想・レビュー・書評

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  • 名著「ヨーロッパ戦後史」の著者の遺言的な書。大きな政府的な考え方が、如何に現在の世界を形作っているか、思想の変遷、などについて考えさせられた。

  • トニー・ジャット。全然知らなかったけど、面白かった。経歴はamazonによると「1948‐2010。ロンドン生まれ、ケンブリッジのキングズ・カレッジ、パリのエコール・ノルマル・シュペリユール卒業。オックスフォードのセント・アンズ・カレッジでフェローおよびチューターを務めた後、ニューヨーク大学の教授に就任。1995年からレマルク研究所の所長としてヨーロッパ研究を主導する。2005年に刊行された『ヨーロッパ戦後史』はピュリツァー賞の最終候補となるなど高く評価される。2007年度ハンナ・アーレント受賞」。

    こういう本が地味に売れているということは、社会がもうちょっと殺伐とせず、極端な方法論的個人主義的でない世の中になっていくんじゃないかと期待をしてしまうなあ。

  •  2010年に病気で亡くなった政治学者が語る社会民主主義。

     1960年代まで、かつて人々は公共を強く意識し社会民主主義による福祉国家が世界中にあった。しかし、現在それらはその影を潜めている。作者は戦後史を振り返りながらそのことを指摘し、私達はどうするべきかを論じていく。
     社会民主主義を再び根づかせるのには単純なシングルイシューではなく、じっくりと社会問題を考え直すことが必要になる。終盤の鉄道の例が分かりやすい。鉄道は収益以上にその地域社会を維持する働きこそが重要である。経済的な損得だけでなく広く社会的な損得を考えなければならない。

     社会民主主義を考える羅針盤。

  • ※ついったーの短評ですいません。

    T・ジャネット『荒廃する世界のなかで―これからの「社会民主主義」を語ろう』(みすず書房)読了。政治学者ではなく一級の歴史家が市場原理主義批判と社会民主主義再評価を試みた異色の一冊。自己責任を高調する新自由主義のもたらす「分断」分析、市民参加型(アマチュアニズム)再考を促す良書。

    ジャネットのサッチャー主義批判の舌鋒はするどい。「実利主義・自分本位主義は、人間の条件そのものに内在しているのではない」し、「富の創造に取り憑かれること、民営化・民間セクターを金科玉条とすること、貧富の格差が弥増すこと――は、1980年代以後に起こった」との指摘は歴史家ならでは。

    わたし自身は「政府1.0」に対して、最小政府が持論ですが、最大政府であろうが最小政府であろうが、運営の維持には「参加」が不可欠。

    ネオコン的新自由主義は結局「自己責任」の強調で政治を「軽く」させてしまった(→専門家へのおまかせと無関心という自室への引きこもり。

    だとすれば、社会民主主義のもつ「アマチュア」の全員参加主義は再考されてしかるべきだろう。

  • やっと手に入れました。講演の内容を本にしたものですね。

  • 荒廃してしまった世界がこれでもか、これでもかとイヤになるほどにまで紹介される前半。

    それほど贔屓にはしていないし、悪いところを十分に承知している自国や自分が住む地域社会。連戦全勝、向かうところ敵なしとまでは行かないごひいきのフットボールチームや幾分趣味が悪いことを十分に承知しているものの新譜が出ると思わず買ってしまう音楽グループ。そんなヤツらの欠点をこれでもかこれでもかと、次々に他人から述べ立てられてしまうと、イヤァそこまでけなすことはないんじゃないの、といつもはその欠点を並べ立ててるはずの自分なのに、かえってかばう側にまわってしまう。

    「今日のわたしたちの生き方には、何か途方もない間違いがあります。わたしたちはこの三十年間、物質的な自己利益の追求をよしとしてきました。実を言えば、今のわたしたちに共通の目標らしきものが残っているとすれば、この追求を措いて他にありません。何にいくらかかるか、わたしたちはよく分かっていますが、それが真に値打ちあるものなのかどうか、皆目見当がつかないのです。わたしたちはもはや、司法的な規制や立法的な措置の必要など意に介さなくなっています。それは良いことか?それは公平であるか?それは正義に反しないか?それは間違っていないか?それが果たして社会を改善し、世界をよくすることに役立つのか?答えは容易に見つかるわけではありませんが、まさにこうした政治的問いというものが、かつては確かに存在していました。」

    冒頭からこのように平易かつ真摯な問いが投げかけられ、この「何か途方もない間違い」が次々に例示されてゆく。さて、この間違いに対してどのようなソリューションが提示されるのだろうか?

    2010年に無くなったという著者の遺言ででもあるかのように、後に残された者に対し、さらにそのあとに残る者により良き未来を、荒廃を立て直す兆しを感じ取れる未来を残して欲しいと託しているかのようだ。

  • 回送先:府中市立生涯学習センター図書館

    タイトルこそ、昨年大ヒットしたマイケル・サンデル『これからの正義の話をしよう』の本歌取りではあるが、それへのみすず書房なりの正攻法な返答ではある(この正攻法はみすず書房以外には使えない手法である。学術書としての位置づけを踏まえたうえでの返答だからだ)。
    したがって、本書は政治哲学における社会民主主義の位置づけと現状のあり方、そして今後社会民主主義はどういう方向性へ向かうべきなのかということを主軸にすえている。

    社会民主主義(現在、さらにその先の「新社民主義」という言葉も輸入されている)に対するイメージが日本とそれ以外で大きく異なっている(というか日本での先入観があまりにも一世代前の噴飯ものの先入観→これを露骨に見せたのが水戸泉の『政党たん』であろう。これについては日を改めて批判の俎上に乗せるつもりだ)ために、その点における受容の問題が恐らく残るのはしょうがないのかもしれない。重要なポイントとして経済政策の中における社会民主主義(ケインズ主義から新自由主義まで)のタームをめぐる取り扱いではあるが、同時に政治と社会の関係についてのあり方について日本ではまず聞くことのない知見を得られるのかもしれない。

    社会民主主義を福祉国家と同一化して嫌悪するというのはある意味では粗忽な態度でしかない。同時に、政治評論しか見る気のない多くのオーディエンスを「愚民」のごとき扱いをしない(多くの政治評論に対して評者がとても嫌悪反応を持たざるを得ないのはまさにこの扱い方をしておきながらオーディエンスのルサンチマンをあおるだけしか能がないという部分だ。その意味では佐高信も副島隆彦も同じ穴のムジナだ)。なので、提言書として読もうとするとする読者にはおそらくなんのことかさっぱりわからないだろうし(それはそのように読もうとする側が浅はかなだけ)、政治学の教科書でもない。しかしながら、語り口とは裏腹の知見の奥深さを味わうことになりはすれども。

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著者プロフィール

ロンドン生まれ。ケンブリッジのキングズ・カレッジ、パリの高等師範学校を卒業。オクスフォードのセント・アンズ・カレッジでフェローおよびチューターを務めた後、ニューヨーク大学教授に就任。1995年から、レマルク研究所長としてヨーロッパ研究を主導した。『ニューヨーク・レヴュー・オヴ・ブックス』誌その他に寄稿。2005年に刊行された『ヨーロッパ戦後史』(みすず書房、2008年)はピューリツァー賞の最終候補となるなど高く評価される。2007年度ハンナ・アーレント賞を受けた。2010年8月6日、ルー・ゲーリック病により死去。その生涯はティモシー・スナイダーとのインタビュー集『20世紀を考える』(河野真太郎訳、みすず書房、2015年)で語られている。

「2019年 『真実が揺らぐ時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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