北朝鮮と観光

著者 :
  • 毎日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620325934

作品紹介・あらすじ

金正恩の戦略とは「観光開発」だった! 現地で収集した最新情報・写真をもとに、気鋭の専門家が秘密国家の素顔を解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 金正恩体制、核・ミサイル実験、日本人拉致問題等、時折、ニュースになりながら、いま一つ実態がよくわからない北朝鮮。
    その北朝鮮に観光で訪れることができるのだという。そういえばスキーリゾートの映像を見たことがあるが、あれは政権上層部が楽しむものではなかったということか。確かに観光なら外貨も入る。客が滞在を楽しむことができれば、体制の宣伝にもなるだろう。

    本書の主題は、北朝鮮の観光である。
    但し、観光体験記とか、物見遊山でどこへ行って楽しかったおもしろかった、という類のものではない。
    外部からは限られた情報しか入手できない北朝鮮について、観光に関する情報から北朝鮮情勢について考察するのが目的である。
    著者は、30年近く、ツアーのパンフレットや関連文献、インターネット上の情報などを収集してきている。
    それらを元に、北朝鮮観光の特徴、観光戦略、日本人観光客の受け入れの変遷、韓国人観光客の受け入れ例、各国で発行されたガイドブックや旅行記から見る北朝鮮観光について考察していく。
    著者は実際に何度か北朝鮮を訪れてもいるが、限られた範囲しか見ることができず、その実態に迫るのは非常に困難である。観光は多様な資料を入手しやすい数少ない分野の1つであるという。

    序章では、北朝鮮を理解するための基礎知識に触れている。
    ここで興味深いのは、そのイメージが世界共通ではないという指摘である。日本の報道だけ見ていると気づきにくいが、北朝鮮の核実験やミサイル実験に対して、日本が抱く反発と同程度の反応が全世界に共有されるかと言えばそうではない。物理的な距離も違えば、歴史的な背景も様々である。
    北朝鮮を理解するうえで、広い視野が必要という指摘には説得力がある。

    日本から北朝鮮を訪れる観光客は、1990年代には3千人を超えることもあった。だが、現在では、日本側から渡航自粛勧告が出ていることなどもあり、2018年の1年間では400人未満であったという。
    中国や韓国を経由するのが一般的なルートとなる。個人旅行の形ではなく、ツアー形式で、3食付き、添乗員が同行する。ツアーで決められたレストラン以外のところで食事をすることも可能だが、この際も運転手や案内人の同行が必要となる。その他、最高指導者には職名を付けることや指導者の肖像の撮影の際には一部で切れないようにすること、また建築現場や軍人・警官の撮影は不可、人物撮影には事前に承諾が必要であるなど、細かい注意も多い。
    ツアーの窓口となるのは、中国や韓国の旅行会社でも、最終的に国内の観光を取り仕切るのは、北朝鮮国営会社の朝鮮国際旅行社となる。

    平壌観光の主体はやはり最高指導者関連の施設が多いが、風光明媚な名勝地やショッピングを楽しむことも可能である。
    名物の冷麺やアヒル料理、アイスクリームなどが食べられるツアー、スキーやゴルフなどのスポーツを楽しむことをメインとしたツアーなど、多彩なツアーが出てきている。
    近年では、いわゆる「インスタ映え」するような行先が選ばれていたり、観光ウェブサイトの充実も進みつつあったりする。但し、北朝鮮国内でのネット環境自体はあまり整ってはいないようだ。

    現在の関係性からも、日本から北朝鮮への観光客が近いうちに大幅に増えることはないだろうが、実際に現地へ行くことでしか伝わらない「空気」というのは確かにあるのだろう。さて、行ってみたいかと聞かれると即答はできないが、興味深いものはある。

    謎のベールに包まれた国を垣間見る、おもしろい視点の1冊である。

  • 【北朝鮮の観光政策は、同国政治外交の直接的影響を受けざるを得なかった。大きく捉えれば、政治外交政策の一環であったということもできよう】(文中より引用)

    北朝鮮が宣伝と外貨獲得のために力を入れてきた観光。閉鎖的な北朝鮮の観光政策の変遷を追いながら、どのように旅行客を誘致し、そして訪れた者たちがどのような記録を残していったかを丹念に記した一冊です。著者は、慶應大学准教授の礒﨑敦仁。

    一風変わった角度から北朝鮮に切り込んでいった良書。観光面から理解できることの限界を適切に見極めつつ、政治情勢等に観光政策が翻弄されている様子がよくわかりました。

    北朝鮮にも「旅の黄金コース」のようなものがあるようです☆5つ

  • 2021年5月読了。

  • 【276冊目】北朝鮮研究で有名な磯崎先生が、観光にも造詣が深いとは思わなかった。北朝鮮観光については、紀行文も含めて意外と多くの日本語出版物があり、また、中国人研究者による研究もあるとのこと。本書は、日本語で書かれたそれらのメタ研究という趣。

     具体の個人名、資料名、会社名、北朝鮮政府の組織名等が書かれているため、研究用資料としても使えそう。あとがきにも書いてあったが、本書は科研費の成果でもあるらしい。

     本文中何度も繰り返されている点は、次のとおりか。

    ①観光を北朝鮮が奨励する目的は体制宣伝と外貨獲得の2つであるが、比重は前者に置かれている
     
    ②日本人の紀行文がどれも似たり寄ったりになってしまうのは、外国人に開放されている土地・スポットが限定されていること、旅程中必ず2名以上の案内員が客に付いて自由行動をしないように監視しているから

