ガラテイア2.2

  • みすず書房
3.78
  • (17)
  • (13)
  • (22)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 174
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622048183

作品紹介・あらすじ

リチャード、と彼女はささやいた。彼女の名前はヘレン、最新型の人口知能-『舞踏会へ向かう三人の農夫』の天才作家が描く新世紀の恋愛小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『Operation Wandering Soul』を苦労して読んでみて、パワーズの作品、邦訳されているぶん全部読まなければもったいない!との思いを強くして、こちらを。
    「人工知能」「恋愛小説」といった惹句から『her』的なものを想像していたが、まったく違った。AIがらみがちんぷんかんぷんなうえ、文章そのものが非常に難解で、心を落ち着けて2回読んでも意味がわからない表現が目白押し。『Operation…』のほうがわかりやすかったとすら思えたほど。でも、きらめきを放つ人生の真理がときおり混ぜ込まれていたりして、理解できなくてもわかるなあという瞬間は幾度もあった。ずっと前、大江が「自分の小説は肉体労働者にもわかるように書いているつもり」みたいなことを言っていて「嘘つけ!」と思ったものだが、あああのとき大江が言っていたのはこういうことなのかな、と。
    本作は主人公が「リチャード・パワーズ」だけあって、自己言及たっぷりで、そこはご褒美のように楽しめた。引用される数多の文学作品の中には『憂国』もあり。ただ、恋愛パートが私はダメだった。Cとの顛末は甘酸っぱい?ほろ苦い?感傷っぽく振り返られているけれど、渦中のCのしんどさがめちゃくちゃわかって、読んでいて辛かったし、Aへの偏愛に至っては「キモッ!」としか言いようがない。裏を返せば、ダメ男の描き方がめちゃくちゃうまいってことなのかもしれないが、他の作品のロマコメっぽい描写が好きだっただけに、本人もこんな感じだったとしたらガッカリだよ、パワーズ(まあ、若きパワーズがさらに若い時のことを書いてるわけだから、ご愛嬌…なのか?)
    言葉の通じないオランダに移住したり、人工知能に言語を教えたりするなかで語られる、原語や翻訳についてのあれやこれやは面白かった。
    研究所の同僚(ハロルドやダイアナなど)の細かい設定、なぜだかあんまり頭に入ってこなくて、ここちゃんと読めばもっと味わい深かったかもと反省。
    自分の理解不足を棚に上げて言うなら、作家としての自分のこれまで・これからを整理するために好きなことを好きなように書いた壮大な習作、だったのかな。

  • めっちゃ面白い。1995年に書かれたとは思えないほど正確にニューロネットワークとディープラーニングによるAI知性について描かれており驚いた。2000年代中盤まで入らないとこの分野の一般書は日本に出回っていなかった印象があるので、当時の翻訳版読者はもちろん、翻訳者はWikipediaもないなかでよく頑張ったな。
    作家の知識がしっかりしているので LLM モデルの生成AIが爆発的なブームになった2023年に読んでもそこまで違和感がない。(ただ、新しさは何もない)刊行当時に読みたかった!
    ChatGPT-4 は著作権上、小説のインプットはされていないということだったので英語圏のレビューから概要をさらってきてもらったりして、日常的にも存在感を示しはじめつつあるが、ヘレンみたいな多重の入力ベクトルを持つAIはまだまだ夢の存在だな。

    なんとなく図書館で手に取ったが、著者作の1冊目としては大変に不適切だった。

  • 2023年1月31日 3度目か4度目の読了。

    最初に読んだとき最後には涙したのを覚えているが、それから4,5年ごとに再読したが泣けなかった。ああこの箇所だったなというのはわかる。
    今読むと、半自伝的な綴りは固くヘレンとのやりとりのほうが柔らかく感じた。

  • wired・科学と創作・10位

    mmsn01-

    【要約】


    【ノート】
    (wired)
    米文学きっての鬼才は、その該博な科学的知識でも他の作家を圧倒する。『われらが歌うとき』で理論物理学と音楽を、本作では人工知能と恋愛を大胆に結びつける。

    ◆ユーザーからのコメント
    ¥3,000以上する小説を買ったのはこれが最初で最後。新時代の小説にしてすでにクラシック/リチャード・パワーズの造形感覚を際立たせる一作。ポリフォニックなプロット力が凄いの一言

    (amazon)
    Amazon.co.jp
    本書の主人公「作家リチャード・パワーズ」は架空の人物。数年間の外国生活を終え帰国した彼は、超有名な巨大組織「高等科学研究センター」のアメリカ駐在人間性研究者としての職に就く。そこで彼が出会ったのは、ずけずけとものを言う神経学者フィリップ・レンツ。彼の研究はコンピュータベースの神経組織をもつ人工頭脳の開発だ。いつしか2人は協力しあい、奇妙だが実に野心的なプロジェクトに乗り出す。それは「人工頭脳に英文学を教え込み、難解な修士試験に合格させる」というものだった。
    プロジェクトが進むにつれ、彼らのつくり出した「子ども」はすさまじい勢いで情報を吸収、その興味はしだいに世俗的なことに向いてくる。じきに「子ども」は自分の名前や性別、人種、存在意義を教えてくれと言いはじめた。ところがその相手をするうちに、パワーズも自問自答をくり返すようになる。自分の職業選択は間違っていなかっただろうか、以前の教え子と長年にわたってうまくいかなかった理由は何か、なぜ「子ども」の競走相手に選ばれた修士候補生に強い執着を感じるのか…。それはパワーズにとってのたしかな「目覚め」だった。(Amazon.com) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

