- Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622072447
感想・レビュー・書評
-
ある論集で目にした「戦争と平和についての観察」をもういちど読みたくて、単行本化をずっと待っていた。
いちおう戦後教育を受けた僕には、戦争が悪いのは当たり前で、人びとがなぜ戦争という人類最大の愚行に走ったのか(走るのか)、今ひとつ理解できていなかった。それなのに、もし仮に戦時中に生きていたら、戦争に反対したか、戦地に向かうことを拒否したかと言われると自信がない気がして、戦争をめぐる自分の心理について、どこか自分でつかみきれていない感じを抱いていた。
人びとはなぜ平和を維持するのを放棄し、戦争に走るのか。戦争を始まる前に食い止めること、始まった戦争をやめることはなぜ難しいのか。虐殺に代表される「戦争の堕落」はどうして起こるのか。
精神科医である著者は、戦争のそれぞれの段階における人びと(指導者、兵士、一般市民)の心の過程を丁寧に描き出す。すると戦争という全体的には狂気ともみえる悲劇が、個々の心理としてはありふれた、誰にでも納得のできる反応の積み重ねによってできあがっているというおそろしい事実にぶつかる。
文学や映画も含めて、これほどの身に迫るリアリティで戦争を描き出した文章を僕は知らない。
分析の対象は過去の戦争だけど、近年のユーゴ、「テロとの戦争」、日本の国境問題のいずれにも当てはまる。現代の戦争と平和を考えるうえで欠かせない一文である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦争が「過程」であるのに対して平和は無際限に続く有為転変の「状態」である。だから、非常にわかりにくく、目にみえにくく、心に訴える力が弱い。