    ③北朝鮮観光は時々の国際情勢や政治情勢に左右されてしまうボラティリティの高いものとなっており、それゆえ、旅行会社にとってはある程度のリスクを覚悟しなければならない商品となっている 

    ④1970年代までは北朝鮮は地上の楽園と呼ばれた国であり、日本人の紀行文も概して彼の国に好意的な内容であった。

  • 北朝鮮への見方は、国によって異なる。それは外交における優先順位は各国において異なり、日本は強硬姿勢、韓国は融和姿勢、アメリカはICBMが本国に届きうる可能性を考慮しての「注意」程度に留まっている。これは地理的要因と政治的優先度が各国において異なるからであり、どの国がどの国に対してもスタンスの大小がある。

    経済制裁を実施しているが、それでも孤立はしていない。160か国もの国が国交を開き、中国は北朝鮮に多くの品物を輸出している。圧力には限界がある。

    金正恩がトップになってからは、軍事一辺倒ではなく、経済発展にも重きを置くようになった。→自力更生、自給自足スタイル

    北朝鮮観光の第一の目的は、体制宣伝。第二が外貨獲得。制裁対象に入ってない観光分野を重視し外貨獲得を目指した。

    北朝鮮の観光は、案内員を伴わない行動、個人行動が許容されていない。

    最高指導者が現地視察することを「現地指導」、それを補佐する幹部が視察することを「現地了解」というが、ここでどこに行ったかが、政権が何に関心を示しているかのパロメーターになる。金正恩は、観光地整備において「世界水準」を強く打ちだしている。

    最近では、国内の富裕層向けへの1日観光も打ち出している。

    北朝鮮の「強盛大国」論→政治思想強国、軍事強国、経済強国の3つ。前二つは達成されているため、経済強国を目指そうとした。

    主要な観光地は金剛山、開城の2つ。中国人、韓国人、その他外国人によって観光に必須とするものの取り扱いが異なっている。
    観光により、軍事地域の平和利用、南北朝鮮の理解の幅を広げた、という影響があったらしい。

  • 2020/05/07

  • 序章 北朝鮮を読み解くための基礎知識
    第一章 パンフレットで知る北朝鮮
    第二章 金正恩時代の観光戦略
    第三章 北朝鮮観光史 1987〜2019
    第四章 韓国人の北朝鮮観光 開城観光とは何か
    第五章 ガイドブックで見る北朝鮮
    第六章 日本人は北朝鮮をどう観てきたか

    北朝鮮観光に関する情報をこれでもか、これでもか!と詰め込んだ一冊。著者は大学准教授であると同時に、北朝鮮「オタク」でもあるようで、かなり古い時代の北朝鮮旅行関連のパンフレットなどを収集して、そこから情報を読み取るという面白い試みがなされている。
    その過程で、日本人の北朝鮮観の変化などがダイナミックに表れてくる。

    本書にも書かれているように「北朝鮮に行ったからといって知りたいことが容易にわかるわけではない」。
    現在、北朝鮮は観光地の開発に力を入れており、裕福な自国民はもちろん、外国人旅行客を観光地に引き込もうとしている。まだまだ日本人にとって、北朝鮮が「容易に行ける観光地」ではないが、今後、条件さえ合えば北朝鮮旅行をする機会に恵まれることもあるだろう。
    しかしそんな機会がたとえ何度あったとしても、この国のごくごく一部しか見ることができない、それが北朝鮮だ。
    そんなわずかな機会を活かすためには、あらかじめ「北朝鮮とはどんな国か」「北朝鮮がどのような観光政策をとっているのか」ということを知っておくのが良い。そういう意味でも、本書や本書に挙げられている書籍に目を通すのは有意義であると思われる。
    また、海外に旅行するときに「何を、どのように見るべきか」を考える一助にもなるように思う。

  • 東2法経図・6F開架:689A/I85k//K

  •  柔らかいテーマ、読みやすい一般書ながら注釈は多く、豊富な公開資料に基づくマクロな分析。「チョソンクラスタ」(本書から)も専門家も読める本のように思え、北朝鮮政治研究を専門とする著者ならではだ。
     金正恩時代では観光産業を重視、また国内富裕層を対象とした観光の萌芽。それなりに参加者が多かった韓国人による金剛山・開城観光(後者はソウルから日帰り可能)。日本人友好人士による1950-70年代の訪問記は礼賛一色。1987年に日本人の観光を受け入れてから、90年代初期にはJTBや近ツーすら募集していたこと。検証の余地が大きいが、観光受け入れが北朝鮮内部に変化(体制からは「悪影響」)をもたらす可能性。そして、北朝鮮情報源としての観光の限界。
     日本人の北朝鮮旅行記を取り上げた章の中で、「普通の人」であることを売りにした旅行記については、北朝鮮に旅行しそれを出版することがどの程度「普通」か分からない、と指摘。何度も訪朝した吉田康彦氏の本は「北朝鮮の見せたいところをそのまま紹介」などと、さり気なく皮肉が効いている。

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著者プロフィール

慶應義塾大学准教授。1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第3国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員などを歴任。総合旅行業務取扱管理者。共著に『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社、2017年)、共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)ほか。

「2019年 『北朝鮮と観光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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