    内容(「BOOK」データベースより)
    リチャード、と彼女はささやいた。彼女の名前はヘレン、最新型の人口知能―『舞踏会へ向かう三人の農夫』の天才作家が描く新世紀の恋愛小説。

  • 訳で減点

  • 読了から数ヶ月経ち、内容をしばらく咀嚼して、(しすぎて細部を忘れかけているのだが)ようやく少し前向きに中身を見つめられるようになったなというのが正直なところ。初読時は主人公へのストレス……と言っていいのか……が酷く大きく(そういう作品であるのでけなしているわけではない)、有り体に言うなら「この男はダメだな!」と感じていて、今になってそのダメさに理解が及ぶようになってきた。のだと思う。共感は未だできないのだけれども。
    「僕たちは坐って西風に耳をすました。まったくの他人どうしの親しさ」という一文が素晴らしかった。この一文に出会えただけで読んだ価値があったと思った。理系のエリートコースを進むはずだった主人公は、文転をしたことに対し、父親に強い引け目を感じるようになっている。そのまま和解をすることなく父親を喪い、もたれかかるように恋をした相手とは結局破局を迎え、さらにその彼女を人工知能や教え子に重ねていってしまうのが主人公、リチャードという男なのだけれども(著者と同じ名前なのか……)、その彼が子供を持つ女と語らったときに出た言葉である。他人に自分を委ね続け、後悔を重ねてきた彼が、その人生の途中でほんのひとときだけ得たものが「まったくの他人どうしの親しさ」だったことが胸に来る。

  • 20151016読了

  • 次の作品の書き出しは絶対にこうだ。「南に向かう列車を思い描いてほしい」。この一行は宿命的で、十月の青空みたいな解放感があるように思えた。

  • これは良い人工知能SF。物理学から文学に転向し、小説家でもある主人公リチャード・パワーズが、レンツ博士とともに「修士総合試験の問題を解釈する人工知能」の開発を始める。A号機から始め、試行錯誤しつつ改良を進めていくさまには、プロジェクトX的な面白さがある。
    また、並行して語られるリチャードとCの過去の恋物語が甘く切ない。
    しかしこの小説でもっとも可愛いヒロインは人工知能H号機であるヘレンで決まり。質問に不器用に答えることしかできなかったヘレンが次第に「意識」と呼べるものを身につけていく過程がとても楽しく、ページをめくらせる。音楽を聞きたがったり、異国の街の風景に興味を持ったり、幼い子供のように好奇心旺盛なヘレンとリチャードのやりとりには心底癒された。
    「ごめんなさい。心をなくしちゃって」のくだりは、人工知能SF屈指の名シーンだと個人的に思った。

  • 軽い気持で読み始めたら、著者の知識量に圧倒されました。。
    もう乱暴なくらいに古典文学の引用と人工知能などの理系っぽい話が混然となってます。正直、主人公の論理を追いきれないところがあちこちありました。

    ただ、別にそういう面倒なところは、主題ではない気がするし、この濃密な物語をやり過ごすのはもったいない気もします。ちょっと分厚いけど。

    人工知能ヘレンの「意識」。
    本を読み聞かせ、育てる主人公。その恋人との過去。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1957年アメリカ合衆国イリノイ州エヴァンストンに生まれる。11歳から16歳までバンコクに住み、のちアメリカに戻ってイリノイ大学で物理学を学ぶが、やがて文転し、同大で修士号を取得。80年代末から90年代初頭オランダに住み、現在はイリノイ州在住。2006年発表のThe Echo Maker(『エコー・メイカー』黒原敏行訳、新潮社)で全米図書賞受賞、2018年発表のThe Overstory(『オーバーストーリー』木原善彦訳、新潮社)でピューリッツァー賞受賞。ほかの著書に、Three Farmers on Their Way to a Dance(1985、『舞踏会へ向かう三人の農夫』柴田元幸訳、みすず書房;河出文庫)、Prisoner’s Dilemma(1988、『囚人のジレンマ』柴田元幸・前山佳朱彦訳、みすず書房)、Operation Wandering Soul(1993)、Galatea 2.2(1995、『ガラテイア2.2』若島正訳、みすず書房)、Orfeo(2014、『オルフェオ』木原善彦訳、新潮社)、Bewilderment(2021)。

「2022年 『黄金虫変奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

リチャード・パワーズの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×