清六の戦争 ある従軍記者の軌跡

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  • 毎日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620326863

作品紹介・あらすじ

日米激戦のさなか、新聞は何を伝え、何を伝えなかったか。
最期のときまで新聞を作り続けたひとりの記者の足跡を、75年後、その子孫がたどる。

感想・レビュー・書評

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  • <東北の本棚>従軍記者の足跡たどる | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS
    https://kahoku.news/articles/20211107khn000001.html

    「清六の戦争」書評 時代に流された身内に向き合う|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14407263

    『清六の戦争 ある従軍記者の軌跡』著者・伊藤絵理子さんインタビュー|文藝春秋digital
    https://bungeishunju.com/n/nc9a1263a845c

    清六の戦争 ある従軍記者の軌跡 | 毎日新聞出版
    https://mainichibooks.com/books/social/post-479.html

  • マニラ新聞社。現代を生きる筆者が、戦時を生き抜いたその親戚の従軍記者の足跡を丹念に調べ上げた内容で、当時の一側面を知ることができ、またそれが現在に続いているのだと強く感じることができました。

  • 想像が多過ぎるのでは。
    生きる手段や非武装の目線は如何に。

  • 2021/09/24
    戦時下の検閲そして戦況悪化の影響と共に、当初は検閲の制約と葛藤しながらメディアとしての役割を果たしていた記者・新聞が、自己検閲・自己抑制だけではなく次第に軍部の戦果報告・賛美へとその姿を変えていき、最後には軍と一緒になって士気を鼓舞しながらその運命までを共にしてしまう姿が描かれている。
    特に戦争前線においては軍の後ろ盾が必要であったのかもしれないが、軍経由以外の情報が入手できなくなっていくにつれ軍の広報に変貌していく姿には色々と考えさせられてしまう。
    戦時中の検閲が厳しい状況では最初は仕方がない、報道できないよりましという選択だったのかと思う。
    でもこれは過去の話ではなく現在のメディアも同じような状況ではないだろうか。
    検閲という単語を別の様々な言い訳に置き換えて自己弁護しているメディアは少なくないのではないか、そしてなかには為政者の神輿を担いではしゃいでいるものまでも。
    メディアは人々を背にして為政者と真っ向から向かい合うものであるはず。
    彼らが為政者を背にした時、それはメディアではなく単なる太鼓持ちでしかないのだが、おそらくその自覚もないのだろうな…。

  • 自分の一族に同じ新聞記者がいたことからその足跡を辿り、戦争の統制の中軍部に迎合する記事を書いていた事や果たせなかった夢に思いを馳せ、新聞記者としての在り方を問う。とても真面目に臨まれ考えさせられました。

  • 2021 伊藤絵理子

    毎日新聞で連載していたものの書籍化

    伊藤記者の曾祖父の弟が、同じ毎日新聞の記者だったことがわかり、そのいきさつ、活動を追った

    まず驚くのが「伊藤文庫」と呼ばれる親族の書庫に手紙や作文、成績表などいろいろな書面が残っていたこと

    まず清六の奥州の子ども時代の家事情
    貧しくとても進学などができそうもない環境からの脱出
    農業をベースにした学びが彼の育った環境を思わせる
    またそれは一生続くことが後にわかる

    しかしそのままではどうにもならないことをわかっていたし、そのための努力も惜しまなかった
    p31「自分が自分の力で生きるということ程尊いことはない。働くとは幸福だと考えています」

    やがて従軍記者へ
    それも非正規雇用からひとつづつ正社員へと歩んだ
    通信部、専属通報員、などでの活動の末、試験を受けてのこと、農政記者となる
    その後、特派員となり、外地=戦場へ
    1937.11.4には署名記事
    日中戦争勃発の年
    上海での戦況を伝えている

    このあたりになると、新聞社の人の派遣について
    他社との販売合戦
    国からの圧力だけでなく、自ら戦況に筆を走らせた感も感じる

    新聞の性格上、戦争を支援することになっていく記事が続く
    その中でも、農業について素地のある清六さんの視点は貴重であり、そこが表れている
    しかし、当時はすべて検閲があってのこと
    軍隊に否定的であっても、その立場にいればいるほど、書けないこともあったことと思う

