人類と感染症の歴史

著者 :
  • 丸善出版
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784621086353

作品紹介・あらすじ

「得体の知れないものへの怯え」を超えて 著者はウイルスの専門家。ウイルスは人に感染し、社会制度、政治、社会心理など極めて関係が深い。2003年SARS、2009年「新型インフルエンザ」の緊張と混乱は人々の不安を増した。感染症が社会に対していかに大きな影響を与え、いかに歴史を動かして来たかを本書で明らかにする。なぜ、感染症は絶えないのか?なぜ新たな感染症が出現してくるのか?人類はどのように感染症と戦って生き延びてきたのか?科学はこの見えないものへの怯えをいかに減らしてきたか?そして、我々は、どこへ行くのか? 本書の内容は、感染症を40%、歴史を40%、残り20%をその間を繋ぐ社会心理的なものに充てた。感染症の歴史は、人々の不安の歴史でもある。明治期より近代微生物学の進展がその不安を減らしてきた。それでも、肉眼で見えないことの恐怖は消えない。次々と新しく出現する新興感染症。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルが示すように、人類と感染症の歴史を、古代から現代まで広く網羅的に扱っている。感染症そのものの歴史と病態というよりは、感染症によって影響を受けた歴史にフォーカスを当てている。

    著者はウイルス学者であり、歴史家ではないが、トリビア的な情報を得たいと思ったら、次々と出る感染症の歴史本の中でも本書がベストであるように思う。

    扱う感染症は、天然痘、ペスト、ポリオ、結核、麻疹、風疹、インフルエンザ、ウエストナイルウイルスと幅広い。それぞれの感染症対策から得られた教訓のようなことも述べられており、専門家の意見として興味深い。

    個人的には、自分の不勉強を棚に上げるようではあるけれど、感染症そのものの情報がもう少しあると理解が深まるように思った。

  • 感染症はなくならない。新たな病原菌が現れて、世界中に広がることが多くなった。
    「ヒトは得体の知れないものに怯える」。
    病原菌発見と撲滅の歴史である。
    各章ごとに独立した内容であり、読みやすい。

  • パンデミックな時代に勇気をいただいた、加藤茂孝さんの「人類と感染症の歴史」

    コロナウィルスと人類の戦いがまさに進行している現在、私は外出することなく、ネット、新聞、テレビをみながら心休まることがありません。そんな中コスモスTMCの加藤茂孝さんの著書「人類と感染症の歴史」をずっと読んでいました。

    本書では、天然痘、ペスト、ポリオ、結核、麻疹、風疹、インフルエンザ、ウェストナイル熱といった感染症をとりあげ、人類がその黎明期からいかにウィルスに悩まされ、立ち向かってきたかを、歴史という時間と空間を旅しながら壮大なスケールでかつ緻密に解説した本です。

    本書で魂に響く言葉がいくつも出てきます。
    「人は得体の知れないものに怯える。」
    ジェンナー、パスツール、野口英世、北里柴三郎、コッホといったウィルス、感染症研究のパイオニアたちは、得体の知れないものの正体を突き止めるために、身の危険を顧みずに得体の知れない恐怖に立ち向かいしました。

    「井戸の水を飲む人は、井戸を掘った人への恩を忘れてはいけない。」
    人類の黎明期、感染症研究というものがなく、医学が未熟だった頃、感染症にかかると人は簡単に死んでいました。しかし、パイオニアたちのこうした尽力のおかげで私たちは安全に生活できています。私たちは、その安全で快適な生活を当たり前のものと感じていますが、実は歴史の中にこういう人たちがいてくれたからだと。そのことを決して忘れてはいけない。コロナウィルスのパンデミックで世界の情勢が非常に不安定になっている中、この言葉は強く噛み締めないといけないと思います。

    この本の魅力と価値は次の三点に集約できると思いました。

    ① 加藤さんの専門家としての経験と知見がコンパクトに集約されている。
    国立感染症研究所や米国CDCに勤務された感染症研究の第一人者である加藤さんが語る、各ウィルスの正体が写真やイラスト、グラフを駆使して、豊富な事例とともに語れていること。専門用語が多く出てくるためインフルエンザの章では挫折しそうになりましたが、そんな中に時々絶妙なタイミングで、加藤さんの個人的なエピソードが現れうまく息抜きしながら読み進めることができました。

