英龍伝 (毎日文庫)

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620210315

作品紹介・あらすじ

知られざる幕末の偉人。平和的開国に尽力した伊豆韮山代官・江川太郎左衛門英龍。

開国を拒めば戦争だ―――

いち早く「黒船」を予見し幕府に海防強化を訴え、江戸湾台場築城を指揮し平和的開国を実現。
近代日本の礎をなった異能の名代官。
明治維新から150年余年。新たな幕末小説の誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 佐々木譲の作品は、近代史ものから現代ものまで、伝記からミステリーまで、とにかく幅が広い。個人的には北海道警シリーズが特に好きだが、本作も面白く読ませてもらった。幕末期の韮山代官、江川太郎左衛門英龍の生き様にを描いている。韮山の反射炉跡も見ていてかすかに名前に記憶はあったものの、多少誇張はあるのかもしれないが、こんなにすごい人物だったとは知らなかった。維新後の奇跡のような目覚ましい近代化がいわれるが、それは徳川時代にその優秀な官吏により礎が築かれていたからだというのがよくわかる。他の作品同様、人を深く掘り下げて書いているのが魅力。

  • ペリー来航以前に開国を予期し保守派と戦い、日本を守ろうとした幕臣がいた。江川太郎左衛門英龍。韮山反射炉で有名な代官だが、その生き方をどれだけの日本人が知っているだろうか。彼の業績と活躍を認識するにふさわしい一冊。彼のような幕臣がおり、そしてそれを活かすことが出来なかった幕末の徳川幕府の在り方を日本史で学びたいと思う。みなもと太郎の風雲児たちと併せて読んで欲しい作品である。

  • 完全にガラパゴス化していた江戸時代後期の幕府高官たちの中において、江川太郎左衛門は弾圧に潰されずに正しいことを主張し続けられた珍しい人だったということが分かりました。
    鳥居耀蔵は期待通り妖怪らしい存在感を見せていたけれど、破天荒な天才といつイメージの佐久間象山は少しおとなしかったな。
    三部作の中でまだ読めていない「くろふね」を早く入手しなければ。

  • 知名度が高いような、それ程でもないかもしれないような史上の人物に関しては、主要視点人物のモデルに取上げられた小説を介して色々と知ることが叶う場合が多いと思う。本作の「江川英龍」という人物もそういうことになるのかもしれない。
    本作は『英龍伝』という「判り易い!」題名が冠せられているが、「江川英龍」という史上の人物を主要視点人物のモデルに取上げている。江川英龍は幕末期の人物で、代々「太郎左衛門」を名乗って伊豆の韮山の代官を世襲して来た家に在った。「幕臣」ということになる。
    作者は幕末期に関して「思い入れ」が強いと見受けられる。そして御自身の「観方」が確りしていて、それに基づく作品が幾つか在る。『武揚伝』、『くろふね』という作品だ。これらと本作を併せて「幕末三部作」と呼ぶ場合も在るらしい。
    『武揚伝』、『くろふね』は何れもかなり以前に読了した。そして本作なのだが、何れも「幕臣」が主要視点人物のモデルとなっている。
    幕末期、世界の国々と向き合う、或いはそうならざるを得なくなった中、当時は新奇なモノであった筈の技術や知識と向き合い、「新たな時代を構想し、実現を目指してみようとする気概」に溢れていたのは、寧ろ明治維新で“敗者”というような感になった「幕臣」だったのではないか、というのが作者の「観方」なのだと思う。
    或いは江川英龍という人物は、思い立って学んでみようとしたことを学び易いとか、周囲に影響を及ぼし易いとか、「少し恵まれた?」というような位置に在ったのかもしれない。が、それなりに広い版図、色々な要素が在る幕領を預かる為政者たる“代官”とはなかなかに難しい役目であり、自身の先代ということになる父の薫陶も受けながら、自己の研鑽にも余念が無かった一面も在る。そしてそれが後年に「花開く」ということになる。
    何時の時代にも、何処の世界にも「自身の細やかな“権威”」とでもいうような事柄に固執するような感の“守旧派”というような人達は在る。そうした人達の「嫌がらせ…」めいたモノも出て来るのだが、それでも江川英龍は「信じるところ」を目指そうとする。
    敵対的な関係になる人達との色々な事柄も在るのだが、協力的な関係になる人達との色々な事柄も色々と描かれていて面白い。が、協力的な関係になる人達、仲間とか同志と呼び得るような人達が残念ながら排されてしまうことを悔しがる辺りは、本作を読んでいる者としても残念に感じた。そういうように、「入り込む…」という魅力が在る作品だと思った。
    本当に「“新たな時代”を構想し、それを実現したかった、実現しようとした」という江川英龍の事績、生き様が活写される本作は、何か「力を分けて頂くことが…」という感で、本作は本当に面白かった!

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著者プロフィール

1950年北海道生まれ。79年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。90年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を、2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞、10年『廃墟に乞う』で直木賞、16年に日本ミステリー文学大賞を受賞。他に『抵抗都市』『帝国の弔砲』など著書多数。

「2022年 『闇の聖域』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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