    本)『兵たちの戦争 手記・日記・体験記を読み解く』藤井忠俊

    第三章の南京では、伊藤記者が南京へ行き、それとともに奇蹟を追う
    南京事件に関与していたのか、どう報道したのか

    そして捕虜虐殺を知り得ていたのではないかということ

    その後帰国した特派員は、講演会を開催するのが習いであり、清六も岩手で戦況報告講演会を開催する


    帰国後は、1944年にフィリピンに出向するまでの約6年は農業分野を取材した
    農民の側を理解した記事や座談会を手がけた
    厳しい環境下で取り組む農民を称える記事も多かった
    清六のための追悼文にも
    「わが国農業の指導者」と記憶、賞賛されている

    講演も行いたいと希望していたが、当時の「斎藤隆夫議員の反軍演説」もあり、言論の自由は許されていなかった時代には難しかったようだ
    記事置いても、検閲との攻防は避けられなかった

    新聞社では当時海外情報を短波ラジオを傍受して手に入れていた

    第二次大戦の始まりとともに、物資の不足
    新聞も刷れなくなっていく
    そして清六も戦地へかり出されるのである
    病死した妻の後添えと三人の子どものいる身ではあったが、断るということはなかったし、清一(曾祖父)に家族を託す手紙を送っている

    当時のマニラ事情
    最初は友好的であったものの、戦況とともに、抗日感情が高まる
    日本側はフィリピンの日本化をもくろむ

    マニラも戦場となってくると、新聞を作るどころではなく、徴兵されたりもした
    提携していたマニラ新聞社から脱出して、「神州毎日」を発刊

    本)『イポのせせらぎ フィリピン戦記』大槻正治

    38歳の清六はルソンの地で、餓死という最期を迎える

    「意志の力で、運命を変える」~清六のノートに記された言葉

    伊藤記者は32歳からこの取材を始めた

  •  フィリピンの戦地で餓死した記者、清六。親族の現役記者がその足跡をたどる。
     岩手の農家に生まれ、早く両親を亡くすという境遇で、向学心を持ち勉学に励む。大新聞の非正規雇用から準社員となり、日中戦争では南京入城にも同行。正社員に登用されしばらく日本で取材するも、1944年にマニラ新聞社に出向となり、マニラ陥落後は軍と行動を共にし、軍内で新聞を発行し続ける。
     この軌跡を、本人が書いた記事をはじめ手紙、周囲や同時代の人々の文章や証言、現地取材など多角的に見ていく。
     特に著者の問題意識を感じるのは、南京では捕虜殺害を報じない、マニラでは日本軍の意向に沿った記事、など記者が戦争に加担することの意味だ。と言って清六を断罪もせず、自分だったらと自問する。記者魂のようなものには共感もする。報道の戦争責任を論じる本は少なくないが、渦中に最後まで身を置いた記者個人に、生い立ちも含めて焦点を当てるのは珍しく、引き込まれた。

  • 岩手の貧農に生まれフィリピンで亡くなった一人の新聞記者。その後裔の記者が75年を経て生涯を追う。

    毎日新聞の連載記事。貧しい農家に生まれ苦学しながら農学校を出た伊藤清六は毎日新聞で農政記者となる。やがて戦争に巻き込まれ、中国特派員として従軍。上海、南京などの戦線で戦意高揚の記事をかく。帰国後、国内で言論統制に直面し、最期はフィリピンのマニラで。マニラを撤退したジャングルでガリ版の記事を作り続けたという。

    本書の筆者は遠い親戚。清六の姉が筆者の曾祖母。偶然に同じ毎日新聞の記者。取材を重ねるうちにどうしても戦争と報道のつながりに直面せざるを得ない。筆者の葛藤がストレートに描かれているところがよい。南京事件にも立ち会っていると思われる。

    戦後75年が過ぎ、キーパーソンがすでに亡くなっている例が多い。それでも関係者の多くが新聞人だけあって記事、手紙、書籍等の素材があり、筆者は執念の取材で、清六の生涯を復元していく。

    勧善懲悪でなく、純粋に歴史を追い求めた点を高く評価したい。

  • 毎日新聞の現記者が祖父であった同じ毎日新聞の記者の生涯を追った記録である。
     岩手の農村で生まれ、苦労して農業高校に進学してから苦労して新聞社に雇用され、上海への従軍記者になった後で正規の社員となり、再度フィリピンのルソン島に従軍記者として送られた。そこで餓死したまでである。
     戦争への加担ということではあまり説明はされていないが、それを感じさせる論調で書かれており、自分の勤務と祖父の勤務という新聞社での葛藤が感じられる。

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