    ② 歴史読み物としても大変に面白い
    平安時代の藤原氏一族を悩ませたりインカ帝国の崩壊を早めた天然痘、中世ヨーロッパ十字軍の遠征が広めたペスト、枕草子や源氏物語に現れる結核などなど、本書には実に様々な歴史の事例が出てきます。加藤さんの歴史の知識に驚嘆しながら、加藤さんがなぜここまで歴史に詳しいのか考えを巡らせてみると、感染症の研究者として人類との関わりを考える中で、史実や文学、絵画に現れる感染した人の振る舞いの描写、そして古い人骨標本から、どんなウィルスがどんなスピードでどこに広がっていき、人類史にどんな影響を与えたかまで加藤さんの研究が広がっていったと考えました。加藤さんは古典文学にも大変お詳しく大変勉強になりました。

    ③ 人類への愛が深い
    感染症は戦争で広がった史実がたくさんあります。古来から十字軍によるペストの流行、第一次大戦によるインフルエンザ(スペイン風邪の流行)などほんの一部です。また感染症研究が最近のアフガニスタンでの戦争などで妨害され遅れてしまったこと。加藤さんは本書の中で以上に残念に感じておられます。一方で、感染症研究者、公衆衛生担当者による世界的なネットワークにより予防や制圧が進んでいること。WHOを中心に国を超えたネットワークで感染症を追い詰めようとしていること。こうしたことに加藤さんは惜しみない称賛を送っておられます。そこに加藤さんの人への深い愛を感じ胸を打たれます。

    いろいろな読み方ができる本書ですが、3つに集約してみました。

    コロナウィルスは不意打ちのようにいきなり現れました。初めは対岸の火事のように眺めており、また「インフルエンザよりも致死率が低いみたいだよ。」なんて言って油断していたら、あっという間にパンデミックとなり、世界経済を撹乱しています。

    そんな時代に、ただ恐れ慄くのではなく、ウィルスの種類別、その正体、人類との関わりと制圧への尽力、これからの展望という軸を持って考えることが少しでもできたことは本当に良かったと思います。

    実は本書は6年前に加藤さんが出版された直後に加藤さんとトーストマスターズの大会でお会いした際に、ご本人から直接購入いたしました。「早速読ませていただきます。」と勇ましく返事はしたものの、なんとなく難しそうと第一印象を持ってしまい、つい先日まで本棚の片隅で出番を待っていました。(加藤さん、ごめんなさい)

    しかしいざ読み始めるとこんなにも面白く夢中になって読み進めることができました。決して平易ではない。しかし難解すぎない。ちょっと頑張れば読了できてしまう良質な読み物でした。

    トーストマスターズではいつも優しくニコニコとユーモラスなスピーチをなさる加藤さんの別のお顔を拝むことができました。

    「井戸の水を飲む人は、井戸を掘った人への恩を忘れてはいけない。」

    感染症研究に人生を捧げておられる加藤さんへの感謝と尊敬の念を持って、拙い文章ですが私の感想をこちらに共有いたします。

    ありがとうございました。

  • 感染症は人類の歴史を左右してきた。天然痘、ペスト、ポリオ、結核、麻疹、風疹、インフルエンザ、ウエストナイルウイルスの8つの事例に、人類がどう闘ってきたのか、人類の歴史にどう影響を及ぼしたのかを解説。
    最後に、マルチン・ルターの言葉「たとえ明日、世界の終わりが来ようとも、私は今日りんごの木を植えよう」を引用し、今すぐの成果は得られる可能性は低いが、次世代に向けて、感染症に今後も地道に取り組む大切さをとく。

  • 感染症のことが、疾患別にその起源とどのように克服したか書いてある。専門知識が不足していて、理解できない記述もあった。ただ、先人達がいかに努力して感染症を乗り越えてきたか、そしてそれがつい最近ということを学んだ。多くのことが学べる本であると思います。

  • 【琉球大学附属図書館OPACリンク】
    https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB12104693

  • "たとえスペインインフルエンザが今襲ってきたとしても、当時の1000分の1位の死亡者で抑えられるはずである"

    予想を軽々と超えるCOVID-19すごいね…

  • 研究者仲間から風疹研究に関して「大変しつこい」とも言われた著者だけあって風疹の章は母子感染した人のエピソードがあったり、思いの強さが伺える。2009年H1N1インフルエンザの状況、ワクチンの種類と特性、など今勉強になることも多いが、官僚組織の人事異動についてごたごた書いているのはどこまで妥当な意見なのか。続巻も読む予定

  • この時代にぜひ読んでおきたい一冊です。読み物としても面白いです。

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